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3.2人の馴れ初め③

話が終わったのだろう、父が私の隣に戻ってきた。


「茉莉、さっきトワ様が言われた様に私の会社は破産寸前になっている。何でそうなったかは後から話すが、今日までに借金を返さないと本当に何もかも失ってしまう。だが、トワ様とお前が婚約すれば資金を援助してもらえる。何もかもが今まで通りなんだ」


「………はぁ……婚約ですか……。見た目で判断すべきでないのは心得ておりますが、あの方はご遠慮させていただきたく思います」


家柄的にもいつかはそんな話が出るかもしれないとは思っていました。

だから、百歩譲って婚約は仕方ないかもしれません。

イケメンじゃないとダメとか、そこまで大層な事を言うつもりはありますが、あの方を生理的に受け付けられません。


「頼む、お前の母にも志乃にもツライ思いをさせる事になるんだ……頼む……」


そう言って涙ながらに語りかける父の姿と、家族の事を思うと、ここは私だけが犠牲になれば良いという考えが一瞬頭を過ぎります。


私は妹の志乃を少しだけ可愛がり過ぎている自覚はあります。

私は少しだと思っていますが、いい加減妹離れをしないとと母からもよく言われるぐらいですので、もしかしたら相当なのかもしれません。

目に入れても痛くない志乃が苦しむ姿は姉として見たくはありません。


であるならば、私が逝く道は一つしかないのでしょう……私は覚悟を決めます。


「分かりました……お父様、私はこの方の婚約者になります」


「おお、そうか。分かってくれたか……。では、この先トワ様からお願いされた事には絶対に従う事を忘れないでほしい」


聞き間違えでしょうか?お願いを絶対に聞くって婚約すれば当たり前の事なのでしょうか?

念の為に聞き返しておきます。


「絶対にでしょうか?」


「絶対にだ」


どうやら聞き間違えではなかった様です。

彼の婚約者にはそれが求められる様です。

そういう事なら従うしかありません。

家族の為ですので、細かい事をいちいち気にするのはやめておきましょう。


「分かりました…私は彼のお願いに従います」


「分かってくれたか……ありがとう」


重い口調で礼を述べる父の姿に、親としての苦悩が感じられました。

弱っている父を見て、私は今まで勘違いをしていたのかもしれないと少しだけ反省をします。

そんな父を見て、自然と溢れ出た涙を拭こうとポケットからハンカチを取り出します。

その際に一度下を向いた私が再び顔を上げた時……一瞬で涙が止まりました。

信じられない光景が飛び込んできたからです。


大きな丸を形作る両手、満面の笑みを男性に向ける父。

男性の方に視線を移せば同じ様な格好をしていました。

この2人は何をしているのでしょうか?先程の父の殊勝な態度は演技だったという事でしょうか?ほんの少しだけ……殺意が芽生えます。


「では、トワ様。約束の資金を口座に入れていただけますでしょうか?時間が迫っておりますので、先に返済だけさせて下さい」


「好きにしろ。あともう一つの約束も忘れるなよ?」


「はい、それはもちろんでございます。手続きが終わり次第、家に帰りすぐに連れて参ります」


誰を連れてくるのでしょうか?嫌な予感がした私は父に問いかけます。


「お父様!?それは一体どういう事ですか?」


「うるさい、今大事な手続きの真っ最中なんだから大人しくしておきなさい」


一蹴されてしまいました。黙々と作業を続ける父を見て話にならないと思った私は男性に尋ねます。


「あのぅ…先程の連れてくるとは一体どういう事なのでしょうか?」


「うるさい、なんで説明してやらないといけないんだ?とりあえずお前は黙って俺の隣に座ってろ」


「っ……!?」


「俺のお願いには従うんだろ。さっきお前言ったよな。どうせすぐ分かる事だ……大人しくしていろ」


私は言われ通り、彼の隣に座ります。反論出来ない腹立たしさに唇を噛みしめます。

睨みつける様に彼を見た私は、そこで1つの事に気づきました。

あらあら、私の方が少し彼よりも目線が高い様です。

名誉の為に言わせていただくと、私は座高が高いわけではありません。

むしろ足の方が長く周りからはスタイルが良いと言われております。

偉そうにしていた彼が私より背が小さい事実を目の当たりにして、つい笑みが零れてしまいます。


「お前、なんだその顔は。何をニヤニヤしているんだ」


「いえ、そんなつもりはありません。尊大な態度の割に、背が小さいのだなって思ったりしてませんので……ふふふ……」


「それ思ってるって事だよな?それと笑うな。おい、三宮……お前の娘が俺に不愉快な態度を取っているぞ」


「終わりました!!おやおや……娘をもう側に侍らせているのですね。流石はトワ様ですね。では私は今から家に帰ります。少しだけ時間を置いてこちらに戻りますので、その間にどうぞお楽しみ下さい」


それだけ言うと、父は脱兎の如く部屋から出て行った。


「おい、三宮!!俺の話を聞けえええ」

読んでくださってありがとうございます。

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