2.2人の馴れ初め②
「で、話しは戻るけどお前今までに男と付き合った事あるか?」
「…………」
「…………」
「…………」
答えたくないので、私は無言を貫きます。
「…………」
「…………」
「…………」
「おい、お前絶対に俺の事馬鹿にしてるだろっ」
沈黙に耐え切れなかったのでしょうか?それともせっかちな性格なのでしょうか?何となくだけど後者の様な気がしますが、先に折れたのは向こうでした。
「別に馬鹿にしてはいませんが、そもそもそんな質問に答える義理はありませんので」
「茉莉……すまない……トワ様の質問にきちんと答えてくれ……頼む……」
変わらず土下座の姿勢のままの父が、先程の高圧的な物言いではなく嘆願してきました。
父はプライドの塊の様な人で、娘の私にこんな風に頼み事なんて今までありませんでした。
目の前で起きた出来事をどこか信じられない自分がいます。
それだけ逼迫した状況なのでしょうか?私は溜息一つだけ吐いた後、先程の質問に答える事にしました。
「ありますけど、それがあなたにどう関係があるのでしょうか?」
本当はそんな経験一度もありません。でも、目の前の男に一矢報いたくて私は嘘をつきました。
「まさか……そんな……」
父が地面に擦り付けていた顔を私に向けます。その表情は絶望に彩られていました。
「三宮、話が違うがどういう事だ?」
「申し訳ございません。悪い虫がつかない様に女子校に通わせていたので安心しておりました。本当に申し訳ございません。私にはもう一人娘が居るのはご存知だと思います。つきましては、その子をトワ様に……」
「今いくつだ?」
「今年6歳になります」
額に汗を浮かべる父と、そんな父を睨みつける男性。悪い虫?もう1人の娘?何だか嫌な予感がします。
こういう時の私の勘はかなりの確率で当たるんですよね……。
2人はそのまま見つめ合っていますが、お互い口を開く事なく時間が流れます。
「…………」
「…………」
「…………」
「おい、お前も絶対に俺の事馬鹿にしてるだろっ」
ん?このやり取り……先程も見た様に思えたのですが、きっと気の所為でしょう。
「滅相もありません。茉莉は私に似て可愛げのない娘ですが、妹の志乃の方は妻に似てとても愛嬌のある可愛らしい子です」
全く話が見えてこないが、貶されているという事は理解出来ました。
とりあえずここは怒ってもいい所なのでしょうが、今は我慢する事にしました。
志乃の名前が出てきたので、まだ何かを言うべきではないと判断したからです。
「だが、年が離れ過ぎている。思春期の男には色々あるんだよ、アンタも男なら分かるだろう?」
「トワ様……大きな声では言えませんので、お側に近づいても宜しいでしょうか?」
「なんだ、別にそこで言えばいいだろうが……男に近寄られるとか気持ち悪いが、まぁいい。話を聞こう」
そう言って2人の距離が縮まります。顔を寄せ合い会話する様は、傍から見ていても気持ち悪い……おっと失礼……口が滑りした。
傍から見ても異様な光景でした。
(トワ様のお相手には、将来的に妹の志乃と致しましょう。それまでは姉の茉莉の方を形式的にお側に置かせていただきたく思います。志乃が適齢を迎えた際には、茉莉は男と駆け落ちしたという事にして破談させましょう)
(だが、そうなると流石に茉莉に手を出すのはまずいだろう。三宮、お前も男なら分かるだろう?思春期の男がせっかく相手がいるのに、アレを我慢をするっていうのがどういう事か……)
(トワ様は何か勘違いをなされている様ですね。あなたはこれから本気で茉莉を愛そうとしております。ですが、将来的に茉莉がそんなトワ様を裏切って駆け落ちする未来があり得るかもしれない。今のあなたにはそんな先の事が分かるはずもありませんし、婚約関係を結べばお望みのそういう展開も好きにしていいでしょう。なぜなら本気で愛し合う2人の間に遠慮は不要です。私達は最悪の事態に備えて保険をかけているに過ぎません。特におかしな事はないと思いますが、いかがでしょうか?)
(お前……本当に自分の娘がそんな風に扱われてもいいのか?しかもこれ…上手くやれば男の夢の姉妹◯とかも出来る様になったりするんじゃないか?)
(ええ、もちろんそれも構いません。親孝行は出来るうちにしておいた方が良いと言いますし、もし私に何かあったとしても娘達は今後の人生において後悔のない日々を送れるでしょう)
(三宮、お前なかなかのワルよの)
(いえいえ、トワ様には敵いませぬ)
(ふひひひひひ……)
(はっはっはっ……)
男性が気持ち悪……嫌悪感を感じる笑みを、父が高笑いをしています。
何を話しているかはここからは聞こえませんが、あまり宜しくない事を話しているであろう事は理解出来ました。
(で、その妹の方の写真はあるのか?)
(申し訳ございません、今は準備しておりませんでした。ですがもう家にいるはずなので今から連れてきましょうか?)
(そうだな一応顔は確認しておきたい。頼めるか?)
(かしこまりました、では茉莉をここに置いておきます。それで融資の件は……)
(妹の顔を見るまでは無理だ)
(ですがもう時間が…先に融資の方を……)
(ダメなものはダメだ)
(そう言えば茉莉は性格こそキツイ所がありますが、あー見えて着痩せしてるんです。親の私が言うのもアレですが、結構育ってますよアレが……)
(なんだ突然……だからどうした?)
(私は今からトワ様のご命令で暫くの間、席を外します。そうなるとここにいるのはトワ様とあの子だけ……。あの子には私の方からトワ様からの命令を聞く様に言い聞かせます。そこから先は当人同士の問題ですね。話をつけられたら、融資だけは先にお願いで出来ますでしょうか?)
(分かった、その条件を飲もう)
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