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三日月草子  作者: PQ
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第五話

赤い瞳と白い髪、頭に二本生えている角が、この少年が鬼神童子である事を示している。

「後をつけて来る奴がいたもんで待ってみりゃあ、やっぱりてめぇだったか。ははっ、待った甲斐があったってもんだぜぇ。さっきぶりだなぁ、坊主!」

鬼神童子は着ていた真っ白な和服を着崩して僕に腹を見せてきた。

鬼神童子の腹は抉れたような跡があり、少しだけ腹に穴が空いていた。

間違いない、こいつはさっき僕と戦った鬼神童子だ。あんなに腹が抉れていたのにもうこんなに回復しているなんて凄まじい回復力だ。

「さっきテレビを見たよ。あの大嶽丸ってのが、君の親玉なの?」

僕は恐る恐る聞いた。ここで出来る限りの情報を得ておきたい。僕の冷静な部分がそう訴えかけている。

「ああ、そうだ。奴から力の有る娘を集めて来いっていう指示があったんでな。丁度、俺様も一匹とっ捕まえてきたところだぁ」

そう言って鬼神童子は背に隠していた少女をドサリと地面に降ろす。

手首を縛られて、口にガムテープを貼られた少女が目に涙を溜めながら僕を見ていた。

「こ、このやろう……」

僕は鬼神童子に捕らえられた黒髪の少女を見て、沙梨亜と重ね合わせてしまう。

制服を着た少女は恐怖を感じているのか、力無く視線を落としていた。

「俺達、鬼神童子に課せられた使命は力有る人間達を大嶽丸に捧げる事だ。今、俺達は奈良中に散らばって、力有る者を掻き集めている最中ってわけよ」

僕は鬼神童子を睨みつけながら問う。理性がぎりぎりのところで踏み留まっていた。

「どうしてお前達は人間を拐うんだ。いったいなにがしたいんだよ……!」

「んなもん、知るか。奴のやる事なんて俺たちにゃ、知った事じゃねぇんだよ。ただ、奴に従ってりゃ、俺達は好き放題出来る。だから一応は従ってんのさ」

鬼神童子がニヤリと嫌らしく笑う。

その悍しい笑みに背筋が凍りそうになるほど、怖気が走る。

だけど鬼神童子の言動に怖気よりも怒りが勝った。

「俺はテメェを待ってたんだよ、人間! この俺と勝負しろ。テメェが勝ったらこの娘は返してやる。だが俺が勝ったら、テメェを骨も残さず食ってやる。さぁ、勝負しやがれ、三日月流!」

鬼神童子はたんっと跳躍し、体育館の真ん中に立った。

上半身を曝け出させて僕に指をクイッと向ける。

挑発的な視線が僕を射抜いていた。

はっきり言って怖い。もう一度こいつと戦って勝つ保証なんてどこにもない。

こいつに勝てたのだってただのまぐれだったのかも知れない。

でも……床に倒れて虚な視線を向ける少女を見ると……どうしても沙梨亜と重なってしまい、見過ごす訳にはいかなかった。

あの少女の視線は僕に助けてと確かに訴えていた。

僕は迷う事なく鬼神童子に即答する。

「臨むところだ! 鬼神童子!」

僕は鬼神童子に一歩前に出て、構えを取った。

左手の掌を目の前に置き、地面と垂直になるようピンと立てる。

右手は握り拳を作り、脇に添える。生まれて17年間、片時も忘れず、毎日、毎日繰り返した構えだ。

真っ直ぐに鬼神童子を見定める。鬼神童子も油断なく僕をじっと見つめていた。

ピリピリとした緊張感が体育館を包み込み、一瞬の静寂に支配される。

そんな中、静寂を破るように先に動き出したのは鬼神童子だった。

鬼神童子の右腕が大木のように、筋肉を隆起させ、僕の顔面目掛けて迫ってくる。

あまりのスピードに絶句する中、僕は首を逸らし、紙一重で避ける……って、ちょっと待って!

今、あたかも武術の達人みたいに避けたけど、僕ってこの鬼神童子に渡り合えるような技術なんて何も持ち合わせていない事に今更ながら気付いた。

鬼神童子の死を連想させるような凶悪な腕がビュンっ! という轟音を立てて、通過していく。

……え? 普通に考えてこんなのに当たったら、顔が飛び散りそうな気がするんだけど……と内心で焦りまくりながら再び音速のスピードで繰り出される鬼神童子の左ストレートを避ける。

「おらおら、避けてるだけかぁ! さっきの攻撃見せてみろよ!」

鬼神童子が真紅の瞳をさらに真っ赤に輝かせながら挑発してくる。

僕は鬼神童子のインファイトを間一髪で避け続けながら、どうすべきか必死に考えを巡らせていた。

『少年、集中が乱れているぞ。君に出来る事はただ一つ。毘沙天神の心得だ。他の事は何も考えなくて良い』

どこからともなく聞こえてくる言葉に僕はハッとして、辺りを見渡した。

どういうわけか、初代が見当たらない。だけどどこからかこの戦闘を見守っているようだ。

簡単に言ってくれるな……と思いながらも、僕は毘沙天神の心得を胸に強く思い浮かべる。

『其の一、不動の構えを貫くべし

其の二、敵を見据えるべし

其の三、己の限界を超えるべし

其の四、護る者に祈るべし

其の五、 殴るべし』

……だが、

ガンッ!

「ぐあっ!?」

鬼神童子の殴打のラッシュに直撃した僕はドンっ! と音を立てて、体育館の壁へと勢い良く突っ込んだ。

身体中が砕け散るような痛みが全身を駆け巡る。

「おいおい、この俺様を前にして余所見たぁ、随分と調子こいてくれるんじゃねぇの。おめぇの実力はそんなもんかぁ? はっ、興醒めも良いところだぜ」

壁に打ち付けられて蹲っている僕に鬼神童子がニヤリと笑いながら一歩一歩近づいてくる。

……ゾクリ。その光景に僕はどうしようもない恐怖を抱いた。

絶対的な死が迫ってきているような絶望。

怖い。あの化け物が。殺される、早く逃げないと。

だけど、僕は沙梨亜を思い浮かべる。そうだ、僕に出来ることなんて最初から一つだけだったんだ。僕がただひたすらに極めたのは毘沙天神の心得だけ。僕は沙梨亜を守る……この小さな目的の為だけに今まで修行を続けていたんだ。

その瞬間、スクッと僕は立ち上がった。

左手の掌を目の前に置き、地面と垂直になるようピンと立てる。

右手は握り拳を作り、脇に添えた。

再び構えを取り、もう一度鬼神童子と向き合う。

何故だろう、さっきまで体がバラバラになりそうな痛みを感じていたというのに、今はもう何も感じない。

感覚が研ぎ澄まされていく。鬼神童子の驚くような表情、息遣い、筋肉の動きが何故だか鮮明に感じ取る事が出来た。

「ほう……また雰囲気が変わりやがった。おもしれぇ、やっと本気になったってわけか。じゃ、俺も本気で行かせてもらうぜ!」

鬼神童子がそう言った瞬間、ドンっと音がし、鬼神童子の全身の筋肉がまるで達磨のように膨れ上がった。

まるでボディビルダーの選手のように筋肉が浮き上がり、背丈も伸びている。

その姿はさっきテレビに映っていた大嶽丸に酷似していた。

だけど、僕の心の中はまるで凪のように穏やかだった。

たとえ相手がどんな姿に変化しようとも僕のやる事は変わらない。

毘沙天神の心得で鬼神童子をぶん殴る。ただ、それだけだ。

右手に巻いていた初代の黒帯をぎゅっと握りしめ、僕は初めて攻勢に出た。

鬼神童子の右頬目掛けて、渾身の右ストレートを繰り出す。

「……っぁ!?」

だが、鬼神童子は余裕の表情から驚愕の顔に一変し、僕の拳をスレスレで躱して、慌てて一歩退がった。

鬼神童子が滝のような汗を流して、ハァハァと息を荒くしている。

「なんだと……? この俺様が恐怖を感じているだと……? こんな人間のガキ相手に……? あり得ん、あり得んだろ……! 俺様は天下無敵の鬼神……泣く子も黙る鬼神童子だぞ!? こんな、こんな……く、くそったれぇ!」

鬼神童子は困惑の表情を一瞬で消し、憤怒の形相で再び殴りつけてくる。

だけど僕は冷静に鬼神童子の攻撃を見極めて、紙一重で躱した。さっきのような偶然ではなく、軌道を読んでの回避だ。

極限の集中状態にあるせいか、鬼神童子の動きが手に取るように分かる。

自分でもこんな事が出来る事に素直に驚いていた。

『毘沙天神の心得……それは三日月流ただ一つの技にして、絶対の真理だ。故に極めれば極めるほど強くなる。少年……いや、三日月朧、君は強い』

絶対の集中状態に入れば入るほど、初代の声は胸に染み渡るように、強く響いた。

この極限の集中状態。これこそが……毘沙天神……。僕は全てを理解して鬼神童子を見据えた。

「俺様が……人間如きに負ける訳がねぇ! 死にやがれぇ!」

丸太のような腕が振り下ろされる。その剛腕のスピードはさっきの比ではなかった。

僕はより感覚を研ぎ澄ませて右拳をぎゅっと握りしめ、脇に添える。

毘沙天神の心得、それは相手を殴りつけるまでの一連の動作の事。5つある動作を瞬時に行い、敵の攻撃に迎え撃つ。

大事な事は素早く、かつ的確に毘沙天神を繰り出す事。

構えを取り、敵を見据え、限界を超えて、沙梨亜に祈り、そして……殴る。

ドォンっ!

僕の右腕と鬼神童子の渾身の右ストレートが激しくぶつかり合い、体育館に轟音が響き渡った。

僕の5倍は太いであろう鬼神童子の腕が僕の細腕に受け止められている。

と、思いきや、みるみるうちに鬼神童子の腕にヒビが入っていき、次の瞬間、鬼神童子の丸太のような腕が砂塵の如く崩れ落ちた。

「へっ……へへ、どうやら俺様の負けみてぇだな。ちっ、しゃあねぇか。おい、坊主、テメェの名はなんだ?」

鬼神童子の体に浮かぶヒビは腕に留まらずに、全身を覆っていく。

しかし、それでも鬼神童子は一切慌てる事無く、僕にそう告げた。

「三日月 朧」

「けっ、やっぱり三日月流か。生前と同じ三日月流にやられるたぁ、俺もとんだ大馬鹿もんだなぁ、まぁ楽しかったし良いか。って、ちょっと待て……お前の後ろに憑いているそいつはまさか……!」

砂のようなものに身体が変化し、肉体が崩壊しかかっている鬼神童子の表情が一変した。

僕は後ろを振り向くと、薄紫色の道着を着た大女、初代が悠然と立ちながら鬼神童子を見下ろしていた。

「オメェは初代三日月流! なるほどな、こいつはテメェの仕業かっ! ハハッ、こりゃ傑作だ。テメェと直接やれなかったのは残念だったが、後の俺達がなんとかするだろうよ。それに……大嶽丸は強えぜ?」

鬼神童子はニヤリと笑った。体の大半は崩壊し、今にも消滅しそうなほど、気配が弱々しいものになっている。

それにしても初代と鬼神童子は知り合いだったのか? 

『望むところだ。大嶽丸は私と朧が倒す。お前は安心して黄泉に還れ』

初代はじっと鬼神童子を見据えて堂々と言ってのけた。

「けっ、相変わらず愛想のねぇ女だぜ。まっ、そこが良いとこなんだろうけどよ。それじゃあな、三日月朧と初代三日月流。いつの日か、俺様がテメェらを食ってやる……ぜ……」

その瞬間、鬼神童子は完全に体が崩壊し、地面に残っていたのは砂のようなものと身に纏っていた真っ白い和服だけだった。

僕は直感で鬼神童子が完全にこの世から消滅したのだと理解出来た。ホッと、一息入れると緊張が解けたように地面に尻餅をつく。

『朧、良くやった。だが、気を抜くのはまだ早い。鬼神童子は奴、一体だけではない』

「あんなのがまだいるなんて僕の身が持たないよ」

『取り敢えず彼女を解放してから小休止といこう』

初代は縛られたまま地面に放置されている少女を見遣った。

そうだ、さっきの戦いですっかり忘れていた。僕は彼女を助ける為に鬼神童子と戦っていたんだった。

僕は慌てて少女に駆け寄り、縛られていた紐とテープを剥がす。

少女はじっと僕を見た後、感謝の言葉を告げた。

「危ないところを助けて下さり、有難うございました。三日月流の勇ましい方。私は座敷童子と申します」

前髪を切り揃えた和風の顔立ちをした少女はぺこりと僕に一礼した。

少女の言葉に僕は驚愕する。

「え……? 座敷童子ってあの妖怪の……?」

「そうです。この神秘の薄れた時代で細々と生き残っておりましたところ、鬼神童子に囚われてしまいました。貴方には感謝しても仕切れません」

僕は目を丸くして座敷童子を見た。座敷童子といえば、家に棲みつくとその家は栄えるという言い伝えがある、いわゆる良い妖怪だ。

それがまさか現代まで生き残っていてこの目で拝める日がくるとは思わなかった。

「それに横におられるのは平安最強と謳われた三日月流初代様ですね? その立派なお出で立ちは忘れられようはずがありません」

座敷童子はじっと僕の横に立つ初代を見ていた。

「えっ? 君には初代が見えるの? それに平安最強って何のこと?」

「初代様は人の身でありながら日本三大妖怪の二体、玉藻の前と酒呑童子を討伐した平安時代最強の武人。あの武勇は例え千年の時が過ぎようとも今でも鮮明に思い出す事が出来ます。再びお会いする事が出来て光栄の極みで御座います」

『ああ、久しいな、座敷童子』

「勿体無いお言葉で御座います」

……。僕は呆気に取られながら初代を見た。

身長190cmはあろうかと思われる程の大きな体はまるで大樹のように僕の前に聳え立っている。しかし、顔は傷だらけで至る所に痛々しい傷跡が残っており、幾度もの激しい戦いを乗り越えてきた事を物語っていた。

鍛え抜かれたのであろう女性らしからぬ筋肉と意思の強い瞳が僕を射抜いている。

腰にまで降ろされた黒髪は絹のように艶やかだった。

一目見た時から只者ではないと思っていたけど、まさかそれほどまでに有名な人物だとは思ってもみなかった。それに、鬼神童子とも知り合いだったみたいだし……。

「ね、ねぇ、初代は鬼神童子と戦った事があるの?」

僕は恐る恐る尋ねると、初代は何でもないように答えた。

『ああ、何せ、奴を討伐したのはこの私だからな』

僕は絶句して初代を見つめた。

「じゃ、じゃあなんで今頃復活してるんだよ? 大嶽丸ってやつもさ!」

『それは私にも分からない』

珍しくはっきりとしない返答をする初代に座敷童子が言った。

「初代様が知らないのも無理はありません。大嶽丸とは室町時代に鈴鹿の山で暴れていた鬼神魔王と恐れられた妖怪です。今では日本三大妖怪の一体として数えられる程の強大な力を持った化け物。それだけだと過去の存在なのですが、不運にも大嶽丸にはある特殊な宝具を持っていたのです」

「特殊な宝具……?」

僕は座敷童子を見る。

座敷童子は居住まいを正し、言葉を発した。

「大嶽丸は地獄の王から下賜された三明の剣と呼ばれる宝具を持っています。その中の一つ、顕明連という宝具は大嶽丸を地獄から呼び戻す力を持つと言われています」

「……っ!? なんだって!? そんなの無敵じゃないか!」

僕は目を見開いて座敷童子に詰め寄る。地獄から復活出来る宝具だって……!? なんてデタラメな!?

「その通りです。ですが、これが現実なのです。現に今、大嶽丸が復活してしまっている」

「一体どうしたらいいんだよ? ただでさえ強いのに死んでも蘇るんじゃ、倒しようがないよ……」

僕は思わず弱音を吐いてしまう。でも座敷童子の瞳は力強く僕を射抜いていた。

「大嶽丸を倒すには他の二つの宝具を封じ、顕明連を破壊するしかありません。初代様と少年。無理を承知でお願い致します。どうか大嶽丸を倒して頂けないでしょうか」

座敷童子は深々と頭を下げる。

僕は初代をちらりと見た。初代はまるで僕の言葉を待っているかのように、じっと見つめていた。

正直、どうしようもなく怖い。やっとの思いで倒した鬼神童子だってあと何体もいるっていう話だし、大嶽丸に至ってはただでさえ強いのに不死身ときている。

だけど、大嶽丸を倒さなければ沙梨亜を救い出す事が出来ない。

ならば、僕のやる事は最初から一つだけだった。

「分かったよ。僕が大嶽丸を倒す。そして沙梨亜を助け出す」

『よく言った、朧。私も全力で君をサポートしよう』

座敷童子は顔を上げ、パァっと顔を輝かせて僕達を見ていた。

「有り難う御座います。勇敢な方々。お礼に大嶽丸の秘密を教えて差し上げます。大嶽丸の力は鉄をも砕く怪力は勿論の事、天候すらも操り、火を吹き、落雷を落とす事も出来ると言われています。そして一対一で戦う時は二つの宝具を絶対に使わせてはなりません。なぜなら三明の剣の一つ、 宝具・大通連の力は……いや! 危ないっ!」

その瞬間だった。

悍しい程の殺気を感じた瞬間、座敷童子が勢い良く、僕を両手で押した。

僕は後ろに飛ばされ、尻餅をつく。

するといきなり天井から耳をつん裂くような轟音が響き渡り、体育館の天井を突き破って黄色い閃光が座敷童子目掛けて落ちてきた。

『落雷だっ! 座敷童子が危ない!』

今まで聞いた事もないような初代の焦りの声音も虚しく、黄色い光の閃光は一瞬で座敷童子を飲み込み、ドォォオン! っという轟音を響かせた。

まさに一瞬の出来事だった。

僕はあまりの光量に目を閉じる。そしてゆっくり目を開けると……。

「あ……ああ、座敷童子が……」

そこにあったのは焼け焦げた体育館の床と何かの灰のようなものだけだった。

座敷童子の姿がどこにも見当たらない。

つまりそれが意味する事は……。

「座敷童子っ!」

僕は呆然と焼け焦げた床を見つめ、叫ぶ。落雷に直撃した座敷童子は一瞬の内に消滅してしまった。

千年も生き続けた妖怪の最期は実に呆気ないものだった。 

初代も険しい表情で座敷童子が消えた場所を見つめている。

僕は空を見上げた。

落雷に貫かれた天井にポッカリと穴が開き、今にも雨が降り出しそうな曇天の雲が顔を覗かせている。

くっ。僕は下唇を噛んで下を向いた。

こんな事が出来るのは一人しかいない。さっき座敷童子が言っていた通りだ。

「大嶽丸……!」

『朧、若草山に向かうぞ。奴を一刻も早く止める。これ以上の被害を増やさない為にも』

「うん……!」

僕はきつく拳を握り締めた。

間違いない、大嶽丸はどこからか僕を見ている。

邪魔な座敷童子を消す為に落雷を放ったんだ。

どうやって僕らを見ているかは分からない。

だけど、僕はキッと前を見据えて宣言した。

「大嶽丸は必ず僕が倒す! 待っていろ!」

体育館に僕の言葉が響く。

『ああ、必ず倒そう。この初代・三日月流の名にかけて』

僕らは足早に若草山を目指して学校を出た。



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