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プロローグ
プロローグ
日常というものは何の前触れもなく突然失われる。
そう実感したのは、目の前にいきなり現れた化け物を見た瞬間だった。
真っ白な髪に真っ赤な瞳。年は僕と同じくらいだろうか。
その鍛え抜かれた体と頭から飛び出した湾曲する二本の羊のような角を見た瞬間に、ああ、こいつは人間じゃないんだな、と理解した。
化け物から放たれるプレッシャーは並のものではなく、ただ見つめられているだけだというのに、まるで死と向き合っているような根源的な恐怖を感じる。
でも僕は震える足に鞭を打って立ち上がった。決して強がりなんかじゃない。
僕の横には護るべき人がいるのだから。
いつも一人ぼっちだった僕に寄り添ってくれた、たった一人の女の子。
せめて彼女の前だけはたとえ強がりでも情けない姿を見せる訳にはいかないじゃないか。
そんなちっぽけな抵抗を見せる僕の姿に、鬼……いや、そんな生易しいものじゃない、そう、こいつは鬼を超えた存在……『鬼神』は何を思ったのか、獰猛にニヤリと笑った。