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エコー  作者: たかさば


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待ち合わせが滞った

 ……最近、急激に気温が下がってきた気がする。

 もう11月だもん、そりゃ…寒さも深まってくるよね。


 メリーゴーランドのすぐ横にある公園は、まわりこそ桜の木でバッチリ囲まれてはいるけれど、真ん中のあたりはひらけているから、風通しがよすぎるんだよね。今日はいつもよりも風が強くて、寒さが堪えるといいますか。


 ベンチに座りながら、誰もいない空間を…ぼんやりと見つめる。


 砂場にブランコ、うんてい、シーソー、滑り台…子ども達が喜ぶような遊具も色々あるけれど、今の時期、この時間帯に…楽しむような人は誰もいない。

 春から夏にかけては、わりと遅い時間帯まで遊んでいるちびっこがいるんだけどね。夏休みには盆踊りなんかもあって、九時ごろまで賑わう日もあるし。


 そんな、誰もいない公園で…私は何をしているのかと言いますと。


 できるんだかスマートなんだか、積極的なのか空気を読めないのか、聞き分けがいいんだか悪いんだか…さっぱり不明の宇宙人青年の登場がハンパなく遅れておりましてですね?!

 いつもだったらアイスクリームの自動販売機に差し掛かるあたりで騒がしく現れるのに、今日は一向に姿を現さなくて…心配というか、不安というか!!


 もうじき六時になるから…もう40分もここで待ってることになる。

 一応、ラインは送ってみたものの…未読。

 電話は…するほどじゃないかなって思っていたりする。

 だって、電話に出られない状況かもしれないし、帰って焦らせちゃうかもしれないし、私が待っていればいいだけっていうか…。


 うっかり寝過ごしてるとかだったらいいけど、もしかして変なモノを食べて動けなくなってるとか、宇宙猫を見つけたとかで大捕り物劇を繰り広げてるとか、どこぞの研究機関の凄腕に正体を見破られて解剖されてるとか、とんでもない事態が起こっている可能性もあるわけだけれども!!!


 マンションのスマートキーはもらっているので、一人で帰っちゃっても、たぶん…いいとは、思う。

 毎日お迎えするんだ♡待ち合わせって貴いよね♡ってはしゃいでいた姿も見てるし、買い物に行く約束もしてるし、もしかしたら忘れ物でも取りに行ってるのかなあとか、すれ違ったらいけないなあとか、もうちょっとだけ待ってみようとか、色々と考えちゃって。


 気が付いたら…、40分も経っていたという感じなんだよね。


 ―――サイテー!!

 ―――普通、来るまで待ってるでしょ?!

 ―――もういいよ!アンタとは二度と一緒に出掛けない!!


 ……昔、友人と、もめたことを思い出しちゃって…、動けなくなったというか。


 開演時間の2分前になっても、待ち合わせ場所に現れなかった、友人。

 電話をしてもつながらず、メールをしても返事は来ず。


 ……はじめて観に行くことになった、ミュージカルだった。


 チケットが、あんなに高価なものだなんて知らなくて。

 アルバイト代を貯めて、ずっと…楽しみにしてて。


 チケットは、使わなければゴミになってしまうって、知って。

 劇場の入り口で、もぎりのお姉さんに促されて、一人で中に入って。

 観劇を終えて、スマホの電源を入れたら…留守電が山ほど入っていて。


 ―――私との約束よりチケット代を取ったんだよ!

 ―――樫村と約束すると裏切られるから!

 ―――こんな薄情者、関わらない方がいいよ!!


 私は……友人を待たずに、一人で観劇を楽しんで。

 友人は……途中入場できると思っていたけれど、できなくて。


 色んな事が重なって、たくさん……学んだんだ。

 誰かと待ち合わせをする覚悟とか、一人で行動する気楽さとかをね……。


 私は、できるだけ…待っていたいと、思うんだ。


 予定も、買い物ぐらいしかないし。

 ぼんやりと風景を眺めているのも、嫌いじゃないし。


 ……ちょっと体が冷えてきたかな。


 少し動いて、血液を巡らせておこう。風邪なんか引いたら大変だもんね…。

 お弁当箱のバッグをベンチに置いたまま、軽く屈伸、背伸び、体側伸ばし、腿上げ……。



 ザッ…ザッ、ザッザ、ザ、ザ、ザザザ……



 前屈をしていると、砂を蹴るような音が聞こえてきた。

 ……アッシュ君かな?


「……スウ!!」


 ……スウ?


「…ッ、はぁ、はぁ……、ごめん、……遅れた」


 全速力で駆けてきた青年は、きつそうに膝の上に手を置いて…息を落ち着かせている。

 ……そう言えば、魅瑠駈山を登った時も、こんなふうにへばっていたことがあったっけ。

 よっぽど急いできたんだね…、何か問題でも起きたのかな……。


「ううん、気にしないで?というか…大丈夫?そんな、走ってこなくてもよかったのに………、ッ!!」


 そっと背中に手を添えながら、ベンチに座るよう促そうとして!!

 顔をのぞき込んだら!!!


 目が…青い!!!

 やってきたのは……俺様アッシュ!!!


 いつもの流れでサクッと唇をいただかれてしまっては困るので、気持ち距離を置いて…並んでベンチに、腰かける。

 決して暑い時期ではないのに、額に汗がにじんでいらっしゃる。この人はどれだけ長い距離を走ってきたのでしょうか……。


「ちょっと…、ツレと遊んでて…ハァ、時間が…、慣れなくて……、悪い」


 ツレ?

 …人肉社長やガブガブさんだったら、そう言うよね…?


 お友達でもできたんだろうか……。


「そっか、時間を忘れることもあるよね、ええと…、次からは連絡してほしいかな、心配しちゃうし」


 ……あんまり、怒ることはしたくない。

 待たされたことは事実だけど、私は…怒るほど、待ちくたびれてはいないから、ね。


「……わかった。心配してくれて、サンキュ…」


 俺様アッシュが、ニコッとして…う、距離が縮まってきたんですけど!!

 全速力で走ってきたからか、いつもよりも血色のいい唇が、目の前に!!!


 ……これって、もしかして!!!

 また隙をみて、私にキスしようとしてるやつじゃない?!


「はいストップ、そんな息が上がった状態で…真っ赤な唇で人の唇を狙うのはやめてね!!お買い物、行くんでしょう?!」


 手の平を青い目の青年に向け、行動を制させていただく。


「……ああ、行く。今日は…肉が、食いたい。ちょっと遠いけど、会員制のスーパーに行こう。あそこなら…良いものが、買える」


 予想に反して、俺様アッシュは…、キスを迫ったり、奪いにきたりはしなかった。


 強引すぎなくて、でもしっかりワイルドな感じがかっこいい?頼もしい?なんだかいつもと違う雰囲気も相まって、ついつい…お買い物が捗ってしまって。

 アッシュ君のおうちの大きな冷蔵庫も、私の小さめな冷蔵庫も、食材でパンパンになっちゃってね?!


 ご飯を作っている時も、ご飯を食べている時も、お風呂上がりに夜のストレッチを一緒にしている時も、ずっとアッシュ君の目の色は青いままだったけど……唇を奪われることは、なかった。

 ちょっぴり意地悪な言葉を投げかけられたり、からかわれて赤くなるような事はあったけれども!!


 珍しいこともあるんだなと思いつつ、ちょっと肩透かしを食らったような…いや、別にね?!待ちわびてるわけじゃなくてね?!


 ちょっとだけ……、気になってたことがあるんだよね。

 マンションに行く途中の道でも、車の中でも、やけに…唇をこすっていたのが、ね。


 ……もしかして、赤い唇って言われたことが嫌だったのかな?


 宇宙人の気にすることは…ホントよくわかんないなあ、もう……。


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