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エコー  作者: たかさば


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そっくりさんがあらわれた

 淹れたての温かいジャスミンティから、ほこほこの湯気と一緒に爽やかな香りが届く。


 …自分が入れているものと同じ茶葉なのに、いつもより優しい香りがするような気がする。

 アッシュ君の優しさがお茶に反映されているのか、私の負ったダメージが大きすぎるのか…きっと、両方だよね。

 ふうふうしながらそっと唇を寄せると…、ああ、いつもわたしが入れているお茶と同じだ。アッシュ君、いつの間にこんなに美味しくお茶が入れられるようになったんだろう。少し前までお茶っぱをそのままボリボリやってたのに…すごいなあ……。


「じゃあね、お茶を飲みながらでいいので、紹介しておくね。明日からスーちゃんやる子」


 ・・・・・・すーちゃんやるこ?


「本当は許可を得てからお披露目するつもりだったけど、思いがけない事が起きてしまったから許して欲しいな。ごめんね、勝手に培養してモデルに登用してしまった事、謝る。…許してくれる?」


 タブレットをつるつるやりながら、なんとなく申し訳なさそうな表情で私の横に座ったアッシュ君……。いったい何がお披露目されるんだろうと、思わずキョロキョロしてしまった、その時。


「って、はい?!」


 横開きのドアが音もなく開いて…うん?女性・・・・・・?


 ・・・って!!!!!!!!!


「ちょ!!!な、なんてもの着せてるの?!これはね、世間一般ではね、した、シタギッ!!!服じゃないのよ?!見、みちゃだめっ!!!」


 薄ピンクの、フリフリリボンとゴージャスなレースがふんだんにあしらわれてうっとりするような・・・ベビードール姿のっ!!!


 わ、わ、わわわわわわ私ぃイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!


 ついさっき収納した自分のクローゼットから春モノの服を引っ張り出し!!!

 きっちり着込ませぇエエエエエエエエエエエ!!!!




「ごめんね、前にスーちゃんが一生懸命通販サイトのページ見てたから…お気に入りマークがついてたから、閲覧履歴に並んでたから…きっと着たい服なんだなって思っちゃった。お気に入りの服を着せたら喜んでもらえるかなって…大失敗だ・・・・・・」


 ひと騒動あったのち、ラグの上のちゃぶ台に突っ伏しているのは・・・後頭部をポインセチアの枝でチクチクと刺されまくっている宇宙人青年!!!

 美しい所作で正座をしつつ、それをニコニコと見守るそっくりさん!!


「ええと!!お買い物履歴はね、プライベートな部分もあるからあまり見ないで…見ないようにしてね?!でもって、見た記憶は早めに忘れていただけたら助かります!!」


 ばっちり学習するタイプだし、一回見たら絶対に忘れないとは思うけど、思わず釘を刺さずにはいられない!!

 今後は自分専用パソコンを購入してもらって、私のノートパソコンは触らせないようにしよう……。


 それにしても……、宇宙人のハイテクノロジーってホントすごいよね。

 すぐ横に座っているそっくりさんは、本当にどこにでもいそうなごく普通の女性って感じで、自分そっくりという違和感以外は特に不審な点は見当たらない。呼吸もしてるし、微妙な身体の揺り動かし?瞬きなんかも完璧で…というか、私ってこんなところにほくろあったんだ、耳の裏側なんて普段見えない位置だもんねえ……。


 と言うか、私ってこんなに頑丈な感じの体型してるんだね。鏡越しではわからなかった、実物大の自分を目の前にして色んな感情がぐるぐるとー!!!

 何気にさっき服を着せた時に二の腕上部の産毛が気になったし、肌もちょっとくすんでるところがあって…うん、次の有給は自分磨きに精を出そう。お金ためて全身エステとか行ってみようかな……。


「…うん、なるべく忘れたと言う事にするよ。じゃあね、今から彼女について説明するね。このこは*Ξ☆¨♯◎Ψすぅ0034※肉・・・製品名はナマス、僕が開発した人肉スーツなんだ。このすごいところはね、たんぱく質をふんだんに使って地球の上で実際に人の生活を……」


 ところどころ専門用語や高度な知識が求められる説明が入るので、100%理解できたかと言えばそういうわけではないけれど。


 このそっくりさんは宇宙人が乗り込むことができる、地球人擬態モデルなんだって。今まではただの人肉スーツ・・・いわゆる外側だけの擬態モデルはあったのだけど、表情の再現やありえない行動を抑制する機能がなくて、いろいろと問題が起きていたんだそう。そこで、搭乗する宇宙人に行動をさせると言う従来のシステムを見直す事を考えたという事みたい。

 スーツにはごく一般的な地球人の日常がプログラムされていて、今最終チェック段階に入っているらしい。呼吸や心臓の鼓動に合わせた振動、くしゃみなんかも再現していると言うのだから恐れ入ります……。おかしな行動をしようとするとスーツの方が行動を抑制する優れもので、発売されれば今後宇宙の常識とコミュニケーションの限界の壁がなくなるとか、何とか。


「…この実験が成功したら、身近なところから大々的に売り出そうと思ってるんだよ。一応念のために、近距離接近プログラムを稼動しておくからね。買い物に行ったときにバッティングしたら騒ぎになってしまうでしょう。あ、スーちゃんは認識できるようにしておくよ、がんばってるナマスを見たら、たまに声をかけてあげて?認識許可は…大家さんとお父さんだけでいいかな?」

「た、たぶん…」


 すれ違った人がどんな顔をしていたのか印象に残らないような感覚に近いのかな…。連絡なしでいきなり家まで尋ねてくるような人はほとんどいないから、おそらく問題は・・・起きないはず?


 嬉々としていろいろ説明をするアッシュ君を見ていると、ホント…研究熱心なんだなあっていうか、夢中になれることがあるのっていいなあというか、がんばってるのを見ると応援したくなるって言うか。


 もしかして、私の髪の毛とか一生懸命拾っていたのは……。

 ……いろいろと思うところはあるけれど。


 ここに住まわせてもらう事になった以上、文句を言う事は難しそう……。


 はあ・・・・・・。


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