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エコー  作者: たかさば


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73/85

子どもがやさしかった

「フウム、なるほど…生命体ではないものの形態をとることで無防備を装い、気軽に体内および手中に収まることを目指して紛れているのか、確かにゲノムの解析が・・・増殖は無限、内臓から進入して操縦して、へえなるほどねえ、居住地を持たないうんげぶら星人らしいやあっあれは宇宙炎の燃えカスじゃね?!何でまたこんなところによーしこれはゲットだ!!さてはおさじさんパトロールの手がこんな辺境地・・・」


『どいなか村』の頂上から伸びるロング滑り台を楽しむべく、緩やかな上り坂をのどかな風景を望みながら行く道すがら、思っていることを実に気兼ねなくポロポロと口からこぼしては私を震え上がらせる人が…すぐ横にいる!!!

 うっかり興味を持ってそれって何とか聞いたら確実に知りたくないような、知らずに過ごしているからのほほんとできているような事実を知ってパニックになること必至、ダメダメ、好奇心をくすぐられては!!!自分の知りたい欲にそっと蓋をし!!

 というか、めちゃめちゃ不自然なレベルでデニムパンツのポケットが膨らんでるんですけど?!明らかな違和感が…ああ、まだ何か押し込んでるぅううう!!!


「アッシュ君、あんまりポケットに入れると滑り台できなくなっちゃうよ?!前にね、おしりが滑り台にはまっちゃって進まなくて、係員さんが来て大変だったことがあってね?それにそんなにいっぱい入ってたら、すべってる最中に落っことしちゃうかも…」


 あれは去年のゴールデンウィークだったか…一人さびしくこの場所を訪れた私は、山頂の展望台からすぐ横の滑り台スタート地点で、スタッフさんやお客さんに囲まれている大きな体のおじさんを見たのだ。搭乗口で並んでるのを見て大きな人だなあ、お子さんの付き添いなのかなと思ってたんだけど、どうやら本人もすべりたかったようで…人って座ると幅が広がるじゃない?ものの見事に滑り台の幅と体の大きさがかみ合ってしまい、前にも後ろにも動かなくなっちゃって大騒ぎになってしまったのをですね…。


「大丈夫!擬態シールでとめてあるもん!!よーしゼンフ捕獲したぞ!!ねえねえ、これどうやって乗るん?この小さなプレートを食べてから入るのかい?ずいぶん硬いね、こんなものをどうやって…ああそうか、だから時間回収機のカスがここに落ちてるんだ、朽ちたものを粉状にして体内に…。水の用意がないね、わりかし利用者になげっぱなんだね、几帳面で気遣いの塊たる日本でこれは残念」

「あのね、まず壁の説明書きをまず読もうか!!見て、それは滑り台をすべるときに、おしりが痛くならないように下に敷くものって書いてあるよ?!あとね、そのすぐに食べようって考えるのはそろそろやめてみようか、人はそんなにいろいろともぐもぐ食べたりしないんだからね?!」


 ああ!!

 勘弁してえええええええええ!!!




 がががががっ!ごごごごご!!がーっ!!!



「キャー!!あは♡あはは!!!すごーい♡おもしろーい!!すごく絶景、結構早い!!きゃはは♡おしり痛いけどソウカーイ!!!」


 全長200メートルのロング滑り台…その名も『山肌ガガガスライダー』は、『どいなか村』の名物アトラクション。たくさんつながっている回転パイプの上をすべるタイプのローラースライダーで、100円を投入することでゲートが開いて利用することができるセルフ方式になっている。ここにはじめて来た二年前からずーっとやってみたいと思ってたんだけど、ようやくその夢がかなったって言うか!!


 ガタガタと揺れながら結構なスピードでなだらかな斜面を滑り降りるのって気持ちいいんだね!!風がちょっと冷たいけど心地いい!!うわあ♡すごく楽しい!!もう一回すべりたーい!!


 が、ががが!!ざーっ、……たんっ!!!


 テンション高く滑り台の最終コーナーを曲がって…はい、着地!!


 あまりにもロングすぎるこの滑り台には、途中休憩地点として見晴台が設けてある。ジャングルジムに囲まれた鳥小屋みたいな空間があって、そこでいったん滑り台を降り、ゴール地点につながる滑り台に乗り換えるという感じになっているのだけれど…地味にありがたい!

 滑り降りる衝撃というか、ダメージの蓄積をここでいったんリセットする的な…わりとローラー滑り台って腰にくるんだね…この滑り台を設計した人、よくわかってるなあ。かごの中から中腹の景色を眺めつつ、ジーンとしびれるおしりを軽くひと撫で、ふた撫で……。


 カ、カカカカカっ!コココココぷくッ!!カーッ、ビニュ!!!


 遅れて到着したのは、ご自慢の髪を風になびかせながら、大きな口を開けて喜んでいる青年!!ちょっと聞き慣れない音がしたような気もするけど、うん、気のせい、気のせい!!


「あははー!!すーちゃん♡これちょーおもろいがや!!たのしー!!移動ってこんなにも面白くなるもんなんだね♡」

「でしょ♡どう?面白いでしょ♡何度でもすべろうね♡どうする、今度はアッシュ君が先に行く?」


 お手本を見せようと先にすべったけど、後ろからも見守っておきたいな♡もしかしたらとんでもないポーズですべってるかもしれない、終着点付近には売店もあるから人目が気になるし!!


「今のもう一回やりたい♡つか今度は降りるんじゃなくて上がりたいな♡ここでまってて…あ、スーちゃんも一緒にいきたいよねいこいこ♡」


 やけに血色のいいほっぺたをした青年がまたしても人間らしからぬ発言を!!!ニコニコしながら立ち上がり、私の手を取って、たった今滑り終わったローラー滑り台に座りこもうとしてる!!私はその手を引っ張って、さりげなく展望スペースのベンチの方へと誘導、誘導……。


「滑り台はね、高い所から低い所へ降りる一方通行なんだよ、のぼっちゃダメ!それにね一般人…人はね、重力に逆らって滑り台を楽しむ事はしないの、そもそもまだ途中でしょ?とりあえずここでちょっとおしりを休めてから最後まですべろうね?」

「でもー!!ほらあそこのお嬢さんは低い位置から上部に向けて移動しているよ、あれはわりかし逆行しているのでは?!あの人は反対向きに坂を上ってるのにずるい!!」


 せっかく座らせたベンチから立ち上がり、足もとにあるチビッ子遊具コーナーのファミリーを指さす若者が…。坂を上るってどういう…って、複合型遊具のベビー用滑り台に二歳ぐらいの女の子を滑らせている若いパパがいる…ちょっとまって、あれを見てずるいというの?!


「あれは…チビッ子が自分で滑り台にのぼれないから、お父さんが滑らせてあげてるんだよ。逆行ではないよ?!ええとね、最初に100円入れたでしょ?このアトラクションはね、もう一回滑りたかったらもう一度上まで行って100円払うシステムなの!ルール違反しちゃ、ダメ!わかった?」

「ええー?!なんという厳しい規則なんだ、自由に行き来できないとはグぬぬこういう事してるから反重力の真実に気が付けないんだそもそも昇るという事は逆らうのではなく力に乗って…ブツ、ブツ……むぐっむぐ……」


 ちょっと注意したらどうやら不満を覚えたみたい…。よくわからない難しい事をつぶやきつつ、口に手をやり何やらモグモグ言っている。…クセなのかなあ、口を覆ってひとりごと言うの。ちょっと恥ずかしいかも、機会があったらそれとなく注意してあげたいところだ……。


 というか、この、周りを見てすぐに自分の正当性を訴える感じも……、けっこう気になる。

 今までは…明らかにおかしな行動をしているから、周りを見てあわせようねっていうスタンスでは、あった。でも、ずいぶん人間らしさを身につけてきた今、アッシュ君には、アッシュ君という個人を持って欲しいというか…他人を言い訳にすることを、癖にしてほしくない気持ちが出てきたというか。

 周りを見て空気は読んで欲しい、でも周りと同じことをしないで欲しいというか…、みんながやってることをまるっと取り入れないで欲しいというか…、悪いことをしてる人を見てもあの人がやってるから自分もやっていいと思って欲しくないというか…。自分の気持ちがまず第一にあって、自分がこうしたいからこうするんだと決めて欲しいみたいな?自分の意志そっちのけで他人に合わせるという選択をしないで欲しいみたいな……。


 とはいえ、明らかに人としておかしな行動はして欲しくないわけだけれども!できることが増えてきたからこその、葛藤のようなものがですね?!ああ、匙加減が…難しい!!宇宙人をごく普通の日本人に育て上げていかなければならないという大仕事の、一筋縄ではいかない感じときたらもう!!でもここで適当な事をしてしまったら絶対にあとで後悔するパターン!!まあいっかでは済ませられない、責任の重さ!!!……やるしか、ない!!!


「あとね、ちょっと気になったんだけど、人を指差すのはやめよう。それってかなり失礼な事なんだよ。特定の人をさしたい時は、視線…ええと!!教えて欲しいな、どこら辺の、どういう服の、どんな大きさの人とか、特徴をね?!言葉の練習にもなるよ!あのね、私アッシュ君ならできると思うんだ、知識はもともと豊富だし、何事に対してもまじめで一生懸命なんだもん!…できそう?」


 視線で教えてねって言おうと思ったけど、そんな事言ったら目からビームが出そうなので一応念のため気を使って説明など。人目のある所で派手なヤラカシはマズいので、極力問題が発生しないよう気遣いを…晩ご飯の時にでもアイコンタクトについてみっちり教え込もう……。


「ええ?!…できる、できるけど!!でもなんでなん?あそこの左耳の下にチップ埋め込まれてるしましま模様のおじさんも髪の毛の長いスカートの短いお姉さん指差してるじゃん?!あの奥さんもお爺さんスーツの二次元人指差して汚いエコーをぶつけているし、あのわたあめ屋の黄色い頭のお姉さんはズボンのおしりが裂けてるおよそ116キロのお兄さん指差して笑ってるよ?みんなやってるのに何で…ダメなの?僕だけダメな理由教えて!!」


 あまりきつい言い方をすると、またパニックになるかもしれないので…表情を見ながら、恐る恐る気持ちを伝えてみる・・・。


「誰かがやってるから自分もやっていいんだって考え方は、ちょっと幼いかな?アッシュ君は学び途中ではあるけれど大人として現代日本に暮らしているんだから、きちんと一個人として自分の行動にはしっかり責任を持っていこうよ。誰かのまねをしているだけでは、誰かと同じことをしているだけでは、その…アッシュ君のアッシュ君である魅力が…素敵な部分がかすんでしまうというか、アッシュ君じゃない誰かでも良くなってしまうパターンがね?」


 私の中にある、人に対する礼儀という…理想像を押し付けていることになってるんじゃないかなって、思わないでも、ない。教えることの、人を育てるということの難しさ…世のお父さんお母さんたちは、ホント大変だ……。


「魅力…素敵な部分…うん…わかった……」


 あれ?

 なんか結構…素直に、おとなしく聞いている??

 いつもだったらテケテケしたりするはずなのに…すごい、もしかして成長してる?口数が少なくなると途端にカッコよさが……


「…ごめん、スーちゃん…大変な事に……今気が。いっぱい落としてしまったよ。やっぱスーちゃんの言うとおり、気をつけてすべらなきゃいけなかったみたい……すべるのが面白すぎて、ポッケ、ポッケが……シール、はがれた……、せっかくの、宝物……ぐすん」


 ちょ!!!

 さっきまでの憤りがウソのように…さめざめと涙をこぼす、いい年をした、青年!!


「じゃあ、急いで下に行って…そうだ、確か一階にかわいいエコバッグ売ってたから、それを買って、もってまた集めよう?な、泣かないで!!」

「でもー、でもー!!ふひーん、後ろの人が、あの足の裏にほめラマ星人の骨ついれるお子さんのおしりがね?!僕の見つけたかっこいい羽をぐしゃって!!あんなのもう見つからないよぅ、う、うぅ…」


 カ、カかカかカ!!ざーっ、……たんっ!!!


「…お兄ちゃん、どうしたの?」


 鳥かごの中にインして来た少年の、優しいまなざしぃいいいいいい!!!

 しくしくと泣くお兄さんと私の後ろに並んで、きちんと順番を守ってすべろうとしてる!!なんてしっかりしたお子さんなんですか!!親御さんの教えのすばらしさがねっ?!


「え、えっとね?!なんかおしりが痛かったみたい!!ふふ、お先に、どうぞ!!」

「ありがとー!」


 か、勘弁してえええええ!!!


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