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エコー  作者: たかさば


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機嫌が直った

「あ、ほら見て、このスタンプアッシュ君のお気に入りなんでしょ?これをたくさん使ってみるのも楽しいかも?ほら、ここにお試し用の模造紙があるから、試しにポンポンやって練習してみて…」

「……うん」


 アアア!!!

 すっかり落ち込んで力なくスタンプを押す人が、ここに!!!


 しまったなあ、さっき叱っちゃったからめちゃめちゃ落ち込んでる!!さっきまでのハイテンションが嘘のように、明らかにどんよりしたオーラ?エコー?がアッシュ君の周りで渦巻いてるのが…見える、見えるよ?!


 ―――スタンプいっぱい押したろ!!

 ―――あ、ちゃんと考えて押していかないと、やり直しがきかないし練習をね?一枚しか…

 ―――わーい、おもしろーい、そうだ全部色まぜたら楽しそう、やったろ!!

 ―――このスタンプはほかの人も使うんだよ、借りてるだけだから勝手な事をしたらダメで…

 ―――んもう、大丈夫だよ、スーちゃん心配し過ぎ!ちゃんと戻せるでね、うんしょ…


 実に無邪気に罪の意識なく、置いてあるスタンプやスタンプ台を目いっぱい使ってやりたい放題をし始めたゴーイングマイウェイ初心者を目の前に、一般的日本人の常識保持者としては黙っておれなくてですね?!


 ―――戻せるならぐちゃぐちゃにしてもいいって思うの?!お借りしているものなんだから、ちゃんと誠意をもって大切に使わないと失礼だよ!!

 ―――ええー、でもでもだって!!物質は時間に拘束されてないから戻せるじゃんね、だったらなかったことに!!ほらもう元通り、これならいいでsy!!よーし次は黄色に黒まぜたろ!!


 ぐちゃぐちゃのめちゃめちゃにした挙句、タブレットを取り出してつるつるやって、一瞬で元の状態に戻してしれっとしてる様子に…堪忍袋の緒がブチっと行っちゃったというかね?!


 ―――あのね!!自分のやったことをなかったことにするのって、おかしい事なんだよ?!人間はね、やってしまったことをやらなかったことにする生物ではないんだからね?!一生懸命向き合ってきたことをなかったことにしたらダメ!!失敗も含めて、経験を自分の中にためていくって考えないと費やした時間に対しても失礼だよ!!限られた時間の中でせっかく体験したことなのに、簡単に消しちゃうとか…これから先、何に対してもこういう事をするつもりなの?それってすごく残念な事だと思う!!ちゃんとした人間になりたいのなら、こういう…

 ―――う、…あ、あひえあお※♯√▽%?!ご、ごめ!!ヒィイイイイイイイす、スーちゃんがスーちゃんたるスーちゃんのスーちゃんというスーちゃんでスーちゃんシューシュースー!!??


 パニクって泣きながらおろおろする宇宙人を目の前に、なんかそれ以上言い聞かせる事ができなかったっていうか!!なんかこう、いじめてるみたいな気分になっちゃったというかね?!うん、確かに私も人間になってまだ日の浅い宇宙人に対してちょっと思いやりが足りなかったかもってね?!


 ああ…ホント加減が難しい!!褒めるのと叱るのと、ちょうどいい温度感がわからなくて…いつかそのうちとんでもない失敗をやらかしちゃうんじゃないかって不安がですね!!なんかもう、お出かけするたびになんかいつもこういう感じの事ずーっと心配してる気がする…。


 ああ、こんな事なら初めて会った時に返事なんかするんじゃなかった、安易に引き受けるんじゃなかった…って!!!たった今さっきアッシュ君に説教したくせに、やってしまったことをなかったことにしちゃダメってえらそうなこと言ったくせに何言ってるの、私っ!!


「ふ、ふふ!きれいにグラデーションになって…色の移り変わりが素敵だと思うよ!初めてにしては上手!優しい色合いでアッシュ君っぽいし!また今度来た時に違うデザインに挑戦してみようよ、ね!!」

「うん…そうだね、今日は…これで良しとするよ……どうかな、スーちゃん、おかしくなぁい?今日という初めて挑戦した日の記念に相応しい出来かしら、ね、この汚れとか嫌いにならない?もう怒ってない?この後…一緒に、さっき話してた滑り台……やって、くれる?」


 しおらしく私を見上げる、潤んだ緑色の目!!


 傷ついてることを全く隠さない100%作ってる無理した笑顔、怒らせてしまった後悔と反省、見捨てられるかもしれないという不安に出来の悪さを責められるのではないかという心配、嫌われたくないという願いに怒りが消えているかの確認、このあとの楽しみが消えるんじゃないかと怯えながらも懇願せずにはいられず思わずあふれ出してしまった欲求がド直球にビシバシとっ!!!


 アアア!!罪悪感がハンパないんですけど?!


「うん、大丈夫だよ!一生の宝物になると思う!でね、このはがきはね、下のポストで投函できるんだ…しまっといてあげるからあとで一緒に出しに行こうね?じゃあ、うんとね、紙漉き体験も終わったから今日のお楽しみの滑り台に行こ!!今日は時間に余裕もあるし、何回でも付き合うから、気に入ったら何回でも滑っていいよ!!」

「…本当に?ありがと……」


 ちょっぴり笑顔が戻ってきた…けど、なんか寂しそう!!無理してる!!せっかくのお出かけなのにこんなテンションじゃ気の毒!!アアア、何とかしてあげないと!!自分が招いてしまったこの事態だけど、庇護欲が掻き立てられるというか!!


 そもそも…私こういう表情に弱いんだよね…。スポーツコーナーでサンプルの腹筋マシンを壊されちゃった時も、お母さんに怒鳴られながら泣いて謝るチビッ子に完全に気持ちを持っていかれちゃって…弁償とかとても言い出せなくてボーナス査定に響くけど廃棄処理しちゃったくらいで……。


「さ、いっぱい楽しもう!!よし、じゃ…いくよ!!はい!!」


 出来上がったはがきをビニール袋に入れて、ハンドバッグの中にしまい込んだ私は…アッシュ君の手を取って、ぎゅっと握って差し上げて…って!!!


 ……ぎゅ、ぎゅぅ~♡


 ちょ…ちょっと!!!

 普通にさらっと手をつなぐ予定だったのに!!さりげなくわりとかなり強引に恋人つなぎにしてくるのはなぜなんでしょうかっ?!

 で、でもここで振り解いたらまた傷つくよね?!

 アアア、こ、このまま山の頂上まで行くしか…ない!!!

 紙漉き工房を出て、冷たい風が吹いているのを頬で感じたのだけど…なんか…めちゃめちゃ熱い!!顔も手も―!!!


「うん♡あのね、ここの山はねかなりいいエコーが流れているよ、それを採取しながら滑り台に行こうと思うの!!あとねえ、かたい道の端っこに転がってるあの…獣型偵察機の抜け殻、拾いたいと思うんだけどいくつまで取っていい?出来たらポッケの中いっぱいにしたいの、ダメ?」


 ニコニコして私の顔をのぞき込んでくる、機嫌がずいぶん回復したと思われる人がここに!!!目の高さが同じだから、まっすぐ見つめられると…さりげなく視線を逸らせない!!!


「ええとね?!あれはただのクヌギ型のドングリなんだよ、リスとか鳥、虫のご飯になるものでね?!たぶん機械じゃないと思うけど、それでも良ければ…そうだね、五個までなら取ってもイイよ、ポケットはね、いっぱいにしちゃうと不便な事もあるからね?!」


 できる限りにこやかな表情を崩さないように、優しい対応を心がけええええええ!!!


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