顔が赤くなった
ああ、舞い散る枯れ葉の向こうに、腐った屋根の見晴らし台が見える…。
あの見晴らし台で、私は宇宙人と出会い振り回される羽目になり…うう、なんだろう、この疲労感。
そりゃね、疲れもするよね、びっくりしたり気絶したり怒ったり叱ったり…もうね、なんていうのかな、こういうのって息つく暇もないっていうのかな?あれ、取りつく島がないだったっけ?いやいやこれは相手にしてもらえないって慣用句だった気がする。
…ダメだ、混乱と疲労が私の正常な判断を鈍らせてっ!!!
「えっと、アッシュくん、わかりました、私がちゃんと…指導します。だからね?落ち着いてくれる?」
さっき首を締め上げた両手で、アッシュくんの手を取って…じっと、目を見つめる。
木々の間から見える青空が反射して、少し明るい色合いの瞳になっている…宇宙人。
…目の高さが一緒だからかな、ふふ…、私が映ってる。
…こんなに、自分の姿が瞳に映るくらいの距離で、誰かと目を合わせたのなんて。
…地味に、初、だったり、して。
宇宙人に落ち着けといった、私の方がどきどきしてきた。……お、落ち着け、自、自分!
そうだ、手、手離そう。さりげなく、つないだ手を離して…ええと、どうしよう、よし、腰へ。
「は、はい。おちつき、ました。」
アッシュくんも落ち着いた、わ、私も、落ち着いて!!
すうと息をひと吸い、ふっとひと吐き!
…うん、落ち着いた!
「…いい?ひとつずつ学んでいって、ちゃんとした地球人…人間になろうね?」
最初は誰だって、未熟なところがあるはず。
宇宙人だって、知らないことが多くて…きっと不安に思う事だって、あるよね。
ちょっとだけえらそうに、人差し指を立てて、指を振ってみる。
「うん、なりたい。…なれるかな?」
「落ち着いて、ひとつずつ学んでいけば、大丈夫。」
パニックになって、どうでもいいやってやけになって、木っ端みじんにしたりしなければね。
…しないよね。
するかどうかは、もしかしてもしかしなくても、私の手腕にかかっているというわけですね?!
うぐぐ…!!!
や、やるしかないっ!!!
「宇宙人だって、言わない方がいいのかな?」
…そうだなあ、言わない方が無難だよね。地球人の知らない技術を求めて国家間で争いの火種になったりすることだってあるかもしれないし。
そういえば昔、不時着したUFOの乗組員を切り刻んで大問題になってたりしたとかなんとか…あれはフェイクニュースだったかな。
「そうだね、宇宙人がバレたら解剖されちゃうかもしれない、そのへん
「大丈夫!解剖は得意だよ!!されたらされかえせるし、いざとなったら米%●ΠЮ!」」
……なんでこの人はこう、人の話してる途中でこう、乗り込んできちゃうんだろう。
…そっか、会話になれてないんだね、うん、仕方ない、仕方ない。
…仕方ないけど、地味に腹立つな。うん、腹立たしい。怒ろうかな。怒っちゃおうかな。
………。
…直!!がんばって!がんばるの!!
人のセリフに自分のセリフ思いっきりかぶせてくる失敬な人だけど…、怒り狂って暴走するご老人よりはましでしょ?ちゃんと私の言葉に反応してくれるでしょ?ちゃんと謝ってくれるでしょ?ちゃんと目を見てくれるでしょ?私の返事、待ってくれてるでしょ?
私をまっすぐ見つめる、キラキラした目。それはまるで、少年のように…純真無垢で、曇りひとつなく!!!
…宇宙人の常識?を地球人の常識なんかまるっと気にせず無邪気にドッカンドッカンと投げつけてくるけど!!!ある意味非常に、質が悪いけどっ!!!
…相手は何も知らない宇宙人。
これから勉強しなくちゃいけない、この星の常識を知らない…宇宙人。
怒っちゃダメ、パニクったら話ができなくなっちゃうよ。
ここは私が大人になって、理解と同調と寄り添う気持ちと、応援する姿勢に労いの心とっ!!!!
…はい!!
心の準備完了!!
……よし!!
「あのね、アッシュくんが思ってるより、わかんないことがいっぱいあって大変だと思うの。だからね、私…協力するから!大丈夫、ちゃんと日本人になれるよ、だからね、一緒にがんばってみよう?」
「ありがとう!でも僕、こんなにもスーちゃんを怒らせてばかりで、どうしよう、勉強できるかな、理解できるかな、無理かもしれない、自分の知ってることしかできないかも、たぶん自分でいいと思ったことをしちゃうよね、またスーちゃんに怒られる、怒られたくないよ、嫌う?嫌いにならないで、お願い!!!」
ヤバイ!!
またちょっとテンパり出してる!!!
なんでこの子、自分を追い込むようなことばかり考えちゃうんだろう。…もしかして、実はものすごく不安でいっぱいなのかも?だとしたら、もう少し優しくしてあげないといけないんじゃない?
どうしよう、落ち着かせるような、あとっ…ちょっとヤル気につながるような、何か、何か、何か…!!!
「怒らないから!!!宇宙人ってバレたら、私と会えなくなっちゃうよ、そ、そしたらええとー、あのー、ええっと―!わ、私と、こ…恋ができなくなるよ?!それでもいいの!!!」「!!!!!!!!!!!!そ、そりはこまりゅでしゅ!!!!」」
あああああああああああああ!!!!
何言ってんの、言っちゃってんの?!?!?!
す、すなおぉおおおお!!!!
これで私、この宇宙人と恋をすること決定みたいな?!
ねえ!!決定していいの?!
でもでもこういわないと絶対話が進んでいかないでしょ?!
てゆっか、進ませていいの?!
混乱がハンパないよ!!
この私が!!恋?!
ただでさえ恋の経験ないのに、人間なりたてのほやほやの何するかわかんないびっくり箱みたいな宇宙人と、恋っ!!!
でもでもここで逃げ出したらこの宇宙人共々…共倒れじゃない!!!
…直!!がんばって!がんばるの!!がんばるのよぉおおおおおおおおお!!!!
思わず頭を抱える私を、アッシュくんがにっこり笑って見つめている。
・・・優しい顔して、笑ってる。
・・・すごく、愛おしいものを見るような眼で、私を、見つめてる。
頭にのせた手が、自然と下がっていく。
私は、一度だって、こんなにも穏やかな表情を…誰かに向けてもらったことなんてなかったな。
なんていうんだろう…、うれしい?充足感?幸せ?
…誰かの視線が、こんなにも優しく私を包み込むなんて…知らな、かった。
この、不器用な、宇宙人は、もしか、したら。
…私は、この笑顔を、きっと・・・。
「スーちゃん…ありがとう。」
アッシュくんは、私の手を取って…っって、ひゃいっ?!
…チュ!!!!!!!!
ぎょ――――――え―――――――――!!!
手っ!!!!!!!!!!!!!
手手手て手てッ!!!!
わ、わたわたわた私の手てて手に!!!
キ、キスゥううううううっ?!?!?!?!
ちょっと!!
どこのイケメンだよっ!!!!!!!
ここの宇宙人のイケメンだよっ!!!!!!!
「まーまー!見て!!仲良し!!」
「あらホント―!うふふ、良いわねえ、ふふ!」
「おっ!!雄太、ここにドングリがあるぞー!」
「え、どこどこー?!」
ぎょ――――――え―――――――――!!!
休日を楽しむ山登りファミリー!!ファミリーがああアアあ!!!
魅留駈山はね、小さい子でも登れるからね、保育園くらいの子連れでも十分登れるの、うん、知ってる!!!
ばっちり見られた!!
お母さんと手をつなぐ幼女の視線!!
照れるお父さんの視線!!
微笑ましく見つめるお母さんの視線!!
どんぐりに夢中なお兄ちゃんの視線は気にならないけどね?!
「は、はは、こんにちはー!!」
「こんにちは!」
熱のこもらない、さわやかな笑顔をファミリーに向けるイケメン宇宙人がすぐそこに!!
「スーちゃん、僕なんか間違った?」
熱のこもった、色気たっぷりの笑顔を私に向けるイケメン宇宙人が目の前に!!
キスを落とされた手は…しっかりと握られている!!!
…がっちり握られてる!!
振りほどけない!!!
「は、はは、間違ってるような、間違ってないような、うん、あのね、私疲れちゃったから、早く見晴らし台に行きたいな、うん、行こう、ね!!一緒に、歩いていこう、ね!!」
「うん!」
やけに涼しい顔をした宇宙人と仲良く手をつないでですね!!
見晴らし台まで向かおうとした私なんだけどね?!
顔は熱いし、疲労感がハンパなさ過ぎるし、もうね、ほんと下山できる気がしないっていうか!!
でもそんなこと言ったら、宇宙人がまたおかしな常識はりきって使っちゃいそうで!!!
正直詰んでるとしか思えない、でもここで踏ん張らないと!!!
ガンバ、ガンバ、ガンバだよ!!直っ!!!
自分を励ましつつ、見晴らし台へとむか、向いぃイイイイイイイイイ!!!