会議が白熱した
「へえ!!マッチョサンタとお極さんのコラボ?!いいねえ、めちゃくちゃ人が集まりそうじゃないか!なに、露木さんにはOK貰ったんだよね?」
「はい、昨日の夜にわざわざお電話いただいて…OK出ました。なんでもクリスマスケーキ風味のプロテインを限定プレゼントするんだそうですよ、ウェブサイトでも告知して下さるそうです!一応できることとやりたいことを伺って、こちらにまとめておきました!!」
「あ、僕も見たい♡あとでゲームコーナーまで持ってきてもらってもいい?」
「樫村さんっ!!あとでコピー欲しいでぃす!昨日のメモ、清書したんですね、すげーっす!仕事ハヤー!」
ただいまの時刻8:45。
朝のミーティングが終わった後、三階イベントスペースにて店長、南大谷さん、牛島さん、そして私の四人で集まって、クリスマスイベントについての話し合いを進めさせていただいている真っ最中。実は昨日の昼過ぎに店長が急遽本部に呼び出されてしまって、結局そのまま帰ってこず、せっかく立てた企画書が渡せずじまいになっていたんだよね。
でも…手書き文字中心のまとまりの悪いメモ書き企画書ではなかなか伝わらない部分も多かっただろうから、昨日の状態で渡さなかったことはかなりグッジョブだったと思っていたり。正直、昨日の勢い任せのアイデア羅列文だけだったら店長の同意は得られなかったかもしれない。企画書にまとめ直したことで問題点の洗い出しにもなったし、文章にしてみる過程で新しい案も浮かんで、正にWIN-WINと言いますか。
「あ、牛島さんと南大谷さんの分も用意してあるんで…はい、どうぞ!!ええと、一応イベントの企画全容と問題点をまとめてあるんですけど、ごめんなさい、試算ができてなくて…」
「じゃあね、僕のほうで数字入れとくね♡あとで五階に取りに来てもらってもいい?」
「資料ありがとうでぃす、……ごめんなさい、ここちょっとキャラの趣味が違ってますね、修正してあとで渡すッス!!!」
なんだか……打てば響く会議?意見をいったり、フォローが入ったり、サポートしてもらったりというのが……すごく心地良い。今までこういう会議は、ずっと仙石さんが返事もせずに不機嫌な表情で腕を組み続けていたばかりだったから。
気のせいか牛島さんがやたらと五階に行かせたがっているような気がしないでもないけど、そのあたりを差し引いてもなんていうか、ワクワクする?仕事が楽しいって思える!
「テンチョー、お極みさんの五女がマッチョラバーなんで、そこらへんイベントに絡ませたいんでぃす!!昨日ヒロシ氏とラーメン屋で企画を練り倒したんですがね、プライズ物の福袋とかイケんじゃねって話になって、牛島さんに相談したら乗り気でして!!」
「セロリーさんのほうから過剰在庫の処分依頼が来ててね、ちょうど良いやって思って。しかも樫村さんがコスプレ披露してくれるって話じゃない♡これは店長に絶対許可もらって派手にやりたいって思って♡」
ほっぺたをピンク色に染めて力説する、現ホビー担当と過去ホビー担当現ゲームコーナー担当!!そして企画書に目を通しつつ、にこやかに頷いている店長!!
「あ、あの、コスプレはですね、やると決まったわけでは決してなくってですね、やったら楽しそうだなって・・・そもそも衣装を作るのって大変だし、お金もかかって
「あたくしこう見えても服飾科卒ざんす!!布さえあれば即作れるのでご安心あれ!!で、その経費が欲しいンでぃす!!!必要経費っすよね?牛島さんも店長も樫村さんのかわいらしいお姿拝みたいでしょう!」
「僕見たいな、僕以外の人も絶対に樫村さんの艶姿、見たいと願ってると思うよ♡」
ウインク、パチ♡じゃ、ないいいいいイいいいイ!!!
牛島さんの脳裏にはおそらく今頃スマートにオープン業務をこなしているスーパーバイト君の姿が浮かんでいるに違いない!!!
でもですね、そのバイト君は・・・コスプレには反対する立ち位置におりましてですね?!
昨日食後にパソコンを開いて恥ずかしい目に遭ったあと慌ててパソコンを取り上げ、涙目になってしまった学べる青年にデザートを差し出してテンションが持ち直したところで…、思いがけず露木さんから電話がかかってきたんだよね。そういえば連絡先交換したんだったって思い出して、仕事の話をしないといけないからって説明して、オクチチャックしてもらって。
―――あの、夜分にすみません、その、声が…聞きたくなってしまって。
―――あ、そうですね、イベントのこと聞きたいですもんね!ごめんなさい、明日で良いかと勝手に思い込んでました…。ええと、実はお極みさんというアニメを……。
午後から南大谷さんとヒロシで練り上げた企画案を説明して、喜んでもらって、10分くらい話し込んで。
電話を切ってふうとため息をついたら、デザートのゼリーを揺らしながらお茶を飲んでいたはずの青年が…やけに不機嫌な顔をしておりましてですね。
―――……スーちゃん、また持ち上げられるの?
―――へぅ?!あ、お姫様抱っこ?いや、もう多分、しないと思うけど
―――……あいつのために特別な服着るの?
―――あのね?!イベントがあるからもしかしてって言うだけでね?!
あんなにニコニコとしていたアッシュ君の機嫌がすこぶる悪くなっちゃって、なんかもうすごく大変でね?!まさかあんなにもヤキモチをかくさずに真正面からぶつけられるとは思っても見なかったというかっ!!!
結局持ち上げられる羽目になり、ぐるぐる回されて目が回って、しがみついて勢い余って……キ、キスをっ!!!まあ、それで機嫌は直って、鼻歌を歌いながらお帰りになったわけだけれどもっ!!!
「出す出す、去年経費使わなかった分上乗せしても良いよ!!!経理さんに頼んどくわ、領収書だけ忘れないでもらえる?」
「おけでぃす!!ただねえ、ムツゴがそろうのかどうかってのが非常に気がかりなんでぃす!子夏日店って、若い女子社員何人いますっけ?」
「樫村さんと、財前さん、南大谷さんに…久保さんと古賀さんは…大人って感じだから無理があるよね、あとはレジの秋野さんとか?バイトさんたちに声をかけたら集まるんじゃないかな…特別手当で商品券出しても良いし♡」
「あたくしは無理でござんすよ?!なぜなら四捨五入したら30、さすがに膝を丸出しにするわけにはまいりませぬ!!!」
「そんな事言ったら私だって30ですよ?!大丈夫ですって、南大谷さん私より若く見えるし!」
「イヤイヤイヤイヤ、あたくしがしゃしゃり出るくらいなら、まだヒロシ氏に女装子で勤めてもらった方がまし!!」
「うーん、それもありかも……広重君も次女やりたいんじゃないの♡」
「牛島さん?!本気で言ってます?!いくらなんでもヒロシはちょっと!!うーん、桃井君くらいなら?それよりも奥様のお力をですね!昔コスプレーヤーだったって!」
「まあまあ!!!とりあえず夕方出勤した時に聞いてみよう。やってくれそうならさ、やっぱりアニメに詳しい人のほうが適任だと思うし」
「男の娘はブームが来てるし、ホビーのコスチュームコーナーには女装物が山ほど並んでるッス!そっちのほうも一緒に拡販したいっすね!!!」
思いのほか会議が白熱して、全然まとまっていかないんですけど?!




