電話がかかってきた
ちょっぴりドギマギしたものの、掲示板に寄せられたメッセージにすべて返信をし、イベントの報告を投稿し…売り場に行ってメンテナンスをしようと立ち上がった時、パソコン横の電話が鳴った。
事務所内には電話が四つある。店長デスクの上にひとつ、経理さんの島に二つ、壁際のパソコンの所にひとつ。店宛てにかかってくる電話は四つ同時に着信音が鳴るようになっていて、どこの受話器を取っても通話が可能。各電話から同時に別の箇所に電話をすることも可能となっている。
基本経理さんが電話を取ることが多いのだけど、ちょうど二台とも…店長もどこかに電話をしているみたいだから三台とも使用中…鳴っているのは、パソコンの電話だけみたいなので、私が取らないとダメかな。
「お電話ありがとうございます!メリーゴーランド小夏日店、樫村が承ります!」
『お疲れ様です!MMMP露木です!!先日はお世話になりました!!』
「露木さん!!こちらこそお世話になりました!!社内掲示板ですごく話題になってます!!他店舗でもぜひイベントがやりたいって盛り上がってて!!県外の提携店舗からも問い合わせがあって…今日は朝からずっとパソコンの前にはりついていたんですよ!」
『樫村さんもですか!実はうちにもかなり問い合わせをいただいていて、これからのイベントについてお願いしようと思ってお電話したんですよ!今、お時間宜しいですか?』
なんと露木さんの方にもイベントの件で朝から問い合わせが殺到していて、その対応に追われていたのだそう…。
メーカーさんなので、日曜はお休みなんだよね。月曜の始業時間から社内の電話がずっと鳴り続けていたんだとか。マッチョの出張についてだったり、イベント内容の共有についてだったり、店内で流していた映像DVDの頒布についてだったり、すごく忙しかったみたい。プロテインの発注数もめちゃめちゃあったそうで、そのお礼と今後のイベント開催についての打診的な意味合いで電話をかけてきてくれたらしい…。
『うちとしましては、イベントスペースがある事を第一に提示させていただいたんです。』
「屋内のイベントにしないと今の季節は確かに大変ですもんね…。」
屋内にイベントスペースを持たない店舗もあるから、全店イベント開催は難しそう?
屋外駐車場にテントを張って開催というのもできなくはなさそうだけど…天候に恵まれないと大惨事になりそうだし、真冬や真夏だとお客様のみならずマッチョの面々もダメージが大きそう。自慢の肉体を屋外にさらけ出すのはちょっと無謀に感じる。大胸筋や腹筋、僧帽筋に上腕二頭筋…いくら鍛え上げているからと言って、冬の冷たい空気にノーガードで挑むのはいくらなんでも!!!筋肉がどれほど分厚かろうとも、風邪ひいちゃうよ!!!
春とか秋ならまだしも、真夏もヤバそうだし…紫外線の降り注ぐ真夏の日差しを浴びて日焼けしたら、小麦色マッチョがまだらに染まる可能性もある!!
『それで…できれば樫村さんの参加をお願いしたいとお伝えさせてもらったんですが…まずかったでしょうか?』
「……へ?!な、なんで私?!あの、私何もできませんよ?!」
『何言ってるんですか!!めちゃめちゃ有能だったのに!!!タンクトップを華麗に着こなし、お客様に家庭でできるフィットネス提案をし、プロテイン初心者に自らの経験を語りながら決して押しつけがましくない自然なセールストークをし、さりげなくうちのアパレル商品を愛用アピールしつつお取り寄せ注文数を伸ばしに伸ばし!!!』
「そ、そんな、褒めすぎですよ、何も出ませんよ?!」
『ステージイベントでのナイスフォローも樫村さん以外では考えられません、イベントをやるなら樫村さんを呼んでくださいとお願いしてしまいました…すみません、了承もなく勝手な事を…実はお電話したのは、このことをお詫びするつもりで。』
あああ!!電話の向こうで、本格派マッチョが首を垂れている姿が、み、見えるぅウウウウウウウウウ!!!
「そ、そんな!!!謝らないでください、ええとー、そのぅ、私は小夏日店の社員なので、多店舗出張はちょっと難しいかもです…店長に相談してみないと何とも言えないですね…。」
『店長の許可があったら……またお願いしても、いいですか?』
そうだなあ、まあ、店長がいいよって言えば…イベント自体はとてもやりがいがあったし、楽しかったからまた是非やりたい気持ちは、ある。うちの売り上げにならないのがちょっとネックだけど……。
「そうですね、でも私は…またこの小夏日店で、イベントやりたいですね!!」
『半年後にまたやりましょう、その頃にはまた新フレーバーも出てる事ですし!ああ、待ち遠しいなあ…次はね、試飲会だけじゃなくて、サンプル配布もやりたいと思ってるんですよ!そうしたら会場入りしなかったお客様にも喜んでいただけるかなと思っていましてね。』
サンプル、配布……?……そうだ!!!
「あの!!!サンプル配布、もしよかったらクリスマスにやりませんか?実はうちの店、今年クリスマスイベントを大々的にやろうって話になっているんです。マッチョサンタクロースからプロテインプレゼントとか…面白そうじゃないですか?」
マッチョが自慢の肉体を披露しつつ、赤いブーツとサンタ帽、赤いパンツに赤いネクタイでプレゼントを配ったらインパクト大だと思うんだけどなあ…、ついでに大好評だったお姫様抱っこイベントをやれば…、うわあ、楽しそう!!
『めちゃめちゃ良さそうじゃないですかそれ!!!僕ぜひ参加したいですね!!!詳しい企画がたったらぜひ声かけてください!!!』
露木さんもノリノリみたい!!!なんだかずいぶん盛り上がってしまって、色々とイベントの企画の事とかしゃべっていたら…もう11時!?ヤバイ、もう30分も話してる!!!
「ごめんなさい!!!頂いたお電話だったのに、ずいぶん長くお話してしまって…私、露木さんと話しているとつい…たくさん話してしまって!!もうお昼前になっちゃいましたね、お時間取らせてしまってすみません!」
『ッ、僕も樫村さんと話しているとつい…時間を忘れてしまうんですよ、あの…よかったら、今度ゆっくりお話ししません?』
そうだなあ、一度じっくりと時間を取って、イベントの事とか詰めた方が良いよね。まあ、とりあえず、店長に企画書出してからになるかな?企画通るといいなあ、めちゃめちゃ盛り上がりそうだし、盛り上げていきたい気持ちもあるし!!電話でちょっと話しただけでこれだけ色んな案が出るんだもん、ヒロシや店長も交えて一緒にディスカッションしたらめちゃめちゃ楽しい会議になりそう!!
「そうですね!また今度どこかで時間を取ってゆっくりお話しできたらうれしいです!楽しみにしてますね!!ごめんなさい、また連絡しますね、ちょっと売り場に行かないといけなくって!!」
『わかりました!!!連絡お待ちしてます!!!めちゃめちゃ楽しみです、よろしくお願いします!!あ、僕の電話番号教えておきますね、ええと090-…』
プライベートの電話番号…だよね?休みの日にも連絡していいって事なんだろうか…仕事熱心だなあ、露木さん……。




