目が覚めた
………。
なんだかとっても…葉っぱのいいにおいがする……。
………。
ああ、このにおい、未瑠駈山の、春の終わりの頃の、匂いだ……。
私、梅雨に入る頃の森の匂いって、大好きなんだよね……。
森の木たちが、これから、恵みの雨の季節がやってくるって…はしゃいでいるような、気が…して……。
……って!!!
ちょっと待って、葉っぱ?!
バチっとどんぐり眼を開くと、葉っぱのようなものが大量にある!!!一枚手に取って、少し薄暗い中で確認してみると、固くもなく、柔らかくもない、濃い緑色の葉っぱ…?…え、何これ、葉っぱで…埋もれてる!!なんで私、葉っぱいっぱいかぶってるの?!
慌てて起き上がると…ちょっ……はい、はい?はぃイイイイイイイイイイイイイイイ?!
わ、私、は、はハハハハハハハハハハは裸かかかかかあアアアアアアアアアア?!
「……スーちゃん、目…覚めた?!」
あああああああアアアアアアア!!!!
ああああああ明かりの漏れてるドアが開いて顔が出てきた宇宙人、宇宙人?!はい?!ここはどこって、アッシュ君の家、何この状況なんなのなんで私裸なの?!ちょっと待ってどういう事で緑色の葉っぱがわんさか、いつ脱いだどうやって脱いだ何があったどうしてこうなった何がなにがハイハイ?はいぃイイい?!
「ちょっ、あ、ああああアッシュ!!ダメ、今こっち来ちゃダメでもそのえっと!!!!!!まままままずお聞きしたいのはですね?!こ、これは事後?!事前?!未遂?完遂?!済み?!未?!あ、アアアアアアアアアのそのええと―――!!!!」
ざざっ、がささっ、がさ、がさささささっ!!!!
大慌てで、周りの葉っぱをかき集め、胸のあたりで抱え込むっ!!!!
ちょっと待って、なんでこうなった、見られた?見せた?!何があった、何をした!どうしよう何一つ覚えていない!!
「……そんなに慌てなくてもいいよ。はい、これ服。モエちゃんが洗濯と乾燥をしてくれたんだ、あとでお礼言ってあげて?」
葉っぱを抱え込む私の方にやってきたアッシュ君は、奇麗にたたまれた衣服を葉っぱの上にそっと置いた…。声が…少し穏やかというか、なんだろ…呆れてるような、ちょっと嬉しいような、なんとなく寂しそうな…、部屋の中が薄暗いからよくわからないけど、目の色が、いつもと違う?
……そうだ、バイト中のアッシュ君っぽいんだ、この感じ。
「服を着たら、リビングにおいで。……ちょっと、説教するから。いいね?」
スタスタと部屋を出ていったアッシュ君を葉っぱを抱えたまま見送り、ドアが閉まったところで服に手を伸ばしたら、ほんのり温かい…。うう、全部きれいにたたまれてる、モエちゃんスゴイよ、女子力高ッ!!
「はい、じゃあ、まずお水飲んでね。」
「は、はい……。」
ふわふわになった下着とジーパン、カットソーに手を通し、髪型を整えてリビングに向かうと…ああ、テーブルの上でプロテインに浸かっているモエちゃんが…ひらひらと手を振ってる……。
「あの、モエちゃん、お洗濯ありがとう、すごくきれいにたたんでくれて、びっくりしちゃった、いいお嫁さんになれるよ!」
「♪~♡」
プロテイン風呂の中で枝をくしゃくしゃとやっている…これは照れているんだろうか…でもなんだか幸せそうなエコー?が飛んでるから、大丈夫だよね……?そっと枝の先に手を置いて、ポンポンとなでてみる…ちょっとごつごつ…チクチクしてるけど、かわいい……。
アッシュ君からコップに入った水を受け取り、こくり、こくりと飲ませていただく。冷たいお水が、恥ずかしさで熱くなっている体温を冷ましていく。
……ああ、アッシュ君の、茶色い目が、視線が…痛い!!!いつもみたいにやらかしマックスのヘタレじゃないから、地味にこう、威圧感…はないけど、真面目な空気がね?!アアア、今私、怒られようとしてる、怒る気満々の人が目の前にいるぅううう!!!
「……スーちゃんが酔ってて正常な判断ができないのに、勝手にうちに連れてきたことは、先に謝っておくね。ごめんなさい。」
「え、そ、そんな、その、私の方こそ、ごめんね?その、すごく酔っぱらっちゃって、その、気が大きくなっちゃって、ええとー!!!」
私ってお酒を飲むとこう…気が大きくなっちゃってね?!普段抑圧されている何かがこう、はじけちゃうっていうか、でもって、わりとばっちり記憶は残ってる方で、あとになって頭を抱えることも、しばしば、わりと、けっこう…あったり―――!!!
アアア!!私アッシュ君にキスした、しちゃった、思いっきりしたああアアアアアアア!!!
で、した後どうなった?!ダメ、そのあとのこと全然覚えてない!!!おかしい、いつもだったらバッチリ残ってるはずの記憶がまったくない、ねえ私ってば何した?何をしてしまった?!何をやらかしたあアアアアアアア?!
「あのね、スーちゃんは、僕にだっこされて、大喜びしたんだよ。……覚えてる?」
「お、おおおおおお覚えてます、覚えてますちょも!!!」
ダメだ!!焦り過ぎて、どこかの宇宙人と同じような口調になってる!!!おかしい、私は生粋の地球人だというのにぃイイイイ!!!
「でね、僕の車に乗せたら、メリーゴーランドの歌を歌い出したんだよ。……覚えてないよね?」
「お、おおおお覚えてません、すみますん、へたくちょな歌をお聞かせしまひてえええええ!!!」
あああ!!!追い込まれ過ぎて、どこかの宇宙人よりもおかしな口調にぃイイイイ!!!
「そのあと、メリーゴーランドのてっぺんが見たいっていい出して…僕のうちまで来たんだけど。……よく見える部屋はどこだって探り始めて。全部の部屋、回ったの…覚えてない、よね?」
やばい…アッシュ君の顔が…めちゃめちゃ、真剣で…私何か、壊したり、したんだろうか!?どうしよう、弁償とかできる金額じゃなかったりしたら!!!
「なっ…?!そ、そそそそんな失礼なことをっ?!ご、ごごごごめんなさい、ホントにごめんなさい、ええとー何か問題などは……?!」
「……覚えてないならいいよ、聞いただけ。」
……?なんか、アッシュ君の表情が…やわらかくなったような。
「ベッドルームが一番見晴らしがよかったみたいで。…スーちゃん、自分の家と勘違いしたのかな?いきなり、服を脱ぎ始めたから…僕どうしようかなって思っちゃった。」
は、ハハハハハハハハハハハハハハハイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ?!な、なななななななな何やってんのォオオオオ?!す、なぉおおおおおおおおおおお?!
脱いだ?!どこまで!どうやって!何を、どんだけ!どっちを向いて?!どの部分を!
あ、あああアアアア!!!こ、怖くてこの先が、き、聞けないイイイイイイイイイイイイイ!!!
「~!!~♪~!!~♡」
モエちゃんが何やらじたばたしている、こ、これはいったい?!
「……モエちゃんはね、人間を随分、理解しているんだ。スーちゃんが嫌がりそうなことをね、ホントに細かく分析してね。……せっかくのチャンスだったのに、見事に阻止されたんだ、安心してね、スーちゃん。」
「~♪」
プロテイン風呂から上がったモエちゃんが、私の目の前で可愛らしくマッチョポーズを決めている!!こ、これは褒めろということ?!
「あ、ありがとうねモエちゃん!すごいね、見事な上腕二頭筋、収穫期を逃したスイカ並みにはちきれそう、かっこいいよ、でもオーラはすごく女子っぽくてかわいい!さすがだね!!」
「♡♡♡~♪」
めちゃめちゃご機嫌そうなモエちゃんとは裏腹に、少々ムッとした表情のアッシュ君がいるんですけど、これはいったい……?ついさっきまで優しそうな顔してたのに!!!
「ソテツおじさんに密告して、近所の葉っぱを全部もらってきてね。あっという間にスーちゃんを包み込んでね。スーちゃんはね、森林浴効果で睡眠におちたんだよ。…僕はね、スーちゃんがアルコール飽和度が限界突破してたりしないか心配で、脈動や気道の確認をしたかったのだけど……モエちゃんが尽く阻止して、網膜にいろいろと焼き付けることができなかったんだよ、残念だけど。せっかくの生スーちゃん、はあ……。」
……ちょ?!ねえ、この人、な、何を言ってるの?!
な、なんでそんな大げさに、ため息ついて、突っ伏してる…って!!なんか頭のてっぺんに、モエちゃんの枝がいっぱい刺さってる!!!だ、大丈夫なの、これ!!!




