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エコー  作者: たかさば


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みんなが酔っ払った

「僕はね、常々木々の与えてくれる癒し効果について思うところがあってね!そうでしょう、あんな豊かな緑、なかなかないの!!観瑠駈山はね、木が一本一本喜んでっから!!僕一番好きなの、自然のあるがままの環境、程よい間引き、芽吹く若芽!!どんぐりがいっぱいあったでしょう、リスたちのごはんなの!キノコもいっぱいでね、ホントいい山なの、若者よ、どうか僕の意思を注いで末永く観瑠駈山を愛し続けてくれよぅ、ぐふふ!!!子孫繁栄、子供は十人!!よーし、乾杯だ!!将来の子だくさんパパにかんぴあwww」

「ええとーかんぱい?僕はお酒は飲めないので、ジュース…あ、スーちゃんこのお水ちょうだいね、うーんぐびぐび……。」


 仕事の都合…大学のゼミの学生にからまれたとかで飲み会参加に遅刻してきた農学部の教授:森内先生に、絶賛からまれている真っ最中のアッシュ君が私の横に!!


 なんという事でしょう、あの言いたいことだだ漏らし宇宙人が……圧倒されて言葉に詰まっているとか!!!うわあ、引いてるところ初めて見た、きっと今日のこの飲み会で、アッシュ君はいろんなことを学んだに違いない、来てよかった…?いや、まだまだ気が抜けない!!私はグビリと水を飲んで気合を…あっ、水はアッシュ君に取られちゃったんだった、仕方がない、注ぎっぱなしになってるビールをいただこう……ぐびぐび……。


「も~!!森内先生飲み過ぎじゃないの!!」

「そうやっていじりすぎるからどんどん繊細な学生さんがつぶれちゃうんでしょ?!」

「いやいや、男たるもの、いかなる状況にが起きてもどっしりと構えてにっこり困難を受け止める技量がなくてはね!今日のこの出会いは必ずや彼…ええとスーちゃんの旦那の糧になるのだ!!ええと小暮君だったかな?違うな、もっと鼠色っぽい名前、うーん何だったっけ!!あ、お姉さーん!!ここにハイボールね!!ピッチャーでちょうだい!!」


「先生!!もうやめときなさいよ!!もうじき70でしょ?!

「も~奥さんに電話するわ!!あ、もしもし……。」

「ごめんね灰島君、森内先生はいい先生なんだけど、めっぽうお酒に弱くて!!」


「大丈夫です、僕こんな楽しい宴会は初めてで。また是非呼んでください、お願いします。」


 ウルトラフレンドリーで世話焼きで、知識抱負のおせっかい、若い人もお年寄りもみんな大好き森内先生は、実にこう、パーソナルスペースの狭い、狭すぎる人物として危険視されている観瑠駈山山岳部最古参のメンバーにして創始者でして!!樹木の生態調査をするために山登りをする傍ら、片っ端から登山者に声をかけ仲間を増やしてきた…山岳部の代表者だったりするんですよ。

 ちなみに、大学にある山岳部の顧問もしていて、たまに共同で登山を楽しむこともあったり。御年69歳、間もなく定年後の再雇用期間も終了し、いよいよ大学を去らねばならないという事でやり残して悔いが残らぬよう、フルパワーで大暴走をしていたりするのだ!!お酒が入ると、その勢いがさらに増しましてですね!!


「なに、鼠谷君はどんな木が好きなの?針葉樹、広葉樹、喬木(きょうぼく灌木かんぼく、密林、疎林、ねえねえ、木のどんなとこが好き?僕ねえ、年輪が大好きなの!!セルロースとリグニンの芸術作品だよねえ、退職金(はた)いてでっかい切り株のテーブル買ったらかあちゃんにド叱られてさあ、あ、画像見る?…ほらほら、ここのくねくねの所がね、ホントいい雰囲気なんだよ、ここに頭のせてうつぶせになると、木の心とリンクできるっていうかさあ!!」

「…これは良い波形ですね、穏やかな木々の呼吸が刻み込まれている、画像で見ただけでもわかります。一度触ってみたいですね、これは良い断面だ!この辺りで一度衝撃を吸収していますね、さぞかし痛かった事でしょう…

「おお?!わかる?!この木はね、なんでも80年前の……。」」


 やけに盛り上がってる―――!!!アッシュ君の怪しげな呟きが、完全に森内先生の大暴走で上書きされている、ある意味安心といえば安心だけども!!!気が気じゃないけど、あんまりみっちりアッシュ君に張り付いて世話を焼くのもどうかと思われる…、せっかく一般的な地球人とコミュニケーションが取れるいい機会、邪魔をするのもなあと思う気持ちもありましてですね。


 そうだなあ、みんなけっこう酔っぱらってるし、多少やらかしても忘却の彼方だよね、たぶん!


 私はハラハラとする気持ちを、ぬるくなったビールで飲み下し!!


「ねえねえ、スーちゃんは灰島君のどこが好きなの!」

「ねえねえ、灰島君とはどういう馴れ初め?」

「灰島君ってイケメンだよね、なにしてる人なの?」

「とってもお似合いだよね、気の強そうな見た目のスーちゃんに、どこかまったりしたオーラの灰島君!」


「あ、あはは……!!優しい?子供っぽくて目が離せないっていうかー!でも研究者として働いてることもあってね、色んなこと知ってて、いざというときには助けてくれて、意外に力持ちでしてエエエエ!!!」


 ダメだアアアア!!!話題の中心にいることに慣れてない、私、私ぃイイイイイ!!!はずかしさをこらえながら、食の細くなった皆様の残したお高い蟹メニューをいただきつつ、ビール、ビールを飲みぃイイい!!!


「そうだよね、女って結局世話が焼きたい生物なのよねえ!わかるわあ!!」

「スーちゃんは面倒見良いからなあ、灰島君はホント幸せ者だよ!」

「研究者かあ、頭いいんだね!スーちゃんは聞き上手だし相性良さそうだな、一安心だ。」

「あ、スーちゃんグラス空になってる、はい、おビールどうぞ!」


「あ、あはは…ありがとうございます、いただきます!」


 注がれたビールはきっちり飲ませていただかなくては失礼にあたりますからね、ありがたく頂戴して……ぐび、ぐび……。


「ちょっと井関さん!あんまりスーちゃんに飲ませたら……」

「今日は旦那がいるから大丈夫よぉ!!スーちゃん、のものも!!カンパーイ!!」

「先月は藤本さんが送ってったんだよね?」

「うん、帰りにコンビニでケーキおごってもらったのよ、ウフフ!」

「スーちゃんは陽気な酒だからなあ、旦那がいるなら安心だな!」

「いつもはみんなでセーブさせてたけどね、今日は気にしなくてもいいね!」


 なんかもう、いつもはいついつ登った日にリスに会えてよかったとか、どこぞで売っている登山シューズが大安売りしてたとか、フォトコンテストでの野村さんが特賞取ったとか、市民祭りの売り上げがすごかったとか、ホームページのキリバンがどうとか、そういう真面目一辺倒の話題ばかりなのに、なんでこう、私のことで盛り上がるかなあ、はずかしいし矢継ぎ早にいろいろと聞かれまくって、返事するのに必死というか、アアア!のどが渇くぅううう!!!


 私は誰かが頼んでほったらかしになっているレモンサワーに手を伸ばし!!ぐび、ぐび、ぐび、ぐび……。


「いつもスーちゃんはみんなを送っていく方が多いからなあ、たまには思いっきり飲ませてあげたかったんだよね。」

「そうそう、ホントスーちゃんは遠慮ばかりして、イイ子よねえ…。」

「いい子過ぎてなかなか彼氏に出会えなくてかわいそうだったのよね、うん……。」

「いつも叫んでたもんなあ……。」

「いい旦那が見つかって良かったよ、今日は祝杯だね!」

「スーちゃんと灰島君の出会いにカンパーイ!!」


「旦那ぁ!!ちゃんとスーちゃんのこと幸せにしろよ!!」

「スーちゃんは幸せになりますです、僕が大切にすると決めてたから、ずっと。」

「いいねえ、長年の思いが通じたって事かい?まるで木々の年輪を思わせる純愛だ!!木のように頑丈で緻密な構造の愛、長い年月を共に過ごしても分解されることのない確かな絆…見せていただこう、君たちのこれから重ねていく時間の描き出す、宇宙でただ一つの模様を!!」


「ダメだ、先生が酔っ払い過ぎておかしなことになってる!!」

「奥さんもうじき着くって!!」

「やばいなあ、また大げんかが始まるよ……。」

「灰島君、かかあ天下ってのを勉強させてもらいなさいね!」

「スーちゃんはああいうタイプじゃないよ、ちゃんと旦那を立てるいい奥さんになるはず!」


 もー!みんな勝手にアッシュ君のこと旦那扱いするんだからっ!!この人は私の旦那さんじゃなくてですね、彼氏だけど、なんていうか、微妙にまだそんなに親密じゃないっていうか、そりゃあまあキスはわりとしょっちゅうしてるけど……。


「なに、そんなに毎日キスしてるの!!ヤダあ、ラブラブじゃない♡」


 いやいや、いつも勝手に盗まれるばかりでですね!!


「そんなに手が早いのか!!灰島ぁ!!お前という奴は!!!」


 もうね、ホント恋愛初心者に対して容赦ないんですよ、ホント困っちゃうんですよ、いきなりお姫様抱っことか、ヤキモチとかね?!


「ああー!今はスーちゃんを独り占めしたくて仕方ない時期なんだね、そっかあ、熱いねえ!!」


 そうなんですよ、いつも私ばかりが熱くなっちゃってね?!毎回毎回私ばかり顔を赤くしてえええええ!!!


「ああ、本当だ、スーちゃん顔赤い。うん、すごく熱いよ?……ごめんなさい、僕スーちゃん送っていきます、今日はごちそうさまでした!」


 ほらね、まーた私のこと、この人すぐ持ち上げるんだから!!!聞いてよー、アッシュってばいつもこうやって強引に私のことを―をーを―!!!


「はいはい、お疲れー!!スーちゃんのこと頼んだよ!」

「お疲れさまー!またね!!」

「スーちゃんかわいすぎでしょ……。」

「くぅうう、俺のスーちゃんが!!!」

「ほらほら!ジジイは黙って若者の恋を応援してあげなさいよ!!」

「グレーくん、メールちょうだいね!あとね、僕のホムペにも来てね!待ってる、待ってるよぉおおおおお!!!」


「もう!!!お父さん何やってんのよっ!!!もう70なんだから我を忘れて酒を飲むなとあれほどぉおおおおお!!!!」


 なーんかめちゃめちゃ怒られてる人がいる―!


 も~、ダメじゃないのぉ♡


 怒られるまで飲んだりしちゃあ!!!


「……スーちゃん、ダメだよ、こんなになるまでお酒飲んだら。」


 あれえ?


 なんか、私、怒られてるー?


 気のせいかなあ?だってなんだか、とってもふわふわしてる!


 ふふ、なんで私、今ふわってしたんだろー?一瞬、空中に浮いたよねえ?なんか、歩いてないのに、天井が動いていくよー!!


「しっかり僕の首にしがみ付いといてね。暴れたら落っことしちゃうかも。」


 ええー!私、落っこちたく、な――――――――い!!!


 思いっきり、ぎゅううっとしがみ付いたら、なんかびくって、一瞬震えた!

 うふふ…、あはは……、なんか、おっかしー!!!


 私は、なんだかとっても愉快になったので……!


 ……ちゅー!!!


 目の前にある唇に、ちゅーをして差し上げたのら――――!!!


しばらく不定期更新します(*´-`)

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[良い点] 60/60 ・あらーん、もうトロトロに [気になる点] ケーキはケーキ屋に限るッ! んみゃー? [一言] ウマー
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