腹が決まった
目の前には粉砕されたベンチ、そして……私の心も砕け散ってね?!
…なにが悲しくて、この年で体重を…公開しなくちゃなんないのよぅ!!!
小柄な人しかいない我が社内で、唯一の60キロっ!!
みんな50キロないのに一人だけ重量級っていっつもいっつもぉおおおお!!!
だいたいね、みんなずるいんだよ、150センチ無いとか、スレンダーとか、運動部の経験なしで筋肉量少ないとか、骨細とか!!!
うう、華奢、華奢な体がうらやましぃイイイイイイイイイ!!!
「どうしよう、スーちゃん、これ戻した方がいいね?では直しますけど、どうするかな、復活?それとも復旧?」
「元に戻したらいいんじゃないですか!!!」
私の不機嫌など全く気が付かない宇宙人は、タブレットを何やらつるつるとやっていらっしゃる!!!
びんよよびんよよぶにゅにゅんぷりっ!!!
・・・?
なんだ、このおかしな音は……、ってぇえええええええええええええええはいイイイイイいい?!
目の前のベンチがビュンとぶれて、新品になって、なって、なってええええええ?!
「峰子さん、僕は君を一生お守りすると誓います、この山のようにいつまでもこの子夏村を守り続ける、雄大な存在であり続けることを、この山に誓います。…結婚してくださいますね?」
「はい、吉次さん…!!!」
きょ!!強烈なラブシーンがっ!!!なんかこう、やけに地味な服を着こんだ、もっさりした若者?いや、おじさんとおばさん…?だけどその割にはだつやが良くて黒髪で…、しかしこう、なんか違和感が…?
…ちょっと待って、子夏村?!
この小夏日市ができたのはかれこれ50年前で、市町村合併前は小夏町だったはず、そのさらに前は子夏村で、なんでこのタイミングで漢字が子から小に変わったのかって市民祭りで散々討論してたのをうんざりしながら見てたことがあるって…ちょッと待って!!この二人…どこから来たの!!!
「ちょっ!!!アッシュくん!!人!!人はどうしたの!!どっから連れてきたの!!!」
「なんか昔に戻したらいいかと思って物質の時間を圧縮したら乗っかってた人もついてきちゃった!いいよね、二人ぐらい増えても!!今1億人いたんだよね、日本人?大丈夫、バレないバレない!」
「ばれるとかそういう問題じゃない!!!!!!!!!」
あかん!あかんやつや!
この宇宙人、大問題だ、問題あり過ぎる、勘弁してええええええええ!!!!
「ダメだよ!!歴史が変わったらどうすんの!!!ひょっとしたら私だって生まれてこなくなるかもしれないんだよ?!タイムパラドックスって知ってる?!知らないとは言わせないよ?!宇宙人なんでしょ?!」
私はっ!!!
思わずっ!!!
55キロしかない貧弱な宇宙人の首根っこを締め上げてっ!!!
首をがくんがくんとっ!!!
うググ、全然余裕のよっちゃんって顔してる!!!
なんでこの人、へらへら笑ってんだああああアアアアアアア!!!
「あれ、タイムパラドックス?うーん、△ЖΘ%☆◎2のことだったっけ?そうか、確かにねじれるかも、じゃあ、戻すね、では、復旧にしようかふみふみ。」
びんよよびんよよぶにゅにゅんぷりっ!!!
タブレットをつるつるやって、昔の人は無事消えた…っていうか、元の時代にちゃんと戻ってるよね?!歴史変わってたらどうするの…。
粉砕されたベンチはちょっとキレイすぎるけど、まあ、これくらいなら、多分大丈夫…というか、また細かいことを言ってどっかの一般人を巻き込んだら大変なことにッ!!!
めったなことは…言えない!!!
勘弁してええええええ!!!
ベンチは無事復活したけどね?!
私の心はもうね、とてもじゃないけどばらばらの粉々のまんまっていうかね、うん、…はあ…。
「ずいぶん動けるようになった!やはり筋肉の量は相当適量にしないといけないらしい!」
見晴らし台から頂上に来るまでひいひい行ってたアッシュくんは、やけに元気はつらつの様子で下山していらっしゃる。60キロになった体は、筋肉量がちょうどいいらしい…。
…いいな、タブレットつるつるやったら一瞬で筋肉量増えるとか。地道なトレーニングもプロテインも必要ないとか、地味に私の商売あがったりなんですけど。
「この山はある程度鍛えてないと登るの…下山も、けっこうきついんだよ。私毎週登ってるけど、途中で挫折する人がけっこういるの。これだけ機敏に動けるなら、きっとちょうどいい筋肉量なんだと思う。」
「うーん、スーちゃんは毎週登っているんですか、それはずいぶん鍛えているから、僕も鍛えたいな、あのね、スーちゃんは山に毎週登ってるでしょう、僕も毎週一緒に登りたいな、駄目ですか!!!」
私の山登りは決してトレーニングのつもりではなく、ごつい体を鍛えるためでもなく、単なるストレス解消なんだけどね?まあ鍛えてる体にしか見えないから、勘違いされるのもわかりますけどね?!
「…あはは、私は鍛えてるわけじゃなくて、習慣として気楽に登ってるだけなの。山登りはね、一人で自分のペースで登るのが一番いいんだよ、人にあわせてるとね、疲れちゃうから、うん…。」
さりげなく山登りのお誘いを断ろうと
「大丈夫だよ!僕良いこと思いついたんだ、体重をね、軽くしたらずいぶん楽に山登りできるって気が付きました!マイナスの値にして、スーちゃんの上に浮いてたら楽に昇れる、そうだスーちゃんも一緒に浮いて一気に頂上に来ればいいね、鍛えるんじゃないなららおさら!ねえ、空のエコーを一緒に拾って楽しもうよ!」
……はい?!
体を鍛えたいといったその口で、楽に山登りができる方法を発表するの?!
いいかげんだなあもう…。だいたいそもそもの大前提として人が空に浮いたらダメでしょう…。
「絶対ダメ!!!あのね!!人は宙に浮かないよ?それに体鍛えたいんだったら、楽したらダメなの、筋肉は毎日の地道な努力がないと増えないんだよ!ええとね、アッシュくんはね、ちょっと勉強が足りないと思う、ええと、きついこと言っちゃうけど、ここに来るの、ちょっと早すぎたんだと思う…!!!もうちょっと真面目に勉強しないとだめなんじゃないですか!!!」
調子よく下山していたアッシュくんの足が止まった…。
…あ、ヤバイ。なんか傷ついた顔してる?!
しまった、言い過ぎたかも!!
怒りに任せて…勢いがつき過ぎた!!
「あ、あのアッシュ
「ヒィイイイいイイイイイイイイイイ!!!!僕僕僕ダメダメ>!めっちゃ勉強したのにあんの人肉スーツの社長めえええええ!!!三日で完璧日本人セット大嘘ばっかやん!!こうなったら学会で人肉補助システムの不具合について暴露したろ!!うぎぎぎぎぎスーちゃんがスーちゃんなのにスーちゃんをスーちゃん、スーちゃんんんんんー―――!!!」」
木の根っこと細かい小石と葉っぱと土でごちゃごちゃしてる山道のど真ん中で!!
テケテケと体を小刻みに動かしてる宇宙人っ!!!
パ、パニクり方が派手過ぎてドン引き、ドン引きっ!!!
ああー!!!
うん、わかってた!!
こうなる事、わかってた、わかってたよ!!!
もうね、私きっと腹くくんなきゃいけないの、うん、わかってるんだけどね、どっかで逃げ出せたら逃げ出したいなって思ってたのね、うん!!
ダメダメ、人ってね、楽な方に逃げるとね、必ずひどい事になっちゃうの。クレーマーにもね、適当に対応してたら信じられないくらいめんどくさい事になっちゃうの。はじめからきっちりばっちり遜っておけばね、気分は良くないけど、気持ち良く面倒な事例から解消されるようになってるの。
…そうだね、私、腹くくる時が来たんだね、はいはい、わかりました、わかりましたよっ!!!
…どうせ、どうせ私がやれば全部解決、するんでしょ!!!
…やってあげるってば!!!!
枯れ葉が舞い踊り、土埃がもうもうとする山中で!!!
私は、改めてっ!!!
腹を、腹をくくったんだってばあああああ!!!