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エコー  作者: たかさば


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59/85

飲み会がひらかれた

「「「「カーンパーイ!!!!」」」」

「「「お疲れー!!!また来年もよろしくー!!」」」


「あのスーちゃんの横の美男子は誰だね?」

「ああ、小池さん初めて見るんだっけ、あの子はね、スーちゃんの婚約者で!」

「ぬおお!俺のすなおが!!わしの目が黒いうちは許さんぞ!!」

「何言ってんの野々村さん白内障じゃないの!」

「先週手術したんだよ!!真っ黒だ!!!」

「ねえねえ痛くなかった?あたしも今度手術するんだけどさあ……!!!」


 幹線道路沿いの蟹料理屋のお座敷には、20名ほどのおじちゃんおばちゃんたちがずらり!!パワフルな皆さんの横に並ぶのは、少々引き攣った笑顔の私と、へらへらとしつつもきりっと表情を引き締めている好青年っ!!!

 テーブルの上にはかにしゃぶのお鍋やかに寿司、かにサラダにかにクリームコロッケ…おひとり様6000円のコース料理がずらりっ!!宮内さんの旦那さんのお店だから半額サービスしてもらって3000円っ!!豪勢なお料理、しかも飲み放題とかめちゃめちゃお徳!!


 美味しそうな料理がテーブルの上にたくさん並んでいるのに、皆さんの目線は……こっち、こっちに集まっておりましてええええ!!!


 乾杯を終えた宴会会場は、いつもにも増してやけにおお盛り上がり!!わいわい騒がしくしている皆さんの視線をかっさらうのは…私の隣でにこやかにオレンジジュースを飲んでいる、灰色の頭のイケメン!!!やけにおばちゃんたちの表情が艶やかなのは……気のせいなんかじゃ、ない!!!


「じゃあ、まずは新入り君から自己紹介してもらおうかな!!スーちゃんの彼氏!!ハイ、立って立って!!」


 山岳部一の人懐こさを誇る山下さんがアッシュ君のそばまでとことことやってきて…アアアなんか無理やり立たされてるぅううう!!!


「みなさーん!注目してくださーい!今日から観瑠駈山山岳部に入部した、若者が自己紹介しますよ!!ハイ、拍手拍手!!」


 藤本さんが手でメガホンを作って、大気な声をあげるぅううう!!!ヤバイ、お料理は混んできてるお姉さんがビクッと驚いてる!!ビール持ってきたお兄さんも、一瞬怯んだアアアア!!!


 ぱち、ぱちぱちぱちぱち……!!!


 拍手を受けて、にっこり微笑みつつぐるりと宴会会場を見渡し、ぺこりと頭を下げたのは…マナー教室で先生をもうならせた、最優秀賞獲得の礼儀正しさナンバーワンの宇宙人んンンん!!!!


「はい、僕は灰島明といいます。スーちゃんの彼氏です。今日はお招きありがとうございます。山岳部のお仲間に入れてもらってとてもうれしいです。趣味はサンプルの採取、好きなものはおいしいものを作って食べる事、よろしくお願いします。」


「色男め!!すうちゃん泣かせたら承知しねえぞ!!」

「あのね、スーちゃんはね、ちょっとしわしわしてるところもあるけど、とってもいい子なのよ?」

「絶対に幸せにしてあげてね?おばちゃんとの約束!!」

「男ならきちんと節度を守って誠意を見せろよ!」

「伊関さんってば真面目すぎない?!」

「チャラ男よりは絶対にいいよ、スーちゃんが男で泣くなんてとんでもない!!」

「灰島君!スーちゃん泣かせたら山岳部の41人の男どもが全員殴り掛かるから気を付けて!!」

「みんな干からびたジジイじゃないの!弱い弱い!」


「「「「「「わははははは!!!!」」」」」


 ひぃいいいいいい!!!


 収拾がつかない、なんか話題の思いっきりど真ん中に放り出されて…はっきり言って気が気じゃ……ない!!!いつどの瞬間アッシュ君が怪しげなことを口にするのか心配で心配で…あああ!!なんかのど渇いてきた、ううう、とりあえずちょっぴりビールで潤しておこう……。私はコップの生ビールをごくりと飲み下しましてですねっ!!



 私が所属している観瑠駈山山岳部は山登りをこよなく愛する地元民が集まってできた非営利団体で、正式な所属人数はおよそ70人の、市民祭りの際に出し物をする程度に大きなサークル。中年層以降のメンバーがほとんどで、私ははっきり言って一番若かったりする。登るスピードが違うので普段はいつも一緒に登山しないものの、毎週日曜にボッチ登山する時に必ずすれ違う事もあり、ほとんどのメンバーとは顔なじみ。

 先月の市民祭りのときは、一緒にイベントテントでしおりや写真、絵葉書なんかを販売するお手伝いもしたんだ。もう三年くらいずっと仲良くさせてもらってる年上のお友達?先輩?とにかく皆さんにかわいがってもらってるんだよね。


「スウちゃんにこんなかっこいい彼氏できたって…三宅さんにも教えてあげなくっちゃ!」

「…そうだね、娘さんにメールを送ってあげよう。」

「今入院してるんだっけ?忘年会来れるかな…?」

「来れるといいんだけどねえ……。」


 三宅さんというのは……、私がこの山岳部に入るきっかけをくれた、おばあちゃん。三年くらい前、足を滑らせてしまって蹲っている三宅さんを見た私は、自慢の体力を使っておんぶして下山してあげたんだ。山の入り口だったから本当に大したことはなかったんだけど、めちゃめちゃ感激してくれて…なんかあれよあれよという間に山岳部のメンバーに認定されてしまったという過去があったり。

 今は…体調がすぐれないみたいで、もうずっと山登りはもちろん、飲み会にも顔を出さなくなってしまって。市民祭りの販売物をいただく時におうちにうかがったのだけど……ずいぶん、やせっぽっちになってしまって……。先週入院したって言ってたから、すごく心配……。


「スーちゃん、僕これ食べたいよ、食べていい?」


 話しかけられてばかりで箸すら持てなかったアッシュ君の周りから人がはけた。いよいよお食事タイム…もうずいぶん上手にご飯を食べられるようになってきたから大丈夫だとは思うんだけど、念には念を入れておきたい。


「アッシュ君、カニ…食べたことある?食べ方、わかる?」


 すかさず小声で確認など。指差している茹でズワイガニをいきなり箸でつまんでパクリと口に入れかねない、しっかりと目を光らせておかねば!!


 ……本当はこの飲み会に誘われた時、お断りしようと思ったんだよね。あまりにも危険すぎるって。でも…学習能力の速さやマナー教室で得た知識もあるし、せっかくの人間関係を広げるチャンスを潰してしまうのは……もったいないって、考え直したんだ。

 アッシュ君は、一人ぼっちでこの地球を暮らしていくわけじゃないんだもん、できる限り人とふれあって、人間の持つ素晴らしさを知ってもらいたいじゃない?宇宙人として人を観察するだけじゃなくて、人と触れ合う事で色んなことを知ってもらって、ごく普通の皆さんがどんな風に考えて、どんなことを望んで、どんな生活をしているのか目の当たりにしてもらいたい!

 そしていつの日か、おかしな常識がまかり通っている間違いだらけのマナー教室を根本から作り変えていただきたいと願っている私がここに!!


「うーん、よくわからない、マナー教室では教えていただいてないぞ、これは皆さんかじっていないね。蟹とは…なぜ人は一番体内に取り入れるべき組成分N-アセチル-D-グルコサミンを取り入れずに筋組織を?ここにもプロテイン信仰が…ふうむ、なるホロ…。」


 どうやら大暴走するつもりはないらしい…?周りをしっかりと見ながら状況を判断しつつ言葉も少なめ…、ちゃんと人前では大人しくすることもできるみたい。……他人との距離感が近いから?なんかやけにこう、心の中身が漏れ出していないというか、ガードしているというか…この様子なら、たぶん飲み会は最後まで参加できそうだよね。うん、来て……よかった!!


「じゃあね、私が蟹の食べ方教えてあげるね。蟹はね、この殻に入っている部分をほじって食べるの、取ってあげる……。よく見てて?理解できたら、自分でもやってみようね……。」

「…わかりた!」


 蟹の身を蟹スプーンでほじる様子を見せながら、取り皿の上に……。わあ、大きな塊で取れた♡あ、ここまだ身が詰まってる…はさみ使った方がいいかも……。


「かー!!!スーちゃんが旦那の蟹の身、取ってあげてる!!目の前でラブラブ!!」


 蟹の身って、ほじり始めちゃうとついつい夢中にね?!しまった、周りの目を気にしないで丁寧に作業してたらいつの間にか注目されてたー!!!


「へっ?!えっと、あの、アッシュ君はカニ食べたことがなくって…、その、私いつもみんなの蟹の身、取ってあげてるでしょ?!それと一緒だよっ?!」


 きれいに身をとったカニの殻をバケツに入れて、言い訳を少々……


「いや…蟹の身の剥がし方が違うね!俺の蟹剥いてくれてるスーちゃんはそんなにしめやかな表情は見せてなかった!」

「あ、スーちゃん、私の蟹もほじってー!」

「ごめん、最近老眼がきつくてねえ…このカニもお願い!!」

「俺が取ってやるよ!!全部食うけど!!!」

「ねえねえ誰かカニクリームコロッケ食べない?刺身と交換してー!」

「はーい、カニ雑炊、来たよー!」

「おねえさーん!ビールここに三本ちょうだーい!」

「俺熱燗貰うわ!!!」

「ぎゃー!山田さんが蟹汁こぼした―!」


 騒がしすぎて…なにがなんだか……!!!


「スーちゃん!上手に取れた!僕の分入れてくれたから、これはスーちゃんにあげるね!はい、アーンして!」

「へっ?!い、イイよ、それはアッシュ君が食べたら……。」


 あ、アアア!!!め、めちゃっめちゃ…悲しそうな、顔、顔おおおおおお!!!箸でつまんだ、蟹の身が……目、目の前にぃイイイイイ!!!


「も~♡スーちゃん、みんな見てないから♡早く食べてあげなさい♡」

「かー!!!甘ずっぺえなあおい!!おねえさーん!!辛口のイモ焼酎持ってきてー!!!」

「井関さん!!写真写真!!」

「よし、ホームページにのせよう……。」

「いいなあ、旦那のこと思い出すわぁ……♡」

「俺…かあちゃんにアーンしてやろっと……。」


 美味しそうな、蟹の身を!!!

 パクリと口に入れたわけですけど!!!


 あ、味なんか……しないじゃなのぉおおおおおお!!!


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[良い点] 59/60 ・パワーこそ正義。パワーパワーの蟹蟹ほわー [気になる点] はい次
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