山岳部メンバーがあらわれた
「や―――ほ―――――!!!」
「ちょ…?!はい?!な、なんか今やまびこが変じゃなかった?!」
「うん?今のは僕の声が大気中のエコーにぶち当たった結果衝撃で振動できずに凝縮され反響の尺が短くなっただけだよ、スーちゃんも時々こういう事あるでしょう、特定の周波数帯が弱まったりすると振幅が小さくなったり?通常人というのはエコーをまき散らすものの凝縮できるような音波を持ってないので間延びしとるでな、まあ、僕だけかも、うふん、それもまた一興!!!」
どうしよう、言ってることが分からないというか、わからないでもないけどちょっと怖くてわかろうとする心が怖気付いちゃっているというか!!!
昨日無事一大イベントを終えまして、本日は公休の日曜日!私はアッシュ君と一緒に観瑠駈山に来ておりまして!
朝からお弁当をこしらえて、リュックを背負って歩いてやってきたんですよ!ええ、一週間ぶりの観瑠駈山ですとも!先週ここで私は不躾な宇宙人と出会い、怒涛の展開で親交を深め、パニクりながらもなんとか意思の疎通ができるようになり、信頼関係も増してすっかり仲のいい感じに…無理やり、なってるんですけど!!!
おかしいな、なんで私この一週間でこんなにもいろんなことを経験しちゃってる?!イケメンと手を繋ぐわ抱きしめられちゃうわキスされちゃうわお姫様抱っこされちゃうわ自分からキスしちゃうわあああアアアアアアア!!!!確かに恋がしたいと願った、けれどもこんなにもスピーディーで急転直下な感じのものではなくてね?!
「スーちゃん、今日はエコー飛ばさないのかい?いつもあんだけここに来るたびにいっぱい飛ばしとったのにどうしたん?」
さんざんやまびこ遊びをして大喜びしている宇宙人さんが、キラキラとした笑顔をこちらに向けている!!…うう、めちゃめちゃいい笑顔でこっち見てるなあ、この機嫌の良さは…昨日のほっぺにちゅーの…威力!!!
もうね、昨日はホントテンション上がっちゃって大変だったんだよね。お姫様抱っこされたままエレベーターに乗せられて25階まで一直線、見えない触手を操りエレベーターのボタンから部屋の鍵、ドア、全部押したり開けたり閉めたりで!!!リビングまで行ってプチモエちゃんが出迎えてくれた時にようやく助けを求めて、怒り心頭のマッチョ枝チョップを脳天に受けた後ようやく下ろされたという!!
めちゃめちゃ不服そうな顔をしながらプチモエちゃんとケンカしてるアッシュ君をなだめて、晩ご飯作って、若干ワイルドな男飯をごちそうになり、美味しく食べて帰ろうとしたらお休みのキスが欲しいとかごね始めてえええええええ!!!!ああ、もちろんこの時アッシュ君はチョップの影響をもろに受けてゴリゴリの俺様系でね?!たじたじになりながらも何とかかわし、ようやく自分のおうちまで送ってもらえたと安心してたらっ!!!!
―――あ、デザート、忘れてた。
―――じゃあ、アイスでもコンビニ行って買う?あのね、最近おいしいゴリゴリくんのフレーバーが…
――――――チュッ!!!
―――スゥの、唇。
色気!!色気たっぷりの俺様系のキス!!!キスがああアアアア!!!思いっきり不意打ちされて、固まっちゃってて、はっと気がついたら三階に住んでる女子大生と目が合って、今の思いっきり見られてたってことに気がついちゃってじたばたしてたらまた案の定で唇、唇をおおおおお!!!唇、奪われて!!!
俺様系アッシュのアッシュ君の、アッシュ、アッシュぅうウウウウ!!!この叫びたくなる気持ち、逃げ出したい感!!恥ずかしいし照れるし真っ直ぐ見つめられるともうね、もうね?!なんでこうも両極端というか、ヘタレと俺様のね?!いやどっちもかなり振り切ってる、でも、アアア!!!
ポカポカやってたらヘタレになって、謝り倒してるのを無視して車を降りたら泣きながら追ってきて、手を取られた瞬間にエレベーターから二軒隣のOLさんが降りてきてばっちり見られてええええええええ!!!
あの人めちゃめちゃ噂話好きのスピーカー体質だから、このマンションの住人全員にアッシュ君の存在がバレること確実でえええええええええ!!!ダメ、思い出すたびに底知れない何かが湧いて出てきて、ああ、思わず空に向かって叫びを、叫びをおおおおおお!!!
「ああ――――!!!もォオオオオ―――――!!!!」
岩の上で大声張り上げたらっ!!!しっかりキッチリ、エコーが返ってきたあアアアアアアア!!!
「ヤダー、スーちゃんてば♡恋するエコーなら、わざわざ空に放たなくても直接僕にお渡し下さればいいのに!んもう、もったいないなあ、ちょっと拾ってくるね、うんしょ……。」
空中に手を伸ばす宇宙人がここにいる!!!
一見すると怪しげなダンスのふりの一部に見えなくもないけど、ただいま絶賛透明触手が宙を舞っているのは間違いないわけでッ!!うん、リアルな絵を想像しないように、そっと大岩から降りよ…。先週のように慌てて滑ってしまわないように、慎重に一歩づつ足を……。
「おっ!!スーちゃん!今日もデート?」
「あらやだスーちゃん!彼氏置いたままでいいの?!おばちゃん唾つけちゃうわよっ!」
「藤本さんてば!も~旦那さん草葉の陰で泣いてるわよう!」
「なんだえらく無邪気な彼氏だな!空に向かって思いっきり手え振ってるぞ!」
「少年の心を忘れてない、アンタと違ってピュアなんだよ!!」
「アッシュ君だったっけ?危ないよ!こっちおいで!!」
ギョ――――え―――――!!!
観瑠駈山山岳クラブのおじちゃんおばちゃんたちが!!!
マズい!!おかしな行動をしているのは一目瞭然、エコー集め?に夢中になってるからやばい部分がボロッと顔を出す可能性大!透明になっているとはいえ、何かの拍子でにゅるにゅるの触手が出てくるかもしれない!私は降りたばかりの大岩に秒で登って、無邪気に手を伸ばす宇宙人を後ろから羽交い締めにして引きずりおろそうと手をのば
「うん?なあに…スーちゃん、はい、ぎゅ―♡」
ぎゅぅうううううううううううう!!!
ちょ!!!!
い、岩の上でっ!!!!おも、おもももももおおももおももも思いっきり、抱きしめられてる…私、私イイイイイいい!!!
ちょっと待って、引きずり降ろそうとしていた私の方が抱きかかえられて、手を取られてだ、だだだだ抱っこされてふかふかの落ち葉の上っ!!上におろされてえええええ!!!
「あらやだっ!!!相変わらず熱いわあ~♡」
「いいねえ、若いって……俺にもこんな情熱があったなら……。」
「あんたは情熱があっても顔面がねえ……。」
「あーあーご馳走様!!!」
「もー、みっともないわねえ、少しは黙って注目したらどうなの!」
「すげえなあ、最近の男はこんなにもこう…紳士的にエスコートすんのかい。」
注目浴びてる!!!こ、これはヘタなこと、口走れないぃイイイイ!!!黙っておくべき?笑ってごまかす?!別の話題を振ってみる?!ええと―そういえばそろそろ月イチ恒例山岳部交流飲み会の時期だ、そのあたりのことを……。
「こんにちは!今日はいいお天気ですね、少し風が冷たくて…もう冬ですね、紅葉がきれいです!あの端に見えるのはもしやコハウチワカエデですか?」
「おっ!!イケメンは樹木詳しいの?そうなんだよ、観瑠駈山はね、イロハモミジにサトウカエデ、トウカエデ、ハウチワカエデ、イタヤカエデ、モミジバフウ、ヤマモミジ、ノムラモミジまである山でねえ!」
「あれはメグスリノキですよね、奇麗です!」
「なんだ、スーちゃんの彼氏めちゃくちゃ博識だな、こいつぁー見どころあるな!!!」
「へえ…ハイカラな髪の毛の割に古風だねえ!!」
「すごい、めちゃめちゃ好感度高い!!」
「ねえねえ、今日の飲み会いらっしゃいよ!今日はね、農学部の先生も来るのよ、木のお話して下さるわよ!」
「森内先生は樹木医でねえ!!!」
な、なんか…めちゃめちゃ盛り上がってるぅウウウウウウウウウ!!!




