イベントが盛り上がった
《いかがっすか!生ゴリマッチョの迫力はぁっ!!》
「よっ!全身握りこぶしぃ!」
「床にめりこんでる!」
「見える!見えるぞ、灼熱の肉オーラ!」
《みろやこの筋肉ぅッ!MMプロテイン飲み続けて丸五年!この筋肉は紛うことなきプロテインの恩恵で培われたものだアアア!!!》
「そこまで作り上げるには消化不良の夜もあっただろう!」
「ファイブイヤーマッスル見参ッ!」
「いくらつぎ込んだんだいッ!五十万以上かイッ!」
《はい、みなさまぁ~もっと、もっと!!遠慮なくコールお願いしまぁす!アッ!プロテイン試飲ですかっ!!どうぞ、どうぞどうぞぉおお!!!!》
イベント会場でスポットライトを浴びる、本格派マッチョ三人衆のマイクパフォーマンスが光る!!
何がすごいかって、しっかり見世物として注目をかっさらいながらしっかりMCもこなしているというパワフルさがね?!マッチョポーズを決めつつ、試飲コーナーに人がきたら即反応とかどれだけ優秀なんですか!!明らかに重量級なのに、羽のように舞い、蝶のようにひらりとステージを降りては小さなコップに水を注いでプロテインをマドラーで混ぜ混ぜ、にっこり微笑みお客様にきゅ、給仕、給仕ぃいいいい!!!
「板チョコバッキバキ!」
「マッチョ神光臨!!」
「ちぎりパン食いたい!」
「その筋繊維分けてくれ!!」
「宇宙人もビックリ!」
「仕上がりすぎてる!」
「コスモポリタンマッチョ!」
「ビッグバンまであと三秒!」
「マスクメロンが負けを認めた!」
「筋肉セレナーデ!!」
「背中に鬼見えた!」
「むしろ鬼!」
「こんなところにニークー星人がッ!」
佐藤さんの呼び掛けに、お客さんたちが大喜びでマッチョコール!さ、最前列で大喜びで声を張り上げてるのは人肉社長いや、川原さんだったりっ!!!!!その周りにいるのは、ごく普通の皆さん…に見えて、おそらく宇宙人!!地味に怖い掛け声をしているような気がしないでもない、アアア、心配でレジを打つ手が震えるんですけど―――!!!
「あ、すみません、あとその…お姉さんのタンクトップ、どこにありますかねえ?黄色ならあるんだけど、青が欲しくて!」
「ごめんなさい、もう売り切れちゃいました、良かったらお取り寄せできますけどいかがでしょうか?」
イベントステージの盛り上がりもさることながら、物販コーナーも大盛況真っ只中!
プロテインのみならず、タンクトップにTシャツ、プロテインシェーカーにプロテインボール、スポーツタオルにその他もろもろ、めちゃめちゃ人気で正直売れ行きがハンパない!!何点かは品切れが出ちゃって、せっかくの販売チャンスがーーー!!!
追加を持って来てもらいたいけど、イベント真っ最中で話すことはおろか、自分もレジが途切れなくて身動きできない!!せめてもの努力で、品切れているお品をお取り寄せの提案でしのぐ!!たぶんただもうありませんって伝えるだけよりはましなはず!!
「ホント?じゃあ二枚お願いします!サイズはLで、男性用と女性用一枚づつお願いします!」
「ありがとうございます!じゃあ、こちらの用紙にお名前とお電話番号を記入していただいてよろしいですか?」
ボールペンと客注用紙を差し出しつつ、商品をたたんでプロテインと一緒にレジ袋につめお会計作業を進める。お客様が記入をしている間少しだけ余裕があるのでレジ前を確認すると…うう、レジ待ちの列がすごい!!
八人くらい並んでる、しかも両手にプロテイン抱えてる人がちらほら…これ大台に乗るんじゃないかな、メリーゴーランドグループのイベント史上最高の売り上げを叩きだすんじゃない?なんかうれしいんだけど、本部から色々といわれそうでちょっぴり怖い……。
「はい、これでいい?」
「はい!では入荷次第ご連絡差し上げますね!ありがとうございました!お待たせしました、お次のお客様どうぞ!」
でもそんな心配をする暇もないくらい、次から次へとお客様が押し寄せてて、アアア、早く12時にならないかな、ヒロシの合流が待ち遠しい!!こういう時に限ってヒロシのパソコンの検定試験があるとかビミョーについていない感がですね。
一人でレジまわすの、きつすぎる!!私は手早く商品をレジ袋に入れて、お客様からお金を受け取り、おつりを手渡し、にっこり笑ってお買い上げいただいたお品を手渡して―――!!!
「カッシー!すごいじゃないか、見に来てよかったよ、俺ちょっと手伝いはいるわ!」
「店長!お休みなのに…ありがとうございます!めちゃめちゃ助かります!!」
アアア!!まさに天の助け!!気遣いナンバーワンのできる店長、頼れる人登場!!!本日は公休にもかかわらず、駆け付けてくれたとか、もうこの人神さまなんじゃないの!!!こ、このお礼はいつか必ずお返ししなければああああ!!!!
「俺レジ打つから、カッシーは商品袋詰めね!」
「了解ですっ!!」
店長にレジをお任せし、私はお客様から商品を受け取って袋詰めの作業に集中!…うん、すごく動線が良くなった!急いで作業すると、どうしても一つ一つの行動が雑になっちゃうから、すごく気を使ってたんだ。高い商品だし、丁寧に畳んだり袋に入れたかったんだよね。よし、これでにっこりと笑顔を向けてお客様に商品をお渡しできる!
「ありがとうございました!良かったらイベントも楽しんで行って下さいね!もう間もなくコールイベント終わるんです、このあとお姫様抱っこ体験もありますから!」
「ええー!こんなおばちゃんでも持ち上げてくれるかなあ~!」
「何言ってるんです、お嬢さんだったら大喜びで抱っこしますよ!」
プロテインとシェーカーをお買い上げいただいたぽっちゃりした奥様にお声がけさせていただいていたら…店長に気がついた露木さんが舞台を降りて、挨拶しようとこちらにやってきましてですね。あ、ちょうどイベント終わったんだ!
にこやかにスマートに奥様にサービストークしてる!!くう、ここにもできるマッチョ営業部のリーダーがいたアアア!!!
「あらやだっ!もー!もう少しプロテイン買っちゃおうかしら♡」
「僕お取りしますよ!うちの一番人気はこのココアで、女性に人気なのはこちらのレモンヨーグルト、僕のイチオシはこのシャインマスカットです!新作と合わせても美味しいですよ!」
どこぞのマッチョバー顔負けの力こぶアピールとさりげないポージング付きのプロの接客に、思わず引き攣った笑いが…いや、これは微笑ましい光景!すばらしい営業努力の賜物!!アアア!奥様が棚の上のプロテイン、二つ追加でご購入して下さったアアア!!!
何このものすごいマッチョ効果!!!もうこの人ずっと上半身裸で接客してたらいいんじゃない?!この人が一人売り場にいたら毎日プロテインが百倍売れるに違いない!…後ろに並んでるお兄さんも、惚れ惚れしながら生マッチョ筋を凝視してるぅうううう!!!あああ!棚のプロテイン手に取った!ま、マッチョの恩恵が計り知れない!
「いやあ店長!来て下さったんですね!お疲れ様です!もうコール大会終わったんで、僕変わりましょうか!」
「露木さん!お世話になります!じゃあ、僕が整列補助するんでお願いします。お客様もマッチョにレジ打ってもらいたいでしょうからねえ!」
会場内で店長が人の流れを補助してくれるようになったら、ずいぶんごちゃごちゃしていたレジ前がすっきりしてきた!
ところどころでイベント風景を望みつつ買い物を楽しまれているお客様が見えるようになって、ちょっと余裕が出てきた……フフ、皆さんすごくイベントを楽しんでるみたい!とってもフレンドリーで、和気あいあいとしたムードがレジ前に漂い始める……。
「おススメのプロテインはどれなんだいっ!」
「うまいやつ教えてー!」
「マッチョポーズ決めながら教えてー!」
《ゴリマッチョおススメは…コーヒー牛乳味ッスぅうう!!!》
《細マッチョおススメはぁ…アクアタイプのグレープフルーつぅううう!!》
「わーどれどれ、あったこれか!!」
「よーし、俺二つ買おう!!!」
コールイベントは終わったものの、ピンマイク付きで会場内をくるくる回りながら時々お客様のお声に対応しているできるマッチョがいる!ほほえましいような、迫力満点で怖いような…いや、怖くなどない!素晴らしい接客スキル!
こういうふれあいの多いイベント、イイよねえ……。前のイベントは売ってなんぼの作業効率第一、客と話してる暇があるなら一つでも多く売れみたいな雰囲気のものばかりだったから、すごく…気が楽?イベントが楽しい?いいなあ、こういうイベントだったら、大変だけど毎月やりたいな……。
「カッシーおはよー!もー俺飯食わずに直行したわ!ナニコレめちゃめちゃ大盛況じゃん!」
「あああ!ヒロシ!ありがとう!もうね、めちゃめちゃ大変で!でもね、このイベントはごはん食べないと乗りきれないからサクッと食べてきて!イベント中に倒れたら大変だから!」
なにげにへらへらしてはいるがやる時はきっちりやる男、ヒロシが来てくれた!ありがたいけど無理はさせたくないので、まずは戦いの前のエネルギー補給を促しまして!…この子ホント食べることに消極的だから心配で心配で……!
「広重くぅん!相変わらずひ弱だなぁ!ようし、僕が筋肉増量パワーフードをごちそうしてあげよう!こっち来て♥️」
「うわっ!?ちょ、つ、露木さん!俺持ち物じゃねーよ!お、下ろしてー!!!!」
「あれ、もうお姫様抱っこ始まったの?」
「スゲー!拐われてる!」
「ねえこれなんてBL…」
「男子もオッケーなんだって♥️」
「リアル目の保養キタ━(゜∀゜)━!」
「覗いちゃおうか……!」
ヒロシを軽々持ち上げて、イベント用ターフの中に持って行ったマッチョの背中を、お客様がまじまじと見つめて…口々に感想を述べていらっしゃる!
なんかおかしなイベントになってるじゃないのぉオオオオオオオオ!




