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エコー  作者: たかさば


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54/85

パーカーが着せられた

「わあ!!かっしーめっちゃ可愛い!!いいね、ポニーテールにするとすごく…いつものもっさり感が消えてはつらつとして見える!!」

「すご!!なにその胸!!!カッシーって着やせするタイプだったんだね!!!」

「おいおい……ここにいるのは枯れてるおっさんばかりじゃないんだぞ、若い奴らの目の毒だ!」

「うわぁ…!!!女子から見ても目の保養になる……!!!」


「ええとー!!み、皆さん、間もなく朝のっ、み、ミーティングですので!!!」


 イベント当日となった本日、少々早めに出勤すると、従業員用入り口で待ち構えていた露木さんと、佐藤さん、和島さん…マッチョトリオにお出迎えされましてっ!すごいなあ、もうずいぶん寒いのにタンクトップで…なんか、湯気が見えるような気がする、ものすごい熱意とやる気とこってり感がってね?!

 朝日を真正面から浴びてきらりと輝くマッチョメンが差し出したブルーのタンクトップを、ありがたく受け取って着替えさせていただいた私は、只今全従業員の注目を浴びていじられている真っ最中でしてえええええ!!!

 あのね、みんな、視線ってね、すぐにばれるんだからね?一瞬目線が下の方にあるの、見られてる方は、気付いちゃうんだからね?!


「うわあ!!すごい、ホルスタインみたい!!」

「あはは♡カッシーいいもん持ってんじゃん、爆乳好きのツレ紹介しよーか?」


「ちょっと!!アッキーひどい!!ニシ!!セクハラだよ?!二人とも凝視しない!!前見て!前!!!」


 少々の気恥ずかしさもあって、いつになく厳しい口調の私がここに!チラ見されるのも嫌だけど、堂々とまじまじ見られるのも嫌すぎる!!ああ、顔が熱い!皆さんそんなに注目しないでください!!みんな視線が、ま、まるわかりっ!!!



 パン、パンッ!!



「はい!!みんなミーティング始めるよ!!」


 騒がしい一階サービスカウンター前が、城さんの一声でパッと止んだ。さすができる次期店長候補は違うな…。私の方を見る視線はきちんと真っ直ぐ向けられていて、うん、さすがです。……そう言えば奥様がずいぶん豊満な方だと伺ったことがあるような……そうか、見慣れてるから興味ないんだね。ある意味大変に頼もしい。


「社訓一、まずは落ち着いて瞳を見つめよ!」

「社訓二、・・・・・・」


 大きな声で社訓を言いながら、こっそりと…目の端に映る、灰色頭を盗み見る。アッシュ君も、みんなみたいに私の胸を見て…しまうんだろうか。……騒いだり取り乱したりする感じでもなく、普通に唱和してる……。宇宙人だからあんまり外見の変化、気にならないのかも?目が茶色いから仕事モードになってて反応しないのかも?意外と落ち着いてるなあ、そんなことを思っていると。



 ・・・ウインク、パチ♡じゃ、・・・ないっ!!!!!!



 アアア!!!牛島さんまでウインクしてる!!何あのゲームコーナー担当者たちは!!!あわてて前を向き直し、唱和の続き、つづきぃイイイイ!!!


「…はい、じゃあ連絡事項お願いします!今日はまず樫村さんからいこうか!!!」

「ひゃ、ひゃい!!ええと本日10時より、プロテイン試飲会を三階イベントスペースで行います!会場はオープンから開いていますが、試飲開始は10時、もしお客様から聞かれたらその旨お知らせください!試飲は水がなくなり次第終了、試飲回数はお一人様ワンフレーバーにつき一度のみ、ただしおかわり希望がある場合はなるべくお応えします、このタンクトップを着た人がイベントスタッフですのでよろしくお願いします!私を合わせて四人います!あと、良かったら皆さんも休み時間に飲みに来てください!以上です!」


 にっこり笑って従業員の皆様にもイベントアピールなど。せっかくだし、この機会にプロテインの良さを知っていただきたい気持ちがあるというか。


「樫村さんイベント準備あるでしょ、今日はそっちに集中してもらっていいんで、もう行っていいよ。何かあったら個別で知らせに行くから。」


 正直気遣いが大変ありがたい。前日までの準備は万端だったけど、当日の準備はまだ完了していなくて…今頃三階ではマッチョトリオがてんてこ舞いしているはず!!


「いいんですか、ありがとうございます!じゃあ皆さん、本日もよろしくお願いします!」

「「「おねがいしまーす!!」」」


 元気な皆さんの声を受けて、私はエスカレーターを駆け上って、いざイベント会場へ!!



「あ!!樫村さんきたぁ!!サイズちょうど良かったみたいですねぇ、良かったぁ!」

「うっす!!健康美っすね!!イイ上腕二頭筋持ってますね、さすがっす!!!」

「いやーやっぱよく似合うわ!!僕の見立て合ってたね、凛々しい眉にはマリンブルーがよく映えるってね!いやあ…そうだ、イベント開始前に写真撮りましょう!はい、並んで並んで!!」


 大急ぎでイベント会場に向かってみれば…紙コップはテーブルいっぱいにプロテイン入りでセット済みだわ、販売用にレジ袋に入ってるプロテインが並んでいるわ、巨大モニターには会場の様子が映っているわ、写真撮影ステージは輝いているわ、マッチョ体型のマネキンは限定Tシャツ着てるわ、……なんかバッチリ会場がセッティングされてる!やっぱり体育会系が三人も揃うと、こうまで会場が大喜びするんだなあ……。前の失敗イベント二回は、ここまでの熱意がなくって、私も空回りがすごくって、なんていうのかなあ、今回の…みんなで作り上げた感?息の合った人たちで一生懸命イベントを良くしようっていう気持ちが溢れてて、とても気持ちがいい。

 写真撮影スポットでマッチョに囲まれ写真を撮りつつ、その仕上がりっぷりにしみじみ感動していたり……きっと今日はいい結果が残せるに違いない。いや、絶対にいい結果につなげてみせる!!


「あはは、このタンクトップすごく作りが良くて着心地がいいですね!ジムに行くとき使わせてもらおうって思ってるんです、いただいちゃって…ありがとうございます!大切に着古しますから!!」


「幸せ者のタンクトップだ……。」

「露木さんっ!本音漏れてるっす、やばいっす!!!」

「あ、あのねぇ、樫村さん来たらお願いしようと思ってたんだけどぉ、レジの釣り銭がヤバいかもしれないんですぅ、両替ってできましたっけぇ?」


 一応釣り銭は一通り用意してあるけど、確かに多めに用意しておいた方がいいかも、イベントが始まってしまえばあまり自由に動き回れないし、使わなかったら使わなかったでそのまま置いておけばいいもんね。


「あ、じゃあ、念のため100円だけもう一本替えてきましょうか。千円札はたぶん大丈夫だと思うんですけど、500円はどうだろう…ちょっとゲームコーナーで聞いてきますね!」


 両替をするなら五階のゲームコーナーが一番ベスト。一応サービスカウンターやほかのレジにもお金はあるけど規定量が決まっているから下手にいじることができないんだよね。レジの中のお札を何枚か持って、ゲームコーナーへ急ぐ。

 五階に続くエスカレーターを上り始めたら、牛島さんと見慣れない男性がこちらをのぞき込んでいるのが見えた。


「あれ!樫村さんどうしたの!あ、この人今日から新しく入った柳さん、土日に入ってくれるんだ、よろしくね!」

「や、柳です、よろしくお願いします。」


 土日に入る人がいるって言ってたもんね、そっか、今日から勤務なんだ…、牛島さんと身長の変わらない、ちょっと若い人みたい。……学生さんかな?


「樫村です!スポーツコーナー担当してます!よろしくお願いします!えっと、ごめんなさい、牛島さん、両替お願いしてもいいですか?五百円玉あります?」

「あると思うよ~、灰島君がカウンターにいるから、頼んでみて♡僕今フロア案内中だから対応してあげられないの、ごめんね♡」


 アアア!!牛島さんの顔に、「うんもう♡コスチュームで悩殺しすぎちゃダメだよ♡お邪魔ものはフロア回っておくから好きなだけラブラブしていいよ♡」って書いてあるぅうウウウウ!!!


「は、ハハハ!!ありがちょうごじゃいましゅ!!!」


 カミカミの返事を言い捨てて、私は一目散にゲームコーナーカウンターに向かいっ!!!


「あ、アッシュ君、両替したいんだけど、お願いできる?」

「…うん、イイよ。ちょっと待ってね。」


 カウンターの向こう側でにっこり笑うその目は…なんか、ちょっと怒ってる?……気のせい?


「えっとね、五百円玉を20枚と、百円玉を100枚…ありそう?」

「大丈夫、準備するね。……金額高いから、こっちに入ってくれる?」


 ゲームコーナースタッフに促されて、そっとカウンター内にお邪魔する。…ずいぶん整頓されてる、アッシュ君が掃除したのかな。わりと牛島さんは微妙に散らかす癖があって、足もとやテーブルの上が騒がしい事になってることがしばしばあるんだけど……。


「スーちゃん、ちょっと寒いんじゃない?」

「…へっ?え、別に…大丈夫だよ、うん。」


 お金を用意する横顔は、まっすぐ両替ボックスの中に向けられているけれど、なんだろう、この……威圧感のような……。ちょっぴりぎょっとしながら、まじまじと横顔を見つめていたらっ!



 ギュ……!!!



 い、いきなり、手を、に、握られたっ!!!ちょっと待って、こ、ここカウンターの中だけどゲームコーナーのなかっ!職場中!!か、カメラカメラッ!!!慌ててきょ、距離を置こうとしたらパッと手が離された!!


「…指先が冷えてる。このパーカー着てください。」



 …ぱ、ぱさっ……。



 アッシュ君は、自分の着ていたグレーのパーカーを、ぬ、脱いでっ!!!わ、私にき、着せてるぅうウウウウ!!!


「えっ、ちょ…いいよ!アッシュ君のでしょ、着てないとまずいよ、私は平気だから!」

「ダメ。唇の色が悪くなってる。着ないなら、僕の熱を今すぐここでわけるけど。」


 う、有無を言わせない、強い決意に満ちた…茶色い目、目っ!!!ここで熱を分ける?!抱きしめるつもり?!やるかも、やりそう、やるに違いない!!!……こ、断れない!!!


「あ、ありがと…でも、これ脱いだらアッシュ君が…寒いでしょ、それにこれ着てないとダメな奴なんじゃ……。」

「ちょっと暖房の効きが悪くて羽織ってたけど、スーちゃんにあげる。これはメーカーさんからもらったものだから着なくてもいいんだ。もう一枚持ってるから、返さなくていいよ。」


 にっこり微笑まれたら……返せないじゃないの!

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