体重が判明した
さあ下山するぞと立ち上がったはずなのに、山頂の素朴なベンチで、げっそり座り込んでる私がいる。なんていうか……、すごく疲れてる。私、下山できるんでしょうね…。
「あの、スーちゃんは、なんで怖がるんだろう?何が怖い?僕はひょっとして取り返しのつかないミスを犯している…?ちょっと待って、嫌いになる?!困る!!まだ好きになってもらってない!!!すみません、いろいろ教えてください、お願い!!!」
私の横には、さっきまでヘロヘロになってたくせにこの重量感のある私を両手で支えて、涼しい顔をした、おかしな触手を操る宇宙人がー!!!
…まっすぐ私を見つめる目が真剣過ぎる!!
でも言ってるセリフがヘタレすぎて、ブサメンすぎて!!!
ここで塩対応なんかしたら…また同じことの繰り返しになることは間違いないわけで!!!
ここは腹をくくって…、きっちり間違いを正してあげないとだめなやつだよね、多分…。
ああ、私ってこういうところ流されやすいというか、絆されやすいというか、お人よしというか、面倒見がいいというか。
「あの!!この、袖から出てる、触手?これは一般人にはなじみがないの。だから、怖いというか、びっくりしちゃうの、あのね、アッシュくんが怖いとか、嫌いとか、そういう事じゃなくてね?」
…私、ナニ初対面の怪しい宇宙人にこんなに気を使ってるんだろう。
…いやいや、確か初地球って言ってたよね。悪いイメージ持たれていきなり星に攻撃とかあるかもしれないし、気は使っておいて損はないはず。
ちょっとまって、私…ひょっとして責任重大なんじゃないの??まずいよね、非常にまずくない?今さらものすごく焦ってきちゃった、どうしよう…!!!
「これは僕の分身です。ええと、分裂する動物はいるでしょう、そっか、人間って分裂しませんもんね、ちょっと実感ないかもですね、うーん、なんて説明しよう、変に説明したら嫌われるかも、ねえ、嫌う?人間は分裂しないんでした、うーん、怖い?じゃあ、どうやって移動したりモノを運んだりって、そうか、手で、足で!!!うーんなるほど、そうでした。」
とりあえず、怒らせないように、言葉を選んで…気持ち良く地球ライフを送ってもらわないと!!
ああ、なんでこんなことになっちゃったかなあ、もう…。
「あの、申し訳ないんだけど、その色と、音と、粘液感が無理なの、ごめんね?」
色も音も、非常に、精神的にくるものがね?
どうしよう、わりと直球で言っちゃったけど、気を悪くしたりしてないかな……。
「ああしまった、今度は別の色にします、人間のいる星だから,人間の色にしたんだけど、駄目だったね。音はじゃあ消そうかな、音もなく出たら失礼だと思ってた、粘液?これはほら、揮発性の米%☆で保護してるから、触っても平気、さっきスーちゃんの手握ったけど、なんともないでsy!!!ね、触ってみて?」
うっ!!!!!!!!!
しまった…下手に触手のことを指摘しちゃったから、触らないといけない羽目に!!!
アッシュくんの袖から、ビヨンと伸びるしょ、触手の一本が!!!!目の前でうにゅうにゅとぉおおおおおお!!!
…触らなかったらまたテンパるよね?!
今ちょっと落ち着いてるけど…、またおかしな言動になるよね?!
…っ!!!
直!!がんばるの、頑張って触ってこの宇宙人を安心させるの!!!
意を決して…手を!!伸ばす!!!
そっと、目の前の、ミミズみたいな触手に人差し指で、触れる。
…あたたかい。うん、人肌。
ヌルヌルはしていない、普通の指みたいだ。
でも、どう見ても、内臓色で、触手で、変な液体みたいなのが表面で輝いてて…液体じゃないなあ、垂れてないけど、何だろう、私の知らない物質感がすごい。
にゅる、にゅる!!
でろ、でろ!!
じゅぐりゅ、ずるっ!!
にっちにっち、ぎゅるぎゅる…ももも!!!
背筋にズガンとひびく、不快感フルマックスの音とともに…内臓色の触手がにじり寄ってきた。さっき放たれた分身?が、アッシュくんが豪快に踏みつけたタブレットを持って、ご帰還したみたい。
…直視に耐えないけど、一応念のため、チェックを……、なんだろう、指っぽいものがあるけど、複数のミミズっぽいものが…うう、やっぱ無理!!さりげなーく、目を逸らす。
「ごめんなさい、戻ってきたら、もう音は出さないようにしたから、今後は黙って使うね!」
「あのね、地球人は、触手使わないからね?目立たないように暮らしたいなら、使わない方がいいよ、うん…。」
こんなのが町中に出たら、あっという間に自衛隊が出動しちゃう。ひょっとしたら…他の国から諜報員が来るかもしれないパターンの可能性!!
「ああ、そう?みんな使ってるって聞いてるけどなあ、あ!!そっか、消してるんだ多分、なるほど。じゃあね、分裂屋に発注しとくね、教えてくれてありがとうございます!」
…ちゃんとお礼の言える、いい子だとは思うんだけどね。
どうにもこうにも、私の混乱がすごくて、私にわからないことが多すぎて、フォローしきれないというか、ついていけてないというか、ついていきたくないっていうか!!!
「フムフム、この胸のドキドキは興奮の証ですか、そして疲労感を伴い鼓動は早まると、なるほど、パッチは使えませんか、どうしたら息が上がるのを防げるのか、重力を減らす?そうだ、肉を動かす筋肉は肉を支えるだけないと疲れてしまいなるほど。」
タブレットをつるつるやりながら、独り言をぶつぶつ言ってる宇宙人が私の真横に。
真剣にタブレットを見つめるその横顔は、どう見ても日本人なんだけど、所々…違和感がある。
なんていうのかな、化粧してるみたいに、しみというか、ほくろもないしやけに皮膚が張りがあるというか、…そっか、奇麗すぎるんだ。髪も…一見アッシュグレーだけど、よく見ると一本一本色が違うというか、たまにピンク色や茶色、変な色の髪がある。白髪?結構あるなあ、いろんな色が混じると、灰色に見えるのか、ふうん…。
「スーちゃん、体重何キロ?」
「はっ?!はい?!」
なに、いきなり、何を、この人はっ!!!
「僕ね、今55キロに設定してるんだけど、ひょっとしたら間違ってたかもしれない。筋肉の量を間違えてるから、人肉動かすのがきついみたいです。スーちゃんはサクサクこの山登れるでしょう、多分筋肉量がとてもぴったりなのだ!教えて?」
55ぉおおおおおおおお?!
どおりで細っこいと思ったよ!!!
わ、わたしより軽いじゃない!!!!
勘弁してえええええええええ!!!
「あのね!!アッシュくん!!!女性に体重聞くのって、ちょっとかなり失礼なんだよ。ええとね、教えられません、ごめんね?」
「え!!!なんで!!!どうしよう、じゃあ、555キロにした方がいいかな、よくわかんないけど、うんそうしよう。」
アッシュくんが、タブレットをつるりと撫でると!!!
ぐべきゅ!!
もぎゃっ!!!!!!!!!!!!
す、座ってたベンチ!!
ベンチが!!!
土にめり、めりめりこんだああああああああああ!!!!
「あれ。」
「ちょ!!!!駄目だよ!!!!!何やってるの?!ああ、もう!!!!私、私の体重は!!!60キロだってば!!!女性にしてはずいぶん重いけど!!!!参考になるならどうぞ!!!」
わあああああああああああん!!!!
宇宙人、宇宙人の、バカああああああアアアアアアア!!!!