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エコー  作者: たかさば


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44/85

マッチョが頼りになった

 「樫村さーん、どっかに結束バンドないっすかね?」

「あ、ありますよ!!黒いのと白いの、どっちがいいです?ええとね、長いのは白しかないです、小さいのだったら両方…うん、あります!」

「おーい、ごめん、テグス投げてー!」

「へいよー!」


 木曜、朝11時、三階イベントスペース。お客様の少ない店内には、やけに力強い声がこだましている。肌寒い季節なのに、心なしか、このあたりだけ暑苦しいのは…気のせいなんかじゃ、ない!!!!


 大きな体を窮屈そうに丸めて、細かいオブジェを組み立てているのはマッチョ品評会出場経験三回の本格派マッチョ!!!やけに軽いステップで壁にポスターを貼っているのは腕毛そよそよがチャームポイントの小麦色マッチョ!!!270の脚立の上で吠えているのは体重120キロのタンク系マッチョ!!!


 地味に私も筋肉質だから、なんていうんだろ、この階…筋肉率、たっか!!!一階で買い物してる人40人と、この階の4人の筋肉量、同じくらいなんじゃないの……?


 今私と一緒にイベント会場の設営をしてくれているのは、日本を代表するプロテインメーカー、MMマッチョマックスMPマッスルプロテインの露木さんと、佐藤さん、和島さん。揃いも揃って朝昼晩とプロテインを愛飲している、強者ツワモノ営業さんトリオでございますよ!!!土曜日に開催されるプロテイン試飲会の会場づくりのために集まってくださった、マッチョのプロ、いや、プロテインのプロ、違ったマッスルメイクのプロ、うーん??まあ、いわゆるメーカーさんなのですよ!!もうね、頼りがいがあるなんてもんじゃなくってね?!


 どうやら昨日臨時でヘルプに入ってくれたらしい、本部の皆さん?が、店長と一緒に三階ホビーコーナーの大幅レイアウト替えを行ったらしく、ドでかい什器や棚パーツなんかがですね。まあ、やりっ放しの置きっ放しの放置し放題になっていてですね!!!あれだけきれいに整頓して場所も広々としていたはずなのに、ものの見事に全部埋め尽くされててね?!出勤した早々、混乱とあまりの仕打ちにくじけそうになっちゃって、泣きそうになってたんだけど…。ポンと肩を叩かれて、ふり返ってみたら!!!日焼けした顔に真っ白の歯が光るマッチョ軍団がいらしていてですね!!!

 実にあっと言う間に、重たいものからめんどくさいの、ごっちゃごちゃになってるものから捨てたらヤバいものまで、実に手際よく分別収納廃棄その他もろもろ―――!!!このフットワークの軽さ、とても重量感あふれるマッチョの技と思えない!!!こんなにしてもらったら、もう他のメーカーさんのプロテインなんか仕入れできないじゃないの!!!ありがたすぎて今後の付き合い方を贔屓せざるを得ない状況が!!!


「樫村さん!ゴミのとこ整頓してくれたんだねえ!いやー、助かったわ、あれ僕じゃあとても動かせなくてねえ!!ありがと!これ、差し入れね!!」

「あのね、このマッチョの皆さんがやってくれたんだよ、あ、コーヒーありがとう!露木さーん、クリーンさんから差し入れ貰ったんで、ちょっとみんなで休憩しましょう、和島さん、サトーさん!こっちこっち!!」

「「「あざっす!!」」」


 この体育会系丸出しな感じがまた好感度高いんだよね…スポーツマンってホントすがすがしいなあ、もう。


 Tシャツの袖をめくりあげ、ムキムキの腕を丸出しにして小さな缶コーヒーを受け取るマッチョの皆さんを見て、あんぐりと口を開けている味田さんがここに!!アアア、恐れをなして?早々に引き上げて行っちゃった。まあねえ、そうだよね、ぱっと見、すごいもんねえ、とても同じ人類、人間と思えない。…ちょっと待った、まさか宇宙人じゃないでしょうね?!やばいなあ、最近どうもアッシュ君に引きずられて?思考がこう、宇宙人寄りになってるっていうか。さりげなくいつもより眼差しをじっくりと向けてみる……。触手はないなあ、目の色も普通に黒い…うーん。


「もうじきに飾りつけは終わりますね!!あとは、プロテインの積み込みとイベント企画の詰めだけかな?一応ね、ステージ企画のタイムライン、用意してきたんであとで目通してもらって!!」

「僕ね!イベントに向けて絞り込んできたんす!!ほら!!見て!!このぴったぴたに筋肉に張り付いてる皮膚!!昨日から炭水化物摂ってんすよ!!!」

「僕も明後日に合わせて日サロ行ってきたんですよぉ!樫村さんに…良い板チョコ見てもらおうと思ってねぇ!!」


「あ、あはは…、めっちゃ楽しみにしてます、尊い筋肉、拝ませてもらいますね!!はい!」


 うう、迫りくる、鍛え上げられたマッチョの威圧感!!月イチで臨店するのは露木さんだけだから、わりとこう…良い筋肉だなあ、鍛え上げられてるなあ、いつ見ても仕上がってるなあって感想を持ちながら、どちらかというとご褒美感覚で対面してたんだけど、営業部トップスリーのマッチョが三人も揃うとそのぅ、なんていうか若干引いてしまうというか…いやいや!!私は引いてなんかいない、善良な営業さんの、ご自慢の筋肉ですよ?!それを誉めずに何を褒めるというの!!長い年月をかけて、地道に築き上げられた、ありがたい、尊い筋肉、筋肉!!!


「当日は限定販売のタンクトップ着用の予定なんすけど、樫村さんも着ます?」

「え、いいんですか!うーん、でもタンクトップかあ……サイズってあるんですかね?ええと、そのぅ……。」


 お祭り騒ぎのイベントだし、スタッフって事がばっちりわかるように同じコスチュームで挑んだ方がいいとは、思う。でもね、ちょっとタンクトップはね……。決して細くない腕もマルっと出ちゃうし、あと、うーん、その、胸のあたりがですね。私、女性用のLサイズだとちょーっと、その、一部、入りきらないっていうか……。


「Tシャツもありますよぉ!サイズはねぇ、男性用ならSから5L、女性用ならSからXXLなんだけどぉ…一応、XXL用意しておきますぅ!もし入らなかったらぁ、当日男性用の商品開けてもいいんでぇ!」

「新作のタンクトップかわいいっす!うちの女の子が別店舗のイベントで着た時、飛ぶように売れたんすよ!樫村さんは…何色がいいかなあ、ピンク…うーん、グリーンか、青のイメージ?好きな色なんすか?」


「はは、えっと、余ってるやつでいいですよ。」


 タンクトップが売れたのは、恐らく着用した女性がかわいかったからであってですね……、どうしよう、私みたいなごつい女子が着てるのを見て商品の可愛らしさが伝わらずに誰一人買わなかったりしたら。やっぱり着るのやめておこうか……。でも、ニコニコしながらタンクトップとTシャツのラインナップを見せてくる佐藤さんを悲しませるわけにはいかないよね……。売れることを祈って、もし売れなかったら何枚か買わせていただこう……。ああ、地味に出費が。意外と高いんだよね、このメーカーの衣類……。


「そうそう、ウォーターサーバーなんですけど、どこかに設置しておけないですかね?多分ね、当日の朝設置だと、水が冷えないんですよ。ボトルはこのタープの中に置いていくんですけど、サーバーは売り場に置いておくとほら、お客さんが勝手に飲んじゃうかもしれないでしょう?下手に飲まれてわけのわかんないクレームになるとまずいんで、出来れば事務所かなんかに電源入れた状態でおいてもらいたくって。」

「多分事務所に置けるかな?事務の人に聞いてきますね。」


 イベント当日は、プロテインを水に溶かしたものをお客様に飲んでいただくことになっているので、ウォーターサーバーの準備が必要となっている。以前はクーラーボックスの中に氷を敷き詰めて、牛乳だけ持ち込んでたらしいんだけど、意外とカロリーを気にしたりする本格派マッチョや牛乳嫌いのお客様も多いそうで、思うように試飲してもらえなかったんだそう。牛乳に溶かすと、牛乳のまろやかさが混じっちゃって、プロテイン本来の味もわかりにくいという事もあり、メーカーさん的には水を用意する方針に変えたんだって。ああ、企業努力、素晴らしい。そうだよね、確かに地味に牛乳10リットルとか、コストかかるもんねえ……。わりと牛乳って、好き嫌い別れるもんねえ……。


「たのんます!僕たちはあとちょっと上と横飾ったら、一旦飯にするっす!いやーよく動いたからいい感じに筋肉が糖質を求めてて…バルクアップ間違いなしっす!!」

「あ、よかったら樫村さんも一緒にご飯行くぅ?僕たちのマイプロテインふりかけご飯、ごちそうするよぉ?最近他社のだけどぉ、うまいフレーバー出たんだぁ♡」

「今は三人とも高糖質期だからね、近くのおかわり無料の定食屋さんでご飯とうどん食ってこようって話になってるんですよ!どうです!一緒にロカボ談義でもしながらプロテイン摂取のタイミングについて語りませんか!!筋肉の喜ぶ食事のとり方ってのはねえ、本当に奥が深くて!」


 さりげなくポージングをしながら、お昼ごはんについて語るマッチョが三人!!!


 人肉社長が見たら、大喜びしそうなシチュエーションにちがいない。というか、プロテインご飯なんて本当に存在してるんだね……。なんていうか、お笑い芸人さんの持ちネタみたいなもので、実際に実践してる人がいるなんて思いもしなかったといいますか!!!正直ドン引きなんだけど、相手は嬉々としてプロテインを摂取している、お世話になりっぱなしのメーカーさん、戸惑いの表情を…見せてはならん!!


「あはは、お誘いありがとうございます!筋肉の喜ぶご飯、気になりますけど…ごめんなさい、私お弁当持ってきているの。プロテインご飯は、またいずれお願いします、あのね、ちょっと知り合いが、最近プロテインに凝って?いるから、正直ちょっと興味あるんですよ!」


 恐らくアッシュ君のおうちに大量備蓄されているであろうプロテイン。それをどうにかして消費しつつ、ごく普通の食生活をさせてあげたいと願っている私としては、少々、気になるところなんだけれども。


 プロテインふりかけご飯の極意を聞いたところで、なんていうか、やっぱり、こう、一般的にはね?あんまり愛されていない食べ方というイメージがですね。……普通は、プロテインをご飯にふりかけたりしないものなんだよって言う、私の中の常識がですね、メニュー自体の存在を否定してしまっているといいますか……。詳しく聞いてしまったら、私の中の常識がクルリとひっくり返って、自分もプロテインご飯を喜んで食べるようになっちゃうんじゃないかってね?!心配?不安?のようなものが押し寄せてくるといいますか!!聞きたいような、聞いてはいけないような…聞いたらダメだって思う気持ちと、それを日常の中に取り入れている皆さんに対して失礼なんじゃないかって申し訳なく思う気持ちが、実に複雑に絡み合い―――!!!


 昨日、夕飯で一緒に作った肉じゃがの残りとおにぎりを朝食用にってアッシュ君に渡したんだけど、あさイチでプロテインをふりかけた画像を送ってきたんだよね……。


 なんていうか、ものすごーく、こう、げっそりしたっていうか。……本当に人肉社長の罪が重すぎてね?!「こながのどにはりつくけどおいしい☆」とかラインに流れてきて、なんて返事返したらいいのか…朝から頭を抱えたんだからね?!下手にダメだよって言うとまた落ち込んじゃうだろうし、いいねって言ったら間違った方向に進んでいく展開しか考えられなくってね?!


 迷いに迷った挙句、「牛乳を飲んでのどを潤すといいよ(*’▽’*;)」って返したんだけどもっ!!!その返しが正しかったのかどうか、いまいち自信がないといいますか!!出勤直前の事だったから、長々と返事を返し続けるわけにもいかず!!!アアア!!直接顔見てきちんと話をしないと、心配で、心配でええええええええ!!!これだから私こういう文字のやり取り、苦手なんだよぅ……!!!


「えええマジすか!!!僕ね、プロテインレシピめっちゃ持ってるっす!!クリームコロッケやシチュー、パンプキンポタージュにビスコッティ、基本のパンケーキやプリンなんかもあるっすよ!!」

「和島君の奥さんは料理研究家なんですよぅ、めちゃめちゃおいしいから…あ、そうだ、イベントでレシピ配るのもいいかもぉ!」

「いいねえ!!!写真あったよね!!あっちの壁のところに貼ろう!!樫村さん、あの場所、当日にレシピ貼らせてもらいますね!!よーし、これでプレーンプロテインの売れ行きも伸びるはず!」


「あ、調理動画とかも流しましょうか!!うちの嫁さんね、マッチョクッキングチャンネルやってるんすよ!!」

「じゃあモニターも手配しないといかんな!!!そうだなあ…プロテインの棚に埋め込んでみるか!樫村さん、ここって電源いくつあったっけ?」


「ええと、壁に四つと、天井に……二つ…あ、四つありますね。モニターは使ってないのが外の什器倉庫にあったと思いますよ。」


「じゃあ、僕今から取ってきますぅ、せっかくだからうちのプロテイン動画のDVDイベントまで流してもらいましょうよぅ、ネッ、露木さん!」

「それはいいアイデアだ!俺車行ってDVD取ってくるわ!!」

「じゃあ僕、天井かたしとくっす!よっし!あとちょっと…ファイっ、ファイっ!!」


「「ファイっ!!!ファイっ!!!」」


 なんかめちゃめちゃ盛り上がってるんですけど―――!!!


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