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エコー  作者: たかさば


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42/85

味がしなかった

「やあやあ、ずいぶんお騒がせしてしまったよ、ごめんちょ!!ねえねえスーちゃん怒ってる?せっかくのでえとなのに、僕の都合ばかり優先してしまった…ごめんね、でも僕どうしても悪事は見過ごせなんだでね、だってさあ、おばあちゃんの体に無断で住み込みとかゆるせんじゃんね、穏やかに干からび行く人体に潤いをねじ込もうとはふてえ野郎だ、すぐに脂肪細胞に紛れ込んで悪さするでな、オララは滅ぼすに限る…むぐ、むぐ…。」


 ニコニコと私の顔をのぞき込んだ後、やけに凛々しい目つきで湖を見つめつつ…膝の上に肘をつき、口元を覆いながら怖いことをつぶやく人が横に!!!


 ついさっきまで、タブレットをつるつるやりながら湖に向かって手の平を向けていた宇宙人は、どうやら透明化した触手を駆使して?大仕事を終えたみたい……。人類の敵と思われる存在をいとも簡単に?成敗してくれた、救世主…?一仕事終えて、お疲れさまでしたと労うべき?怖かったよと震えて見せるべき?助けてくれてありがとうと感謝をするべき?目の前で確認できるような派手な戦いがあったわけじゃないので、実感が全然なくって…どういう言動をしていいのか、何が正解なのか、さっぱり見当もつかない!!!


「怒ってないから安心して?ええと…とりあえず危機は脱したという事でいいのかな?あ、ありがとう?その…もしまだ対処し足りないようなら、そっちを優先してもらっていいんだよ?」


 …とりあえず、平穏を取り戻したらしい湖に目をやりながら横顔をちらりちらりと……、まだなんかブツブツ言いながらつるつるやってるなあ、大丈夫なんだろうか……心配になってきちゃった、そっと様子を伺ってみる。


 ……へらへらしていない、真剣な、眼差し。


 日差しを浴びてキラキラと輝く灰色の髪が、時々風に揺られて…、毛先がスッと通ったやや高めの鼻すじをなでてる…、ああ、ちょっと指先でくすぐったそうに髪をかき上げる所なんか実にこう、イケメンの雰囲気を醸し出していらっしゃる。伏し目がちな目はシャープに輝き、きりりとした眉とまつ毛の整っている感じはちょっぴりメイク男子を思わせていらっしゃる。すっぴんだよね…、天然のイケメンはこんなにも整っていらっしゃるというのですか……。

 今まで慌てたり驚いたり注意したり戸惑ったりで、あんまりじっくりと見つめた事なかったから、ちょっとだけ、じっくりと、見つめさせていただいたりして。少し幅の狭いくっきり二重かあ…、わりとワイルドな口元してるけど、口角はぴよっと上がってて、イメージは柔和で……。あ、ちょっと福耳なんだ、運良さそう。


 地味に……、かっこいいよね……。


 なんていうか、黙っていれば、本当にこう、イケメンなんだよね、この人。いつもじたばたへらへらどたどたうわーんのたまに強引ごり押しプッシュプッシュで気が付かないというか気が付けないというか気が付く隙を与えてもらえないっていうか。オシャレなカフェで遠くを見つめながらコーヒーでも飲んでたら、真っ先に芸能界のスカウトが飛んできそうな感じといいますか……。


 ……同じベンチに腰かけているだけで、なんというか、恐れ多いというか、逃げ出したくなってくるんですけど。地球のピンチを救った正義のヒーローしかもイケメン、その横に、私みたいなごく一般的な凡人女子が座っていていいのでしょうか……。もっとこう、全地球人代表みたいな、とてつもない美女とか才女とか用意させていただいた方がよろしいのではないのでしょうか……。ちょっぴり、不安のようなものが・・・。


「もう通報してあるからだいじょうび!お昼ご飯食べたらあとは夜中までスーちゃんとランデブーできるよ!夜中までと言わずに星が吹っ飛ぶ瞬間まで一緒にいたいなでもそんなこと言ったらドン引き案件かも黙っとかないとダメなのにまあいいや冗談だよって言ったら万事オッケー、コーユーのアメリカンジョークって言うんだ、いいぞユーモアの分かる男!!!僕ねえ、もう今日は働かないんだ、何故ならスーちゃんと友好を深め、いろいろ深め、そして深なんでもないよ、ええとね、やけに腹部がぶくぶく言い出したけど、そろそろおいしいものを取り入れてもいい頃じゃね?ねえねえ、ここで何食べるん?まだ食べへんのん?はよ食べたい、食べに行こう今すぐはよはよ!!」


 ああー、優美に漂っていらした、イケメンのオーラが、瞬時に爆散!!!この、何一つ包み隠さずに全部駄々洩れな感じは何とかならないものでしょうか……。

 うんうん、そうだった、この人はこういう人だった、口を開いてみれば、シャープな面持ちはへらへらした雰囲気にかき消され、あっという間にいつもの残念な感じが漂うんでしたね!!!……うん、これなら、まあ、私が横に並んでも、許される。

 この、イケメン時と、ヘタレ残念やらかしMAX時の落差……、非常にこう、げっそりするというか、うん、まあ、仕方ないとは思うんだけどね?


 ……なんていうんだろう、めちゃめちゃゴージャスでおしゃれなフルーツパフェが出てきて、大喜びでインスタントに画像上げようと手を伸ばしたらテーブルの上でひっくり返してアアアってなった時みたいな?せっかくの美味しいイチゴ、美味しいメロン、美味しいマスカットオブアレキサンドリア、まったりとコクのある美しい生クリームその他もろもろの奇麗にデコレーションされた完成美が崩れ去って残念なことになった、しかし見てくれは悪くなったものの、素材の良さは変わらないの、うん、食べたらちゃんと美味しいんだから悲しくなんてないんだからね(。>д<)みたいなさあ……。何とも言えない、やるせなさがハンパないんですけど。


 頭を抱えたくなる気持ちを押さえつつ、天真爛漫にはしゃぎ始めた人に向かって、にこりと引き攣った笑顔を向ける。


「じゃあ、南側の公園巡りする前に、先にお昼ご飯食べに行こうか。」

「わーい!何食べるんだろ、ひょっとして名物のプラモデル?!僕ねえ、車型のやつよりも頭一つ腕二つ足二本しっぽ一本のタイプのやつの方が食べたいな、ポリポリしてておいしそう!!はよ食べたい、食べに行こう今すぐはよはよ!はよせな無くなってまうがな!!!」


 勢いよくベンチから立ち上がり、私の手を取る、ゴーイングマイウェイな宇宙人が!!!


「うん、プラモデルはね、食べられないんだよ、名物にはね、食べられないものもあるんだよ。品切れはね、そうそう滅多なことじゃ起きないんだよ、だから安心してね?!」

「はーい!」


 私はへらへらしているアッシュ君の手を引いて、レストランの方へ向かって行ったわけですよ……。



 海の子湖SAの中央レストランの、一番見晴らしのいい席に案内された私とアッシュ君は、平和な湖を見ながら、談笑しつつ、お昼ご飯が届くのを待っている。

 このレストラン、初めて入ったけど、すごく見晴らしがよくて、天井も高くて気持ちいいなあ。大きな窓からは、公園に向かうファミリーやのんびりお散歩してるワンちゃんなんかもよく見えて、すごく癒されるというか。ちょうどメイン通路に面しているから、人通りもそれなりにあって、人間観察が大好きなアッシュ君にとっては…ふふ、すごく満喫してるみたい。歩いてるちびっ子に向かって手を振ってニコニコしてる。…子供好きなんだね、きっと。朝からずいぶん、ちびっ子たちに手を振って……ちょっと待って、子ども、だよね?まさかの、宇宙人の可能性とか……。


 じゅうぅっ…!!

 ジュ、じゅじゅぅう~!!

 パチ、ぱちちっ……!!


「お待たせしました、海杉焼売定食でーす、熱いのでお気をつけ下さいね~!前失礼しまーす!」

 

 派手な効果音をまき散らしながらワゴン車の上に乗ってやってきたのは、海の子湖SAのある海杉地区の名物、海杉焼売のお昼限定ランチセット!!香ばしい油の跳ねる音、ぷるっぷるの焼売の表面の焼けていく音、付け合わせの野菜が鉄板の上で焦げていく音、そしてもうもうとあふれ出している湯気には、空っぽの胃袋の活発化を促す、実に美味しそうな香りが含まれておりまして!!うーん、めちゃめちゃおいしそう!!!


 海の子湖の北にある、海杉高原で育ったブランドブタ「レイクポーク」を使った海杉焼売はこの辺りの名物で、全国三大焼売に名を連ねていたりする。海杉市の市役所前には焼売如来像が飾られているくらいで、その焼売愛には感心してしまうんだよねえ、年に一度は焼売祭りなんかもあるし。今年はいつやるのかな?

 粗挽きのひき肉に海杉高原ネギと海杉高原玉ねぎをブレンドし、粗みじんに切った海杉高原ショウガを隠し味として紛れ込ませた一粒がかなり大きな逸品は、お子様からお年寄りまでみんなが大好きな、海杉の人なら毎週欠かさずに食べるようなソウルフードなんだそう。小学校では月に一度は給食に出るというから恐れ入るといいますか。

 海杉で取れたキャベツなどの野菜をさっとゆでたものを付け合わせているから、バランスも大変によろしいんだよね。脂っこい焼売を食べる時の箸休めにもなるし。フードコートやレストランなんかだと、鉄板の上で焼かれながら出てくることもぼちぼちあって、これがまたちょっぴり焦げてて、実に香ばしくておいしいんだよぅ~♡


 ウェイトレスのお姉さんが、手早くワゴンの上の料理をテーブルへと並べていく…ブタの鼻のデザインの鉄板の上でジュウジュウと焼けている大ぶりの焼売三つとお野菜、お味噌汁にごはん、お漬物、プチウナギフィナンシェを使ったデザート。これで1000円とか、結構お得感ある!!


「酢醤油が足りなくなったらお持ちいたしますのでお知らせください、からしの追加はこちらにございますので。それではごゆっくりどうぞ~。」

「ありがとう。」

「ありがとー!」


 お姉さんにお礼を言って、目の前のジュウジュウと血気盛んな様子の焼売とご対面させていただく。・・・いつもはフードコートで串に刺さったのを食べる事が多いから、ちょっと新鮮な感じがする。レストランで着席して食べると、高級感が増すよね……。


「ええと、まず食べる前には、なにするんだったかな?」

「いただきますだ!!はい、いただき、いただきますよぅ、いただきます!!!」

「ふふ、そうだね、じゃあ、いただきますしよっか!はい、」


「「いただきます」」


 手を合わせて、箸をとる。さあ、今から、私の踏ん張りどころの見せどころですよ……?


「うわあ、これは熱い!!ねえねえ、これは…この肉を焼くためのモノなの?こんなに高温の物体に乗っているものをそのまま食したら口腔内の被覆粘膜の損傷及び破壊が顕著であり、場合によっては骨膜あたりまで…そうか、これはもしや再生能力を確かめるための…試練?」

「この鉄板で、作り立てを維持したままテーブルにお届けって事なんだよ、熱々で食べると脂がジューシーでおいしいの、そんなに大げさに考えずに、気軽に食べたらいいからね。…あ、でも、熱々だから、よく冷まして食べないといけなくて…まずは、食べ方を教えるね。」


 初めてのレストランでのお食事、なにがどうおかしなことになって注目を浴びるかはわからない。私には注意に注意を重ねて、ごく普通の一般人として食事を遂行せねばならないという使命が…ある!!!このままさあお食べなさいって言ったら、大きな熱々焼売をポンと口に入れて口の中をやけどしてパニクってそこら中に触手飛ばしちゃう可能性!!!地球の危機を人知れず救ったヒーローの無差別攻撃とか、あってはならない!!!


 自分の鉄板の焼売に箸を入れて、半分に割り、さらにそれを半分に割って、酢醤油にそっとくぐらせる。


「この焼売はね、からしと酢醤油で食べるのがこの辺りの食べ方なんだよ。この黄色いのがからしで、刺激が強いから、少しづつ試すといいよ。まずは、酢醤油だけで食べてみようか、ハイ、アーン……。」

「あーん!!……!!!むぐ、むぐ、もむもぐっ!!ンぐ、ンぐう…ううううまあああああいいいいい!!!」


 箸を握りしめて、大喜びする人が目の前に…って!!!!!!


 いつの間にか、窓の外に、ファミリーがっ!!アアア、チビッ子が私達を指差して焼売をねだってる?!違う、これは私にも食べさせてと、ごねている!!自分の口に人差し指を向け、お母さんの持ってるチュロスを欲しがって…あああ、こっち指差してるのは、あのお兄ちゃんは食べさせてもらってるのになんで私は食べさせてもらえないの、ズルいって言ってるんじゃ?!


「はーい、じゃあね、今度は僕がスーちゃんに食べさせてあげる!はい、アーン、して……?」


 ……ちょ!!!こ、これは、もしかして、食べさせてもらってうれしい時期から、食べさせて喜ぶ時期に入ったという事?!ニコニコしながら、奇麗に四分割された焼売を、奇麗な箸の持ち方で、奇麗な所作で、こちらに差し出す綺麗な灰色頭の綺麗な青年、青年ンンンンンン!!!


「あーん、して……くれないの……?」


 ああアアアアアアアアア!!!なんかまた落ち込んできてるうウウウウウウウウウ!!!


 断ったらまた落ち込む、この捨て犬顔、悲しそうな表情!!!ペタンと折れ曲がった犬のケモミミが見える!!明らかに落胆している!!大喜びで左右にばっさばっさと振りまくってたしっぽが、勢いをなくして垂れ下がっていくのが見えるうううウウウウウウウウウ!!!


 が、ガンバ、ガンバだよ、すな、すな、すなおぉおおおおおおおお!!!


「あ、アーン……。」


 大きな窓の向こうで、別のチビッ子も私を指差してる!お母さんがあんぐりとこちらを見ている!!お父さんがお兄ちゃんの手を引いてどこかに向かったよ!!どこかの老夫婦が口元に手をやって微笑んでる、おじさんが足元の小石を蹴っ飛ばしていったアアアアアアアアアア!!!


 お、美味しくてたまらないはずの、せっかくの海杉焼売、味なんか全くしないんですけどおおおおおおおおおおおお?!?!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 42/42 ・夕日に映えるアッシュくん。イケメンじゃあー [気になる点] アッシュくーん!? かわいい! アンタが一番かわいいよ [一言] 夕日でババアをイメージしたギャラクシーでござい…
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