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エコー  作者: たかさば
4/85

ヘタレがぶっこんできた

 ざっ、ざっ、ざっ・・・。


 小石と、赤土と、木の根っこと、岩肌が続いた山道は、頂上が近いこともあり、小石が多くなってきた。

 時折…鳥の鳴く声が聞こえる。これはヤマガラかな。頂上にはね、やけに人懐こいのが一羽いるんだよね。


「す、すーちゃん!!ちょっとだけ、まって、おね、おねねねねがががががいいいいいしますぅううう!!!ヒィイイイ怖い!でも面白い!歩くって素晴らしい!スーちゃんかわいい!スーちゃんだって!かわいすぐる、かわいいね、うんかわいい!!!」


 そして私の後ろには!!

 やけに人懐こい?カン違い?ヘタレマックスのおかしな宇宙人が!!!


 いつの間にかごく自然に人のことスーちゃん呼びしやがってぇええええ!!!

 許可した覚えはないぞぅ!!!


 さっき見晴らし台で遭遇した観瑠駈山(みるくやま)山岳クラブのおじちゃんおばちゃんたちにはスマートにあいさつをしたくせに、あっという間にヘタレのおかしな兄ちゃんに戻っちゃったこの…アッシュグレーの髪を持つ宇宙人。

 本名は覚えることができそうにもなくて、呼んで欲しいと言われた名前は発音できなくて!仕方なしに髪色から適当に名前を付けちゃったんだけどね?!


「アッシュくんさあ…そんなへっぴり腰で、よくこの山登ってきたね…。」

「転移してきたんで、すぅうううう!!!へへへ!アッシュって僕の名前?つけてくれて、呼んでくれてありがとう、すごいね、うん、素敵な名前だ、君がこしらえた僕の名前は宇宙できちばん輝きましてです!!!ふふ、フフフ、…!!!」


 ああ…苦し紛れに適当につけたとはとても言えないな。でも今さら白状したところでまたパニクられて触手でホールド展開が待ち受けてるとしか!!!

 早く逃げ出したい、振り切りたい!

 急いで下山したら振り切れる?…だめだ!!山岳部のおじちゃんとおばちゃんたちが追い付いてくる!

 あの人たちに宇宙人がバレたら……あっという間にマスコミの餌食になること、間違いない!!!


 …ちょっと、私、完全に…詰んでない?!

 このヘタレ宇宙人を、どうやってかわしたらいいのか見当もつかないんですけど!!!


「あのね、ええと、山頂ついて、下山するまではね?一緒にいるから…、そのあとのことは、自分で何とかしてくださいね…?」

「はい!!わかりましたアアアアアアア!!!よーし!僕はりきっちゃうぞ!!下山するまでに僕の魅力をわかってもらって!ばっちり好きになってもらうんだ!!ねえねえ、スーちゃんは何歳ですか、ええと趣味は?僕はね、地球暦で言うとおおよそ3600歳くらいでね、まだここに魔法があった時代の生まれになると思うよ!!!でもね、安心して、僕けっこう若いの、だからほら、人肉スーツもすごくなじんでね、ほら見てよ、このように実体化に成功しちゃってね、だから僕地球人なの!すごいでしょ、えっへん!!」


 どうしよう、言ってることが全然わからない!!!


「ああ、そうなんですね、ごめんなさい、私宇宙に詳しくなくて。私はね、25歳なの、ええと、詳しい人と出会えて、理解してもらえるといいですね?」

「スーちゃんが理解できるまで頑張りる!!はあ、はあ…なんだろう、体が重い?おかしいな重力データのパッチが効いてない?はあ、はあ・・・。」


 見た目ひょろっとしてるし、体力ないのかな。宇宙人の…アッシュくんの息が上がってる。

 …仕方ないなあ、もう。


 私は、手を……差し出して。


「はい、手繋いであげる。…もうちょっとで頂上だよ、そこにベンチあるから、座って休憩しようか。それまで、頑張れる…

「ひゅわぁああ!!!手!!手をつなぐちょな!!!がんばりゅ、頑張れる、頑張らねば!!はい!!」」


 ぎゅっと握った宇宙人の手は……、普通にあたたかい、人の手、だった。




 ツー、ツツピー、ツツピー・・・。



 観瑠駈山頂上のベンチの上で休憩する私の耳に、ヤマガラの鳴き声が聞こえる。

 この山は、山頂といってもあまり山らしくなくて、少し拓けた場所でしかない。頂上が広いとでもいえばいいのか、一番高い位置が長く続いているとでもいえばいいのか。正直、見晴らしのよさで言えば、見晴らし台といわれているだけあって休憩所の方がいいんだよね…。


「どう?下山、できそう?もうちょっと休みますか!!」

「はははは、はい、だいじょうびです、疲労とはこういう感じだと、只今認識を記録して完了です、ああ、よかった、うん、かわいい、ねえすごくかわいいけど、どうしたら?」


 うーん、大丈夫かな、この宇宙人…。私なんかを見てかわいいとか言ってたら、山降りて街に繰り出した瞬間に失神するんじゃないの…???

 何だか…私を見つめる目が真剣過ぎて、怖いよ…。


「ええとね、まずは落ち着いて…、周りを見渡すと良いと思います!!この世界にはね、私なんかよりもかわいい子はいっぱいいてね?もっとこう、華奢で小さくてかわいい子がね?」


 女性はね、170あるとね、ちょっと…かわいいっていう表現がね?難しいと思うんだよね。

 小さいころから体格のよかった私は、背の順はいつも一番後ろだったし、体重もだいたい一番重くて。…よく男子にからかわれたんだよね。ゴリ男とか、デカブツとか、巨人とか。

 …アッシュくんはきっとまだ地球の言葉、日本語になれてないんだね、きっと。私はごつくて頼りがいがある感じなの。…断じてかわいい存在などでは。


「うぅぎゅにゅぅううう!!!めっちゃかわいい!!ねえ、かわいすぎてね、僕はってうん、もうやめとこう、これ以上伝えてもきっと僕の心は伝わりきらない、何故なら僕はスーちゃんがスーちゃん足るスーちゃんの!!!」


 …ダメだ、こりゃ。




「追いついたー!」

「イケメン再び!!」

「うわ、あんなとこに煙上がってるぞ、アレ火事じゃないの!!」

「え、何々、アレどこらへん?」

「市役所のへんかな、電話局の近くだ。」

「スーちゃんたちは下山?それとも谷中山(やちゅうさん)?」


 谷中山というのは、観瑠駈山と連なる山の事で、隣に並ぶ路木山(ろきざん)と合わせて小夏日市の三大山の一つ。三山登頂をする強者も結構いたりするんだけど、私はまだやったことがなかったり。


「ううん、私はこのまま下山するよ。この子…山登り初だし。」

「初心者にこの山はちょうどいいね、どう、山、楽しい?」


「はい、とても!」


 にこやかに返事を返す宇宙人がここに。

 …なんでこう、コロッと態度が変わるんだろう。


「ねえねえ!スーちゃんのどこに惚れたの?」


 わあ!!

 山岳部一の好奇心旺盛女子、神宮寺さんがああアアあ!!!


「素直で、まっすぐで、みんなに優しいくせに自分に厳しいところですね。僕は、スーちゃんを甘やかしたくてここにやってきたんです。これから僕はずっと彼女のそばで、一番に喜びと悲しみを分かち合えることに幸せを感じています。」


 ……?!

 ?!?!?!?!?!?!


「ちょっ…


「きゃああああああああああ!!!聞いた?!何これ!!すごい純愛!!!」

「いいわねえ、私も旦那にこんなこと言われてみたいわ…。」

「最近の若者はものすごくこう、なんだ、素直というか、正直に言うなあ!!」

「ストレートな感情表現、他人事ながらクルもんがあるわ…!!!」

「スーちゃん泣かせたら承知しねえぞ!!!」

「結婚式、呼んで欲しいわぁ…!!!」」


 ねえ!!!

 何言ってんの?!

 このう、う、宇宙人っ!!!!!!


「あ、あの!!!コ、この人はね?!ええとこっちに来たばっかで言葉


「へいへい、ご馳走様!!!」

「あーあー!!熱い暑い!!!ここは熱すぎるからね!寒風吹きすさぶ山間部に避難しようかね!!!」

「ホント熱いわあ…。」」


 あ、ああ、あああああ!!!!


 私の言葉を聞かず!!!

 山岳部メンバーがっ!!!


 赤い顔してっ!!!

 やっ谷中山にぃいいい!!!

 向かっちゃったよお!!!


「ちょ!!!!な、なんてこと言ってんのっ!!!!」

「本当の事しか言ってないよ。」


 こっ!!この宇宙人めえええええええ!!!!

 いっ!!いけしゃあしゃあとぉおおおおお!!!!


「もう!!!!何言ってんの?!何言ってくれちゃってんの?!わ、私はね

「何で怒ってる?!怒っててもかわいいよぅ!!!ねえ、僕は何から伝えたらいいかな、僕はね、ちょうど僕も君と恋がしたいと思っていたんだ、いたんでちゅ!だから、びっくりしたんだ、間近で聞いたスーちゃんのエコー、恋をしたいと君は願ったでしょう、届いたんだ、だからもらった、僕も返した…。」」


 やけに熱いまなざしを…送るなアアアアアアア!!!

 イケメンなんだから…ちょっとドキドキしちゃうじゃない!!!


 …って!!!


 人の手を!!!

 両手で!!

 さりげなく堂々と…にぎ、握るなあああああ!!!!


 握られた手が熱い!!

 まっすぐ見つめる視線も熱い!!!


 ・・・ちょ!!こ、こここここれはっ!!!


 ええと!!

 ええとね?!

 リアルに恋愛経験が乏しい私なんですけどね?!

 ちょっと何私テンパってんの、落ち着け、落ち着け!!


「ねえ、僕はまだとても人間として未熟だけれど、頑張って育つから。お願いします、育ってからでもいいよ?僕と恋をしてください、僕はスーちゃんと恋がしたい、スーちゃん、恋をしよう、ねえ、これって恋に落ちてるってことかな?僕はスーちゃんを見るとドキドキするよ、この心拍数はいったい??ちょっと待って、もしかして不具合かも、ヤバイ!!パッチ!!パッチ用意―!!!ああああ!!!トレイ無い!!さっきのとこに置きっぱ!!取ってこよう取って来い!!!」



 にゅる、にゅる!!

 でろ、でろ!!

 じゅぐりゅ、ずるっ!!

 にっちにっち、ぎゅるぎゅる…ももも!!!



 耳触りの悪すぎる音が!!!

 私の両手を包み込む…暖かい手の!!!

 袖口から!!!!

 勢い良くぅウウウウううウウウウウウウウウっ!!!!!!!


「キぃ、ヤアああああ‥‥!!」

「あれ。」


 思わず腰の抜けた私だったけど、やけに力強いアッシュの手はね?!

 私を崩れ落ちさせることなく…グイと引き上げて、くれてですね?!


 …ねえ、気絶、したかったんですけど!!!!!!!!!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 4/4 ・素晴らしい。ストレートな告白素晴らしいでしゅ。 [気になる点] そしてパワーありますね。もう彼氏にしちゃいなよ。 [一言] 170ですか。大きいの、かな? 自分は大きいほうが好…
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