ヘタレがぶっこんできた
ざっ、ざっ、ざっ・・・。
小石と、赤土と、木の根っこと、岩肌が続いた山道は、頂上が近いこともあり、小石が多くなってきた。
時折…鳥の鳴く声が聞こえる。これはヤマガラかな。頂上にはね、やけに人懐こいのが一羽いるんだよね。
「す、すーちゃん!!ちょっとだけ、まって、おね、おねねねねがががががいいいいいしますぅううう!!!ヒィイイイ怖い!でも面白い!歩くって素晴らしい!スーちゃんかわいい!スーちゃんだって!かわいすぐる、かわいいね、うんかわいい!!!」
そして私の後ろには!!
やけに人懐こい?カン違い?ヘタレマックスのおかしな宇宙人が!!!
いつの間にかごく自然に人のことスーちゃん呼びしやがってぇええええ!!!
許可した覚えはないぞぅ!!!
さっき見晴らし台で遭遇した観瑠駈山山岳クラブのおじちゃんおばちゃんたちにはスマートにあいさつをしたくせに、あっという間にヘタレのおかしな兄ちゃんに戻っちゃったこの…アッシュグレーの髪を持つ宇宙人。
本名は覚えることができそうにもなくて、呼んで欲しいと言われた名前は発音できなくて!仕方なしに髪色から適当に名前を付けちゃったんだけどね?!
「アッシュくんさあ…そんなへっぴり腰で、よくこの山登ってきたね…。」
「転移してきたんで、すぅうううう!!!へへへ!アッシュって僕の名前?つけてくれて、呼んでくれてありがとう、すごいね、うん、素敵な名前だ、君がこしらえた僕の名前は宇宙できちばん輝きましてです!!!ふふ、フフフ、…!!!」
ああ…苦し紛れに適当につけたとはとても言えないな。でも今さら白状したところでまたパニクられて触手でホールド展開が待ち受けてるとしか!!!
早く逃げ出したい、振り切りたい!
急いで下山したら振り切れる?…だめだ!!山岳部のおじちゃんとおばちゃんたちが追い付いてくる!
あの人たちに宇宙人がバレたら……あっという間にマスコミの餌食になること、間違いない!!!
…ちょっと、私、完全に…詰んでない?!
このヘタレ宇宙人を、どうやってかわしたらいいのか見当もつかないんですけど!!!
「あのね、ええと、山頂ついて、下山するまではね?一緒にいるから…、そのあとのことは、自分で何とかしてくださいね…?」
「はい!!わかりましたアアアアアアア!!!よーし!僕はりきっちゃうぞ!!下山するまでに僕の魅力をわかってもらって!ばっちり好きになってもらうんだ!!ねえねえ、スーちゃんは何歳ですか、ええと趣味は?僕はね、地球暦で言うとおおよそ3600歳くらいでね、まだここに魔法があった時代の生まれになると思うよ!!!でもね、安心して、僕けっこう若いの、だからほら、人肉スーツもすごくなじんでね、ほら見てよ、このように実体化に成功しちゃってね、だから僕地球人なの!すごいでしょ、えっへん!!」
どうしよう、言ってることが全然わからない!!!
「ああ、そうなんですね、ごめんなさい、私宇宙に詳しくなくて。私はね、25歳なの、ええと、詳しい人と出会えて、理解してもらえるといいですね?」
「スーちゃんが理解できるまで頑張りる!!はあ、はあ…なんだろう、体が重い?おかしいな重力データのパッチが効いてない?はあ、はあ・・・。」
見た目ひょろっとしてるし、体力ないのかな。宇宙人の…アッシュくんの息が上がってる。
…仕方ないなあ、もう。
私は、手を……差し出して。
「はい、手繋いであげる。…もうちょっとで頂上だよ、そこにベンチあるから、座って休憩しようか。それまで、頑張れる…
「ひゅわぁああ!!!手!!手をつなぐちょな!!!がんばりゅ、頑張れる、頑張らねば!!はい!!」」
ぎゅっと握った宇宙人の手は……、普通にあたたかい、人の手、だった。
ツー、ツツピー、ツツピー・・・。
観瑠駈山頂上のベンチの上で休憩する私の耳に、ヤマガラの鳴き声が聞こえる。
この山は、山頂といってもあまり山らしくなくて、少し拓けた場所でしかない。頂上が広いとでもいえばいいのか、一番高い位置が長く続いているとでもいえばいいのか。正直、見晴らしのよさで言えば、見晴らし台といわれているだけあって休憩所の方がいいんだよね…。
「どう?下山、できそう?もうちょっと休みますか!!」
「はははは、はい、だいじょうびです、疲労とはこういう感じだと、只今認識を記録して完了です、ああ、よかった、うん、かわいい、ねえすごくかわいいけど、どうしたら?」
うーん、大丈夫かな、この宇宙人…。私なんかを見てかわいいとか言ってたら、山降りて街に繰り出した瞬間に失神するんじゃないの…???
何だか…私を見つめる目が真剣過ぎて、怖いよ…。
「ええとね、まずは落ち着いて…、周りを見渡すと良いと思います!!この世界にはね、私なんかよりもかわいい子はいっぱいいてね?もっとこう、華奢で小さくてかわいい子がね?」
女性はね、170あるとね、ちょっと…かわいいっていう表現がね?難しいと思うんだよね。
小さいころから体格のよかった私は、背の順はいつも一番後ろだったし、体重もだいたい一番重くて。…よく男子にからかわれたんだよね。ゴリ男とか、デカブツとか、巨人とか。
…アッシュくんはきっとまだ地球の言葉、日本語になれてないんだね、きっと。私はごつくて頼りがいがある感じなの。…断じてかわいい存在などでは。
「うぅぎゅにゅぅううう!!!めっちゃかわいい!!ねえ、かわいすぎてね、僕はってうん、もうやめとこう、これ以上伝えてもきっと僕の心は伝わりきらない、何故なら僕はスーちゃんがスーちゃん足るスーちゃんの!!!」
…ダメだ、こりゃ。
「追いついたー!」
「イケメン再び!!」
「うわ、あんなとこに煙上がってるぞ、アレ火事じゃないの!!」
「え、何々、アレどこらへん?」
「市役所のへんかな、電話局の近くだ。」
「スーちゃんたちは下山?それとも谷中山?」
谷中山というのは、観瑠駈山と連なる山の事で、隣に並ぶ路木山と合わせて小夏日市の三大山の一つ。三山登頂をする強者も結構いたりするんだけど、私はまだやったことがなかったり。
「ううん、私はこのまま下山するよ。この子…山登り初だし。」
「初心者にこの山はちょうどいいね、どう、山、楽しい?」
「はい、とても!」
にこやかに返事を返す宇宙人がここに。
…なんでこう、コロッと態度が変わるんだろう。
「ねえねえ!スーちゃんのどこに惚れたの?」
わあ!!
山岳部一の好奇心旺盛女子、神宮寺さんがああアアあ!!!
「素直で、まっすぐで、みんなに優しいくせに自分に厳しいところですね。僕は、スーちゃんを甘やかしたくてここにやってきたんです。これから僕はずっと彼女のそばで、一番に喜びと悲しみを分かち合えることに幸せを感じています。」
……?!
?!?!?!?!?!?!
「ちょっ…
「きゃああああああああああ!!!聞いた?!何これ!!すごい純愛!!!」
「いいわねえ、私も旦那にこんなこと言われてみたいわ…。」
「最近の若者はものすごくこう、なんだ、素直というか、正直に言うなあ!!」
「ストレートな感情表現、他人事ながらクルもんがあるわ…!!!」
「スーちゃん泣かせたら承知しねえぞ!!!」
「結婚式、呼んで欲しいわぁ…!!!」」
ねえ!!!
何言ってんの?!
このう、う、宇宙人っ!!!!!!
「あ、あの!!!コ、この人はね?!ええとこっちに来たばっかで言葉
「へいへい、ご馳走様!!!」
「あーあー!!熱い暑い!!!ここは熱すぎるからね!寒風吹きすさぶ山間部に避難しようかね!!!」
「ホント熱いわあ…。」」
あ、ああ、あああああ!!!!
私の言葉を聞かず!!!
山岳部メンバーがっ!!!
赤い顔してっ!!!
やっ谷中山にぃいいい!!!
向かっちゃったよお!!!
「ちょ!!!!な、なんてこと言ってんのっ!!!!」
「本当の事しか言ってないよ。」
こっ!!この宇宙人めえええええええ!!!!
いっ!!いけしゃあしゃあとぉおおおおお!!!!
「もう!!!!何言ってんの?!何言ってくれちゃってんの?!わ、私はね
「何で怒ってる?!怒っててもかわいいよぅ!!!ねえ、僕は何から伝えたらいいかな、僕はね、ちょうど僕も君と恋がしたいと思っていたんだ、いたんでちゅ!だから、びっくりしたんだ、間近で聞いたスーちゃんのエコー、恋をしたいと君は願ったでしょう、届いたんだ、だからもらった、僕も返した…。」」
やけに熱いまなざしを…送るなアアアアアアア!!!
イケメンなんだから…ちょっとドキドキしちゃうじゃない!!!
…って!!!
人の手を!!!
両手で!!
さりげなく堂々と…にぎ、握るなあああああ!!!!
握られた手が熱い!!
まっすぐ見つめる視線も熱い!!!
・・・ちょ!!こ、こここここれはっ!!!
ええと!!
ええとね?!
リアルに恋愛経験が乏しい私なんですけどね?!
ちょっと何私テンパってんの、落ち着け、落ち着け!!
「ねえ、僕はまだとても人間として未熟だけれど、頑張って育つから。お願いします、育ってからでもいいよ?僕と恋をしてください、僕はスーちゃんと恋がしたい、スーちゃん、恋をしよう、ねえ、これって恋に落ちてるってことかな?僕はスーちゃんを見るとドキドキするよ、この心拍数はいったい??ちょっと待って、もしかして不具合かも、ヤバイ!!パッチ!!パッチ用意―!!!ああああ!!!トレイ無い!!さっきのとこに置きっぱ!!取ってこよう取って来い!!!」
にゅる、にゅる!!
でろ、でろ!!
じゅぐりゅ、ずるっ!!
にっちにっち、ぎゅるぎゅる…ももも!!!
耳触りの悪すぎる音が!!!
私の両手を包み込む…暖かい手の!!!
袖口から!!!!
勢い良くぅウウウウううウウウウウウウウウっ!!!!!!!
「キぃ、ヤアああああ‥‥!!」
「あれ。」
思わず腰の抜けた私だったけど、やけに力強いアッシュの手はね?!
私を崩れ落ちさせることなく…グイと引き上げて、くれてですね?!
…ねえ、気絶、したかったんですけど!!!!!!!!!