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エコー  作者: たかさば


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35/85

皿洗いが完璧だった

「ええと、これは土鍋、ぐつぐつと煮たりするもの、手で直接触ってはならぬ、落としてはまずい、食べられない!取り皿は食べ物を取り分ける際に使用する、食べられない!レンゲは食べ物を口に入れる時に使うもの、かじるくらいなら多少許される、小鉢は量の少ない食べ物を入れる場所で…持ち上げていい!お皿はおいしいものをドバっと並べる場所、置いたままが基本!お箸は自動で食べ物をくっつけないのでつままなければならぬ、フォークは突き刺して使うべし……。」

「そうそう、ちゃんと理解できたね、じゃあね、今度は使ってみようか。取り皿に卵雑炊入れたから、これを食べてみよう!レンゲを使うよ、どれだったっけ?」


 テーブルの上を見渡して、にっこり笑ってレンゲに手をのばす、晩御飯初体験中の宇宙人!この子、物覚えはめちゃめちゃいいんだよね、ちょっとついでに話したことも、きちんと聞き直したわけでもないのに理解してし。…そうだなあ、ゲームコーナーで頑張ってた時も、今みたいにわちゃわちゃはしてないものの落ち着いてすぐに理解して行動できてたもんね。

 本気を出して学んだら一瞬で正しい地球人になれると思うんだけど、地球に来る前?に学んだ場所が残念すぎて全く物覚えの良さが生かされてない、むしろ邪魔をされてる感がすごいっていうか!!!…これは私がみっちりキッチリ教育しなおしてあげないと!!そしてゆくゆくはどこに出しても恥ずかしくない、むしろ自慢できるくらいの好青年に育て上げ…って!!!私、なんかお母さんみたいになってない?!


「レンゲはこれだ!!ダイサン星人によく似たやーつ!!」

「正解!はい、じゃ、これ…どうぞ!器も熱いよ、端のこの部分を持って…そう、上手!」


 たまに私の知らない知識も披露してくれるんだけど、私はあんまりこう、物覚えに自信がないので、宇宙人の知識を身に付けていくことが難しそうっていうか…うん、あんまり知りたくない知識はね、スルーする方向で行こうかなってね?!とりあえず、目の前の初心者を、一般人レベルに持って行くことが最重要であり!!


 テーブルの上のものは一通り説明した……、いよいよ実食してもらいますよ!


 指導に手抜きは許されない。今後小夏日市、いや日本国内でに宇宙人パニックが起きるかどうかは、私の初期教育にかかっている!


 ……とはいえ、今日はお食事体験初日。多少不安なところはあるけど、あんまり厳しく言うと、食事自体が嫌いになっちゃう可能性も無きにしも非ず…楽しくご飯を食べることをまず知ってもらわなければ。少々のおかしなところは、今後都度直していくことにして、とりあえずおいしいご飯を食べてもらわないとね……。


「いーい?卵雑炊はね、よーくふうふうして食べないと、口の中をやけどしちゃうかもしれないの。レンゲにこれくらいすくって、こうやって…ふぅー、ふぅー…。少し冷ましてから、少しづつ、口の中に入れてみて?」


 左手に卵雑炊の入った小皿を持って、ひとすくいして、ふうふうと冷ますところを見せてみる。見よう見まねで唇を尖らせている宇宙人の様子に、思わず、笑みがこぼれてしまいそうになっていたりして。じっと見つめつつ、動向を見守る……。


「ふ、ふー、ふー!…できてる?!おわわ、なるホロ、表面温度が急速に下がっている、只今の温度およそ60度…ふうむ、これくらいならば内臓の損傷は生じないと思われ!でもスーちゃんが少しづつと言っている、よーし、まずは一粒の米を取り入れてみるべ!!・・・うーん、よくわかんないや、これ味ついとるん?つかもう無くなったよ、嚙んでない、噛む必要はない??ええとー!」


 ものを食べたことのない人に食べ方を教えるのって…こんなにも難しかったんだね……。口頭で説明するだけだと、ちょっと足りない部分があるみたい。見よう見まねで卵雑炊をすくうことはできたものの、それを口の中に入れることがよくわからない?お米の一粒一粒を、丁寧に吸い込んで?いるけど、それ、正しい食べ方じゃ…ない!!


 ……そうだなあ、よくよく考えれば、赤ちゃんだって離乳食の初めの頃って、きれいなスプーンにぎりしめたまま、手でおかゆつかんで顔中にペタペタ塗っちゃったりしてるし、知らないってことは、未経験って言うのは、こういう事なんだ、きっと。…そういえばクッキーは手でつまんで口に入れてたし、アイスクリームは棒についていてなめたりかじったりするだけだったから、勝手も違うよね。アッシュ君は、なんていうかいろんな知識が多い分、余計に混乱する要素が多いんだろうな、たぶん。…なんか、ちょっと気の毒、かも。


「慌てなくても大丈夫だからね、まずは落ち着いてレンゲを口の中に入れる所からやって…そうだ!じゃあね、まずは私が食べさせてあげるから…お口、アーンってしてみて?」

「あーん?なにそれ??」


 ・・・ずいぶん前に、年の離れた弟に食べさせた、離乳食を思い出す。なかなか食べてくれなくて、歩行器のテーブルやフローリングが汚れていくばかりで…すごく大変だったんだ。噤んだ口を開けてもらおうと、一生懸命おもちゃで気を引いたり、変顔をして笑わせてみたり、一緒になって大きな口を開けて頑張ってた、あの頃。何度も何度も、アーンしてって言って、そのうち、自分からアーンするようになって、食べさせてってわがままを言うようになって、私に食べさせるようになって……。ふふ、なんだか、とっても…懐かしい。


「うん、あのね、こうやって、アーンって、お口大きく開けて…そうそう、はい、あーん。」

「あーん。」


 大きく口を開けて見せると、宇宙人は素直に真似をして同じように大きな口を開けた。私は自分のレンゲで卵雑炊をすくって、ふうふうしてから、そっと口の中へ入れて差し上げる…。


「うん、上手…ハイ、お口閉じて、レンゲはかじらないで…軽く唇だけ閉じてね。レンゲ、引っ張るよ、卵雑炊だけ口の中に残るから、それをモグモグしてみて・・・・・・。」

「・・・むぐ、むぐ・・・・・・。」


 …うん、ちゃんと口閉じてむぐむぐやってる、口の中に入れたら、本能?で食べることができるのかもしれない。目を丸くしてもぐもぐやってる、初めて食べたご飯の感想はどんな感じなのかな……って!!!


 ちょっと待って!!!私、今、アーンさせて、食べさせたよね?!じ、自分のレンゲ使って!!!なんかこれってこう、今更だけど、こ、恋人っぽいというか、ラブラブカップルっぽくない?!アッシュ君の手には、レンゲも小皿もあって、わざわざ私のものを食べさせる必要性はなかったのでは?!私と同じようにしてせーので口の中に入れてみようかって言えば済んだ話なんじゃ?!あ、明らかにやりすぎた感!!!今後この私の判断ミスが影響してくる場面が・・・


「んぐ!こりは実に舌の上から臼歯にすりつぶされんと虚勢を張るがごとく口の中で右往左往、縦横無尽、あふれ出す唾液はこのうま味成分を実に的確に包み込み、ごく自然な成り行きでのどの奥に運び込まれた卵雑炊はのどを通り抜け食道を通ってやけに鳴り響いていた胃袋へとゴールイン、なんだこれは!もう口の中にないのに、ほのかに残る幸せの面影!!これが食事、正に、美味しい!!!そうだ、ぎうにうに溶かすあれも、オイシイものとそうでもないものがあって、ヌルい甘味とは違う、温かくて心臓にしみいる感動のオイシイだ!!!ギュおお!!これはウマい!これがおいしい?!スーちゃん、もっと!!アーン、アーン!!!」


 アアア!!!アーンが食べる方法としてキッチリ認識されてる!!食べさせてもらって当たり前の世界が今まさに生まれようとしてるウウウウウウウウウウウウ!!!即刻修正しなければ!!!


「あのね!!アーンは、えっと、最初の一回だけだから!!食べ方、わかったでしょう、アッシュ君の今持ってるレンゲの卵雑炊、今度は自分で食べてみて?レンゲも、小皿も、卵雑炊も、今私が食べさせてあげたものと同じものだよ、一人で食べることができるか、うーんと、見せて欲しいな!お願い!!」

「お願い?うん、わかりた、よーし食べるぞ、自分で、これを口にいれて、ハム、ハム…むぐぐ、ぶぉいじぃいいい!!!」

 

 アアア!!!口の中に卵雑炊を入れた瞬間にすべからく不慣れな宇宙人が感動の気持ちを躊躇することなく口にし―――!!


「食べてる時は口を閉じるんだよ!おしゃべりとモグモグは同時にできないの!!飲み込んでから話すようにしようね?!」

「むぐむぐ、はひ。」


 私はあわてておしぼり片手にアッシュ君に駆け寄る羽目になりイイイイイいい!!!一瞬たりとも、気が、気が抜けないんですけど!!!




「何この顔が真ん中にギュウってなるのは!!でも…ポリポリ、水分の爽やかさと、このもそもそしたやつが…もぐもぐ。食べてると和らいで…むぐむぐ。おもしろい、何これ、これがおいしい?!いつも飲んでるのみたいに最初から最後までおんなじアジちゃうやん、何やこれ!!!もう一個食べたろ、ポリ、ポリ……!!!ふうむ、美味しくないの反対は、こうも豊かな味覚を展開し、実に類稀なる瞬間美という…」


 ちょっと苦戦した部分もあるけれど、実に理解力と応用力?のある宇宙人は、さっきまでの初心者っぷりが嘘のように食事を、料理を、楽しんでいらっしゃる……。完璧なお箸の持ち方、おかずの挟み方、丁寧な箸使いに箸を持たない手の添え方…、美しい所作は、マナー教室の先生に扱かれた成果がばっちり出ているじゃありませんか。なんていうか、ちぐはぐな知識がばっちりかみ合えば、ちゃんとした日本人そのものなんだよね・・・。


 分析したがる傾向が強いのは、おそらく研究者だから?口に出さないと理論立てできないのかな…黙って食べようねって、おいおい教えていくべきだよね。でも、誰かと一緒にご飯を食べるなら、会話も楽しみたいよね……。どこまで線引きをして教えていくのか、非常にこう、難しいというか。まあ、今日は初日、焦っていろいろと制限してしまうより、見守っていく方向で様子を伺いましょうか。


「どう?おいしい?食べたくないものとか、美味しくないものがあったら教えてね?」


 どうやら好き嫌いはないみたい?心配していたきゅうりの梅鰹和えもパクパク食べてるし、ピーマンとひき肉の炒め物も器用に箸でつまんで食べてるし、ささみとアボカドのチーズ焼きもフォークで刺してもぐもぐ食べてる、卵雑炊はもうなくなっちゃったし。……明日からごはん炊く量、倍にしよう。なんていうか、ちょっぴり、食べ足りない私がここに。・・・たまには腹六分目の日があってもいっか。


「どれも食べたい、食べ続けるよ!!スーちゃん、食べ物って、ごはんって、こういうのがおいしいって言うんだね?僕はずいぶんカン違いをしていたようだ、不愉快な咀嚼の反対位置にあるものがおいしいだと思っていたよ。違うね!!おいしいは、オイシイ族にある、実に広がりのある喜びの一部分なんだ!大発見だよ、ありがとう!!ぼくは今後、オイシイを追求し、味覚というものの、オイシイの先駆者になるぞ!!責任重大!!くー!!」


 私の方こそ、責任重大なんですけど?!下手に未熟な料理を食べさせられないじゃない!!今後、全宇宙に私の作った料理の味がおいしいものであると、美味しいものの見本になってしまう可能性!


「これからいろんなおいしいものいっぱい食べて、いろんな味を知っていこうね!」

「うん!めっちゃ楽しみやんな、明日はどんな食べ物に出会えるんだろう、ワクワクが止まらぬ!!・・・あむあむ、これはぎうにうのほのかな雰囲気がある、しかしもう伸びなくなったぞ、温度で状態変化する食べ物、なるホロむぐむぐ……。」


 まずはご飯から始めて、麺類も食べておかないとまずいよね。パスタから始めようかな、ラーメンとかは啜るのが難しそうだし。スプーンで食べる、カレーとかも食べておかないといけないよね、サンドイッチや串ものはたぶん難なく食べられそうだけど……。


 今後のメニューを考えつつ、美味しそうに箸をのばすアッシュ君の様子をチェック…もうじき食べ終わりそう、うん、食べ終わったね。……キレイに食べてる、よかった。私、食べもの残すの…、嫌いなんだよね。


「全部食べ終わったね!じゃあね最後に、お箸をおいて、ご馳走様するよ!いただきますと同じように、手を合わせて、一緒に『ごちそうさま』って言うんだよ、いい?」

「あ、知ってる、食事にかかわるすべての人に、走ってくれてありがとうって感謝するんでしょう、それに対して提供者はお粗末ですって返すと聞いたんだが、これは僕実に遺憾なんだよ、自分の作ったものを卑下するこの態度、実に天邪鬼で素直に美味かっただろうと誇れと常々!!!」


 知識は確かに豊富だけど、微妙にずれている感じはやっぱり否めない。


「そうだね、昔は食材を集めるのにもずいぶん努力が必要で、食材を集めるため、食材を買いに行くため、食材を調理するため、奔走…尽力してくれた人に感謝する挨拶なんだよ。お粗末様でしたって言うのは、何事も謙遜しがちな日本人の謙虚な気持ちの表れなんだけど、最近はあんまり言わない人が多いかな?はい、じゃあ、手を合わせてください?…一緒に、言うよ?」

「はい。」


「「ごちそうさまでした!」」


 ご馳走様をしたら、あと片付けをしなくちゃね。


「今から食べた後の、後片付けをするよ。食器をキッチンに持って行って、洗わないといけないの。」

「はんはん、皿洗いの事かな?僕ね、ラーメン屋の洗い場アルバイト体験したことあるよ!スポンジに洗剤をつけて、円盤をくるくるやって汚れを落とし、布で水分を拭きとり棚に並べる!一緒にやるよぅ!やらせて!やらせてもらわねば!今すぐやる!」


 宇宙人がアルバイト経験?!いったいどこで、…もしやまたバーチャル体験?下手に手伝ってもらったら、三年物のダシの染み込んだ土鍋の息の根が止まる可能性!


「そうなんだ、じゃあね、一緒に洗おうか。まずはお皿とかを移動させるからね、ここのカウンターの上に置いてってもらっていい?」

「はーい。」


 さりげなく、破損してもいい小鉢やお箸なんかを運ぶ手伝いをしてもらいつつ、先に土鍋を洗って、コンロの上に避難させておく。


「全部運んだよ!机の上は、この台フキで拭いておいた!確か、お店でステーキを食べた後、机の上の血しぶきをきっちり拭き清めねばならぬと念押しされたのだ、よーし、いいぞ!…あってる?」

「うん、大丈夫、あってるよ、ありがとう!今から食器洗うから、こっち側に来てもらってもいい?」


 多少ツッコミたい部分はあるものの、今日は様子見すると決めているわけで!!一部スルーしつつ、カウンターに並んでいる食器をシンクに移動させて、アッシュ君を呼ぶ…、広くないキッチンに170センチが二人並ぶと、なんかこう、密室感が。……一人で調理、洗い物してる分には、まあまあ広いキッチンに思えていたんだけどな。


「そうか、皿洗いとは、皿を洗うから皿洗い、なるほど、だからこれは…確かに皿だ!!洗剤は汚れを取るふりした新たな物質付着効果をもってして水で流すフウム実にしちめんどくさいだがしかしこれがこの星の日常…」


 何やら解析しながら食器を洗っているアッシュ君の手つきは実に無駄がなく、しかししっかり丁寧で…完璧。…そうだね、こういうところが、ちぐはぐで実に宇宙人っぽいというかなんというか。おそらく今後もこういう場面が多発するに違いない、心の準備だけはしておかないと!!できているところは褒めて、抜けているところはきちんとフォロー、一気に完成を目指すのではなく、着実に確実に一人前の日本人を目指す方向で!!


「アッシュ君すごく洗うの上手だね!手伝ってくれてありがとう!洗い終わったら、こっちの水切り籠に入れてね。私、ふきんで拭いてくから。」

「はーい♪」


 よくわからない鼻歌まで飛び出してる、機嫌の良さは最高潮らしい…。良かった、ごはんも後片付けも、いいイメージを持ってもらえたみたい!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 35/35 ・正しい地球人というパワーワード [気になる点] こわいでいすねこれ。洗剤のプラスチック容器をかじりそうでこわいです。 [一言] うむ。平和ですな
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