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エコー  作者: たかさば


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31/85

名前が決まった

 ヘタレマックスの情けない物言いの宇宙人ではあるけれど、やっぱりあの強引俺様イケメンと同じ人物であることは間違いないらしい。


 実に豪快になりふり構わず、華奢という言葉とまるで縁のないガタイの良すぎる体を持つ大柄の部類にばっちり所属中の私の手を握って離さずぐいぐい引っ張っていく灰色の頭、頭アアアアア!!!


 ムードのあるリラックスコーナーをずんずん進み、国道沿いの歩道まで出ると、表側のメリーゴーランド入り口前をさっさか通り過ぎ、夜間でチェーンのかかっている商品搬入専用出入り口前をてってけ通り抜け、タワマンに併設されている憩いスペース?らしき場所まであっという間、あっという間に!と、到着っ!!


 ……男子の手って、こんなにも力強いものだったのか。


 地味に手をつないだ経験が乏しくて、わりと、こう、押し寄せてくる戸惑いの中に、少しだけ感動のようなものが、ある。今まで、自分の進みたい方向に自分の意志で自分の足で進むことはあったけど、誰かに自分の進む方向を決めてもらった?進まされた?自分の意志がない状態で移動するような事って、初めてかもしれない。なんていうのかな、自分という人間が……、誰かに動かされている、誰かが動かしたいと思ってくれた、必要とされてるって言う、実感?困惑はしている、だけど、どこかで、喜んでいる私が、確かにいる……。


「あのね、ちょっと見せたいもんあるで寄り道してこ!ふふ、スーちゃん驚くぞ、僕の事見直す、チャンス到来!!!マジベタ惚れされたらどうしよう、そしたら一気に星まで連れて帰ってぎゅふふ!!!」


 でも、ドン引きしている私の方が圧倒的に多いっていうか―――!!!何やら悪代官みたいな表情が、同じ目の高さに、真横にね?!こんな顔見たら絶対見直せないじゃないの!!!


「あのね!!私家に帰らないといけないんだよ?!おかしなこと考えてるんなら、帰ります!!!」

「何も考えてないよ!!しまったなあ、やっぱ不具合だ、すぐにぺらぺらと口が滑ってこれはまずい、一刻も早くメンテナンスを、だがしかしやらかす可能性を考えるとうググ……むぐむぐ。」


 暴走しがちな灰色頭は、つないでいない方の手で大きな口を抑え込み、大きな扉の前で立ち止まって何やらぶつぶつ言っている。なんかいろいろ大変そうだなあとは思うんだけど、イマイチこう、親身になり切れないというか、絆されたら秒で自分のピンチにつながりそうっていうか。やばそうなら隙を見て逃げ出すくらいしか、自衛の手段がないんですけど。


 ……とはいえ。塩対応するのもかわいそうって思うんだよね……。基本的に、悪い人ではないんだよ、ただ、非常に、常識を逸脱しているというか、信じられない行動をするというか。まあね、宇宙人だもんね、そりゃあ常識ないよね、仕方ないよね、うん……って!!!こういうとこ、こういうところが私、絆されてるって言うんじゃないの?!


「ここから入ると、住民専用の公園があるんだよ。外からはあんまり見えないでしょう?見えたらヤバいもんを微妙に絶妙に木々で隠しつつ、ここでは常日頃生物研究や実験が繰り広げられているんだ。でね、僕は何をここに放っているかと言いますちょ!」


 ピッ!


 アッシュ君に左手を握られたまま、微妙に頭の中でテンパっている私の目の前で、大きな扉が開いた。扉の向こうには、緑豊かな公園?が広がっている。扉と同じ太さの舗装された道がタワマンまで続いていて、花畑や噴水、ブランコなんかもあるみたい。街灯が少し落ち着いた色合いだから、微妙に良く見えないけど……。


「さ、入ってくんろ!あのね、今僕がカードスキャンしたでね、この公園内は今宇宙人仕様なんだ!宇宙人の記憶封印してる人がスキャンして入るとね、ここはただの公園でしかないの。今扉が薄く緑色に光ったからね、僕らしかいないってこちょなの、フフフ、いいぞ!二人きり!!アアアでもね、出るときはドアの前に立ったら自動ドアになってるから安心して出られるよ、だから僕スーちゃん監禁してないの、変なことしないし、心配しないで今すぐ入れ!!」


 多分言いたいこと、伝えたい事、企んでることに言い訳したい事、うれしいことに期待してる事その他もろもろ溢れちゃってるんだろうなあ……。実に饒舌に絶妙におかしな言葉遣いでぺらぺらと!!ちょっと不安も多いけど、まあ、ここは度胸を決めて、中に……入る!


 かしょん。


 扉が閉まった。……アッシュくんの言葉を信用してないわけじゃないけど、念のため。つないでいた手を離して、閉まったドアの前に立つ。……うん、ちゃんと開くみたい。


「ほら、ちゃんと開いたでしょ!安心してよ、僕ね、基本的にスーちゃんがさらってくれって言うまでさらうつもりないから!いつかきっと言わせて見せる、言ってもらいたい、言わせなければ、言ってくれるよね?言ってくれるに違いない、ねえ、今すぐ言ってもいいよ!!!」

「言いません!!!」


 実にテンションの上がっている宇宙人を目の前に、気を引き締め直した私、私いイイイイイ!!!……うん、ここはいったん落ち着こう、焦っておかしな言動をして、ますますテンションを上げてしまうようなことがあってはならない。私は深く息を吸い込み、ふうと息を吐いて、改めて辺りを見渡しながら、一歩、二歩と、前に進む……。ベンチもたくさん置いてあって、晴れた日にはちょっとしたお散歩や日向ぼっこができそうな、絶妙に広くて、狭すぎない、いい感じの……うん?


 なんか、奥の方から……こっちに向かってくるものが……猫?にしては大きいな、いや、結構、おおきいみたいな気が。



 って、ハイ?……はいイイイイイイイイイイイイイイ?!



 ざっしゅざっしゅ、ばっさばっさ!!ばさささささささ!!!


 お、大きな木が、葉っぱ?をまき散らしながらこっち、こっちにやってくるぅウウウウウウウウウ!!!!!!!!!!



「この子ね、スーちゃんねめっちゃ会いたがってたの、ちゃんと育ててねって僕言われたからね、はりきって筋肉細胞移植して育て上げたよ!どうだ、この筋肉!!ぼっこぼこやろ?!他に類を見ない……ええとー、板チョコメロンって言うんだっけ?こういうの!!!」



 バ、バッキバキに仕上がってる、ゴリマッチョ体形の、ぽ、ポインセチアああああアアアアアアア!!!!



 幹にはばっちり板チョコ(注:筋肉のポコポコ)がみっしり!!贈答品でしか見たことの無いまんまるハムみたいな枝にはジープ(注:筋肉の塊)がしっかりのっかってる!!!まさに全身鬼!!メロンも真っ青の浮き出た血管…葉脈?!いやいやあれは葉っぱにあるやつで!!じゅ、樹皮に浮き出るホースみたいな盛り上がり!!ナイスチョモランマ、ナイスカーフ、ナイス、ナイスナイス、ナイス!!!仕上がりすぎててキレッキレで根っこのあたりは収穫時期を一年ぐらい逃がしたニンニクみたいになってるよ、土台が違い過ぎて土台、土台!!僧帽筋が腹筋してるっていうか、ねえ、そもそも前とか後とかあるの?!し、仕上がりすぎてて怖い!!手榴弾も真っ青の、全身ゴリマッチョ、マッチョおおおおおおお!!!


 ぶわっさ、ばっさばさ!!ギギ、ぎぎぎぎぃイイイイ!!!


 頭の真っ赤な葉っぱを誇らしげに揺らしながら、四本の太い枝を絡ませ、さ、サイドチェスト?!ダブルサイドチェストぉおおおおおおおおお!!!さらに、ダブルダブルバイセップス・フロントからの、クルリと回って、バックもォオオオオ!!!こっちが裏側だったのかああああアアア!!!


「これじゃ、ポインセチアじゃなくてゴリマッチョじゃない!!!可憐なお花が、クリスマスの象徴が!!!なんて事したの、なんて事してくれたのよ?!」

「うん?普段はここで毎日筋トレしながら、付近の警備をしていてね、実に良い保安官だよ、この前も不法侵入者を捕縛して大活躍!!彼女はおそらくこの場所をきっちり守り続けて下さるのだ!」


 毎日筋トレ?!付近の警備?!大活躍?!彼女?!女、女子だったのか、この子ォオオオオ!!!そういわれてみれば、どことなくウエスト部分がくびれているような気もしないでもないって、違う、そういう事じゃ……ない!!!


「元に戻してあげてよ、ポインセチアの正しい姿ってね、こんな2メートルもある大きな木じゃなくてね、鉢植えの中でかわいく色付いている、聖夜に相応しい、祝福という花ことばの似合うもっとこう……」

「ええー、元に戻すの?こんなに頑張って筋トレして育ったのに。スーちゃんに見てもらうんだってものすごく張り切ってたんだよ?」



 バサ、バサ…ぱさ、ぱさぱさ……。



 ああああああ!!!

 ポインセチアの燃えるように赤い樹冠部分から!!

 一枚二枚、三枚四枚と大きな葉っぱが落ちてゆくぅううううウウウウ!!!


「あーん、傷ついちゃったじゃん、スーちゃん、ヒドイ……。」


 わ、私が悪いの?!四本の枝をぐったり垂れて、ふにゃりと腰を折っている、ぽ、ポインセチア!!!頭の赤い葉っぱもアアア!!あと二枚しか残ってないイイイイイイイイイイ!!!


「違う、違うの!!!ここまで筋肉育てるにはね、眠れない日もあったよね?!わかる、わかるよ?!無駄のない、育て上げた筋肉にぴったり張り付く樹表、ホントにほれぼれする!!こんな筋肉博覧会、見た事ないもん、見せてもらって貴みすら感じる、努力は認める、すごいと思う!イイもの見せてくれてありがとう!!!でもね、地球上にはね、筋肉を持ってるポインセチア……植物なんて存在してないの、だからね、見つかったら即刻捕獲されて解剖されちゃうんだよ、せっかく大きく育ったんだもの、いつまでも元気に光合成してほしいの!!穏やかに植物としての命をね?!」


 私の言葉を聞いたポインセチアは、勢いよく体を起こすと……薄茶色の筋肉、いや樹表を思いっきり見せつけて、四本の枝(注意:超太い)で、ダブルダブルバイセップス・フロント!!!頭の上の二枚のおおきな赤い葉っぱが、実にリボンのようになって、かわいいと言えばかわいいけれどもぉおおおおおお!!!


「大丈夫だよ、普段はあっちのブランコ横のソテツおじさんと仲良く日向ぼっこしてるもん。ただの木にしか見えんて!!……良かったね、スーちゃんに褒めてもらえて!!うんうん、フムフム、わかった、聞いてみるね?」


 ばっちりポージングを決めるマッチョの横で、何やら貧弱に見えてしまう男子が頷いている。なに、宇宙人は植物とも会話できてしまうんですか、それともおかしなテクノロジーの賜物で会話が可能なんですか……ああ、混乱がすごすぎてどこをどう突っ込んでいいのか、いや、突っ込んではダメだ、下手なことを言ってまたおかしなことになったらどうするの?!もう今現在この瞬間最高ランクでおかしなことになっているというのにぃイイイイ!!!!


「この子ね、スーちゃんに名前つけて欲しいんだって!ぼくさあ、名前つけてあげたの、……(声にならない声)って!!!でもね、気に入らなんだで、プンプンなんだよ、だからお願い、ね!!!」


 またよくわかんない発音、キター!そうだね、宇宙人には、日本語の名前つけるの難しいかも?……ここで断ったら、今度はあの二枚の葉っぱまで落ちてしまう、ひょっとしたらおかしな名前にショックを受けて落ちる可能性もある!!し、慎重に女子の喜びそうな名前、かわいい名前えええええええええ!!!選ばないとっ!!!責任重大いイイイイイイイイイイ!!!


「ええとー!!ポインセチアの花ことばは、祝福、聖夜、幸運を祈る、私の心は燃えているだったかな?!イブ…うーん、ラッキー、そうだ、燃えてる、モエってどう?うん、モエちゃんにしよう!!」


 こっちに走ってきていた時はフサフサだった真っ赤な葉っぱが、今はたったの二枚。燃え盛るように生えていた葉っぱが、再びまた生えてきますようにという願いも込めつつですね。……だって、私の軽率な一言が、この惨劇を引き起こしたって事でしょう?!罪悪感がハンパないんです、せめて願いを込めるくらいして差し上げないと!!!


 よ、喜んで、くれた……?ちょーっと、下の方から、マッチョなポインセチアを、見上げると……。


 ギギ、ぎぎぎぎぃイイイイ!!!ぎい、ぎぎぎい!!


 ラットスプレッドからのダブルバイセップス、さらにサイドチェスト、サイドトライセップスと続き、そしてモストマスキュラー……なのでしょうか……。いまいちこう、見分けがついていないのは、許していただきたいんですけれども。


 ……だって仕方ないでしょ、人間のボディビル大会だってまだ一回しか見に行ったことないし。掛け声だって一回も言った事ないし。プロテインメーカーの露木さんぐらい知識と経験が豊富だったら、見分けもつくとは思うんだけどね、あいにく彼はここにはいないし、来る予定もないわけで……。


「やった!大喜びだ!!モエちゃん?いい名前だ、さすがスーちゃん!!!」

「喜んでいただけて良かったです……って、は、はい?!」


 ぽっこぽこのちぎりパンだらけのマッチョボディのボンレスハム枝が!!!私の手を取り、愉快なダンスを踊りだし―――!!!


 なんで私、一緒になって謎のダンス、踊っちゃってるのぉおおおおおおおおお?!

 でも、でもでも、ここで手を振り切ったら、今度こそ頭の二枚の葉っぱが!!!


 ……振りほどけない!!!


 私は、モエちゃんの気の済むまで、ダンスを一緒に踊る羽目になり―――!!!


 ひ、疲労困憊なんですけど!!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 31/31 ・マッチョォォォォォ!!!!!  これにはビックリだッ! [気になる点] 永久保存版にちがいない、そうにちがいありません。 [一言] 彼女、自動車ぶっ潰せますよね。余裕で
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