会話が再生された
「フウム、アイスとは、表面温度と気温の差により融解した部分を舐め取ることでうま味を体内に取り入れるのか、しかしかじって飲み込むとこうも危険だとは思わなんだ!!うーん、しかしこの実に纏わりつくような脂分と糖の結合、なるほどこれはなかなかの…ペロ~ん、むぐむぐ、ガジガジ……!!!」
頭痛の消えたらしいアッシュくんは、何やら考察しながらアイスを食べている。一口目こそものすごい食べ方をしてダメだこれって思ったけど、わりと普通に上手に食べることができてるみたいでよかった。なんていうか、その……アイスの食べ方を教えるのって、こう、ちょっと、私にはハードルがね?!舌を使って、な、なめるとかっ……高すぎるっていうか!!!……ちょっと意識しすぎ?いやいや、喪女だもん、焦るでしょ!!ベンチに並んで座りアイスを食べつつ、一人顔を赤くする私がここに!!
「この骨格は食べられないと言っていた、ええと、でも記念品だ、持って帰ろう。これを収集すれば、組み上げておそらく宇宙ステーションでθЯЖ≡3捕獲に活かせそう、よしおよそあと300本、はりきって収集するぞ!!ねえねえ、スーちゃんの骨格も食べ終わったらちょうだい?」
実にキラキラした目で、壮大な計画を練る宇宙人がここに!!!ただのアイスの棒が宇宙に飛び立つとか、まるで想像もつかないんですけど……。
「あのね、この棒はアイスを食べる時に便利なように作ってあってね、食べ終わったら捨てるように作られているの、だからあそこにあるごみ箱に入れるのが正しいんだよ。それでも、欲しいの?」
何でもかんでも記念品だと言って持ち帰っていては、家の中がごみ屋敷になってしまいそうで心配というか。まあ、タワマンだから相当広いお部屋なんだろうけど、足の踏み場もないくらいに物があふれるようになってからでは遅いっていうか。……ごみは、貯めないのが一番なんだよ、ホント。
「ええ、そうなん?こんなに絶妙に吸着成分を含んだ物質を、皆さんは惜しげもなく廃棄しているちょな!ふうむ、知らぬという事はこれほどまでに罪深き。……そうか、だから二点間輸送が進まず、さらに信号としてのЯ⊿θ※▽ⅹ、さらにはθЯЖ≡3をはじめとするうぐぐ、だがしかしここで余計なこと言って☆●#@∬を凌駕しЖΘ〇ⅹΔ%#の逆鱗に触れるとやばい、でもスーちゃんだったらいいかなよしいってしまえあのね……。」
どうしよう、毎度のことながら、何言ってるのか全然分からない!!
「もう少し人間の生活に慣れてから、収集を始めたらどう?」
下手に好奇心のある様子を見せたらまた暴走するに違いない、ここは落ち着いて話をずらしていくのがベターと思われる……。にっこり笑って、少しづつ暴走の欠片を回収、回収……。
「慣れるってどのくらい?これ捨てたら、集めてもいい?どの辺が僕知識足りないんだろう、教えて!!」
全体的に知識が足りないとはとても言いにくいわけなんですけれども。……傷つけないように、暴走しないように、テンパらないように、細心の注意を払いつつ言葉を選んでいかないと!!アッシュくんのやらかしは即人類の未知の扉フルオープンに繋がり、凄まじい文明パニックをもたらす事必至!!私の言動ひとつで、最悪小夏日市がミステリースポット認定される可能性!!
……重い!責任が、重すぎるぅうウウウウウウウウウ!!!!
ガンバ、ガンバだよ、直!!!!ここで挫けたら、とんでもない国家間の争いが勃発する事になるかもしれない!!
「何もかも手を出してたら、ぜんぶがいいかげんになっちゃうかもしれないでしょ?あのね、私は、ひとつひとつ、着実に、知識を増やすお手伝いをしようと思っているの。」
「でも!!早くいろんなこと覚えて、いろんなかっこいいとこ見せて、一刻も早くスーちゃんに僕の良さ知ってもらって恋に落ちてもらわなければ困ってしまうのだ!ぼくの僕足る僕という僕が僕として僕はね?!」
落ち着いて対応してる分には、ずいぶん心を揺さぶられているわけなんですけれども。
強引に攻められる分には、こっちの方がテンパって逃げ出す羽目になってるわけなんですけれども。
……とはいえ、今は超絶ヘタレマックスのやらかし宇宙人。ここは私が落ち着いて……地球人としての風格を見せなければね。
「慌てたり、焦らなくても大丈夫だよ!誰だって初めてのことってあるの、少しづつ学んで、少しづつ成長していけばいいんだよ。何度だって教えるし、絶対に見捨てたりしない、だから安心してゆっくり知識、付けていこ?」
「でも……。」
う、上目遣いの、捨て犬顔っ!!!その、涙のにじんだ顔は、超絶、クルものがあるんですけどっ?!
「魅力的になっていくアッシュ君を見ていたら、気が付かないうちに、その、私が……こ、恋に落ちてる可能性だって、あると思うよ?!」
わああアアアアアアア!!私何言ってるんだろう、ええとー!普通、なんていうんだろう、恋をする時っていうのは、こう、相手に全部筒抜けな感じで相手に恋をする宣言みたいなのってする?!しないような気がする!!とはいえ、出会いからしてとんでもなかったわけで、宇宙人相手に普通を求めるのもおかしな話で、でも普通の人間として生活をしないとまずいしって、あああ、やばい混乱が!!!
「……うん、わかった。じゃあ、いろいろと、僕に教えてください。骨格は捨てるね?一緒に捨てに行こ?さあ、手をつないで、捨てる場所へ!」
はりきって左手を差し出してますけどね、ここから三歩の場所にゴミ箱はあってですね。
……まあ、いっか。私はチョコミントアイスの最後の一口をぺろりと舐めると、差し出された手を握ってベンチから立ち上がり、骨格を捨てた。
「グぬぬ……二歩しか手を繋げないぞ、なんてこった、あわよくばこのままアンタレスあたりまで連れまわそうと思ってたのに計画、計画っ!!!」
ゴミを捨てて再びベンチに腰を下ろすと、なんだかとんでもない独り言が聞こえてきたんですけど!!!うっかり付いて行ったらもう二度とこの場所に帰ってこれないやつじゃないの!!!
「ねえ、ところで……さっきニシとアッキーと話してたよね?ええっと、その、何話してたのかなって!!!」
怪しげな計画は即刻芽を摘むに限る。別の話題を持ちだして、平和に穏やかに乗り切ることを試みる……。実際、何話してたのかも気になるし。まさか僕宇宙人なんですとか言ってないよね?!スーちゃんと恋するんですとか言ってないよねえ?!
「うん?ああ、ニシとアッキー!話したよ、ええとね、ちょっと待ってね、再生するで!!」
「……再生?」
アッシュ君がパッと手を開くと、ペラペラのタブレットがシュンと現れ、現れっ!!!
ねえ、今どこからこれ出した?!どっから飛び出した!!!思わず周りをきょろきょろと見まわし!!よし、誰も見てなかった、だ、大丈夫だよね?!
って!!!!!!!!!!!!!
目、目の前に、ニシと、アッキーの姿ああああああああ!!!!
はい、はい、はいぃイイイイイイイイイイイイイイイ?!
『あ、今日入ったゲームのイケメンじゃん!ねーねー、あたしレジの秋野ってユーの、アッキーって呼んでね!!」
『あっきー?よろしくお願いします、ぼくは灰島…」
『ああー知ってる、ちゃんと覚えてるって、ハイジだな!!灰島君は、ハイジだ!!俺はねー、ホビーの蜷川、みんなにはニシって呼ばれてんのー、よろ♡」
『ハイジ?僕のこと?」
『そーそー♡俺の事はニシって呼んでね!一緒にコンパとかいこーよ、絶対もてるやーつだ♡」
『ニシ!よろしくお願いします。」
『キャハハ!!ちょー真面目wwwなのにカラコンとかウケるwwwなに、イキってんの?これはいじりがいありそー!ねね、ラインこーかんしよ!」
『今交換できるものもってないです。」
『まじで?!スマホ持ち歩かないと不安じゃないの?!」
『ウケるwwwじゃー、今度持ってきてね!!!」
『はい、わかりました。」
『あ、やべ!さりなん、もー来てるって!!!駐車じょーいそご!!ハイジ、またねー!」
『マジで!あいつ飢えすぎだろ!!!じゃ―ねハイジ―!!」
『さようなら。」
チャラい姿は、パッと消えてしまった!!!
何これ、ええとー立体映像?!どこから出てきた?!アッシュくんが出てきてないところを見ると、見ていた状況を映し出したんだろうか。気になるけど、聞いたらそれこそ五時間くらいかけて理解できない説明をされちゃいそう、き、聞けない!!!
こんなにヘタレ地球人初心者なのに、ものすごいテクノロジーをさらっと使いこなすとか、もうね、ホント毎回毎回ついていけないというか、ついて行ったらいけないというか、ついていけるようになるんだろうかとか、ついていきたいって思うようになるんだろうかとか混乱、混乱がああああああああ!!!でもここで私が取り乱したら、誰が場を収めるというの!!駄目、諦めちゃダメよっ!!ガンバ、ガンバだよぉ、す、すなぉおおおおおおおおおおお!!!
「どお?僕ちゃんと会話できてるでしょ!これでもね、地球人会話教室で優秀をもらってるんです、ええとね、スーちゃんを前にするとおかしなことになってしまうけど、実は僕できる人なの!!」
確かにちゃんと会話はできている、でも、どう考えても、優秀な成績を収めているとは思えないわけで!!会話教室の責任者に小一時間ほど説教をしたいというか!!!
「えっと、今のは、録画?あのね、こういうのって、あんまり外で無防備に出さない方がいいよ、ほかの人が見たらびっくりしちゃうの。」
「録画……いや、今のは%☆△2ЖΘ◎…時間をまとめて、うーん、何いていうんだろ、いわゆる、幻、いや、残像の方が等しいかも?これはぼくが作った?利用したものなので、許可した人間つまりスーちゃん以外には見えないから安心したまえ。」
いまいち安心できない。むしろ不安が!!!でもここでその旨伝えてしまったら、また言い訳を兼ねた暴走が始まっててんやわんやの大騒ぎになることは避けられない!!ここは引いて、様子を見るしかない。
「そっか、なら、安心だね!ええと、会話は上手だと思うよ、何かわからなかったこととかある?」
「交換するものがわからない?あのね、スマホは今人肉社長に発注してあるんだ。多分今日もらえるんだけど、それ以外にも必要なのかな?足りないもの教えて欲しいな。スマホの使い方教えて欲しいよ、分解したらやばいんだよね?なんか時空超えると暴走してブーストがかかってねじれて最悪吹っ飛ぶって聞いてるんだけど、聞いたことある?」
聞いたことあるわけない!!!スマホは安全性の高い、今や地球人の二人に一人が持つ文明の利器で!!!
「聞いた事ないよ、じゃあね、明日一緒にスマホの設定しようか。一緒にやってあげるから、使い方学ぼ?うん、そうしよう、そうだ、ついでにお買い物も勉強しよっか。アッシュ君お財布持ってないよね?一緒に選んで、お買い物しよう!」
そういえばお昼にドライブ行きたいって言ってたもんね。ちょっと遠出したら、知り合いに会う可能性もぐっと減るし、多少やらかしても大丈夫と思われる。朝一から高速に乗って、お気に入りの蟹菜SAでいや、海杉SAもいいな、あそこはドジョウがおいしくて……。
「えっ!!スーちゃん、一緒にお買い物してくれるの!!やったぁ!!!じゃあね、明日お迎えに行くよ、ねえ、おうち教えて、僕マイカーでお迎えに行くから!!あのね、僕ちゃんと運転できたよ、ホントだって、見てみれ、いますぐみせるではよはよ!!!」
急にテンションの上がったアッシュくんは勢い良く立ち上がると、私の手を取ってグイと引っ張り上げて、ご、強引に!!!ヤバイ、荷物、荷物持って行かないと!!
「え?!ちょ、ちょっとアッシュ、アッシュ君?!」
わアアアアアアアん!!!
私、これ、さらわれてない?!




