宇宙人がテンパった
襲い来る、内臓色の触手!!!
思わず、目を、ぎゅうと閉じ!!
胸の前で、こぶしを握り!!
ヌルヌルのでろでろのぐっちゅぐちゅのベッタベタになることを予測&身構えたわけだけど!!!
にゅる、にゅる!!
でろ、でろ!!
じゅぐりゅ、ずるっ!!
にっちにっち、ぎゅるぎゅる…ももも!!!
・・・ぴたっ!!!!
私の目の前、一センチ…ええっと、一センチ離してね?!全身を…覆われてるっていうのかな?!
触れてはいない、けど私の体をくまなく囲まれてる感じ?!くしゃみでもしたらべちゃっといきそうな、妙にきっちりとした圧迫感!!!
…ねえ!私気絶していい?
でも!!気絶したらヌルヌルのぐっちょぐちょのでろんでろんがっ!!!!
うっ、動けないっ!!!!!!!!!
「ぼ、ぼぼぼぼぼくはですねっ!!!ええと、あなたに出会うために遠く離れた場所からはるばるやってきましてですね、ええと、職業は研究者で、初めましてこんにちは、僕は僕です、ええと、よろしくね?!」
アガってんだかテンパってんだかわかんないけど、ヒドイ、ひどすぎる!!
出会う?
何言ってんのこの人…って、人じゃないよね?!
この…目の前に広がる、内臓色の壁はっ!!!
「あの!!!逃げないので、この状況、どうにかしてもらえませんか!!!!人と話すときは、目を見てってね?!せめて視界を返してくれないと、話を聞く気になれないんですけど!!!」
話を聞いたところで、こんな怪しい危険な残念な人とかかわりを持ちたいとは思いませんけどね?!
私の言葉に、目の前の触手は瞬時に引っ込み…って、どこから出てきたの、どこに消えたの!!!
「はひっ!!!すすすすすすみませんぐっ、落ち着け、落ち着きんだ、気持ちの伝え方は学んだじゃろ?まずは名乗って好きという気持ちっ!!ええと、ワタシハウチュウジンダ、ナカヨクシヨウ!!!」
…うわぁ。
「ワレワレハ、チキュウジント、ユウコウカンケイヲ、ムスビタク、ハルバルココニ、ヤッテキタ・・・「あの、普通にしゃべってもらっていいですか、さっきまで普通だったですよね?」」
……あれ。
なんで黙ってるんだろ。
…黙ってると、めっちゃかっこいいのにな。おしゃれなグレーの髪が、ふわりと風に揺れて、やけにはっきりくっきりした二重の大きな目が…私を、まっすぐ、見つめて、いる。
…見つめながら、何も言わずに?????
おかしなイケメンは、両手を、何やら上下左右に動かし始め…って、何やってんだろう。
なんかこういう動き、人気のダンスグループのライブ映像で見たよ?
「いろりろ手違いがありるれろ!!!ええと、僕は、サジ=ふるんふるん=バーバキュー=麗しの人間=はみゅ=はみゅ=モーダカラ=ザブン=☆▽%=244948974278=…ええと!!全部言ってたらたぶん一日かかると思うんです、ここは時間の概念がね?できたら僕の事は…と呼んでください!!ええ、…です、…!!よろしくお願いします!あの、ええと!!あなたのお名前、お名前をぜひ!!というか、教えてくれないと僕は、僕はあアアアアアアア!!!」
なんか頭抱えてるけど……、肝心の名前が全然聞き取れない!
なんて言ってるんだろう、私の耳がおかしい?……いやまさか。
「樫村直です!!!あの!!!名前、よくわかんないです、何言ってるのか理解できない
「わああああアアアアアアア!!!マジかっ!!!あんの人肉スーツの社長めえええええ!!!イケてる名前って言ってたくせにぃイイイイイイ!!!」」
・・・なんだろう、私、この人?宇宙人?と意思疎通できる自信、一ミリも無いんですけど。
未知との遭遇って、もっとこう、厳かというか、神秘的というか、感動的というか、心に響くものがあるとばかり思ってたんだけどな。これが予想と現実の違いって事かな、なんか切ない。
私の心のうちをまるで知らないであろう見た目だけイケメンは、頭を抱えながら派手にじたばたしている。なんだろう…、この動き、見たことあるような。…ああ、いつもほうきで掃除してるアニメのおじさん、こんな感じの動きだった。ほうきがないとホコリが舞うだけなんだね、光の射しこむ小屋の中で…、細かいホコリがきらきらと輝いてるよ。…家帰ったらすぐにお風呂入ろう。
「あの、私、申し訳ないんですけど、あなたの言ってることがわかりません、もっとあなたを理解してくれる人がほかにいると思います、あの、助けてくれてありがとうございました…。」
テケテケしてるイケメンにお辞儀をして、さりげなく去ろうと、試みる。
興奮させたらまたあのおかしな触手が飛んでくるに違いない。ここは穏やかににこやかに、事を荒立てることなくスマートに立ち去るべき案件とみた。
…私の得意とするところですね!!!
ニッコリ笑顔を向けて、イケメンを見つめてと。
じーっ………。
ああ、この人の目、瞳が濃いめのグリーンで、黒目と白目の境が濃いグレーなんだね。めっちゃ珍しいカラコン?いや、自前?…まぁいいや。
…真心を込めて真摯に向き合えば、おかしな人にだって……ちゃんと思いは伝わるのですよ。
……ほら!じたばたしてたのがおとなしくなった!
接客部門でベストワン賞を取った対人スキル、なめて貰っちゃ困ります!
「・・・はい、素敵です、ずっと、君だけを、見つめてきて、良かった。」
おかしな宇宙人も、私の対人スキルの前じゃ、へのへのカッパってね?!
落ち着いて話せるようになったじゃない!さすが…私!!!
「はは、そうなんですね、知りませんでした。」
私は初めてあんたに会ったんだけどね!
なんか絶対勘違いしてるよ、この人。良かった、人違いで。
否定して深追いしたら逃げられなくなるパターンだよね、余計なことは言わずに…さっさと立ち去ろう。
「僕は、地球に初めて来たので、まだ何もわかっていません。」
「そうなんですね、じゃあ今から色々と体験していくんですね、楽しみですね!」
話の流れを折らないように、盛り上げるように。
「ずっと、観察してきました。勉強を重ねてきました。やっと、この場に立つことができました。」
「そうなんですね、お疲れさまでした。」
労いの気持ちを忘れずに。
「ずっと見てきたこの場所に、やっとたどり着いたんです。」
「無事に到着してよかったですね。」
共に喜ぶ気持ちを大切に。
「僕を虜にした君に出会うために、僕はずっとエコーを飛ばしました。」
「…はい?」
話す内容に理解を示しましょう…って、はい?
今この人なんて言った?虜にした?何言ってんの??エコー?飛ばす?
「エコーをすべて飛ばし切ったので、回収したいと思って、思い切って移住申請書を出しました。」
エコーって飛ばし切れるもの??
ただのこだまの事じゃ?移住申請???
「ようやく許可が下りたので、晴れて人間デビューすることになりました。」
許可???
人間、デビュー???
「でも、少し…不手際があって、うまくいかない部分があって。」
「ちょっと待って、あの、私全然理解が…
ザ、ザザっ!!
「おっ!!!今日も早いねー!!!スーちゃん‥‥って!!ごめん!!お邪魔だったかな!!!」
「あらやだ!!!伊関さんってば若い子の逢引の邪魔なんかしてっ!!!」
「藤本さん!!スーちゃんの彼めっちゃイケメン!!!」
「あらやだー!!こりゃイケメンだわ!!!」
「おいおい!!わしという彼氏がおるのに浮気かぁー?!」
「干からびたじじいは黙っときなさいよ、ぎゃははははは!!!」
ぎょーーーえーーーー!!!!
観瑠駈山山岳クラブのおじちゃんおばちゃんたちが!!!
パワフルすぎるこのクラブの皆さんはですね、私の顔なじみで仲良しで飲み仲間で…うわあああん!!!
今、絶対に…カン違い、盛大に、されてるぅううううう!!!!!
「ち、違うの!!この人はね、ええと、最近こっちに引っ越してきたばっかの…ええと、ええとー!!!ぐ、グレー、いや、ア、アッシュ!!!アッシュくんです、な、仲良くしてあげて?」
まさか発音できない名前の宇宙人なんですとも言えず、とっさに適当な名前をね?!
だってこの場合仕方ないでしょ?!
ちょっとあなた話し合わせてねって気持ちを乗っけて、同じ高さにあるよくわかんない色したでっかいお目目を見つめたらですね!!!
にっこり笑って、こくりと頷いて、興味津々の山岳部メンバーに向かってお辞儀をしぃいいいいい!
「よろしくお願いします。」
落ち着き払った声で、ものすごくいいお顔して…おじちゃんおばちゃんたちに挨拶してるんですけど…。
ちょっと!!!
つい今さっきまでのテンパりっぷり、ヘタレっぷり、いったいどこに行った!!!