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エコー  作者: たかさば


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28/85

迎えがきた

「え、何、じゃあ古い奴は全部廃棄していいの?」

「うん、新しく出すやつ全部ここによけといてあるからさ、今から古いの全部下げて、店名書いて防犯タグ付けて、チェーン付け替えてほしいの。」


 夕方四時半、ヒロシが出勤してきたので、やってほしいことをきっちりと申し伝える。週末、イベントで大勢のお客様が来ることが見込まれるので、今棚に並んでいるサンプル品を一掃することにしたんだ。古いのや壊れてるの、動きの悪いの、そういうものを、たくさんのお客さんに触らせるわけにはいかなじゃない?本当は自分でやるつもりだったんだけど、思いのほか時間が足りなくなっちゃって、入れ替え作業ができなかったのよ……。


「おけ、たぶんやりきれる……かな?」

「今日ゲームコーナー18:00-20:00だったよね?」


 この所のゲームコーナー要員不足でヒロシは遅番帯出勤の時はいつも五階に借りだされてるんだよね。地味にちょっとこう、スポーツコーナーに対する圧迫が多いんですけども。……まあ、困ったときは、お互い様だし、仕方がない。


「うん、今からやればすぐ終わるし、そのあとはモップやっとくわ。んで、明日はどーすんの。」

「明日は倉庫の整頓またお願い。プロテインが木曜にかご台車で三つ分来るから、ホビーの荷物をどかしつつ場所を作っといて欲しいな。たぶん明日も店長は仙谷さんの残した荷物の後始末やることになると思うから、その手伝いしてあげてくれる?」


 今日一日、店長と蜷川君が頑張ってたけど、やっぱり荷物は全部出しきれず、イベントコーナーにはホビーのかご台車が三つ置いてある。私もPOP描き終わった後、倉庫に眠ってた出せるくせに出してなかったストック品とか発掘したりしたんだけど、全くこう、歯が立たなかったって言うのかな、やってもやっても終わらない、アリジゴク的な、抜け出せない在庫地獄にですね、見事に引きずり込まれてですね。

 本当は納品物を段ボールのままお客様の目につくところに置いておきたくないんだけど、倉庫に入りきらないんだから仕方がない。明日、店長がホビーコーナーのレイアウトを組み直して、ぜんぶ並べてやるって豪語してたけど、どうなるのか心配で。だって、出しきれなかったら、三階倉庫がまたあふれることになるわけでしょ?


「ええー、クソホビー?!も~さ、俺あいつの手伝い、したくねーよ!!!昨日もさあ、めちゃくちゃだったじゃん!昼間あんだけ暴れたくせに夜のこのこ来たらしいじゃん、聞いた?ものも言わずに帰ってったって話!!!マジこえーよ、なんなのあいつ、キモい!」


 昨日、退勤後の私を襲おうとした仙谷さんは、アッシュ君にエコーを捕獲された後、気の抜けたおじさんみたいになってしまったじゃない?私はすぐに逃げ出したから知らなかったんだけど、仙谷さんを見つけたニシが声をかけたらしいんだよね。挨拶しても、顔を見ても、ぼんやりしていて返事もしない、明らかにおかしな様子の仙谷さんを見て、さすがのチャラ男もやばいと思ったらしく副店長を呼びに行ったはいいんだけど、その隙に仙谷さんはいなくなっていたという、実にホラー展開があった模様。

 おもちゃのメンテナンスしてる時に、へらへらと話すニシを見て、私と店長は思わず固まってしまったという。私は、仙谷さんがおかしくなってしまった原因を知ってるから、おかしなことになってる状況は理解できる。でも、普通は、あまりの人の変わりように、引いちゃって声もかけらんないと思うんだよね。チャラ男の心臓の強さに驚いたというか、コミュニケーション能力の高い人の行動力に心底驚いたっていうかさあ……。


「あのね、仙谷さん、もう来ないかもしれないみたいだよ。明日の朝、ミーティング後に店長が本部に行って面談して、最終決定だって。」


 ニシの話を聞いて、店長は少しだけ、天井を、仰いだ。……何とかして、庇おうとしていたのかもしれない。けど、明らかにおかしい様子の従業員をこのまま引き留めることはできないと、このまま働かせることはしてはならないと、覚悟を決めたように、私には……見えた。多分、もう、仙谷さんは……。


「まじで!!じゃあホビー新しい人来るってこと?!いつ?!」


 ヒロシは新しく来る担当者に夢と希望を抱いたらしい。元々ヒロシはホビーやりたいって話ではあったんだよね。おもちゃ好きだし、お気に入りアニメのグッズとか並べたかったらしいんだけど、この店で働き始めた時はホビーで人員募集してなくて、スポーツに来ることになって、そのままもう三年も働いている。


「応援の人が明日来るって言ってたけど、その人が入るとは、限らないかも? 明日はただの応援なんじゃない?」

「なんだあ、ツマンネ!どーせまた使えねーおっさんだよ、あー、めんどくせ……。」


 ヒロシが嘆くのも無理はない。今まで本部から来た応援で、あまり助かったイメージがなかったりするんだよねえ……。普段働いてない人が現場にやってきたところで、あまり馴染めないというか、勝手がわからずにおかしなことになるというか。正直、仲良くまとまっているところに乱入してきてひびを入れられる位なら、黙ってゴミ拾いをしててもらった方が助かる部分も、あったり。そうだなあ、本部からきてくれるんなら、本部倉庫に荷物半分くらい持ってって欲しいんだけど、無理かなあ……。


「もしわかんないことあったら電話して。でも、基本明日は店長サポート中心でいいよ。じゃ、後は頼んだ!!!」

「へいへい。」


 ヒロシは手のひらをひらひらさせながら、荷物の乗った台車を転がしながら売り場へと向かった。このあと几帳面に作業をこなしてくれるに違いない。


 ……そろそろ退勤時刻だ。最後にぐるっと三階を回ってから帰ろうかな、そう思って、従業員出入り口のドアを開け、売り場へと。


「あ、スーちゃん、迎えに来たよ!今から帰ろう!!!」


 そのまま、真正面を向いた状態で、一歩、二歩、後ろに下がって、ドアを閉める。


「あーん!!なんでしめるん?!お迎え、お迎えだけど?!」


 ドタバタ!ドタバタ!


 アアア!!!ドアの向こうで、暴れてる音がする―――――――――!!!ドアを開け、じたばたする宇宙人の前に立つ、私、私ぃイイイイイいい!!!


「わ、わかった、わかったから!!し、静かにして!!お願い!!!」

「はい。」


 直立不動で立つ、宇宙人―!!!


 よし、このまま三階から移動して、一階出口あたりで待っててもらうようにお願いを……。


「カッシー、これなんだけどさあ!!!……うん、お邪魔だった?」


 ギョ――――――――え――――――――――――――!!!


 ヒロシとご対面――――!!!


 ちょっと待って、迎えに来てることバレたらヤバい、でもバイト始めたことは言っておかねばマズい、ええと何をどうやってなんて言ったらうまくまとまる?!


「あ、こんにちは。」


 ヒロシに向かって、丁寧に頭を下げる、宇宙人―――!!!


「……どうも。」


 宇宙人に向かって、困惑の表情を向ける、スポーツコーナー担当アルバイト―――!!!


「ええとね!!!こ、この人はね、今日からゲームコーナーでバイトする事になった灰島明君!!!」

「ばいとってな「入ったばかりで何もわかってないから、今後助けてあげてね?!」」


「ああ、そうなんだ!俺はスポーツコーナー担当の広重真琴、ヒロシって呼んでね!!よろしく~!」

「ヒロシさん、よろしくお願いします。」


 にっこり微笑みあう、宇宙人とヒロシ―――!!!


「なになに、俺の手伝いしに来たの?今から一緒にサンプル出し、やる?」

「いえ、僕はス「なんかゲームコーナーだけじゃなくて、店内を見てまわりたくなったんだって!今からね、四階案内することになっててね!ちょっと行ってくるわ、あと頼んだよ!じゃ!!」」


「あー、そっか!仕事熱心おつ!!今度一緒にゲームの事はなそーね!」

「はい。」


 ゴ、ごまかせた?!ごまかせたよね?!ヒロシは案外鋭いところがこんなんだけどわりとけっこうかなりあるから、気が、気が抜けないっていうか!!!私はやけに落ち着いた宇宙人の腕を引っ張り、四階へ向かうべく!!!エスカレーターの上にのせっ!!!


「あのね!店の中では、スーちゃんはやめて!!いろいろと、不都合が多いの、お願い!!!」


 さっきまで樫村さんとか実にスムーズに呼んでたくせにぃイイイイイ!!!!


 なんで目の色変わるとこんなんなるの?ああ、今ね、緑色の目してるのよ、しっかりと!!!!働かない時も茶色い目装備で来て欲しい、うん!!!かといって下手に刺激与えて青くなるのもヤバイ、ここはお願いするしか……ない!エスカレーターの上で、宇宙人に必死の懇願!!!!!!


「じゃあ何て呼ぶの?……スウ?ジュテーム?マイラバ―?こねこちゃん?ハニー?姫?シュガー?スイート?マイガール?マシェリ?ゴージャス?」


 ちょっと!!!!!!!!!!!!!!

 もっとおかしな方向に進むのはやめてちょうだい!!


「樫村さんでお願いします!!!」

「はい。」


 聞き分けがいいんだか悪いんだかさっぱりわかんないんですけど!!!


 閑散としている四階には、お客様につきっきりになっているインテリアの財前さんの姿と、モップかけに夢中になってるバイトの関さんの姿がみえる。……よし、こっちには気が付いていないな。


「あのね、私今からタイムカード切ってくるから、出口のアイスクリームの自動販売機の横で待っててくれる?わかる?」

「はんはん、ピンク色のやや陽気な機械だね、あれは良いね、今度食べたいと思っていたんだ、食べて待ってるよ。あ、一緒に食べたほうが良くね?!ぐふふ、美味しいものを一緒に食べる、これはまたとないチャンス、よし食べよう、全部買っとくわ!!うーん買い方?ええと、まず機械内部に組み込まれている物質を、硬貨を使って引き出し、うーん???まあ多少違っても圧縮したら中身出るで、たぶんいいや!」


 ダメだ!!これは一瞬たりとも目を離してはいけないやつに違いない!!


「じゃあ、一緒に選ぶから、おとなしく待ってて!!ね?!()()()選ぼう!!」

「一緒に!うん!待っとく!!!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 28/28  直立不動で立つ、宇宙人―!!! ここシュール。宇宙人っぽい [気になる点] 全部買うなw まったく。 …この常識の欠落具合の発想、かなり難しいはず、はず? [一言] 何…
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