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エコー  作者: たかさば


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25/85

新人が挨拶した

「今日からゲームコーナー、一人増えることになりました。こちらの……。」

「灰島明です。よろしくお願いします。」


「「「「おねがいしまーす!」」」」


火曜、朝、8:30。


 お客様出入り口から大人の足で約二十歩のところにある、一階サービスカウンター前で、私は開きっ放しになりそうな口を、口を!!!ぎゅうと結んで!!!実に、実に流暢にあいさつをこなす宇宙人の姿を、姿をおおおおおお!!!!


 何あれ、私の知ってる宇宙人じゃ……ない!!!目は茶色いし、落ち着いてるし、どこをどう見ても、そこら辺にいる、ごく普通の青年!!!テンパってテケテケもしてないし、昨日店内で怪しげなものをいろいろ収集したり、いきなり人の唇を奪った不届きものとは全く思えない、そこらへんで困ってる老人に手を差し伸べてるような、優しそうな好青年!!!


「ねね、なんかめっちゃイケメンじゃない?ちょっと背低いけど!」


 私のすぐ横ではしゃいでいるのは、レジパートの秋野さん。金髪禁止の我が店舗でニシの次に明るい髪色を持つ…通称アッキーは、どう見てもヤンキーで、実にこう、肉食系女子というか、今どきの女子というか……。


「俺の方がイケメンっしょ!でもモテそーだね、コンパで使えそー、あとで唾つけに行こ♪」

「あんたのチャラさと真反対の位置にいる系?いいなあ、ちょっと食いたい、マジ狙おっかな……。」


「……ちょっと、まだミーティング中でしょ、静かに!!」


 ニシとアッキーは気を抜くとすぐに盛り上がってやらかしちゃうんだよ!!!この二人、同い年という事もあって、暇さえあれば合コンを開き、新しく入ってきたバイト君やパートさん、無垢な社員を誘いまくって手を出し味見し騒ぎを起こし―!!!地味にアッシュくんの身が心配というかなんというか!!!いやしかしこの場合、ニシとアッキーの方を心配するべきなのか!!!混乱、混乱がすごくてすごい―――!!!もうね、ミーティングの内容なんか、全然入ってこない!!ああ、気が付いたらみんな解散してるーって!!!こ、こっちにやってくるのは宇宙人を引き連れた、童顔中年男子ぃイイイイ!!!


「樫村さーん、僕のお昼の時、フォロー入ってね!灰島君は今日一時半までだからお昼休憩ないんだ。……いろいろ、教えてあげて?」


 や、やけにニコニコとした牛島さんの顔、顔!!!その顔に、「僕がご飯食べてる間は二人でラブラブしていいよ」って、思いっきり、書いてある―――!!!


「あ、あはは!!!わかぇりました、ふぁい!!!」


 慌てふためき、かみっかみで返事を返した私に!!!


「樫村さん、よろしくお願いしますね。」


 誰だああああああアアアアアアアアアア?!こいつぅうウウウウウウウウウウウウウ!!!!!!!!!


 引き攣った笑顔を、お返しさせていただいたわけですけれども?!





「ごめーん、そっちにインテリアの荷物混じってないかなー?!」

「ああ、デコシール入ってる、これかな?」


「城さーん!夏季返品全部で26個口でよかったっけー?!」

「ごめんごめん、一つ追加になったから送り状書き直さないとだめだわ!!!」


「ちょっとー!日配担当の人まだ取りに来てないの?!早く呼んできてー!!」


 メリーゴーランド小夏日店の裏手、従業員用出入り口の横には商品管理センターが広がっている。大型トラックが複数並ぶことができるひらけた空間と、納品・出庫作業用の小部屋、荷下ろしされた物品が並ぶ一時保管所があって、納品量の多い日はかなり人と荷物がごちゃ混ぜになってカオス化してしまうのですよ。今もみっちり三台の大型トラックが並んでて、ゴリマッチョなドライバーは荷物を次々に下ろし、地上に下ろされた段ボールの山の間をすり抜けるようにして、各部署の従業員たちが荷物を探して回っている。


「あ、カッシー!スポーツはこっちにまとめといたよ、少なかったし!大丈夫かな、未着とかあるかも?」

「ありがとうございます!今週メーカーさん来るから納品少ないの、今日はもうこれで……うん、全部ある、オッケーです!」


 積み上がってる段ボールの隙間から、ちらちらと顔をのぞかせつつ私に声をかけたのは商品管理の大前さん。おじいちゃん一歩手前の大前さんは、この道30年というベテランなのだけど、このところの急激な老いが体を蝕み始めたらしく、部署の異動を願い出ていたりする。大量の段ボールを業者から受け取って、各部署ごとに仕分けする作業は実に体力仕事で、若いころは良かったんだけど、45を過ぎたあたりから無理が利かなくなって……50を超えた今は日々の作業で体が崩壊していくだけだと、少し前の飲み会で泣きながら前店長に訴えかけていてね、非常にこう、涙を誘ってね?思わずもらい泣きした私がいたと言いますか。


「ああ、そうなんだ、じゃあ後で伝票だけ持ってくねー!」

「はーい、お願いしまーす!」


 今日は火曜日、スポーツの納品がばっちりある日。雑貨や食品は毎日納品があるんだけど、スポーツや服飾、ホビー、インテリアなんかは週に二回しか納品がなかったりする。食べ物や日用品みたいに、毎日わんさか売れるようなものじゃないからね。スポーツは、前の週に発注した商品がまとめて納品されるのが火曜で、新商品が納品されるのが金曜になっている。つまり、新発売の無い週は、金曜の納品はない。新シリーズのフィットネス用品が発売されたりなんかするとめちゃくちゃ納品の数が多くなっちゃって、土曜まで品出しやる羽目になっちゃうこともあるんだけど、そんなのは二三ヶ月に一度くらいで……普段はわりと穏やかな金曜を過ごせることが多い。火曜日は一週間分一気に入ってくるから、わりと作業的にはきつい曜日だったりするんだけど、そこはほら、集中してたらあっという間に終わっちゃうっていうか!

 私、品出しって大好きなんだよね!なんていうのかな、昔からお店屋さんごっこ大好きだったし、品物を並べていくのが楽しくって!おすすめポイントとかPOPに書き込むのも大好きなんだ。スポーツコーナーにはね、実に私の愛が溢れているのですよ。自分の愛用品とか、愛飲してるものとか、とにかくお勧めしたくて仕方ないっていうか。


 今週は木曜日と土曜日にメーカーさんが来るから、プロテインは発注してないんだよね。いつもだったらストック用に追発注してるんだけど、今発注すると旧パッケージになっちゃうとかで、木曜に全入れ替えするまで発注しないように言われているのだ。おかげで、いつもだったらかご台車二台はある納品がなくって、実に楽!!!今日はいつも以上に丁寧に品出しができそうな予感!

 そうだなあ、イベントでいっぱいお客さんも来るだろうし、古いPOP書き直しちゃおっかな?イベントスペースのおすすめPOPもみっちり書きたいし、新しいカラーペン下ろしちゃおっかな?

 ちょっとテンションが上がってきた私!!ちょっとだけ口元に笑みを浮かべつつ、従業員専用搬入エレベーター前に並んでみたり。……ちょっとしたことですぐご機嫌になっちゃう自分、わりと嫌いではないっていうか!小さな幸せを拾う事に熱心なタイプであることを誇っているというか!!


「ねえ、今日ホビー納品めっちゃあるんだけど、仙谷さんもう来ないの?昨日なんかあったんでしょ?ニシだけじゃ絶対さばけないと思うよ!!」

「仙谷さん、最悪、もう来ないかもしれないって、朝のミーティングで、店長が。」


 商品管理部は朝一からトラックの受け入れに忙しいので、基本朝のミーティングには参加することができない。大前さんには、情報があまり伝わらなかったりする。いつもだったら、弓削さんあたりが朝のミーティング内容を伝えてるはずなんだけど……ああ、あっちでカーペットの納品やってるから、話せてなかったみたい。じゃあ、私が事の次第を説明しておいた方がいいかな?


「今日は本部に行って面談してるそうですよ。ニシしかホビーいないです。明日は店長も交えて面談するみたいだけど、昨日の様子では、ちょっと……。」


 今朝のミーティングで、店長は……昨日の騒ぎについて、従業員に謝罪を、した。店長として、不安を与えるような事件を起こしてしまい、大変申し訳ないことをしたと、頭を下げた。実に潔く、真摯な態度で、店長として男気のある姿を見せた。ミーティングに出た従業員は、店長の心からの謝罪を受け入れ、みんな揃って同情の念を抱いたのよねえ……。完全に仙谷さんが悪いので、店長の好感度はただいま絶賛うなぎのぼり中。


「はあ?!かご台車6つに、長台車三台もあるんだけど?!うわあ、ホントに?!どうすんの、これ……。」

「多分、店長の事だから今日はホビーのフォローに入ると思いますよ。とりあえず三階に上げておけば何とかなると思う、思いたい!無理そうなら、私も手伝いに回るし!」


 大量のホビー納品を前に呆然とした様子の大前さんではあるが、さすがベテラン、作業の手を止めることは絶対にしない。細かい段ボールをかご台車の中にみっちりと積み上げながら、遠くに入ってきたたまご業者のトラックの動向を見逃さない……ああ、走って行っちゃった。


 が、がこん!!


 搬入エレベーターが開いた。中には、ニシと……最近入ったばかりのデイリーフーズのバイトの女子。ムム、なんだかちょっと甘い空気が漂っているようないないような……気のせい?……気のせいじゃない!!!今、繋いでた手がパッと離れたの、ばっちり見た!!!このスケコマシは!!!またすぐに女子に手を出しおってからにぃイイイイイイイイ!!!みんながいろいろと大変なことになってるのに、渦中のホビーがめちゃめちゃ緩い感じでナンパとかやめてよ!!!


「あ!!!カッシーいい所に!!!お願い、ちょっとホビー手伝って!!見た?めっちゃ荷物あるっしょ!!今度イイ男紹介するからさ!ねっ♡」


 女子の手を握っていた手を合わせて、喪女たる私を拝むのはやめて頂きたいんですけど?!

 どう考えてもイイ男なんか紹介される気がしないんですけど!!!

 私はチャラい男なんかゴメンなんですけど!!!


「紹介はいらないけど、手伝うから!とりあえず、荷物倉庫に持ってっといて!!!」

「わーい♡ありがと!カッシー大ちゅき!!」


「はいはい、さっさと行動しなさいよ!!!」


 唇を尖らせるチャラ男をやり過ごし、エレベーターに荷物を載せ、向かうは愛しのスポーツ用品売り場!


 よーし、サクサク品出しして、フルパワーで売り場づくりに精出すぞー!おー!!!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 25/25 ・プロテインやっほい [気になる点] 超絶アップテンポのマシンガン実況ありがとうございます [一言] イイ女を紹介してくれよん(百合)
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