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エコー  作者: たかさば


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設置が完了した

「カッシー、L字のパーツそっちにある?!」

「あ、ありまーす!あ、でも…錆びてるな、新しいのもってきた方がいいかも?」

「じゃあちょっと俺取ってくるわ!!!」


 店長がフットワークの軽い様子で一階の什器庫へと向かう。


「ごめん、俺ちょっとうんこ行ってくるわ!!!」

「ちょ!!黙って行ってよ!!!報告しなくていいから!!!」


 ヒロシが恥ずかしげもなく生理現象を口にして、ひょっこひょっこと従業員用トイレへと向かう。


 午前中の大騒ぎが嘘のように…平和な会話がイベントスペースに流れている。ああ、こういう空気、いいな。安心感がハンパない。

 組み上がった大型陳列棚の棚板にシートを敷きつつ、先ほどまでの恐ろしい時間を…振り返って、みたり。



 あの、瞬間。


 …仏の鬼崎さんに襲いかかった仙谷さんは、そのあふれ出た有り余るパワーを、完全に逆手に取られた。


「相手の力をそのまま返しただけなんだけど、いやあ、力がね、強すぎたんだね。」


 聞けば、鬼崎さんは柔道の有段者で、合気道もやってて、空手も極めてて…いわゆる格闘オタクの走りなんだそう。


 創業五年目、強盗が入った際に、犯人たちをコテンパンにして、警察から表彰されたというじゃありませんか。

 犯人たちが大けがをして、警察から厳重注意を受けたというじゃありませんか。

 黒歴史として刻み込まれたらしく、以降力を振るう事なく穏やかに生きてきたとおっしゃるじゃありませんか。


 ……全然知らなかった、こんな穏やかでちっちゃいおじいちゃんが、まさか、ねえ?!


 お口ポカーンしてた所に、本社から来た偉い人たちが到着したので状況を説明していたら、仙谷さんが目を覚まして。またひと暴れしようとしたのを、本社のごっつい人ががっちり抑え込んで…そのままどこかに連れていかれてしまったという。


「最悪解雇だな、立派な暴力事件だよ…。あいつ、何でこうなっちまったかな…。」


 何気に、店長と仙谷さんは、同期だったりする。実に性格が合わず、あまり交流はなかったそうだけど…それでも、14年間、共に同じ会社で働いた、仲間。店長のショックは、実はかなり大きいのだと、思う。

 仙谷さんが出ていった、開けっぱなしの事務所のドアを見る目が…どこか、切なくて。騒動で、穴の開いてしまったドアノブ部分を見つめる目は、一ミリも笑っては、いなくて。


「鈴村さん、ナイスぶっ壊し!いくらかかるかなあ、補修費!僕としてはね、業者呼んで直してもらって経費で落とすよりも自主的な補修を望むんだけど!!!」

「今から直しますよ!!!もう!!!」


 むしろ破壊されたことに怒りが、怒りがー!!!


 狭い事務所内には、でっかい体で小さな部品を拾って補修する人あり、穏やかに花びんの欠片を拾う人あり、豪快に紙を拾ってデスクにのせる人あり…そうこうしてたら化粧直しして美しく仕上がった女子がやってきて、色気を振り撒く女子と共にモニター再設置が始まり。私は牛島さんから呼び出されてゲームコーナー補助に入って。今やっとイベントの設営に取り掛かっている次第。


 広々としたイベントスペースには、店長とヒロシと一緒に組み上げた大型陳列棚が四つに、大きな台が二つ。什器が組めたら、あとは装飾と陳列だけだから、山場は越えたといっていい。


 試飲コーナー用のテーブルは業者さんが持ち込んでくれることになっているから、その場所を確保して…ああそうだ、囲い込みのポール取ってこないといけないな、今どこにあったっけ。はめ込んだプライスホルダー用の値札も作らないとね。天井からつるすPOPも印刷しないといけないけど、紙あったかな…イーゼルのデザインは…。


 思いついたことはすぐにメモを取っておかなければ。腰につるしてある作業バッグの中からメモ帳を取り出してやるべきことリストを書き込み、書き込み、書き込み、書き込み…。


 いろいろあったけど、とりあえず今日の予定は完了できそうで、一安心かな。メモ書きを見ながら腰に手を置き、ちょっと一息。……そうだ、全体を見て装飾デザイン考えておこうか、そんな事を思いつつ、後ろに一歩、二歩、下がり始めた私の耳に。


「うわあ!!!スーちゃん?!スーちゃんじゃん!!めっちゃスーちゃんがスーちゃんじゃないや!!ねえねえ、かわいいね、どうしたん?!ねえねえ、僕キタの、だからね、そうだ、買い物!!今から買うね、何買ったらいいかな、いいもん買わせて!!スーちゃんのおススメ教えてください!ええとー!!!うんとにかくかわいい、それは間違いない。」


 !!!!!!!ちょ!!!!!!!


 このテンションの高さは何なの?!

 ・・・さっきの落ち着いた振舞い、どこ行ったー!!!!


「ちょっと!アッシュくん、落ち着いて!!!」


 テケテケする宇宙人を言葉で宥めつつ、辺りを確認する。…よし、まだ店長もヒロシも戻ってきてないな、これは帰ってくる前になんとかしないと、またいろいろと面倒なことに―!!!


「落ち着いてるよ!ほらこんなにも僕は僕として僕の僕足る僕僕!!!ねえねえ、髪の毛が違うのなんでなん?めっちゃ揺れてる!ああそうか、これは僕のエコーが飛んで反応しているのか、ふうむなるほどへえ、これは大変興味があることで!!なるほど、生えているのか、ふうむ、生きているから躍動感が…!!!」


 ・・・昨日と髪型が違うから?!

 髪の毛おろしてるだけでこんなに暴走するの?!髪の毛揺れただけでこの目の輝き!!!緑色の目がきらっきらに輝いてる!!!

 なんで私の目の前だとこうも落ち着きなくなるの!!!

 遠目に見てた時は余裕ぶっかましてウインクまで飛ばしたくせに!!!


「さっき見たでしょ、すれ違ったじゃない!!!なんでそんなに驚いてるの?!今更?!」

「みた?うーん、それは僕だね!!!そうか、いつ…どうしようかな…。まあいっか!!!なんとかなる!!あのね、今日は…いやいやそんなことよりも重要なことが!ねえ、髪の毛、触ってもいい?触らせてくれさい!!!」


 私に真っ直ぐ手を伸ばす宇宙人!!!ちょっと待って、そのそで口に…恐ろしい触手は出てないでしょうね?!興奮したりパニクるとすぐに出る物体、物体!!!思わず伸びる手の隙間をか、確認っ!!!・・・よし!!!!触手は一本たりとも飛び出してはいない!!!


「はい!!ストップ、止まって!お願い!!」


 手のひらをまっすぐ宇宙人に差し出し、伸ばされた手を拒否させていただく!


 ピタッと動きの止まる宇宙人!!・・・何、この素直さは!!!


「仕事中です!お客様は何をお求めですか!!」


 あああ、シュンってなってる宇宙人が目の前に…!!!

 でもね、ここで甘い顔をしたらダメなのよ、公私混同はいけません!!!ダラダラとした、なあなあの関係が築かれてしまう可能性がね?!大人なんだから、きちんと線引きのできる対応をしなければだめなんです!!!

 毅然たる態度で、まっすぐ宇宙人を…見る、私!!

 どこかにこやかに、どこか愁いを帯びたような表情で…私を見る、宇宙人!!


「あのね!!僕本当は今日は家で研究するつもりだったんだす、でもなんか、ええと…怪しげなエコーが響いたので、心配になって飛び出してしまったのだ!だから実は買い物に来たわけではないんです。ねえ、スーちゃんはもう大丈夫かな、僕は心配でならないよ。・・・無理してない?助けるよ、何でも言ってね?」


 もしや仙谷さんの悪のオーラがあのタワマンまで届いたとでもいうのでしょうか…。うん、まあ…あの恐ろしさはこの近辺に鳴り響くレベルではあったと思うけれどもね?!


「え、そうだったの?えっと…、ありがとう、心配してくれてうれしいよ、その!!私は…大丈夫だから!!…ごめんね、仕事中だから一緒にはいてあげられないけど、今日はお店の中見てまわったらどうかな!!五階以外にも、何があるかとか見といたほうが良いと思うの!ね?!」


 ちょっと…ううん、けっこう、うれしい?アッシュくんに心配してもらって、喜んでる自分が、いる。

 つい、返事がきつくなってしまうのは、多分、照れ、だ。仕事中の、仕事仲間からの言葉とは違う、私を思う、まっすぐな気持ちが…くすぐったいというか、慣れてないから受け取り方がわかんないっていうか!!


 …こんな調子で私、大丈夫なのかな、恋なんてできるんだろうか…な、なんて、ね?!アアア、何考えてるの、私、私―!!!


「はーい、じゃあ、僕色々見てまわろ!今日は見るだけ!!店の中見るふりしてスーちゃん見たろ!!フフフ、生スーちゃんだ…。揺れる髪の毛、ゲットだじぇ!もしかしたら抜け毛もいただけるかも?!ひゃあー!!!あんなことやこんなことに使ったろ!!!じゃあね!ふふ…フフフ…!!!」

「ちょっと?!堂々と怪しいこと言わないでよ!!!」


 やけに堂々とニヤニヤしながらスポーツ用品売り場に向かって行く、灰色頭が!!!


 ちょっと待ってよ!!!もうね、こういうところがね?!

 正直…恋に落ちる気が…しない!!!

 落ちたらヤバい奴なんじゃないの?!


 追いかけるわけにもいかず、頭を抱えるわけにもいかず―――!!!


「おー出た出た、ぷりっぷりの活きの良いやつ!!!ねえねえ聞いてよカッシー、昨日食べたコーンがさあ…」


 ちょ!!!!!!!!!!


 一人怪しい人を追い出したら、また怪しいセリフ堂々とぶっ放すやつ、キター!


「あーもう!!!詳しい報告はいいから!!!それよりも手洗ってきたんでしょうね?!」

「洗ったってば!何、プライスホルダーの続きでいいの?」


「それはもう終わったから、あっちの台にシート貼ってって!!自慢の几帳面さ全面的にフルパワー発揮してお願い!!」

「おけおけ!」


 何なの、この…呆然とするヒマすらない絶妙な充実感は。

 ・・・いやいや!!絶望感に包まれた恐怖より全然いい!!!


「カッシー、L字無かったわ、悪いけどサビのやつ使うしかない、POP貼ってごまかしてもらっていい?」

「了解でーす!」


 やることはたーっくさんある!!!


 私は怪しげな視線をこちらに向けているであろう宇宙人には目もくれず、気にしないように努め!!!


 ただただ目の前の仕事に集中し!!

 たまにヒロシの軽口に閉口しつつも!!!


 何とかプロテイン試飲会会場の第一段階を完成することができた!!!


 明日は飾りつけに…全力投球するんだ!!!がんばるぞ!!!おー!!!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 22/22 ・破壊力ですよ。  どっどどどーん!! 暴風とともに去りぬ [気になる点] ゲットだじぇ [一言] よーしプロテインのめのめー
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