面接が終了した
≪はあい!今日も愉快におきらくごくらくぱーらだーいす!メリーゴーランドアミューズメントコーナーに、ようこっそ!ほいじゃ行くよ!今週の~ヒットソング!!≫
ゲームコーナーに響いているのは、当店オリジナルのラジオ放送。牛島さんの奥さんが、ものすごーくクリエイティブな人らしく、無償で毎週ラジオを提供して下さっているのだ!!!
30分にまとめられた、『週間メリゴー』は、ボーカルロボが熱唱するオリジナルOPソング(作詞作曲奥さん)に始まり、お便り紹介コーナー、今週の新入荷プライズ情報、その他もろもろ盛り上げるようなラジオDJっぷりも相まって、そこそこ人気だったりするのだな。
かくいう私も、奥さんのロリボイス&きつめのツッコミにはまってたりして!
月曜日の退勤前に必ずゲームコーナーに寄ってチェックをするほどなのですよ!!
なお、放送は10:00、12:00、14:00、16:00、18:00、20:00の一日六回、ラジオが流れていない時間帯はゲームコーナー特有のBGMが流れている。もちろんこのBGMも奥様の作曲というから恐れ入ります…!!!
「今日はコインゲームやってないんだねえ…。」
「ごめんなさい、今メンテナンス中で。ええと…いつ終わるか聞いてきましょうか。」
カウンターでラジオに聞き入っていた私に、小柄なおばあちゃんが声をかけてきた。いつも来てくれてる人だ、見覚えがある。
ゲームコーナー中央で輝いている恐竜大発掘というコインゲームは、実はかなりの人気の筐体だったりするんだよね。朝一から満席になってることも、しばしばあったり。
コインゲームコーナーには、パチンコ台やスロット台、小さな子供向けのものや個人で没頭できるものがあるんだけど、高齢者のお客様の人気はこれ。わりとコインが飲まれるスピードが遅くて、JPチャンスが起こる確率が高いから時間に余裕のある皆さんはここに集まっちゃうというか。今の時代、有閑ご老人たちはゲームコーナーでひと時のカジノ気分を味わっていらっしゃる方が多くて…。
「ううん、あっちでソフトクリーム食べて待っとくわ、動いたら放送してもらってもいい?」
「はーい、わかりました!」
カウンター内の連絡ボードに、「コインゲームメンテ完了後の放送忘れるべからず」と記入をしておく。お客様のご要望を忘れたらまずいからね!!
だいたいでいいから、何時くらいにメンテナンスが終わるか聞いといたほうがいいかも、そう思って作業中の業者さんの元に…そうだ、ついでにモップ持ってってホコリ落としながら行こ。ハンドモップを持って、カウンターを出ると。
「すみません、これ、ゲット判定、お願いできます?」
中年男性が、キャッチャー筐体の前で私を呼んだ。人気のBIGサイズクッションが入っている筐体だ。…大きな袋を三つ足元に置いている、朝一出来ていろいろとゲットしている…プロの人かも?
「あ、ごめんなさい、これは完全落下でないとだめなやつなので…上から押してください、落ちたらゲットです。」
三本爪のキャッチャーは、基本下に落ちなければゲット判定にはならない。落ちそうだからとか、引っかかってるだけだからという意見は通しちゃダメになっている。タグに引っかかって宙に浮いている場合は、ゲット判定になるけど…このクッションはタグが無いからね。
「何回やってもシールドが越えられない、これ確率機だよね、天井いくつに設定してるの?あんまり貧乏人から搾取しないで欲しいなあ…。」
設定の事はちょっとわかんないな、ごねて得をしようとする部類のお客さんかも?…さてどうしようか。
「ごめんなさい、担当者が今ちょっといなくって、私では分かりかねるので…聞いてきてもいいですか?」
「ゲームコーナーにいるのに分からないの?ちょっと無責任なんじゃない?サービスしてよ、ね?」
…多分この人、牛島さんがいなくなったタイミングで入った私の事、チェックしてたと思うんだよね。朝一で乱獲してて、担当者らしき人がいなくなったから、何も知らなそうな私にいろいろと文句を言って、ちょっとでもいいものを狡賢くゲットしようとしてるように、感じる。週に何度かゲームコーナーに入る私が見おぼえない人だから、近隣のゲームセンターを細かく回っている人かもしれない。
「鍵も貰ってこないといけないので、一緒に聞いてきます、こちらでお待ちください。」
まあ、カギは私のポケットに入ってはいるんだけど、理由をつけて、この場を離れて…牛島さんの指示を受けたいところ。なにか言いたそうな男性に頭を下げてから、カウンターに向かう。
「あ!お世話になります、セロリーです!あの、牛島さんは?」
カウンターのインターフォンに手を伸ばしたら、ちょうどキャッチャー業者の…ええと、この人は遠藤さんだったっけ?ナイスタイミング!よし、この人にさっきのお客さんの対応お願いしちゃおう。
「牛島さんはいま面接中なんです、あと20分?かかんないと思うんですけど…あの、あそこのBIGクッションの三本爪、お客様がゲット判定しろっておっしゃってて…お願いできませんか?」
「ああ、そうなんだ、いいよ、僕行きます。そのあとメンテ入りますね!」
なんという頼れる人なんでしょうか!いいなあ、こういう頼んだらすぐにいいよと言ってくれる業者さんって。安心感が違うよね。
うちのスポーツの業者さんもみんないい人ばかりで、いつもいつも助けてくれて、ホントありがたいのなんのって。やっぱこういう信頼関係?築けてると本当に仕事が楽しくなるというか。…何を言っても否定しかしない恐ろしさの塊のホビー…いやいや、下を見てはダメダメ!
「あ、樫村さーん、電源お願いします!」
「はーい!」
コインゲームのメンテナンスに来ている…ええと、この人は誰だったっけ、スリーセブンの…ヤバイ忘れちゃった。名前を思い出しつつ、配電盤に向かって、カギを使って扉を開けて…電源を入れて。暗かった中央部分に派手なイルミネーションの明かりがついて…リアルな恐竜の叫び声が流れ始めた。・・・ああそうだ、この人は尾賀さんだ、がおーって恐竜の声で思い出した、うんうん。
「あと動作確認したら終わりになりまーす!」
「待ってるお客様が見えるんですけど、ご案内しちゃってもいいですか?」
「オッケーでーす!」
ゲームコーナーカウンターに急いで戻って、インターフォンの五階専用放送ボタンを押して、受話器を取ってと。ここで全体用のボタンを押しちゃうと一階から五階まで、さらには立体駐車場や店舗周りにまで放送がかかってしまうので気を付けないといけない。…まあ、入社したばかりの頃に一回やっちゃったんだけども。
ピンポンピーン!
≪本日はメリーゴーランド小夏日店ゲームコーナにお越しいただきまして、誠にありがとうございます!お客様にお知らせいたします!コインゲーム恐竜大発掘のメンテナンスが間もなく終了いたします。お席についてお待ちいただくことができますので、プレイをご希望の方は恐竜大発掘コーナーまでお越しください!本日はメリーゴーランド小夏日店ゲームコーナにお越しいただきまして、誠にありがとうございまぁすゅ!」
ああ、しまった、最後ちょっとかんじゃった…カンニングペーパーがないとね、こういう放送ってね、難しいよね?!
うん、仕方ない、仕方ない。…ちょっと恥ずかしいのを紛らわそうと、モップを片手にゲーム筐体の間を縫うように巡回しつつ、五階の様子をチェック、チェック…。
放送を聞いてくれたらしいおばあちゃんが恐竜の椅子に座ってる、隣に立ってるおじいちゃんはボーイフレンドなのかな?仲睦まじく話をしている…あれ、反対側の席に座っちゃった。さっきのキャッチャーのお客さんはもう帰っちゃったみたい、筐体の中身が変わってるから、全部取り尽くされちゃったのかも。あ、奥の方にセロリーの遠藤さんがいる、細かいのをいっぱい詰め込んでる、足元にはぬいぐるみが入ったビニール袋が一つ、二つ…入れ替え作業大変そうだけど手伝った方がいいかな?…とりあえず声かけよう。
「さっきはありがとうございました、あのお客さん、大丈夫でした?」
「だいじょばなかった!まあ、でもなんとか帰ってったから!あの人転売ヤーだね、レアものばっか抜いてく人だから気を付けた方がいいよ!」
そんな大変な人を押し付けてしまった申し訳なさと、自分が対応しなくて済んで胸を撫でおろした感じが微妙に交差する。もめ事はねえ、本当にこう…すり減るからね、いろいろと。
「これね、ハンパものなんで!福袋用にしてくださいって牛島さんに渡しといてください、僕今からあっちの射的のメンテに入るんで、お願いしますね!」
「了解です!」
足元のぬいぐるみ入りの大きなビニール袋を手渡され、えっちらおっちらカウンターに向かうと…牛島さんがニコニコしながらこっちにやってきた。…え、まだ10分くらいしかたってないけど!!
「樫村さん!ありがとね、もう終わったよ!ご飯行ってきてください!」
「え!!早くないですか?ええと、アッ…さっきの人なんか問題でもあったとか?」
落ち着いて見えたけどやっぱりおかしな言動は隠せなかったに違いない!!!
そもそも宇宙人バレとかしてないでしょうね、まさかと思うけど記憶消去とかものすごい裏技使ったり、偽装工作とか…もしかして牛島さん乗っ取ってたりしないでしょうね?!
怪しい触手の欠片とかついてないか、さりげなく、チェックしてみたり…。
「ううん、ものすごくいい人でね、明日からきてもらう事にしたんだよ。樫村さんの知合いなんでしょう?びっくりしちゃった!明日からよろしくって言ってたよ、階は違うけど、フォローしてあげてね!」
「ちょ、へぇっ?!あ、あああは、はい?!?!」
ちょっ!!!
あの宇宙人何言ってくれちゃってるの?!
し、知り合いってなんで言っちゃったの?!どこまでの知り合いって言った?!
ま、まさか恋をする約束になってるとか言ってたりしないでしょうね?!
やけににこやかな牛島さんは今一体何を思っているのか!!!
ヤバイ、焦って変な返事したから余計に怪しまれるやつじゃないの!!!!
あ、あわわ、視線が宙を泳いで…今絶対に私どうごまかそうか必死になってるのがバレバレだ!!!
こういうところで全部バレがちな嘘がつけない真正直すぎる性格がー!!!
必死に冷静を装おうとしつつしっかりテンパる私のすぐ横に、ちょこちょこと歩み寄ってきた、ゲームコーナー担当者!!
「…大丈夫、彼氏ってことは、僕一人の心の内に秘めとくから。」
わざわざ背伸びして!!
ひ、人の!!!み!!!耳元でささやいた、う、牛、牛牛牛イイイイイイイイイ!!!牛、牛島さん!!
・・・ウインク、パチ♡じゃ、・・・ないっ!!!!!!
「は、ははは!!!ええとー、もう一人の面接者の方はー!!!」
「うん、1時30分からなんで、それまでに来てくれたらいいよ、お願いね!」
アアア!!!なんでそんなに温かい目で私を見るんですかー!!!!!!
「は、ハハハ!!あ、これ、福袋用だそうでちゅよ、ウフフ、じゃ、またのちふぉど!!!」
あーかーんー!!!
どっかのヘタレ宇宙人みたいなかみっかみのセリフしか言え、言えないイイイイイイイイイ!!!
これ以上口を開いてもやらかす一方に違いない!!!
私はご、ご飯を!!食べるために!!!
しょ、食堂に向か、むか向かってー!!!
向かいましゅー!!!!!!!
ひいいいいいいいいいい!!!




