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エコー  作者: たかさば


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14/85

おなかが鳴った

「―――!!―――☆、―――※%」

「はんはん、スーちゃん、ここで降りていいんだって、あとはこの人やってくれるだと!!!」


 ・・・。

 ねえ、今、日本語しゃべってた?

 絶対しゃべってない!

 私の知らない言語!!信号!謎の重低音!!


 私の混乱なんてまったく気にしないで、ニコニコしながらおじさんにキーを渡すアッシュくん、ほほえみながらおかしな不協和音を発生させてるおじさん、何この穏やかな空気…。


「うーん、ナビゲーター不備を怒られてしまったよ、ちょっと凹んだ、ずいぶん悲しすぎる、うぐぐ、泣きそう…。」


 全然穏やかじゃなかったみたい…。




「この自販機は認証されてるので、住人ならボタン押すだけでいいの、だから気にしないでどんどん飲んでね!フフフ、一緒にお茶、これはいいぞ!!!」

「はは、ありがと…ご馳走様です…。」


 アッシュくんの新車が格子状の大きな扉の向こう側に収納された後、早々にこの場を離れようと思ったんだけど…やけに落ち込んでいる宇宙人を目の前にして、どうしても見捨てられなかったって言うか。

 励ますつもりですぐ横の自販機コーナーに誘ったら、一瞬で機嫌がなおった現金な人がね、大喜びで私の横に座っていたり。

 何やら飲み物をご馳走してくれるというので、少々おなかのすいた私はコーンスープを選ばせてもらって…ふたを開けて、一口ゴクリ。地味に空腹に染みる…久しぶりに飲んだけど、美味しい!


「このマンションの良いところはね、人体パーツ込みってとこなんだ、クリーナーにマネージャーにコンシェルジュ、あとはね、ヘルパーさんもいるんだ、とっても便利!でね、てっぺんには◎●〇▼専用の入り口があって、一見すると屋根なのに実はただの映像で、こういうテクニックが駆使されているのだよ、ここは!今度さ、住人専用のカートで一緒に飛ぼうね、だいじょうび、二人乗りだもん!今度マネージャーに言っておくよ、あのね、このマンションの管理パーツはね…!!!」


 やけに饒舌にこのマンションについて語ってるのがなんともいえない。

 アッシュくんをしかりつけたというあのおじさんは、いわゆるロボット的なもの、らしい。なんでもこのマンションに付属してるパーツなんだってさ…。


 ・・・ちょっと待って、もしかして、あのいつもおにぎり買いに来るエントランスのおじさんもパーツなのでは?!

 でもどう見ても普通の人にしか見えない…正直気になるけど、首を突っ込んだらダメな案件なんじゃないの?!


 落ち着け、落ち着け…私はアッシュくんにもらったコーンスープを一口飲んで、わき立つ好奇心を抑え込んで…気を紛らわそうと、自販機コーナーの中をぐるりと…見わたす。


「スーちゃんは本当にそれだけでいいの?もっと飲んでいいよ!全部いる?」

「はは、ありがと、十分だよ。これ飲んだら帰るし…。」


 ドリンクの自動販売機の横には、私とアッシュくんが腰かけている備え付けタイプのハイチェアが五つ。壁の一部に幅の狭いテーブルがくっついていて、飲み物を置いたりできるようになっている。今テーブルの上にあるのは、アッシュくんが買ってくれた私のコーンスープ缶と、アッシュくんの飲んでいるサイダーのペットボトル。

 壁にはよくわかんないポスターが貼ってあって…現代アート作品かな、不思議な色と線がおしゃれに描かれている。自販機コーナーの広さは六畳くらいかな、駐車場側の壁がガラス張りになっていて、地下の様子がよく見渡せるようになっている。あ、どっかの配送車が一台入ってきた、さっきのおじさんが対応してる…。管理パーツねえ…どう見ても普通のおじさんなんだけどなあ。


「…帰っちゃう?ねえねえ、僕の家に遊びにおいでよ、おもしろいものいっぱいあるよ!おいしいものいっぱいあるよ!」


 その誘拐犯みたいな誘い方は…、まずいと思うよ?

 少なくとも、年頃の女子を誘うためのセリフでは、ないというか…。

 漂う残念オーラに、苦笑いしかできないんですけど。


「あのね、知り合った日にいきなりおうちに上がったりするのってね、あんまりこう、よろしくないっていうか、私はそういうタイプじゃないっていうか。せめてもう少し仲良くなってからでないと、ね?」

「ずいぶん仲良くなったよ、それでもだめなの、なんてこった!僕は今後どうやって恋を育んでいったらいいんだ…。」


 ご自慢の髪を両手でぐしゃぐしゃとかきまぜるイケメンがー!!

 あんまり塩対応してもかわいそうだよね…。


「ええと!おうちに行かなくてもね、連絡はとれるでしょ、ライン…


 ちょっと待って、ここでラインとか教えたら、電話番号とか教えたら…二分おきに連絡入れてくるパターンなんじゃない?!…ダメダメ、絶対教えられない!!

 かといって…連絡先教えなかったら絶対凹む、逆切れして帰してもらえなくなって最悪どうにでもなるよとか言いだして監禁されかねない!この現代日本において監禁環境下における恋愛の発生なんて無い無い!あってはならないパターン!!

 じゃあどうする?

 手紙とか?この電脳の時代に?!

 そもそも文字書けるのこの人…。


「らい・・・なに?」


 涙目でこちらを窺う、イケメンっ!!

 そういう捨て犬顔っ!!

 あああ、私こういう表情に弱いんだってばあああああ!!!


「そのっ!!このマンションの横にね、お店あるでしょ?!私いつもそこで働いてるの、だから…いつでも、会いに来ていいから!!ね?!」

「ええマジで!わかった、じゃあ毎日会いに行くね、ずっと会ってる!」


 毎日?!

 ずっと?!

 しまった、判断を誤った可能性!!!

 

 いやしかし、でもこの場合は多分一番いい選択肢は職場の明示に違いないってー!!!

 さあ、どうする?!

 どうやってこの場をうまいこと…乗り越える?!


 ガンバ、ガンバだよ!!ガンバだよ!!(すなお)!!


 私の対人スキルなら!!きっとこの山場を乗り越えることが…できるはず!!!

 ええとーええとー!!まずは断る理由を伝えて、譲歩できる道を示して―!!!


「ちょっと待って、あのね、私は働いてるんだよ、少しくらいならいいけど、ずっとは無理だよ、ええと、お買い物ついでとか、そういう感じで来てくれると嬉しいかな?!」

「買い物ですか、なるほど、そういえば物質を集めて見せつけて交換作業…販売するのでしたね、よーし、僕いっぱい買っちゃうぞ!スーちゃんが売ってくれるなら全部買おう、買ってみせる!」


 この宇宙人、本当に買い占めやりそうで怖いイイイイイイイイ!!!


 そんなことしたら目立つどころの騒ぎじゃない!

 もうさ、なんでこんな人が日本に野放しにされてるの、誰が許可したの、責任者出てこい!!!

 六時間くらい説教してやる!!

 もちろん硬い床の上で正座も三時間させてやるぅうウウウウウウウウウ!!!


「違うの!買い物はね、買わなくてもいいんだよ、見に来るだけでもいいの、だからね、アッシュくんは全部買う必要はないの!!必要なものだけ、必要な時に買うんだよ、その練習をね、するために…お店においでよ、ね?!うん、それがいいよ!それなら私もお客様対応としてアッシュくんとお話しできるよ!ね、ぜひそうさせて、お願い!!」

「…お願い?!わかりた!!!スーちゃんのお願いなら何でも聞くよ!そうする!じゃあね、勉強の合間に会いに行くね!そうだ、それでスーちゃんに勉強の成果見てもらお!よし決定、ぐびー!!!」


 サイダー一気のみとか…大丈夫なんでしょうね。どっかのアニメキャラみたいに炭酸飲んだら酔っぱらうとかないでしょうね…。

 どうもこう、油断できないんだよね、大丈夫かな。思わずアッシュくんの顔を…じーっとのぞきこむ…。目の色は変わってないみたい、大丈夫かな?怪しいな…。


「こんにちは!!!」


「っ!!は、はい、こんにちは!」

「こんにちは。」


 思いっきり不意を突かれて、思わず声が裏返ってしまった。

 アッシュくんの瞳に見入っていた私に…小学生くらいの女の子が急に声をかけてきたからね、びっくりしちゃったっていうか!!!


 …女の子はお辞儀を一つしてから、自販機コーナー入り口辺りで待っていたお母さん?の方に駆け寄り、業者用エントランスの横にあるエレベーター前に移動して…二人で並んで待っているのが見える。


「あれは子どもパーツだね、中に記録媒体が入ってて、人間の幼少期を観察してる…と思われる?見た事ないタイプだ、もしかしたら違法複写業者かもしれない、ちょっとつけたろ!」


 にゅちゅっ!!!


 アッシュくんは人差し指を立てると、小さな触手の欠片?を巻き付けて、ピュンと女の子に向かって…飛ばした、飛ばしたよ!!!

 勢いよく飛んでった触手の欠片が!!!

 女の子のツインテールにクルっと巻き巻き巻き!!巻きついてっ!!!

 ああー、一瞬で消えたああああああああ!!!


「ちょっ…イイの?!勝手にあんなの付けて!!」

「むむ、あんなのとは失礼な、アレは僕だよ!!むしろ付けないとヤバい案件だ、あとでコンシェルジュに報告しないといけないパターンだ、住人に犯罪者がいてはまずい。ここにはね、宇宙人だってこと封印して日本人やってる人が多いから、かなり危険と見た、良かった、つけることできて!ありがと、スーちゃんがいたから気付けた、感謝します!」


 何この…SF展開!!

 犯罪者?!

 ちょっと待って、宇宙人ってことを封印って何!!

 そもそもこのマンションって!!

 うちの店に多大なる恩恵をくださった皆さんの正体ってえええええええ!!!


「ねえ、もしかして、ここのマンションには、宇宙人しか住んでないの…?!」

「寿命終わるまで忘れてる人が多いけど、皆宇宙人だよ。ああでも…一部フロアはホテルになってるね、住んでるというより、一時滞在してる?あと工場もあるし人数的に言えば、純粋な宇宙人は10人くらいしか住んでいない気がする、ΨΛ※Я▼取った後にあいさつ回りしたからさ、いまいちはっきりしない。そんな中、僕は人間の肉体を初めて取得した尊き存在で!!僕ね、人として存在できた初の宇宙人でね、すごいんだよ、えっへん!自慢の髪をはじめ、僕が僕足る僕としての僕僕!!!」


 ああー、またおかしなテンションが始まっちゃったよ…。ええと、どうにかして止めるには―!


「あ、そうだ!ちょっと恰幅の良い、なんとなく油っぽい…バタ臭い感じの顔つきの、スポーツ刈りの白髪交じりのフチなし眼鏡のちょっとごつい大きなおじさん知らない?川原さんって人。ここに住んでる人っぽいんだけど。」


 いつもプロテイン買ってくれるあのおじさんも宇宙人なんだよね、たぶん。

 いつもはきはきしててオヤジギャグばっかり言ってて、けっこうおもしろいお客さんなんだけど…宇宙人だったとはねえ。住んでるって言ってたし、納品何回もしてるし、絶対宇宙人だよね…。ああでも、宇宙人ってことに気付いてないパターンの宇宙人の可能性もあるか、もしかしてパーツかも?


「油っぽい?バタ臭いって何だろう??うーん知らない、知ってたらよかったな、僕の知らないスーちゃんのこと教えてもらえたのに、くっそー、残念でならん!」


 ああしまった…バタ臭いって表現分かんないか…ついつい魅留駈山山岳部の皆さんとの会話で使われがちな単語が出ちゃうというか!!

 私ってばおじちゃんおばちゃん世代との交流が多すぎてね、非常にこう、古臭いというか、死語が多いタイプっていうかああああ!!こういうところが若さがないとか言われちゃうんだよ、あああ!!!仕方ないでしょ、もともとおばあちゃん子だったし!!


「そっか、じゃあ、そのうち、機会あったら紹介するね、うん…。」


 すっかりぬるくなってしまったコーンスープを飲み干して、椅子から立ち上がった。


「ごちそうさま、じゃあ私はこの辺で…。ちゃんとポインセチアにお水あげてね?ちゃんと、日本人の勉強、してね?人肉社長さんに、メンテナンスしてもらってね?…無茶、しないでね?!」


 なんかいろいろと疲れちゃったなぁ、さっさと買い物して家帰ってのんびりしたい……。

 私ちゃんと帰れるかな、途中で力尽きたりしないよね…。ここから歩いて十分の距離が遠く感じるとか…相当疲れてるなあ、私。


「わかった!スーちゃん、いろいろとありがとう、また明日ね!」


 ・・・?


 意外とごねないで、すんなりさよならできそう?

 なんだろ、この違和感みたいなのは。・・・ま、いっか。


「じゃあ、また!」


 アッシュくんに手を振って、自販機コーナーから出て、新車で降りてきた坂道を上り始め…、ふと、振り返ると。


 自販機コーナーには、もう誰も、いなかった……。


 ・・・。


 なんだ、結構…ドライなんだなあ、そんなことを思いつつ地下駐車場を後にし…地上に顔を出した時。


 私のおなかが、ぐうと鳴ったのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 14/14 ・なーるほど。パーツかぁ。  ちょっと面白そう。何か考えてみましょう。 [気になる点] >二分おきに連絡入れてくるパターンなんじゃない?!…  おわー、謎のリアリティ [一…
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