カードが見つかった
≪≪♪1、3、2、2、豪快ラジオ♪…はいどうも、お昼の憩いのお時間到来、皆様お元気でしょうか、ナビゲーターの沢庵ポリポリです。11:30を回りました、本日のテーマは…≫≫
軽快なミュージックとイケボの流れる…納品したてのほやほやのピッカピカの車内には、やけにご機嫌な様子で鼻歌交じりにタブレットをつるつるやってるイケメン宇宙人…。
カーラジオから流れてくるミュージックを、そのまま鼻歌にしてるあたり…学習能力が高い?一回聞いたことはすぐに理解してるのかもしれない、もしかして、すごく頭が良い?
いやいや、でもそれ以上に常識的なことの欠落がものすごくって、あり得ない行動の応酬の威力がハンパなさ過ぎていまいち感心するタイミングが見つからないというかっ!!!
「スーちゃんが運転してくれて助かったよ、あのね、このまま乗ってって、僕の住まいの駐車場に停めてもらってもいい?」
信号待ちでアッシュ…灰島君?明君?ああもう、なんかしっくりこない上に混乱がすごい、まあとにかく…宇宙人の人がね、私に向かって手を合わせてお願いをしてきましてですね?!
…こういう細かいところの動作、何なんだろう。こういうことはちゃんとできるのに、なんでこう、車の運転の基礎とかおかしなことになってんのかなあ…。
「いいけど、あの、アッシュ、くんね、しばらく車に乗っちゃだめだよ。もっと勉強してからじゃないと、最悪宇宙人バレどころか懲役になっちゃうというか。」
暴走軽自動車とか、シャレにならない。
でもね、恐ろしい事故の発生は、私の行動ひとつで止めることができるはずでっ!!!
私がアッシュくんの無謀な行動を止めなければ被害者は確実に発生するわけでっ!!!!
もうね、駐車場に停めたらカギ持ってっちゃおうか、でもなあ、そんなことしたところでニコニコしながら改造したりして無事に暴走する結末しか見えてこない!!!
「むむ。僕ナビゲータ忘れちゃって、この状況下で車を運転することが非常に難しいらしいけど、ちゃんと用意すればイケるはずなんだよ?だって仮免も卒業検定も一発だったもん!!効果測定もばっちりだったし、教習所の先生が褒めてくれたのさ。若いのに渋い運転するねって!」
どうも信用がならない。
「…まさかと思うけど、替え玉受験みたいな…アッシュくんそっくりな運転手が別にいて、本人はコーヒー飲みながらへらへらしてたとかじゃないでしょうね?」
よくわかんないハイテクノロジーを駆使して、別人が免許取ったとかそういうオチなんじゃないの。だとしたら、車の運転を許すわけにはいきませんが?!
「むむむ!僕が受けたんだよ!ちゃんと脳髄ナビ入れたもん!視覚情報と聴覚情報を分析し、電気信号で手足の筋肉を自動処理、きちんと合格できました!!自動制御装置を使ってたからね、一発合格だったよ!!!何一つ悪いことはしてないよ、失敬ですね!!!」
何やら憤慨してるみたいだけど、それって替え玉受験みたいなもんじゃないの!!
本人は何一つ交通ルールを理解していないくせに車を運転するつもりとか、国土交通省が許しても私は許しませんよ?!
「だったら合格した時の状態で車に乗らないとダメなんだってば!!!」
アッシュくんにつかみかからんという勢いでツッコミを入れた瞬間!!
プーッ!プップー!!!
ああしまった、信号変わってるの、気が付かなかった…。
「あああ!!ごめんなさいー!!!」
ルームミラー越しに見ず知らずのおじさんに頭を下げて…、アクセルを踏み込み、前進することになってしまいましてですね?!
総面積100 km²を誇る小夏日市は、県庁所在地すぐ隣のベッドタウンとして栄えている中規模都市。隣県と県庁所在地を繋ぐ国道が市を北部と南部を真っ二つに分けるような形で縦断していて、交通の便がいいことで人気の市なんだ。
国道沿いにはチェーン店がずらりと並んでいて、夜中でもずいぶん明るくて騒がしい街のイメージがあるものの、車で10分も行けば豊かな自然があふれているから、どちらかと言えば都会というよりも田舎寄りではある。私が毎週登っている魅留駈山や、大外川、烏谷、高台から見下げる都会の夜景…絶景ポイントが多い町だとは思うんだけどね。
片側四車線の国道を、新車はすいすいと進んでいく。今朝一時間かけて歩いた道が、勢いよく流れていくのが心地いい。
私、ドライブも好きなんだよね。公休が日曜と水曜だから、日曜は歩いて山登りに行って、水曜はちょっと遠くのお店までドライブに出かけるってパターンが多いんだ。連休がもらえた時は、マイカーで高速道路巡りをして車中泊なんてこともしてたりするし。…女子としては、ちょっとイケてない、趣味なのかもしれないけど。SAとか最近ものすごく充実してて…、行くだけで結構楽しめちゃうんだよね!!
「ずいぶん車が多いね、皆上手に間を開けている、さすが几帳面だね、日本人はA型が多いという現れに違いない、うーん、さすがです。」
タブレットをいじるのをやめて、窓の外に夢中になっているアッシュくん。なんだかいろいろとぶつぶつ言ってるけど、几帳面でなくてもね、皆きちんと車は運転するものなんだよ…。ちなみに私はО型なんだよって、うん、余計なことは言わないでおこう。
…この様子では、相当…地球に、小夏日市になれるまで、車のハンドルを握らせるわけにはいかない。…できる限り、私が運転手を申し出て、安全とは何たるものかというのを叩きこんでからでないとね?!常識っていうものを叩きこんでからでないとね?!
ああもう、なんでこんなことになっちゃったのかなあもう…。
「あ、あのビル!!あれが僕の家なのだ、わかる?ねえねえ、よく見えるな、あのてっぺんに※%#▼があるから、多分◎●〇▼が!!!」
アッシュくんがシートベルトをしたまま、前のめりになってフロントガラスの向こうに見えたタワーマンションを指差す。
窓を開けて、顔を出し!!!
60キロで走行中の風を受けて、ご自慢の10万人の髪の毛がばっさばっさと!!!
あああ、隣の車線のおばちゃんが変な顔してこっち見てるー!!!
「うん、わかってるから、ちゃんと座ってようか!!動いてる時はね、窓から顔を出したらだめなんだよ!!お願い、おとなしくしててー!!!」
「わかりた。」
素直な返事が返ってきたよ!
おとなしく前を向いて座り直したのはいいことだと思う、でもね、私は今ね、人様の車、しかも新車を運転してるんだよ?!
もうちょっと気遣い、気遣いってものをーって、そんなの無理に決まってますね、うん、そうだね。ねえ、私泣いていいですかね…。
≪≪♪…では次のリクエスト曲、一寸法師で、「泣きっ面にハチ」≫≫
♪泣いていいんだよ♪泣いていいんだよ♪
絶妙のタイミングで絶妙なタイトルの音楽が流れてきましたけどね?!
…逆に泣いてたまるかってなりました!!
ありがとうございます!!!!
アッシュくんの住んでいるタワーマンションは、つい一年ほど前に建ったばかりの、市内一の高層マンション。
安い階層でも6000万ほど、高層階は一億越えだと聞いたことがある。けれど、タワマン住人の皆さんはわりと気さくな方ばかりだという事を、すぐ近くにあるスーパーや量販店の従業員たちは知っていたりする。
私も、よーく知っていたりするのだ。
なぜならば…私が働く量販店、メリーゴーランド小夏日店は、タワマンのすぐ横にあるのですよ!!
まあ、ピッカピカのタワマンに対し、何度も外壁塗り替えをした五階建てのうちの建物は、ずいぶん年期が入ってますけどね。
メリーゴーランドグループは小夏日市に五店舗を構える量販店で、日用品から嗜好品、衣料品に宝飾品、電化製品に食品、その他いろいろなんでも取り揃えているのが魅力の地域密着型のお店。
小さいながらもイベントスペースがあって、市民祭りの際にはステージ企画が開催されたりしていて、小夏日市民に相当なじみの深いお店なんだ。市役所もすぐ近くにあるから、まとまった注文も受けることが多くて、実に安泰の企業なんですよ、ええ。
…まあ、それなりに、問題も抱えているといえば、抱えているけれども。
タワマン建設中はそれなりに交通渋滞や騒音なんかでうちの店も被害を被ったりしたけれど、建ってしまえば、はっきり言って恩恵しかなかったんだよねえ…。総戸数100を超えるタワマンのおかげで、我が店舗は売上高前年比200%を叩きだしたのですよ。
個人的な知り合いも何人かいたりするんだよね…。
タワマンの入り口にいつも立ってるおっちゃんはうちの店の常連客だし、何階に住んでるかわかんないけど、気のいいおじさんもいつもまとめてプロテイン買い込んでくれて、売り上げにかなり貢献してくれてて助かっていたりするし。何度かエントランスに商品搬入させていただいてるんだ。
高級マンションなのに、うちの店の安いジャージや安いブーツなんかを気さくにお買い上げくださる皆さんが多くて、980円のスウェットを着て入っていく人がやけに多かったりするのですよ。
「地下駐車場でいいんだよね?私搬入したことあるからなんとなくわかるけど…、カードキーとか持ってる?」
このマンションは地下に駐車場と業者用搬入口があって、一階には住人用のエントランスしかないんだよね。慣れてない宅急便のお兄さんが、タワマン前のおっちゃんに促されて地下に向かうのを何度も目撃したことがあったり。
「うーん、とりあえず行ってみよ。カード、どこやったかな、持ってたはずなんだけど…。」
なんかパーカーのポッケとか、上着の中に手を入れてごそごそやってるけど…大丈夫かなあ。
タワマン駐車場入り口のゲートを通って、スロープを降りていくと業者用の駐車スペースが五台分用意されている。すぐ横には格子状の大きな扉があって、その奥にたくさんの車が並んでいる。その横には、業者用のエントランスかあって、端の方には、業者の人が休める自動販売機コーナーなんかもあったり。
どこまで進んでいいのかよくわかんないなあ…、とりあえず業者用の駐車場に停めて、係の人を…ああ、守衛さん?らしき人が走ってきた。何回か見たことある人だ。
「あ、駐車ですね、車預かります、降りてもらっていいですか。あとね、カードお願いしますね。」
「あ、カードは、助手席に乗ってる人が…。」
このマンション、駐車する時は係の人にお願いするシステムらしい。
運転席から降りて、アッシュくんを見ると。
「あーん、ないよ、どこ行ったー?どっかにある、全部でりな!!」
にゅる、にゅる!!
でろ、でろ!!
じゅぐりゅ、ずるっ!!
にっちにっち、ぎゅるぎゅる…ももも!!!
「!!!!!!!!!!!!!」
内臓色の内臓がいっぱい出てきて…こ、こんにちはっ!!!!!!!!
ひいいイイイイイ!!!
勘弁してええええええええええ!!!!!!
思わずその場にしゃがみ込む私っ!!!
もう見たくないよ!!!
見てはならない!!!
見たら記憶に残る!!!
夢に出るぅうううううううう!!!
「あ、あああ!!ごめん、音切るの忘れてた、だって今僕焦ってて、わあ、ごめん、スーちゃん怒ってる?!」
「兄さん、ここにカードくっついてるよ、もらっとくね!」
は、はへっ?!
…ねえ、なんで?!
なんでこのおじさん、この内臓色のやつ見ても、平然としてるの?!
この!!!恐ろしいまでにグロテスクな内臓にゅるにゅるを、この人見てるんだよね?!
私だけが見えてるわけじゃないよねって、ああ、するっと消えた…消えたのも見てるよねええええええ?!
「うん、よかった、たのむね。」
「あ、あああああアッシュ!!!ここここ、このしょ、触手!!おじさん、おじさん!?!?」
私は、アッシュくんの首根っこを捕まえて、がっくんがっくん、揺らしながら!!
混乱を混乱たる混乱の証としてええええ!!!
「この人は管理パーツの人だから大丈夫だよー。」
ああああああああ!!!
またわけわかんないことに、なってキター!!!




