煙が出た
「スウは、エコー、…愛を受け取るのは、慣れていない?」
真っ直ぐ、まっすぐすぎる、アッシュくんの目がわ、私の目を射抜く!!!
真剣過ぎる眼差しが、こんなにも突き刺さるとは!!!
どこかいつも真面目なシチュエーションを避けて生きてきた、そのいいかげんな生き方の、代償、代償が今、私に襲いかかってるー!!!
ねえ、こういう時なんて返したらいい?!
正直モテたことがない私にはハードルが高すぎる、こういう場面に出くわしたことがない私には無理ゲすぎる!!
ごめんなさいすみません、ホント安易な気持ちで恋がしたいとか願っちゃって申し訳ございませんでした、私にはまだこういうの早かったみたいですぅうううううう!!!!
「は、はは、慣れてない、うん、慣れてない。」
真面目な表情のイケメンに、真面目な顔を返せない。
へらへらとしたぺらっぺらの笑顔を浮かべながら、とりあえずの返事をしてみるけれども。こういう時の返し方の正解がわからない、ええとーええとー!!!
「…俺で慣れろ。お前の常識を変えるのは…俺だ。」
ひいいイイイイイイイイイイイイイ!!!!
何このごり押し俺様エロス駄々洩れ宇宙人のトンデモオーラ、オーラっ!!!
ありえない、信じられない、超常現象が目の前で起きてる、ああそうだ、宇宙人なんだから確かに超常現象だ、いやしかし人間の皮をかぶった…違う違う人肉スーツのいやいや人間になってって言ってた、人間になる時にいろいろと不要部位を取り除いてって人類の知らないミラクルテクノロージー!!!
混乱の収まらない私の様子に、微塵もひるむことなく、アッシュくんはぐいぐいと、ゴリゴリと、せま、せま、迫ってくる!!!
すっ・・・!!
私の、頬に!
あたたかい、指先が触れ!!
あたたかい、手の平が触れ!!!
優しく、頬を、撫でてっ…!!!!
触れられた頬だけじゃなく、顔全体が、一瞬で熱くなった。
…少し、冷たい風にさらされていた私の頬。
…表面は、冷えてしまっているけれど。
その、冷たい頬の下には…かっかと燃えるような、熱がたまっていて!!
さっきから、大混乱を巻き起こされて振り回されて、恥ずかしくなるようなセリフを聞かされて!
分厚い面の皮の下に抑え込んできた、私の純情、純心、純粋、そういったものがね?!
ああ、多分私は今真っ赤な顔をしている、ひょっとしたら湯気が出ているかもしれない、これっていわゆるオーバーヒートってやつ?!
正常な思考回路が機能しないよ、これはまずい、いつも沈着冷静何でもかんでもそつなくこなして多少のやらかしは笑って済ませる完全無欠の樫村さんらしからぬ失態、失態イイイイ!!!
ああでも今勤務中じゃないし完全プライベートだしってああダメだ、どこをどう間を取って落ち着いたらいいのか、落としどころがわからない、うん、私今最高に混乱してる、こんなの初めてだ、そうね、さっきから初めての経験めっちゃしてるもんねええええええええ?!
…ああ、熱い。
アッシュくんの手のひらが、こんなにも、熱い。
私の頬が、こんなにも、熱い。
・・・私の、胸も。
熱い、ような、気が。
誰かから与えられる熱が、こんなにも私を熱くするなんて。
・・・どこか、冷めた毎日を送っていた、私の心に、熱が。
・・・熱が。
・・・ん??
・・・熱い?
「…あっちっ!!!めっちゃ熱い?!ちょ、ちょっとアッシュ、アッシュくん?!」
「うん、スウ、俺の熱い気持ち、わかってくれた?…責任、取って。」
熱っぽい目で私を見つめてる、見つめてるけどっ!!
・・・ちょ!!!!!!!!!!!
け、煙!!煙が出てる?!
アッシュくんの頭、頭から湯気?!
白いふわふわしたものがああああああ!!!
「わあ、け、煙出てる!!ちょっとアッシュ、これヤバい、ねえちょっと大丈夫?!」
返事も聞かずに、イケメンの頭に手を伸ばし!!!
ぽふ、ぽふぽふぽふ!
ぽふ、ぽふぽふぽふ!
ぽふ、ぽふぽふぽふ!
ご自慢、ご自慢の髪の毛!!
髪の毛が!!!!
私は我を忘れてひたすらに銀色の頭をポスポス叩いて!
ポスポス叩いて!
ポスポス叩いてええええええ!
「あわわ、だい、だいじょうび!ええと、おかしいな、ふうむ、あふれ出たものが接続すべき場所をずれさせてしまい、なるほどこれはまったくもって許せん!」
煙がおさまったあたりで、へっぽこな言葉が聞こえてきたよ!!!
…ああ、元に戻った?アッシュくんの目を見ると…緑色の瞳に戻ってる!!!
これは…戻ったよね?戻ってくれたんだよね?
ヘタレマックスでも、色気マックスよりはずいぶんましに見えてくる!
強引な俺様キャラなんて、未熟者の私にはまったく手に負えませんでした、もう今後は一切ご登場しないで頂きたい!!!
「あの、アッシュくんね、すごく変だったよ、不具合かなり…問題あると思うの、あのね、一回家に帰ってその、出直した方がいいんじゃないかな。」
普通の人はね、頭ポンポンやったら人が変わることもないし、ましてや頭から煙出したりもしないんだよ?!
もうちょっと落ち着いて普通の人間やれるまで、人肉社長さんと存分にディスカッションしながら製品チェックをしてもらって、それから人間社会にね?進出してほしいっていうかね?!
「そう?ずいぶん元に戻ったよ、ねえ、お花見に行くんでしょう、僕はスーちゃんの好きなお花が見たいな、ねえ、見たらダメ?見たいんだけど、見たいって言ったらだめかな、こういうところの気遣い!!!」
…ここで断ったら、またテンパりそう。
テケテケしててうっかりまたおかしなスイッチが入っちゃったらまた性格が変わるかもしれない。…いろんな可能性を考えて、慎重に判断しないと…またとんでもないことになりそう!!!
・・・ガンバ、ガンバだよ、直っ!!!
こ、ここが!!私のッ!!踏ん張りどころぉおおおおおお!!!
「そうだね、お花見に行こうって言ったもんね、じゃあね、お花見たら帰ろうか、ね?」
「ありがとう!お花楽しみだ!帰るまで楽しめる、やったあ!」
さっきまで色気をガッツんがっツン投げつけてきていたヘタレマックスの手を取って、植物園へと、向かった。
魅留駈山ふもとにある植物園は緑と花が年中あふれる場所で、果樹園や散策路、菖蒲園、バラ園、椿園、桜並木にプロムナード、カナールに大きな温室など、見どころ満載の人気スポット。大きな温室は休憩所を兼ねていて、軽食店も入っていたりする。休憩所内には季節ごとにテーマを決めて花を植栽したスペースがあり、ずいぶんSNS映えするため、いつ来てもスマホを片手に撮影をする皆さんでにぎわっている。
…何を隠そう、私もちょくちょく、写真を撮ってはSNSにね、うん、のせたりしてるんだけどね。
だってさ、空の写真ばっかじゃ、ちょっとつまんないかなって思うっていうか。いつもおいしそうなご飯の画像ばっかじゃ、つまんないかなって思うっていうか。
独身彼氏なしの女子って、SNSにのせる画像が決まってきちゃうっていうか。一人ぼっちで遊園地とか行かないし、この年になると友達と遊びに行くことも少なくなっちゃって。…なんかつまんない人生送ってるなあってね、思わなくもないけれど。
「すごく大きな花びんだ、人が入って楽しむのか、なるほどねえ…携えるのは日光と温度、そしてⅹ☆υЖ⊆、ふむむふ、そうか、ここで人はⅹ☆υЖ⊆を得てなお∽⊿%のへえ、これは。」
ものすごく真剣なまなざしの宇宙人が真横に!!!
いつの間にやらタブレットを取り出して、画面をつるつるやりながらなんか操作してる、熱心な研究者って感じは、まあ、微笑ましいかな。地味に、熱中できるものがある人って羨ましいなって思っていたり、する。
「気に入ったお花とかあった?」
やけにニコニコしている青年に、声をかけてみる。
今アッシュくんの見ている植栽コーナーの草花は、売店で種だったりが販売しているんだよね。モノによっては鉢植え状態でコーナーに並んでいて、そのまま購入することもできたりするんだ。今もスタッフのおじさんが、売れてしまって穴の空いたところをバランス良く配置しなおしているし。
せっかくだもんね、お花が好きなら販売している鉢植えでもプレゼントしてあげようかなって思って。…せっかく地球にやってきたんだし、楽しんでもらいたいじゃない?…なんていうかな、植物の成長を通して、命の大切さを知ってもらいたいなって思ったっていうか。
「うん、いっぱい!いいなあ、僕もお花、欲しいな、欲しくなりました!」
「そっか、あのね、ここのお花は買えるものもあるんだよ、買っていく?」
アッシュくんの緑色の目が大きく、丸く、見開いて。
「ええ、ホントマジで!!買えるかな、買いたいな、買おう、買います、どこで買う?!」
「ふふ、落ち着いて、何、どれが気に入ったの?プレゼントしてあげる!」
大喜びしてるのが、ずいぶん子供っぽくて…かわいいじゃないの。
「僕これ!!これが一番欲しい!!」
アッシュくんが指差したのは!!!
・・・!!!!
ポインセチアの鉢植えを位置替えしている…おじさん!!!
「ああ、これかい?今年はね、赤以外も色々と植えたんだよ、派手でいいでしょう!何色が好き?ここには赤しかないけど、売店で桃と橙も売ってるよ、黄色と白は売り切れてたかも…。」
「ずいぶん地味だけど、かなり器用そうだ!ずいぶん年齢が高いのに元気がいいね、僕は真剣に所有意欲を増しました、いくらで買える?」
「そうだね、一番小さいのは500円だね、大きいのはそのまま飾れるよ、1500円の価値はある!」
おじさんはまさか自分が買いたいと思われているとは思いもしないわけで!!!
にこやかにすぐ横に植えられているカラフルなポインセチアの説明を始めてる!!!
「うん、確かにずいぶん小さめだ、でも良い色をしている、赤い顔が素敵だ!けど僕はちゃんと大きくなるように栄養剤も投与するし長生きするようにいろいろと改造するし、うん大切にするね、どこで買えばいい?」
「赤が良いんだね、じゃあ、俺がいい奴選んでやるよ!」
おじさんが選ばれてるんだってばあああああああ!!!!
「ふふ、ありがとうございます、あの、ええとお、ちょっと!!アッシュ、アッシュくん、耳、耳を貸しなさい!!!」
「ん、どうした、スーちゃん、…。」
私は宇宙人の耳元に口を近づけ!!!
手を添えて、内緒話、内緒話イイイイイイイイ!!!
(ちょっと!!このおじさんは買えないの!!!この赤い葉っぱの事だよ、買えるのは!!!)
「ありゃ、そうなのか、ううん、残念無念、なんだ、ダメでしたか…残念だ…。」
心底残念そうな宇宙人、宇宙人っ!!!
「おぅい!!兄ちゃん!!これ、こいつが一番いいわ!!」
「はは、うん、それ、それでお願いしますー!ありがとう!!!」
私は不自然な微笑みにならないよう、柔和な顔つきでおじさんにお礼を言って!!
売店のおばちゃんにお金を支払って!
赤いポインセチアを袋に入れてもらって!!!
「・・・せめて大きく育てよう、優しく育てる、ありがとう、おじさん!
「良いって事よ!!」
「ふふ、ありがとうございます!」
とんでもない魔物が誕生したりしないよね…?!
いやな予感しか…しないんですけど!!!




