暴走が止まらなかった
「「――――?!―――!!!―?!」」
「「ひゃぁ!!!は、はわわ・・・!!!」」
「っ・・・!!!」
「ママ―!ちゅうしてる!!」
「ッくうちゃん、あっちでお馬さん見よ、ね?!」
口元を古ぼけたデニムジャケットで装備中の右腕でガードしながら目を見開き戦慄く私の耳に!!!声、声にならない叫びのようなものが!!!
明らかに戸惑う声、息をのむ声っ!!!
幼気なちびっ子のご丁寧な申告とそれを受け止めきれない保護者の方の戸惑いの声えええええええええええ!!!!
わ、私も絶賛大混乱、ちょっと待って、ナニコレなんなのなんてこと、こちとら手を繋いだのだって久々で、男子?!ねえちょっと男子が喪女の私に、はい?!く、唇?!ねえ、私ってば今何した?!なにされた?!
き、キスされた!!!!!!
おちつけおちつけおちつけおちつけ・・・・!!!!
私はもういい大人、良い大人なんだから、キスぐらいで混乱したらダメ、恥ずかしい、大人の余裕、そうそう、唇なんて唇なんて口、口、口、口‥‥!!!
ふぁ、ファーストキスなんですけどッ!!!
ああ、私、なんだかんだでキスにはこう、夢を描いていたっていうか?!
大好きな人と心を通わせて大切な瞬間を共有する事に憧れていたっていうか!!
25にもなって何言ってんのって笑われちゃうかもだけど、ずっといつかは素敵なキスをするんだって心のどこかで思っていたっていうか、願っていたっていうか、信じていたっていうか!!!
ア、ああああああああ!!!!
うん、ごめんなさい、夢見がちな経験なしの勝手な妄想ですね、そんな素敵なことなかなか経験できないってのがデフォですもんね、そう、現実はこんなにも突然に、不意を突かれて奪われてしまうってことなんですね、ああ、うばわれるとかずいぶん被害妄想的ですね、むしろ25年物の唇を潤してくださってありがとうございます的な?!
ぅわあああああアアアアア!!!!!!
ダメだ、混乱がハンパなくて…自虐癖が出てきてる!!!
落ち着け、落ち着け、落ち着くのよ、直っ!!!!!!
「…スウ、返事が聞こえない。」
ぐ、ぐいっ・・・!!!
色気たっぷりの眼差しをまっすぐ向ける、イケメンに!!
あいている左手を、摑まれてっ!!!
く、くらっ・・・!!!
バランスを崩して!!!
ど、どさっ・・・!!!
ふわりと、自分ではない、香りが。
・・・ふわりと、自分の知らない、香りが。
・・・くらりと、自分を包み込んだ、香りに。
わ、わたわたわたわたわたわたわたし!!!!!
アッシュくんの胸、む、胸に!!!
とととととと飛び込んじゃってる!!!!
ぎゅ、ぎゅうぅ・・・っ!!!
「スウ…。」
「「――――?!―――――!!!――――?!」」
「「きゃぁ!!!ひ、ひぇええ・・・!!!」」
「くぅっ・・・!!!」
「パパ―!なかよし!!!」
「は、ははは、よーしハルヒ、あっちでクレープ屋が来てるから食べに行こう!」
目の前はやけに新品新品した黒いパーカー生地!!!
目の前は真っ黒なのに、目がチカチカするのは混乱の証!!!
視界の閉ざされている私の耳に!!!
声、声にならない叫びのようなものがまたもや聞こえてきて!!!
明らかに戸惑う声、息をのむ声っ!!!
幼気なちびっ子のご丁寧な申告とそれを受け止めきれない保護者の方の戸惑いの声えええええええええええ!!!!に、二回目っ!!!!
絶賛大混乱パートツー、ちょっと待って、ナニコレなんなのなんてこと?!
唇奪われてあっけに取られて胸に飛び込んで激しくギュウ?!
こちとら男性なんてレジお会計の時ぐらいしか真横に立ったことがない完全密着不慣れ者ですけど?!
商品説明接客中は密を避けて離れて行っておりますが?!
手を繋いだのだって久々でって、何回、何回言わせるの!!!
ねえ、私ってば今何されてんの?!
だ、抱きしめられてる!!!!!!
おちつけおちつけおちつけおちつけ・・・・!!!!
私はもういい大人、良い大人なんだから、ハグぐらいで混乱したらダメ、恥ずかしい、大人の余裕、そうそう、転びそうになったのを抱き止められられられ‥‥!!!
・・・ダメだ!!!
この流れ、今断ち切らねば引きずられて混乱が増すだけ!!!
落ち着け、落ち着くのよ、直っ!!!!!!
ほら、いつものヤバいお客さんに対面した時の必殺技、思い出すのよ!!直っ!!!!!!
社訓一、まずは落ち着いて瞳を見つめよ、社訓二、お客様のご意向を深く読み取れ、社訓三、伝えるべきは真心、社訓四、一歩下がって状況を判断せよ、社訓五、自分の力を信じよ!!!!!!
はい、宇宙人の目を見るよ、うん、相当色っぽいね!いつもより細めてるね!
はい、宇宙人の気持ちを読み取るよ、うん、かなり理解できないね!何考えてんだろうね!
はい、真心伝えるよ!
「アッシュくん、あのね、いろいろとびっくりしたの、ちょっと落ち着きたいから、ちょっと離れさせてね?」
はい、一歩後ろに引き下がらせてもらうよ、うん、めっちゃ不満そうな顔してるね!でも負けないからね!
はい、自分の力を信じて力強く言わせてもらうね?
「一人で暴走したらダメ。」
ダメだししたらまたテンパるかなって思ったんだけど、とくにパニクる様子もなく、ただじっと私を見つめているイケメンが、ここに。…この感じなら、しっかり私の話を聞いてくれそう。ベンチに座ったまま、私をまっすぐ見つめる、アッシュくんの瞳を見つめ返し…あれ?
…目?
あれ、瞳の色が変わってる、もしかして性格激変の影響、いや、証?
ちょっとこれは非常に今後役に立つ情報なのでは?
ええと、濃い緑色の目の時はヘタレマックスで、濃いブルーの時は…俺様系・・・ちょっと待ってよ、もしかして目の色が変わるたびに性格も変わるとか?
これは相当、かなりめんどくさそうな案件ってやつじゃ!!!
「俺は…暴走なんかしていない。」
してるんですけど。
言葉の暴走が止まったと思ったら、行動が暴走始めるとか…どうしてバランスの良い落ち着いた人間になれないの。出力調整がうまくいってないってこういう事なのかな、人肉スーツの社長は何をやってるの?!
一回ぐらいは直談判して、文句の一つや二つ言わないと気が済まないんですけど。
「あのね、キスとか、ハグっていうのは、相手の許可がないと、しちゃいけないの。アッシュくんは私に許可を取っていないでしょう?それってね、とっても失礼な事なんだよ。」
先ほど引っ張られた左手を腰にやり、右手で人差し指を立ててポーズを決めつつ、説教を始めてみる。
アッシュくんは黙って私を見つめているけれど…いつまた暴走するかわかんないな、また胸元に引きずり込まれるといけないから先に横に座ってしまおう。ベンチに腰を下ろして、イケメンの横に並ぶ。
・・・なんかこっちを注目していたであろう皆さんが、ぞろぞろとはけていくのが見えるんですけど。
「…悪かった。」
なんだ、案外素直に謝るんだね。
「いいよ、これから気を付けてくれれば…。」
奪われてしまったものは仕方がない。抱きしめられてしまったことは仕方がない。いつまでも過ぎたことをぐちぐち言うのは、私の性に合わない。いろいろと思う事はあるけれど、うん、気持ちも新たに前を向こう、そうしよう、そうしよう、うう…。
…良かったの、こういう機会を、経験をいただけたんだから!
何事も経験ってのは必要なの、未経験のまま年をとらずに済んでよかったじゃない?しかも相手は宇宙人だけどイケメンで、うう・・・。
自分を慰めるほどに、気分が落ち込んでくるのはなんででしょうか…。
「…気持ちを伝える事だけは、許してほしい。俺の中にある、スウへの愛は…エコーは、渡さなければ、響かせなくては、心がいっぱいになってしまう。」
なんか大げさだなあ、愛とか…なんていうんだろ、わ、私あんまり聞いたことのない単語で!!
ちょっと焦っちゃうっていうか、まあ、仕方ないよね?
「はは、気持ちぐらいなら、いつでもどうぞ、言いたいことは伝えないと伝わらないからね、うん。」
膝の上で、肘をつき、口元を押さえつつ…アッシュくんが、遠くを見ている。その、物憂げな様子がね、ハンパなく、こう…色気があふれているというか、なんというか。さっきまでのヘタレっぷりとのギャップがものすごすぎて、正直ついていけてない!!!
「・・・伝えるだけでは、追いつかないかも、知れない。」
落ち着き払った宇宙人の声が、やけに真剣で…返す言葉がうまく浮かんでこない。
どうしよう、なんか安心するような、落ち着きを継続させることが出来るような、最適の返事を…ああ、いい言葉が浮かんでこない!!
でも何も言わないと不安にさせちゃうかも、ガンバ、ガンバだよ、直っ!!!
「うん、全部ちゃんと聞くから安心していいよ、ゆっくり伝えてくれたら大丈夫、焦らないでね?」
焦ってるのは自分だけかもしれないけども!!
いや、なんかもうアッシュくんの色気がハンパなくて、直視できないっていうか!!
…正直、怖い!
…怖いって思った、その瞬間。
色気駄々洩れのイケメンが、こっちを向いて。
私とおなじ目の高さで。
私を、まっすぐ射抜く、色気たっぷりの視線が。
思わず、固まって、いると。
「伝えきれなかったその時は、奪うから。…覚悟だけ、しておけよ?」
はは、はいぃいいいいいいいいい?!
かかかかかか、勘弁、してえええええ!!!!!!!!




