フィナ撤退戦3
「この行軍でもいいことはあった。共に行軍している奴はいいやつが多かった。まず、同じ第13小隊。隊長はともかく、そのほかは平民出身で優しそうなやつらだ。行軍中も他者を気遣い、飯も共にする。大柄な男はアジタという名前だった。通常は、八百屋をやっているらしい。行軍中は道草に生えている薬草を隊長の目を盗んで取っている。もう一人大柄な大男がいる。それはトロールだ。こいつの名前は本人が無口なのでわからないが、トロそうな体型だからとほかの奴が名付けていたものを拝借することにした。動きは今のところ緩慢だが、謎が多い奴だ。まだまだいるが、書くのが疲れたのでこれくらいにしておこう。帝国歴176年7月19日」
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「フィヨラに到着。ここで宿泊し明日、また行軍する。」
そんな声が響き渡る。よし作戦開始だ。
(6時間前)
「アジタ、トロール、協力してくれ。」
「何をだい?ロキ。」
「行軍に遅れている奴らを次の拠点で置いていきたい。」
「軍規違反じゃねえか。あっ、珍しい薬草だ。」
「もちろん、軍規違反だということは分かっている。だが、遅れている奴らを数名だけ手引きして置いていく。どうせばれやしないさ。もちろんメリットもある。私たちの物資が少ないが、遅れている奴らを置いていけば一人当たりの物資が多くなる。今後の飯のためにやらないか。」
「馬鹿じゃねぇ。ばれれば軍規違反で銃殺だぞ。誰がそんなことのために命を捨てるんだ。」
「それは…」
「あんちゃん、俺はこんなところで死にたくねえんだ。この戦争からも無事帰還して妻と子供と仲良く過ごすんだ。俺を巻き込まないでくれ。」
だめか、それはそうか。だれも命なんか懸けたくない。自分だけは助かりたいと思っている。こんなバカげた行軍もやめて逃げ出したい。私だってそう思う。
「おい、それは私も逃がしてくれるのか。」
「トロールがしゃべった‼ おい、お前、あの無口なトロールだよな。偽物じゃないよな。体調が悪いのか。」
「うるさい、アジタ。私は口下手でしゃべらないだけだ。」
「君一人だけなら置いていける。まあ、ばれれば、銃殺になるかもしれないが…」
「周りの兵士を見ればわかるだろう。寄せ集めの素人集団さ。生還の見込みは低いだろう。おいて行かれた方が気が楽だ。私を逃がしてくれ。」
「馬鹿な事を。行ってみなきゃわからないだろが。俺は生き残るぜ。」
「この戦争は6年目に突入してまだ終わらないだぞ。私みたいな病気なものも連れ出されているありさまだ。」
「どこが病気なんだ。お前みたいな大男が。」
「私は巨人症だ。アジタみたいな筋肉で大きく見えるのではなく、図体が通常よりもでかい。しかし、心臓は小さいままだから激しい運動に耐えられん。」
「なんて欠陥が。」
「それだから私は戦場に死に行くようなものだ。行軍だってとてもつらいんだ。」
「その辺でいいだろうアジタ。トロール、脱出の手助けを私にさせてくれ。」
「作戦はどうする。ロキ。」
「それについてはいい考えがある。」