フィナ撤退戦1
「世界は恐怖で支配されている。」
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「ある日、一枚の紙が来た。それは、徴兵を知らせる紙だった。戦争は始まっていたので、16歳の誕生日になる私、ロキのもとに来るのは自然なことであったが、私はこの紙がひどく嫌いだった。この国が亡ぼうがどうなろうが知ったことか。私は捕虜になってでもこんなバカげた戦いから逃げてやる。こんな怖いものに命を懸けるなんて馬鹿げている。戦闘員のあのすました顔が気に入らない。隊長らしき男の「我々は誇り高き戦士」だという掛け声が気に入らない。理想も建前もしったことか。気に入らない。気に入らない。気に入らない。逃げてやる。逃げたやる。逃げてやる。逃げてやる。
おっと心が乱れてしまった。こうして、手記に書き込んでいないと心がおかしくなる。怖い。怖い。それしか考えられなくなる。とりあえず、今日はこれぐらいにしとこう、そろそろ移動だ。帝国暦 176年8月1日」
ロキは手帳をポケットにしまい、移動の準備をしようとする。
「ロキ何やってんの? あんまりぐずぐずしていると隊長がおこるよ。」
「まだ、移動の時間まで15分もあるだろう。カレン。」
「うちらの小隊長は、あんたのこと、きらいだからなあ。何かあれば、あんたを責めるさ。」
「私をくびにしてくれてかまわないんだが。」
「そういうなって。ほら、移動だ。明日には、前線に着く。今日が最後の晩餐の日かもしれないな。」
「冗談でもやめてくれ。」
「移動だ。第13小隊集合。ロキ、お前、また遅れたな。お前のような奴は、この隊のゴミだ。全く時間も守れないとは、幼稚園からやり直してこい。何を見ている。ほら、移動だ。準備しろ。他の部隊も移動している。遅れをとるな。」
「イエッサー」
移動の準備といっても何かあるわけではない。ただ、行軍が要求されるだけだ。
「移動開始」という命令が下される。従うだけだ。
「ロキ副隊長、一部隊員が遅れ始めています。」
「またか、」
「おいていった方がいいんじゃない。」
「それはできない。食料もないのに置いていけば、ここで死んでしまうぞ。カレン」
「どうせ、前線に行けばそういうやつらから死ぬ。うちらは、捨て石なんだよ。」
「捨て石かもしれんな。」
そういいながら、遅れていた隊員に声をかけ、肩を貸す。
「お優しいことだなロキ。」
カレンの表情が曇ったのは気のせいだろうか。