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03

「それは、メアリー様と、取り巻きの皆さまの態度の違いですわ!」


 腰に手を当て、胸の前に拳を作り、アドリアナさんは強く言いました。


「殿下、メアリー様は男性であればどなたにでも、その愛らしい笑顔で対応していらっしゃるのをご存じですか?」

「あぁ、もちろん知っている。メアリー嬢はいつも笑顔で迎えてくれる」


 ちょっとちがうような気がしますが……。

 アドリアナさんも微妙な顔をしました。


「……まぁ、そうです。メアリー様は分けへだてなくすべての男性に笑顔を振りまいていらっしゃるでしょう? そのおかげで、殿下を始めとする取り巻きの方たち皆さんは、お互いを牽制しつつも、メアリー様を中心にまとまっていらっしゃる。それはメアリー様が皆さまを平等に扱っているからです」


 それもちょっと違う気がしますが、アドリアナさんがそう言うなら、それでいいと思います。


「それに引き換え、殿下達のメアリー様以外の女性に対するあの態度! ちょっとでも近付くと睨みつけ、ご挨拶しても無視、廊下ですれ違っても文句を言う。あげくに、この女性が絡むと下町のゴロツキも逃げ出すような難癖と暴力を振るうのですから。おおよそ、これから王位を継ぐ可能性がある方、この国の中心となる方たちの態度とは思えません。それでも、学園内ならまだ学生と甘えも許されるでしょうが、貴方たちは外部のパーティーに婚約者ではない女性を、王子の色を纏わせてエスコートした上、主催者に恥をかかせるような行動を繰り返していらっしゃいますよね。貴方達のそのような態度が、女性から嫌われる原因と、メアリー様への嫌がらせになっていると、もっと自覚すべきです」


 アドリアナさんは、さも楽しそうに語り出しました。


「ご存じですか、殿下。メアリー様はわたくしたち女性には、いつも泣きそうな顔で、まるでわたくしたちがいじめているような顔をなさいますのよ。朝のご挨拶すらままなりませんの。一度だって、メアリー様からかわいらしい笑顔を向けられたことがございませんのよ? ですから、わたくしたちはメアリー様が皆さまに向ける笑顔は、あざとい男に媚びていると嫌っています。なのに貴方達は、わたくしたち女性を目の敵にして、メアリー様や自分たちに非が無いと思っていらっしゃる。そのせいで、メアリー様とメアリー様の周りにいる取り巻き男たちは、この学園の女子だけではなく、社交界での評価も最低です。地の底にへばりついています!」


 アドリアナさんは、さらに胸を張ってそう男たちを指差しました。


「仮にも王子なら、この国すべての人に愛されるよう努力すべきじゃありませんか? 取り巻きの方たちも同じですよ。女性の方たちにとって貴方達はアイドルなのですから、アイドルはアイドルらしく、ファンの皆様にもう少し愛敬を振りまくべきです!」

「え?」

「アイドル?」

「ファンって何?」

「愛敬振りまくって……」


 アドリアナさんの演説に聞き入っていた教室が、息を吹き返しました。

 この世界にはない言葉と思想にざわめきがおさまりません。

 アドリアナさん、もしかしなくても、転生者なのでしょうか?


「ぼ、僕たちが、何故そんなことをしなければならないんだ!」

「そうだよな、あいつらがメアリー嬢みたいに出来るわけないよな」

「ただただ威張ってるだけだから、無理だよな」


 魔法使いの双子の片割れが叫び、それを揶揄するように男性の何人かが声を上げました。

 アドリアナさんの言葉をしっかり理解している人がいるようです。


「出来ますよ!」


 アドリアナさんはその声にも、自信満々に断言します。


「メアリー様が来るまではちゃんと出来ていたのですから、出来ない筈がありません。

それに、本当にこの方を守りたいなら、女性を威嚇するのではなく、笑顔で対応するべきです!」

「今更あの人たちに笑顔で話しかけられても」

「そりゃあ怒鳴られるよりいいけど」


 今度は女性たちです。その意見には、私も同意します。

 もともとはアイドルでも、嫌と言うほど不貞の現場を見せつけられたのですから、アイドル枠にはいられないでしょう。それどころか、売れなくなったアイドルの最後の砦、ゴシップネタの宝庫です。(←見解には個人差があります)

 いくつになってもアイドルとは、神聖で不可侵、たゆまぬ努力と心身共に美しくなければならないのです。

 今の彼らは、もうアイドルには戻れません。


「皆さま、御心配には及びません。世にはヤンデレとかツンデレとか、新しい愛の世界がありますわ! 当然そのようなスキルも根底に“愛”がなければ、何の意味もありませんが、私が彼らをプロデュースして新しいアイドルとして、必ずや皆さまに愛される存在にして見せます!」


 アドリアナさんが、所々何かちょっと違うような言葉もありましたが、プロデューサー就任を宣言されました。


「ツンデレ?」

「ヤンデレ?」

「プロデュース?」

「今度は何なんだ?」


 取り巻きたちがぶつぶつと何か言っています。

 その顔には困惑しかありません。


「リエスタ様、すみません、発言をよろしいでしょうか!」


 勇気ある誰かが手を上げました。

 アドリアナさんはそちらを向くと、大きく頷きました。


「コーデリア・エトホーフ様、でしたわね。発言を許可します。忌憚なきご意見をお聞かせください」

「ありがとうございます。私は子供のころご招待いただいた王家主催のお茶会のころより、殿下をお慕いしておりました。私は子爵の身分ですから、遠くからお見かけすることで満足だったのです。ですが、今はこんなクズたちに愛を向けることはできません!」

「く、くず……だと」

「そうです、くずです。こんなあばずれのために、私たちの女神・レジーナ様、クラリス様、ジゼル様、ニコル様、ニコラ様のお顔を曇らせ、嘆かせ、あの美しい口から美しくない言葉が発せられるなど、決して許されることではありません!」


 あー、違う世界のヒトキターーーー。

 と、思ったら、クラスの女子全員が立ちあがって、拍手しだしました。

 屑という言葉で怒りの表情を取り戻した王子も、取り巻きもまた固まりました。

 まさか、女子にこんなに嫌われてるなんて思ってもみなかったのでしょう。

 ちなみに、私も立ち上がって拍手中ですわ。

 男子も、勢いにのまれたように立ち上がる人が出てきました。

 地鳴りのように強くなった拍手の中、メアリーさんが立ち上がり叫びました。


「ま、待ってください! 私のためにケンカしないでください!」


ここまで読んでくださりありがとうございました。

次話もよろしくお願いします。

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