意味がわかると若干怖いかもしれない話 -保安検査-
意味がわかると怖いかもしれないお話。
ま、分かりやすいですけどね。
今日から数日間、俺は初めての海外出張に行く。
しかし、海外に行くような経験は今までに少ないし、渡航の方法を覚えているかすら危うい。昨日の夜、念には念を、と渡航の手順を1から調べ直したから、若干寝不足気味だ。
あくびをしながら空港内を歩く。搭乗手続きは、たしか離陸の1時間前には済ませておいた方がいいんだったか。余裕をもって家を出たつもりだったが、そう考えるとあまりのんびりもしていられない。俺はチェックインに向かった。
その道中、ある男に話しかけられた。メガネを掛け、髪を綺麗に整えた、いかにも実直そうな男だ。その男は俺を見て、涙目で俺に言った。
「すみません、シンガポールに行かれるんですか!?」
「……はぁ、そうですが」
「あぁ、よかった。実は、先程の便でシンガポールに向かった妻が少々忘れ物をしてしまいまして、届けて頂けませんか?」
「いや俺、急いでるんです。奥さんを見つけられる自信もないですし」
「そこをなんとか!! 妻には空港で待機するよう言ってあります! もし見つけられる自信がないようでしたら、写真を撮らせて頂ければそれを妻に送って話しかけて貰うようにしますので!!」
男は必死で頭を下げる。とはいえ、こっちもそんなものを請け負っている時間はない。向こうに着いたらすぐ向こうの支社に向かわなければならないのだ。
「だから、俺時間ないんです。奥さん探してる時間もないんですよ。分かってくださいよ」
「……分かりました。そこまで言うのなら……」
男はようやく諦めてくれたようで、渋々と引き下がっていった。そこで俺は時計を見る。まずい。離陸まであと1時間20分ほどしかない。俺は急いでチェックインを済ませ、保安検査へ向かった。
「……これでようやく、一息つけるな」
なんやかんやあって現地のホテルに到着した俺は、ベッドに寝転がる。そして俺はスマホのニュースアプリを開いた。ホテルにWiFiがあって良かった。ニュースアプリのチェックは、俺の日課だ。
そこには、気になるニュースがあった。
「麻薬所持の疑いで旅行客2人を逮捕…ねぇ」
どうやら、手荷物検査に引っかかった旅行客が居て、その旅行客の荷物を調べたところ、麻薬が出てきたらしい。その2人は容疑を否認しているという。
時間的に、俺と同じくらいに保安検査を通ろうとしたようだ。
「……怖えモンだな。俺、こんなヤツらと同じ便に乗るかもしれなかったのか」
せいかいはっぴょー!
男は麻薬の密売人であり、彼が「妻の忘れ物」として差し出してきた荷物こそが麻薬である。
男は主人公に断られた直後、また別の旅行客に声をかけた。声を掛けられた旅行客は、お人好しが過ぎたのだろう……。