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永遠の塔

作者: 翁もずく
掲載日:2019/11/16

ハーメルンで公開したものですが、あちらでは現在非公開にしてあります。

 ある国に、仲の良い王様と王妃様がいました。

 王妃様はおなかに赤ちゃんがいました。

 王様と王妃様だけでなく、国の誰もが、その赤ちゃんが生まれるのを楽しみにしておりました。



 けれど、待ち望んだ赤ちゃんが生まれたと同時に、王妃様は死んでしまいました。

 王様はとても悲しみました。

 王様は泣いて泣いて、その涙が枯れた時、悲しみのあまり胸が張り裂けて、自分も死んでしまいました。

 国中が悲しみました。

 赤ちゃんはずっと泣いていました。



 その赤ちゃんはお姫様でした。

 悲しみの中で生まれたお姫様は、いつも泣いてばかりいました。

 どうして泣くのかと誰が聞いても、お姫様には答えられませんでした。


「だって悲しいのですもの」

 そうとしか答えられませんでした。



 いつしかお姫様の側から、おつきの人たちが離れていきました。

 最後に残ったのは、ひとりの騎士だけでした。

 騎士はお姫様と同じ日に生まれて、同じ悲しみの中で育ったので、お姫様が悲しいことを知っていました。

 お姫様が泣くのを止めることはできませんでしたが、泣いているお姫様のそばにいることはできました。

 ふたりは、いつしか常に一緒にいるようになりました。



 ある日、お姫様と騎士は、国のはずれのお花畑に出かけました。

 空は青く、雲は白く、花は色とりどりに美しく、風は優しく吹いています。

 それでもお姫さまは泣いていました。


「こんなにも世界は美しいのに、美しいからこそわたしは悲しい」



 その時。

 突然あたりに黒い雲がたちこめ、稲妻が空を引き裂きました。

 そしてふたりの目の前に、高い塔が現れました。

 どこからともなく声が聞こえました。


「其は永遠の塔。

 真に孤独な魂だけが立ち入れる。

 そこに入る者に、永遠の心の安らぎを。

 もう二度と悲しむことはなく、涙を流すことはない。

 それを望むのならば、入るが良い」


 その開かれた扉を見つめて、お姫様は言いました。


「この塔はわたしを招いているわ。

 ここに入れば、悲しくなくなるのね」

 お姫様は、一度だけ騎士を振り返りましたが、涙に濡れた頬を拭うこともなく、塔に向かって歩き出しました。

 騎士はお姫様を引き止めましたが、その手はなぜかお姫様をすり抜けました。

 そしてお姫様が扉をくぐった瞬間、それを止めようとしていた騎士の鼻先で、塔の扉が閉ざされました。

 騎士は扉を開けようとしましたが、それは押しても引いても開きません。

 そこへまた、どこからともなく声がしました。


「騎士よ。

 もしもそなたが姫を取り戻したいのならば、日が沈むまで時間をやろう。

 永遠の塔の扉を開ける呪文を、世界をめぐり、探してくるのだ。

 日が沈むまでの間だけ、風よりも早く飛べる翼と、この世のありとあらゆるものの言葉を聞ける耳を、おまえに貸し与えよう。

 だが、間に合わなければ塔は消え、おまえは姫を永遠に失うことになる」


 言われて騎士は旅立ちました。

 お姫様を取り戻す呪文を探すために。



 翼に乗って飛びながら、騎士は風に問いかけました。


「永遠の塔の扉を開ける呪文を知らないか」

 風は騎士に答えました。


「知らないね。わたしは通り過ぎるだけだから。

 雲にでも聞いてごらんよ」


 騎士は雲に問いかけました。


「永遠の塔の扉を開ける呪文を知らないか」

 雲は騎士に答えました。


「知らないよ。ぼくは流れていくだけだから。

 太陽にでも聞いてみれば?」


 騎士は太陽に問いかけました。


「永遠の塔の扉を開ける呪文を知らないか」

 太陽は答えました。


「知らないわ。わたしは遍く照らすだけよ。

 大地にも聞いてごらんなさい」


 騎士は地に降り立つと、大地に問いかけました。


「永遠の塔の扉を開ける呪文を知らないか」

 大地は答えました。


「知らないな。俺は支えるだけだ。

 花たちに聞いてみたらどうだ」


 騎士は花々に問いかけました。


「永遠の塔の扉を開ける呪文を知らないか」

 花々は答えました。


「ごめんなさい、知らないわ。私たちは咲いているだけ。

 虫たちならば知っているかも」


 騎士は虫たちに問いかけました。


「永遠の塔の扉を開ける呪文を知らないか」

 虫たちは答えました。


「知ってるわけないだろう。

 けど、頑張れよ。応援してやるよ」



 そうこうしているうちに、日が傾いてきて、夕日が赤く空を染め上げます。

 騎士は疲れ切って、森の樹の下に座り込みました。


「もう駄目かもしれない。わたしは永遠に、姫を失ってしまうのだ」

 気がつけば騎士は、お姫様と同じように、涙を流していました。



「ねえ、どうしてお姫様は、永遠の塔に入ってしまったの?」

 頭上から声がして、騎士はそちらを見上げました。


「それは、お姫様が、悲しかったからだよ」

 聞こえていたのは、小鳥たちが話す声でした。

 騎士は、聞くともなく、耳を傾けました。


「どうしてお姫様は悲しかったのかしら?」

「お姫様はひとりぼっちだったんだ。

 生まれた時に誰も喜んでくれなくて。

 それどころか、みんなが悲しんで。

 お姫様は生まれたときから、ずっとひとりぼっちだったんだ」

「そんなはずがないわ」

「どうして?」

「だってそうでしょう?

 お姫様が本当にひとりぼっちだったなら、なんであの騎士は、扉を開ける呪文を探しているの?」



 騎士はそれを聞いて、駆け出しました。

 涙を流しながら、翼に乗って。



「誰に聞くまでもなかった。

 その呪文はわたしが知っていた。

 そしてそれを唱えることができる者は、

 わたし以外に居なかったのに」



 永遠の塔にたどり着いた時、陽がまさに沈んでいくところでした。

 騎士は塔に向かって叫びました。



「帰ってきてください、姫。


 あなたはひとりぼっちなんかじゃない。


 わたしはあなたに、いて欲しいのです。


 わたしのそばに、いて欲しいのです。


 わたしには、あなたが必要なのです」



 瞬間。

 塔は消えて、お姫様はひとり、そこに立っていました。

 どこからともなく、声がしました。


「真に孤独ではない者に、塔に入る資格はない」


 ぼおっとしているお姫様に、騎士は言いました。


「あなたはひとりぼっちなんかじゃない。

 わたしがそばにおります。

 あなたがいることを、誰よりも嬉しく思うわたしが」


「わたしも、あなたがいてくれることが嬉しいわ」

 お姫様はそう言って、生まれて初めて笑いました。


 空には満天の星が輝いて、細い三日月が浮かんでいます。

 その星空の下、騎士はお姫様を抱きしめました。

……いや、まず人間に聞けや。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ちょいっ、いい感じでしめて、ほんわか童話テイスト、浄化されました~ってなったとこに。つっこみww やめて、もう、ひっぱられちゃうww [一言] なんだかもずくさんぽくない(失礼)な、ふんわ…
[良い点] 胸に染み入るすごくいいお話でし......あとがきぃっ‼︎ 最後の最後に涙が乾きかけましたが、気をとりなおして、 悲しみに心を奪われている時には、涙で目の前の物や大事な物が見えないのかも…
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