終わって始まる
春を迎え気候は暖かくなり、皆は一学年上がった。
今年も新入生の部活への勧誘期間が終わろうとしている。
「この部、毎年ギリギリの所で新入生が来るんだけど、今年は来そうにないなぁ」
苅井部長は机に頬杖をつきながらぼやいていた。
「新入生が来ないと、同好会になって部費が予算に計上されなくなりますね」
副部長である森戸さんが部長のぼやきにきちんと返事をする。
去年の今頃は縮こまっていた彼女だけど、最近はすっかり馴染んでいてリラックスしているよだった。
「部費が出ないと困るなぁ。ニャートンとヌーの定期購読一年分、その予算だけでもなんとかならないか生徒会に掛け合わないといけないなぁ」
そんなやりとりを、ぼんやりと去年に二有十先輩から引き継いだ席から眺めていた。
さすがに本人が居ないと良い匂いがしないので物足りないと思いつつ、少しだけ同好会になった時の事を想像してみた。
…………。
部費以外は現状とさほど変わりがなさそうだった。
「そろそろ締め切る時間ですね……」
部長にいうと、彼女は「はあぁあぁー」と声に出しながら大きな溜息を吐きつつ机に突っ伏した。
それを見て、森戸さんはただ苦笑いするだけだった。
「どうします、今年度一回目の活動しますか?」
「そうだね。じゃあ、お題は宇宙の終わりで」
「そんな……。このタイミングですべての終わりみたいなお題にしなくてもいいのでは……」
控えめながら、森戸さんが異を唱えるという希な事が起きた。
しかし、俺もその意見には同意する。
そんな折、不意に扉がノックされた。
部長は勢い良く体を起こし、森戸さんと俺に目配せする。
彼女は「ん、んうん」咳払いをして喉の調子をチェックする。
「どうぞ」
森戸さんが言うと、出遅れた部長は「どっ」とだけ言って口を閉じた。
軽い音を鳴らしながら引き戸が開かれる。
「蘭採先輩!」
皆が一斉に驚く。姿形は蘭採先輩だが、制服を纏っている。
「あ、あの。天文部部長に言われて来たのですが……」
「ええっ! 何にも連絡来てないけど。っていうかどうなってるの?」
「蘭採先輩、卒業して一ヶ月で来るってどんだけ寂しがりなんですか。もう卒業してるんですよ、制服はコスプレといわれても文句を言えない年になったんですよ?」
「あの、先輩って……」
おろおろとして、俺たちの顔を見回す。
「見て下さい部長、襟の所の学年章、今年変わったばかりの色のやつです」
森戸さんの言うように学年章は数年に一度、色のラインナップが変わ。そして今年は変わったばかりなので、間違いなく新入生の物だった。
「ちょっと、こっちに来てくれるかい……」
部長は手招きすると、蘭採先輩? らしき人は恐る恐る側までやってきた。
「ほ、本当だ。学年章……」
「ぶっ、部長! もっ、もしかしたらもしかして、これは時間違いのパラレルワールドと繋がってしまったのではっ……」
動揺しているのか突飛な事を言う森戸さん。
「そんな馬鹿な……」
「いや、扉はパラレルワールドに繋がりやすい場合があると聞いた事があるぞ」
否定しようとした矢先、部長は勢い良く食いついた。
「ぷくっ、くっくく!」
蘭採さん? は時折吹き出しながら笑いを堪え始めた。
「卒業してまだ一ヶ月そこそこだけど、やっぱりいいね。ここはさ……」
部長と森戸さんはきょとんと蘭採先輩を見つめる。
「まさか、こんなに盛り上がってくれるとは思わなかった」
「先輩、騙したんですか?」
わなわなと震えながら部長は問う。
「新入部員が居ないかもと思って、冷やかしに来たんだが。まさか、騙されてくれるとは微塵も思ってなかったぞ」
「ところで先輩、二有十先輩はどうしてるんですか?」
「おっと、そうだった。理乃!」
元気にしてますか? と近況を教えてもらうくらいの意味で聞いたけど、どうやら来ているらしい。
開かれたままの扉の方を見ると、制服を纏った二有十先輩の姿が見えた。
彼女はいつもの柔和な笑顔で歩いてくる。
近づいてくる。
近づいて……。
ふと、何か違和感を覚えた。
「蘭採先輩、何か隠してません?」
「何がだ?」
いつもと変わらない感じだけど、どこかとぼけている気がする。
「先輩、ちょっ失礼しますね」
二有十先輩らしき人のすぐ側まで行くと、彼女の顔を覗き込んだ。
目が合った。
良い匂いがした。ヤバイ。
「本当に先輩ですか?」
こくりと彼女は頷き、そしてまた目が合う。
視線は逸らされること無く見つめ合う。
「二有十先輩じゃないです……ね?」
「ほう、相須君には判るのか」
「はい、とても良く似ていますが、目が違います」
「目?」
皆が一斉に二有十先輩似の人の目を見ると、彼女は気圧されたのか目を泳がせた。
「特に違わない気がするけど……」
「はい、私もそう思います」
部長も森戸さんも不思議そうに首を捻る。
「よく見て下さい。細めですが、目が開いてるんです。目が合うんです。
去年、初めて二有十先輩に会ったとき思ったんです、目が合っているのか判らないなと」
良い匂いがしたが、匂いも違う感じがした事は伏せておく。
「そうか、相須君はよく見ているな」
蘭採先輩は感心している様だが、「二有十先輩の事好き過ぎないですか?」「うん、引くわ……」という会話も聞こえて来た。
「もういいだろ。理乃」
蘭採先輩が呼ぶと、制服姿の二有十先輩が入ってきた。
そして、そっくりな二人が並ぶ。
比べて見ると、顔の輪郭や体型など雰囲気が若干違うが、瓜二つと言っても良いくらい似ていた。
「彼女は理乃の妹だ」
蘭採先輩は二有十先輩にそっくりな彼女の肩に手を置いてそう告げた。
「初めまして、二有十莉菜です」
そう言うと、彼女は一礼した。
「もしかしたら誰も入部してないかもと思ったから、莉菜を入部させてね」
「こちらとしては大歓迎だけど、いいの?」
部長は嬉しそうな顔から一転、不安そうな顔になる。
「はい、オカルトには興味がありますので」
「先輩!」
思わず叫ぶ部長。
「莉菜、ここはオカ研じゃないからね。宇宙人とか、宇宙に絡めればありってだけだからね」
「全否定はできないですが、それもどうかと思います」
森戸さんは苦笑いでそう言った。
「まぁまぁ、いいじゃない。この子が入れば今年は安泰なんだから。さ、座りましょ」
二有十先輩は、俺の背中をぐいぐいと押して席に座らせる。
「莉菜も」
彼女の妹である莉菜さんを俺の右に座らせ、左側には彼女自身が座る。
二有十姉妹に挟まれる形となった。
どちらからも良い匂いがして頭がクラクラする。ヤバイ、ヤバイ……。
「ふむ……」
蘭採先輩は呟きながら俺と向かい側の席へ。
その隣に森戸さん。
部長はいつも通り部長の席へ。
蘭採先輩がこちらを見ているので目を合わせると、不意に彼女は言った。
「相須君、姉妹丼って知ってるか?」
「ちょ、えっ! 知りませんよ!」
知らないふりをしておいたけど、突然なんて事を言い出すんだこの人は……。
周囲を伺ってみると、皆は知らない様なので安心した。
「まぁいい。お題は宇宙の終わりだったな? さぁ始めようか」
一体、これからどうなってしまうのだろうか……。
―宇宙想像部へようこそ― 終
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