ワープする持論
夏に差し掛かろうとしている頃合いのある日の事。
日々、なんとなく活動をしに部室へ集まる一同。
「ワープってどう思う?」
夢と理想の狭間に腰掛け、最新刊のヌーを熟読していた副部長。彼女の不意な問いかけが本日の議題になった。
「ワープっていうと、漫画や、SF映画にでてくる空間跳躍的なワープですよね?」
苅井先輩が確認を取るように副部長に尋ねた。
「ええ、そうよ」
副部長は理想と幻想の狭間から立ち上がると、そっと本棚にヌーを戻しいつもの席へと向かう。
「ワープと言えば、歪曲という意味があるが」
部長が確認の意味を込める様に尋ねる。
「それとは、ニュアンスが違うと思うけど……でも、歪曲という事だけを見れば、通じる物があるわね」
副部長は机から椅子を引き出しつつ、少し考える様な素振りを見せると曖昧な返事をした。
彼女が席に着くと、隣からふわりと良い匂いがやってくる。……ヤバイ。
「ワープっていうと、ワームホールみたいなトンネルを作るイメージなんですが……」
自信なさそうに森戸さんは呟いた。
トンネルと聞いて考えてみた。例えば、山にトンネルを掘るのは、山を迂回せずに進むため。結果、移動距離が短くなって時間が短縮される。
しかし、宇宙空間でトンネルを作っても同じ事が起こるだろうか?
この事を皆に言ってみたが、意図が伝わっていないのか不思議そうにしていた。
「では、イメージしてみてもらえますか? プールにA地点とB地点二つの座標を決めて泳ぎます。その距離は十メートルです。では何メートル泳ぎます?」
皆はお互いに顔を見合わせ、何かを探る様だった。
「それは、じゅ、十メートルですよね?」
引っかけ問題かと疑う様に恐る恐る森戸さんが答えてくれた。
「そのとおり」
そう言うと、少しほっとしている彼女の様子を見ながら話を続ける。
「では、A地点からB地点まで十メートルのトンネルを沈め、その中を通ってみるとします。やっぱり、それでも十メートル泳ぐ事になりますよね。
今度は規模を宇宙にして、目的地を十光年先にしてみます。宇宙空間に十光年のトンネルを開けて光速で中を通っても、外部から見れば十年かかると思うんです」
「ふむ、物理的にはそうかもしれないな」
「じゃあ、実際にワープするにはトンネルの中は特殊な状態になってるって事?」
部長と苅井先輩は顔を見合わせた後、俺の方を見て続きを促す。
「いくつか考えてみたんですけど、仮にトンネルの中が亜空間になったとします。さっきのプールの中のトンネルの話をもう一度イメージしてみてください。
トンネルの中が空気で満たされているとします。その時トンネルを通過するとどう思います?」
「息ができる」
「泳げはしないよね」
「中を歩いて移動する……ですかね?」
皆思った事を俺に向け言う。
「そうです、空気の中を泳ぐ事はできません。水と空気の境目であるトンネルの壁面を歩く事になります。あ、ちなみに、上下も左右も無しで全て壁面という事にしてください」
「それで、何が言いたいんだ」
「はい。何かと言いますと、宇宙空間の法則で存在している物が簡単に亜空間には出られないのではと考えます。トンネルの中に入ろうとしても、結局は亜空間との境目にある宇宙空間を十光年分移動する事になるのではないでしょうか? つまり、トンネルを開ける意味が無い気がします」
「なるほどな~。そうい考えもあるんだ。たしかにSF物じゃ、亜空間トンネルにしたり、一度は別の平行世界に飛んだりとか様々な設定があって、気軽にぽんぽんワープしてたけど、普通そんな事考えないよなぁ」
苅井先輩は何か映画でも思い出しているのか、目を瞑りながら頷く。
「あの……仮に亜空間を通過できたら、ワープできるんですかね?」
森戸さんの素朴な質問に部長が反応する。
「相須君ばかりに任せきりもなんだし、今度は私の考えも言ってみるとするか」
部長が姿勢を正し全員を見渡すと、提案する。
「いくつか考えてみた。
まずは、亜空間に時間が存在しなかった場合。入った瞬間に全てが停止し、トンネルが消失と同時に自分も消えてしまう。
次に普通に通過出来た場合、さっきの話と同じ十光年のトンネルなら光速で進んで十年だが、もし時間の流れが違った場合、主観的、相対的なワープができると思う」
「相対的なワープですか?」
「ああ、もし時間の流れが速い場合だ。光速での移動を速度1だと仮定する。トンネルの中は倍の速さで時間が流れると、内部の主観では速度1だが、外から観測した場合速度が2になる。だから、トンネルの外の時間で十年の道のりを五年で通過してくるという単純計算なんだが……あと、光速に近い速さで移動すると時間が遅くなるため、主観での時間も十年かからない事になる」
「部長、その理屈が仮に正しかったとしても、亜空間に依存するじゃないですか。そもそもワープとしては時間がかかりすぎて価値がないと思いますよ」
部長の考えに苅井先輩はためらいなく否定した。
部長がいじけて呟く。
「だって、そもそも、亜空間だろうが異空間だろうが現実的じゃないんだよ。ワームホールだってそうだろAからBまでの道のりをどうやって縮めるんだよ。空間跳躍とか瞬間移動とか無理でしょ……ほれ、未来のロボットが持ってくる便利道具のなんちゃらドアってやつさ、厚さ数センチで開ければ目的地だ。理屈的にはワームホール型になるんだろうけど、あのドアの厚み分までトンネルを圧縮してるわけ? それとも、一度宇宙の外に繋いでの法則で繋いでる……」
部長は一人でぶつぶつと否定的なことばかり呟くだけになってしまったので、副部長に答えを求める事にした。
「部長、おそらくですが例のドアは異次元ポータルタイプではないでしょうか? あの、副部長。俺達にはお手上げです。何か答えを知ってるんですか?」
ずっと傍観するだけだった副部長は真剣な面持ちになる。
「ワープはワームホールなどのトンネルを使う物じゃないわ。本当のワープは行きたい所を引き寄せるものなの」
「引き寄せる?」
苅井先輩は興味深そうに聞き返し、いじけてる部長も聞く姿勢になる。
「そう。これは、過去に地球に降り立った宇宙人が言っていたらしいの。UFO一つとってもそうだけど、彼らは高度な重力制御技術を持っているわ。重力は時空に影響を及ぼすことのできる力だし、それをコントールして宇宙空間そのものを変形させたり戻したりしているではないかしら」
そう言った副部長はどこかしたり顔だった。
「オカルトで締めかよ!」
部長が叫んだ。