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宇宙想像部へようこそ  作者: 青羽挵
1/5

始まりの始まり

この物語は、宇宙好きの者達が集まって思うまま持論を言い合うという設定の話です。

現代の科学・物理学において、その理論が証明されている、されていない。正しい、間違っている。というものを問う話では無いです。

間違った知識なども多分に含まれていると思われますので、気になった方は専門書やネット等で調べてみて下さい。

 第一天文部部長に言われてやって来たのは、校舎の隅にある元空き教室風な部室の第二天文部。

 自分を除いて部員は四名。ぎりぎりの所で部という体裁を保っている。

 一辺が三つで、合計九つの机を中央が空くようコの字型に並べて置いてあり、各々好きな所を使っているようだ。

 ちなみに俺は今、コの字型の中央に立って居る。

 正面と両側から注目されていて、とても居心地が悪い。

相須泰斗(あいすたいと)君だね。第二天文部改め、宇宙想像部へようこそ。私は部長の蘭採(らんどり)里沙(りさ)で三年だ」

 眉にかかるくらいで切りそろえられた前髪と背中の中程までありそうな綺麗なストレートの黒髪を揺らし、部長だという彼女は名乗ると次に右手を差し出す。そして、俺にとっては左側の方の女の子を指す。

「彼女は副部長の二有十(にゆうと)理乃(りの)。私と同じく三年」

 目が開いているのかわからないけど、何となく目が合ったような気がすると、彼女は柔和な笑顔で「よろしくね」と上品な雰囲気をたたえつつ言った。

 部長はタイミングを見て、今度は副部長の向かい側に居る二人を指した。

「君から向かって左側が二年の苅井(かりい)(れい)でその隣が一年の森戸(もりと)真以(まい)。森戸さんも先程来たばかりだ」

 ポニーテールの似合う苅井先輩は白い歯を見せながらにかっと笑って胸の辺りで小さく手を振っている。手を振る度に、大きな胸が小刻みに揺れ目を奪われる。

 一方、同級生らしい森戸さんは目が合うと目礼するくらいで控えめな感じだった。

  彼女自身を除けば先輩しか居ないし、入ったばかりで緊張しているのだろうか。元から小柄そうだがより小さく見える。

「では、そうだな……」

 部長は一同を見回して、「玲の方に二人居るから、相須君は理乃の隣に座ってもらおうかな」と言った。

 促されて俺は副部長の隣の席へと着く。

「と、隣……失礼しますね」

「ええ、どうぞ」

 副部長はずっと変わらず笑顔。緊張するな……あ、副部長から良い匂い。ヤバイ。

 どこか申し訳ない感じがして、意味が無いと思いつつも椅子の端にの方に腰掛ける。少しでも副部長と間が開くようにと思っての事だ。

「君たち一年生が、この第二天文部改め、宇宙想像部に来るよう言われたのはなぜだと思う?」

 俺が席に着くの見届けた後、部長は質問をしてきた。

「ええっと、天も……じゃなくて第一天文部に入部しようと思って行ったら、いきなり部長と簡単な面接をする事になって。それでこっちだと判断されたわけで……」

 頭の中で整理しながら一連の流れを呟く。

「そう、その面接で森戸さんはなんて答えた?」

 部長の一言で皆の視線は俺から森戸さんへと移る。彼女は驚いた様でびくっと肩を揺らすと視線を彷徨わせながら答える。

「えっ、あ、そう、ですね……天体のどんな事に興味があるって聞かれたので、最近重力波の観測に成功しましたよね。ブラックホールとかです。って答えました」

「ま、まぁ、確かにブラックホールも天体と言えば天体だけども……」

 部長は腕を組み、頷きながらも何か考えている様だ。

 森戸さんの隣の苅井先輩は驚き顔で「そんなイメージじゃないよね」なんて呟く。

 俺の隣で副部長は嬉しそうににこにこ。緩くウェーブした髪がふわふわと揺れる度に良い匂いがする。ヤバイ……。

「相須君は?」

 副部長は笑顔のまま、どことなく興味ありげな雰囲気をたたえつつすぐ横の俺を見ている。こんな至近距離で見つめられてる。ヤバイ。

 慌てて彼女から視線を逸らし、先程の面接の事を思い出した。

「も、森戸、さん。と同じ事聞かれました。

 星の事は基本的に好きなんです。他に生命体が居かもしれない惑星なんか興味ありますし、そもそも星全てを内包する宇宙の事が知りたいです。って言いました」

「ふむ、この学校は屋上に小規模ながら天文台があり、近隣の他校と比べて天文部にはいい環境だ。普通なら、季節ごとの天体や軌道を観測、記録たりしてお互いの知識などを深めあうのが一般的な部活だろう。だけど、さすがにブラックホールを観測できる設備なんて無いし、重力波とか気にするなら森戸さんはこっちでいいな」

 部長の言葉に副部長も、苅井先輩もうなずき合う。

「あの、俺は?」

「心配しなくても、相須君は迷うこと無くこっちで確定だから大丈夫よ」

副部長にそう言われると安心だ。ヤバイ。

「改めて、二人とも宇宙想像部へようこそ。歓迎する」

 部長がそう告げる事で、俺と森戸さんは宇宙想像部の正式な部員になった。

「あの、部長さん。質問していいですか?」

 俺の向かい側の森戸さんが申し訳なさそうに部長に尋ねている。

「ああ。何かな?」

「結局の所、なんで私達は第二天文部改め、宇宙想像部の部員に選ばれたんですか?」

「あ、俺もそれは気になってました」

 森戸さんと俺の疑問に対し、部長は口角を上げにやりと笑う。

「おっと、ごめん。すっかり自分の中で完結してしまっていたな……実を言うと、宇宙想像部に来た者は選ばれたと言うよりも、天文部向きでは無いと判断されてしまったということなんだ。

 元来、天文学は宇宙物理や宇宙科学、時には数学なんかと切っても切り離せないだろ? 宇宙好きの人は、大抵の場合は最初に星に興味をち、そこから派生していくパターンが多いと私は勝手に思っている。

 天文部しか無いから入る、だけどこれじゃ無いと思う者達が集まってできたのが宇宙想像部なんだ。それがいつしか、第一天文部部長が新入部員が入る時に判断して割り振るというようになったみたいだ。しかし、今年はまさか新入生が二人も来るとは思わなかった」

「部長と副部長だって二人とも三年生ですよね」

「そうだが、私は純粋にに宇宙に興味があるんだが、理乃はオカルト寄りなんだよ。宇宙人だったり、異次元やパラレルワールドだったりと」

「そうね、宇宙が解明できれば、それに内包されている地球上での出来事。例えば妖精やら幽霊などあっさり解明されてしまうかもしれないでしょ? 私が生きている間に答えが出るはずも無いでしょうけど、今オカルトと言われている物がオカルトでは無くなる日が来るといいなって。ちなみに宇宙人は居ない方がおかしいと思うの」

「オカ研とも違う感じだろ? だから私に合わせてこっちに来てる感じさ。

 そうだ、そっちを見てくれ」

 部長が指さした方を皆で見る。

 そこには椅子を一つ挟む様にして本棚が二つあった。

「向かって右の本棚には科学誌〝ニャートン〟が、左の本棚には様々な伝説などを検証するオカルト情報誌〝ヌー〟が納められている。自由に読んでいい」

 ちなみに、それを読むために置かれたあの椅子を理想と幻想の狭間(はざま)と呼んでいる」

「まあ、その、なんとなくわかりました……」

 俺は部長の心中をだいたい察したが、森戸さんは訳が分からず呆然としている様だった。

 両誌を自由に読めるのは有り難い、後ほど拝見させてもらとしよう。

「里沙先輩、勧誘期間ももう残り僅かで新人は来ないと思います。そろそろ今年一回目の活動しませんか?」

 科学誌ニャートンについて熱く語り始めていた部長に苅井先輩が言った。

「そうね、私も賛成」

 副部長も同意見の様だ。

「あの、どんな活動するんでしょうか?」

 恐る恐るといった感じで森戸さんが質問を皆に向かって投げかける。

 森戸さんの隣に居る苅井先輩が説明を始めた。

「私達の活動は基本的には議論だね。議題を決めて、自分の知識などを踏まえて考察をする。皆の意見を合わせて纏めたりもすよ。えっと、例えば……火星にしようか。

 まずは、表面は岩や砂などで覆われているなんて当たり前の話」

「最近、ゴキブリみたいな生物が居るかもしれないって話があったわね」

 副部長も併せて情報を出す。

「有名なオリンポス山はエベレストの約3倍近く、およそ23000メートル以上の高さで地表には川が流れた跡もある」

 これは部長だ。

「こんな感じで皆で情報や意見を出し合って自分達の独自の考察を纏めようってのが私達の活動なんだよ」

「それって何か意味があるんですか?」

 純粋な疑問を投げかけると先輩達が一瞬固まった様に見えた。

「あのな相須くん。天文好きと宇宙好き、それぞれに対する一般人の反応の差が判るか? はい、パターン1」

 部長がまくし立てる様に言って、一度手を叩いて鳴らすと副部長と苅井先輩が立ち上がり身振り手振りを交えながら寸劇を始めた。

「俺、星が好きなんだ。天体観測とか趣味でさ」

 びしっと、空(天井)を指さし苅井先輩がポーズを決める。

「わぁ、望遠鏡があるの? 見せて見せて!」

 副部長は胸の前で手を組んで、媚びる様な口調で阿呆っぽい子を演じる。

 あまりにも大げさな口調や動きに、さすがにそんな奴居ないだろと思いつつも、少し面白くもあった。

「パターン2」

「俺、宇宙の事が好きなんだ。NASAとか憧れるよな」

 宇宙(そらという名の天井)を見上げ両手を広げている苅井先輩。

「は? 何言ってんの。ワケわかんねー」

 指で髪をくるくる巻きながら興味なさそうに窓の外を見ている副部長。

「いや、宇宙ってすげぇよ! まだほんの数パーセントの事しか判ってないんだ。

近年、生命の居る可能性のある星とかも続々見つかってたりするし、日用品の中にもNASAが開発した技術が使われてるものがあったりとかするし!」

 手や腕を振ったり回転させたりして副部長に猛アピールする苅井先輩。

「は? 興味ねーし、はい宇宙ヲタクおつー」

 苅井先輩の方を見ること無く、エアメイク(今は鏡を覗きながらマスカラをつけているふり)をこなす副部長。

「はい、オーケー! 二人ともお疲れ」

 部長が副部長と苅井先輩を労うと二人は席に着いた。

 ふーっと大きく息をついたり汗を拭う仕草を見せ、一仕事終えたと役者たち。

「いや、なんか登場人物アホでしょ! って大したことやってないのに、あのやり遂げた感は何ですか?」

 突っ込まずにはいられない。

「そもそも、パターン2って自分たちの事(けな)してますよね。そうだよね、森戸さん?」

 同意を得ようと彼女を見ると頭を押さえて涙目になっている。

「どうしたの?」

「先輩の、手が当たった……」

 どうやらさっきの寸劇で苅井先輩の手が頭に直撃したらしい。

 すると、先輩は慌てて「ごめんよ」と言いながら彼女の頭をさすった。


「気を取り直して、さっそく始めよう」

 部長は仕切り直しを宣言し、一同うなずき合う。

「せっかく新入生が入った事だし、宇宙の始まりからでどう?」

「そうですね。期待の新入生達が、どんな事考えてるか知っておくのもいいかも」

 副部長の提案に苅井先輩も賛同し、部長も同意の様で一つ頷いた。

「では、ビッグバンからということでしょうか?」

「そうなるわね」

 俺の質問に頷く副部長。

「大統一理論ではインフレーションして、それからビッグバンが起きたと考えられているから、本当の始まりとしては違うと思うが、一般的にはビッグバンが始まりと認識されているからよしとするか」

 何か思う所があるのか、少し考えながら部長は呟いた。

「異議あり!」

 苅井先輩は手を上げ反対を主張した。

「そこをうやむやにしてしまうと、宇宙は無から始まったのか、有から始まったのかって事をすっとばしてしまいます」

「確かに、プラスとマイナスの粒子が相殺し合っている状態〝無〟の状態だという説がありますが、ブレーンワールド仮説だと、ビッグバンには膜の衝突とか絡んできますよね。それだと始まりが〝無〟とは言いにくいですね」

「ほう……」

 苅井先輩の発言を受けて、俺がなんとなく言った事に部長は興味を持ってくれたみたいで、期待の視線を向けてきた。

「現在では基本的には宇宙の外は無いと考えています。ですが、ブレーンワールド仮説だと、高次元空間に膜状の宇宙が複数存在している事になっています。

 ブレーン同士が衝突する時の運動エネルギーが物質のエネルギーへと変化してビッグバンが起こったという考えがあります」

「あの、一ついいですか?」

 控えめな声で森戸さんが発言する。

「仮に、ブレーン同士の衝突でビッグバンが起こるとして、その衝突した宇宙を元に新しい宇宙になるのでしょうか? それとも衝突した二つの宇宙は残って、衝突したエネルギーだけで新しく宇宙ができたのでしょうか?」

「確かに……。だけど、そんな事考えた事無かったな」

 首を捻って考えていると、苅井先輩が提案する。

「量子宇宙論だと、初めは量子状態の宇宙が突然現れ、それが今の宇宙に変わる的な感じなんだけど、その変わる切っ掛けをブレーンの衝突が起こしてるとか? ってふと思っちゃった。だから元のやつは残る的な……」

 本当にただの思いつきで言っている様で、苅井先輩の声はだんだんが小さくなっていった。

「なんか理論がごっちゃになってきたわね」

 副部長は苦笑いしながら言った。

「まぁ、そういうのが宇宙〝想像〟部らしいくていいじゃない。どうせ、私達が生きている間に。あるいは、この先どんなに科学や技術が発達したって、人類が存在にしている間に解明出来るかわからない。正解なんて無い様なもんだ。大事なのは想像を止めない事」

 部長は腕を組んで満足そうに頷いていた。

「あの、話を戻していいですか? ブレーンワールド仮説だと、一番最初の宇宙ってどうやって生まれたんですかね? 最低限二つの宇宙が無いと新しく生まれ無い事になってしまいます」

 森戸さんが皆に向けてそう言い放った。

 部長が組んでいた腕を解き言った。

「卵が先か鳥が先か的理論は結構だ。答えの判らない数式の根拠を求めようと数字を並べるのはナンセンスだ」

 一同は「えぇっ!」と驚きの声を上げた。

読んでいただきありがとうございます。

前書きにも書いたとおり、理論の正否を問う物では無く、ただの読み物として楽しんでいただけたなら幸いです。

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