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<歌う風のエルファ> ログホラalt  作者: 名無之直人
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21.イサナミとの対話

2018/3/15 本家様の展開をしばし見守ってからのが良いかなとも思ったのですが、書けてしまったので掲載しておきます。

 女神でもあるイサナミをリザードマン達は当然自分達の神殿に迎え入れようとしたが、

「封印を解いてくれた恩者の元におるのが筋であろう?」

 という当人の意向もあり、エルファの元に身を寄せる事になった。(リザードマンの神官達を側仕えとして何人か常駐させたいという話も出たし、近隣の海上に仮住まいとなる神殿を建てようという話まで出たが、エルファがいったん保留にさせていた)


 大穴アビスではエネミー(モンスター)扱いだったイサナミは、当人の希望もあってナカス観光しようとした時に衛兵が現れかけたが、オルノウンによるステータス書き換えでイサナミ<女神><非戦闘対象>とされた事で衛兵達は姿を消した。(その後菫星さんにも根回しはしておいた)

 監察者でもあるリゾネットがイサナミに張り付こうとしたのはまだともかく、桜姫やロード=タモンまでWindの志賀島に滞在しようとしたのはさすがにお断りし、それでも中々引き下がろうとしない二人にはフォーランドに新たに形成されたプレイヤータウンでもあるタムランの守護をお願いした。何かあればすぐに飛んで来られるよう、都市間ゲートも、ナカスとタムランの間でオルノウンが起動してくれたので二人は引き下がったが、<Plant hwyaden>のメンバーには利用できなくする事で安全面にも配慮した。


 世界中を見て回りたいというイサナミの希望は叶えられた。神竜であちこちを巡る事もあったが、彼女に宿っているオルノウンが各地のフェアリーポータルを任意につなげる事で移動する事の方が多かった。

 エルファはその観光のつきそいで北米や欧州の旧知のプレイヤー達と再会を果たしたり、彼らの窮地を救ったり難関クエストを手伝ったりしつつ、イサナミと大穴アビスの時のような秘められたクエストを探索した。

 その間にもアキバ使節団は畿内に到着。ミナミからキョウへ、濡羽とインティクスの<Plant hwyaden>主導権争いも最高潮を迎え、エルファは現地の監視員や協力者達からの報告を密に受けていた。


 志賀島ではWindの集会所でもあり、ヒヅメの起居する場所ともなっていたが、本殿裏に寝殿とも言える場所を新たに設けた。

 中国サーバーでは、元D.D.Dギルマスのクラスティを中心としたメンバー達が崑崙にいるという西王母(典災ブカフィ)に挑もうとしていたし、全てが激動とも言える状態にあったが、エルファはミナミの政争にも中国でのクエストにも手出しをしようとはしなかった。

「あれは彼らの受けたクエストだからね」

 と述べていたが、本心はまた別のところにあった。


 ある夜。

 エルファはイサナミの元を訪れた。

「夜這いか?」

「ご冗談を」

「いや、冒険者との間で子をなせるのか興味がある」

「それは、あなたの体、というよりこの世界がどう構築されたか次第で、あなたはあなたに宿った方から答えを聞いている筈です」

「そなたももう確かめてあるのだろう?」

「おおっぴらには吹聴してませんけどね。冒険者同士でも、冒険者と大地人との間でも、出来るみたいですね」

「だからこそ、この世界の存続が気にかかるか?」

「父母となった冒険者は元の世界に戻れたとしても、その伴侶や子供達は、世界の消失と運命を共にしますからね」

「だからそなたはここで誰も娶ろうとしていないしつながろうともしていないのか?」

「それも理由の一部ではあります」

「で、今宵は何の用向きで来た?」

「オルノウンなら、冒険者を元の世界に戻せもするしまた招く事も出来るのではないかという推測に答えを頂きたかったからです」

「出来るのやも知れぬなぁ」

「フールやジーニアス達を創り送り込んできた存在は、この世界の管理者コントローラーではありませんからね。それでも冒険者を元の世界に戻せるというなら」

「・・・・・ふむ」

「何か?」

「そなたら、元の世界に戻れたとかいう連中と一人とでも連絡は取れたのか?」

「いえ。それこそ、オルノウンの方に阻まれているのではと」

「なるほどの。我も元の存在の成り立ちを聞いておる。そなた達人間の言うところの遊戯の為に創られた仮想世界の影法師であったと。その設定を基にこの亜世界に血肉は与えられたと。なれば我もまた、そなたらの世界に触れ、見聞きしてみたいとは思うが、さて」

 イサナミはしばし瞳を閉じ黙した後に続けた。

「出来る。そう申しておるな」

「出来るとやるは違う、ですかね」

「聡いの」

「今この段階で冒険者を元の世界に戻すくらいだったら、最初から招いてはいなかったでしょうからね」

「我もまた、オルノウンが何を望んでおるのか、全ては知らん。いや知れる筈も無い」

「私も同じです。でもだからといって知るべき事を知れる機会を与えられているのであれば」

「時が至れば自ずと、やも知れぬぞ?」

「かも知れません。今すぐ戻るどうこうを抜きにしたとしても、さしあたり知っておかないといけないのは、自分達の元の体が、世界が、今どうなっているか、ですかね」

「元の世界の時が止められているとでも?」

「可能性はあると思っていますが、その創造主ではないとオルノウンが言っていました。世界ごとの管理者権限がどうなっているか不明ですが、もし自分達が生きているのなら、元の世界の時が止まっていない限り、肉体側に栄養補給その他生命維持措置が取られていない冒険者達はもっと早い段階で死んでいないとおかしい筈です。

 元の世界の時が止まっておらず自分達も体も生き続けているのなら、この世界の時間の流れがとてつもなく早められている可能性もありますが」

「元の体が死んでおれば、この世界の消失とやはり運命を共にする事になるからの」

「もし全員が病院の様な施設に収容されていたとしても、それは可能性が低いと思いますけど、病気や老齢などで死んでいる人もいておかしくありません」

「しかし確認する術を持たぬ、か」

「この世界では死んでも復活できる事から、肉体ごと転移してきたという可能性は抹消して良いと考えていますが」

「それで、本当の用件は何だ?いやすでに口にしておるか。・・・・・・今はまだ全てを語れぬが、生きておるし、元の世界に戻った時は元の体に戻れるだろうと言うておる」


 エルファは考えた。

 人間は一日二日程度であれば食べなくても生きていける。水さえあれば一週間や二週間しのぐ事も可能かも知れない。しかし意識の無い状態の肉体が放置されていても「心配ない」状態が維持されるには、やはり時間の流れが操作されている可能性が高く、それは元の世界との通信が失敗し続けている事とも関連している可能性すらあった。

 さらにいくつかの事を考え、エルファは提案した。


「オルノウンに伝えて下さい。一人、元の世界に戻して欲しい冒険者がいると。正確には、一人のキャラクターの人格と言うのかも知れませんが」

「分かりにくいの」

「すみません、エディフィエールとリゾネットは同一人物ですが、二人のキャラにまたがって存在し、さらにリゾネットの側にはトラベラーの監察者フールも混在しています」

「なるほど。同一人物の人格であればこそ、半身を戻しても半身は残り、過たずあちらとこちらで意志疎通も可能であろうと」

「個別の存在に分割されてしまうというのなら出来ないでしょうけれど、お伺いを立てて頂いても?」

「・・・・出来るだろうと言っておる。後は当人の希望次第じゃな」

「確認を取ってみます」


 エルファは即座にエディフィエールに念話を入れて呼び出し、状況を説明した。

「それ、大丈夫なん?」

「さあ。信用するしか無いと思うけど、ずっとこっちにいるつもりでなければいずれは通る道だし、記憶を受け渡さなくてもいいみたいだからリスクは低いと思うけどね」

「戻ったら、続きが気になってたあのアニメやマンガやラノベを一気に・・・!」

「やっぱお目付役が同伴できるリゾネットのが良さそうかな」

「それはそれで別の問題が出るんじゃねーの?」

「そ。だからエディフィエールとどっちにするか悩ましいとこでもあるんだけど」

「あっちに戻ってリアルで知り合いのプレイヤー達の状況をざっと確認してくだけでも一週間以上はかかるだろうけど、病院のベッドにくくりつけられてたりしたら」

「可能性は無いとは言えないけどね。もう帰還者はある程度の数に達してるけど事情がまた違うし」

「自分の体を別の奴が動かしてたらどーするよ?」

「社会的に影響が出てないとかいう状態なら、その可能性もあるとは考えてた。だから、自分のリアルの状態も確かめてみて欲しい」

「わーってるよ。お前のなんていの一番に確認してくるよ」

「さんくす。とりあえず往還して自己の存在に歪みとかが出ないかどうかと、意志疎通がリアルタイムにこちらとあちらで出来るかどうかの確認から、かな」

「早速やってみる?」

「心の準備はいいの?」

「こーいうのは勢いだもにょ」

「かも。んじゃ、イサナミさん、オルノウンにお願いしてもらってもいいですか?」

「いつでも良いそうだ。しかし、我からも一つ頼みがあるが聞いてもらえるなら」

「なんでしょう?」

「あちらとこちらの通信と往還が可能と確認されてからで良い」

「わかりました。んじゃエディ、よろ」

「うぃお~。いつでもこーーー・・・」

 ぱたり、とエディフィエールの体が横向きに倒れ、意識が体から抜け出たのだと分かった。首筋に指を当ててみて脈動が止まっていない事も確認した。

 エルファがエディフィエールの体を仰向けに寝かせて安定させ、しばらく待つと、リゾネットがやってきた。

「エルファよ、エディフィエールからの言伝がある」

「リゾに残っているエディからでなく?」

「全体が引き延ばされているせいか、二つの世界に同時に存在しているせいで混乱しているのか定かでは無いが、時が経っていないそうだ」

「完全に時が止まってたら思考そのものも出来ない筈だけど、さて、どうするか・・・」

「いったん戻りたがっているが、戻る前に出来る事があればやると言っているが、どうする?」

「もしエルダーテイルを操作出来るのなら、自分にメッセージを入れてみてと。内容は何でもいいから」

「伝えた。やってみるそうだ」

 それからまた数分が経つと、エディフィエールの体が起き上がった。

「たでーま・・・」

「おけーり。どだった?」

「いや、あれよ、ひでー体験だった。完全に時が止まってたら、いや俺もリゾと体っていうか存在をこっち側にも残して無かったら動けなかったかもにゃ」

「これまで帰還した相手が何もメッセージを返してきてないのも、通信がそもそも出来ないのも、相手側の時間が動いていないのであれば、戻った瞬間にやはり止まったからだったんだろうね」

「だったら、さっきメッセージ送れたのは?」

「オルノウンからの贈り物かな」

「我を解放しここまで至らせた褒美との事だ」

「なるほど、それはどうも。う~ん。選択肢が増えたような減ったような」

「とりあえず、他の連中には触れ回らないでおくにょ」

「そうしてもらえると助かる」

「うい。んじゃ、俺はいったん戻るわ。まだ何か気持ち悪いっていうか・・・」

「無理言ってごめん」

「いーよ。俺もアニメやマンガの以下略だったし」

「はは。また明日」

「んよ~」

 そうしてエディフィエールが、残りたがっていたリゾネットも連れて二人の生活するコテージへと引き上げると、エルファはイサナミに尋ねた。

「つまり脱出不能の監獄の様な物だと?」

「すまぬとは申しておったな」

「うーーーーん・・・・」

「でだ。我の頼みというのはな。我も、そなた達の世界を訪れてみたいのだ」

「この世界の消失と運命を共にはしたくないと?」

「それもあるがな。単純に、我を生み出しし者達の世界を見てみたいのだ」

「オルノウンはそれが可能だと?」

「肉体の都合をどうするかという問題は残っているがな」

「無生物の何かに宿ってもらうのも怪談になってしまうし、即刻世界中から争奪戦の的にされてしまいますしね」

「そなたが誰かの間に子を作り、そこに宿るというのは?」

「先ず相手がいませんからね。それと時系列的に、戻るのと世界消滅が同時なら無理なのでは?」

「そこは融通を利かせられるそうな」

「神様みたいな存在ですからねぇ。地球を、というかあちらの宇宙の時間の進行を止めてしまうとか・・・。うーーーむ」

「何が一番気にかかっておるのだ?」

「いや、この世界は出来れば存続させたいんですよね。消滅が避けられないのであれば、出来れば、イサナミさんだけでなく救いたい存在はたくさんいるんですが・・・」

「なるほどの。博愛という奴か?」

「少し違いますね。ゲームのキャラクターじゃなくなってしまったのなら、もう生きている存在ならば、生き続ける権利はあるのかな、って思うだけで」

「強欲な奴よの」

「かも知れません。助けられる望みが無い訳では無いのなら、特に」

「ふふ。そなたのような存在が、過去に我らの側におったらの。我らの歴史も違ったやも知れぬ」

「・・・」

「げぇむとやらの筋書きだったに過ぎぬとしてもな、我の記憶には鮮々明々と刻まれておる。それを逐一ここで復誦はしないがな。ただ、あれも避けられぬ定めではあったのであろう」

「でも、今回のは違うかも知れませんしね」

「筋書きは、まだ宙に浮いておる、か・・・」

「ええ」

「そう言えば、まだくえすとの褒美とやらを取らせていなかったの。我を与えるというのはどうじゃ?」

「嬉しい申し出ではありますが」

「この世界が終わってしまうのであれば、か」

「はい」

「ふむ、良い。我とオルノウンとで善後策を詰めてみよう。この世界が存続する道は無いかどうかを含めて、改めて、な」

「よろしくお願いします」

「次に参る時は、我の名の元になった神についても教えておくれ」

「資料が手元にないので記憶を頼りにのお話になりますが」

「良い、楽しみにしておく」


 そうして、イサナミの寝殿を辞し、お堂の前の階段を降りた所には余興が待っていた。

「聞いていたのか?」

「禁じられてはいなかったのでな」

「ま、オルノウンが気付いてなかったとは思わないけど、手間を一つ減らしてくれた感じか」

「望みは、あるのだろうか?」

「無いとも言えない。今はそれくらいしか言えないかな」

「そうか・・・」

「そうふさぎ込むなよ。オルノウンがもっと情が無い奴なら、こんな交渉の機会や期間なんて設けられてもいなかったし、そもそもこんな亜世界が創られて俺達が出会う事も無かったろうしさ」

「エルファはいろんな人から言われてうんざりしているかも知れないが、期待している。すまないとは思うが、期待させて欲しい」

「出来る限り、何とか、かな。結果責任までは負えないけどね」

「分かってる」

「んじゃ、また明日な」

「ああ」


 そうしてエルファは余興と別れ、自分のコテージへと戻りかけたが、先ほどのエディフィエールからのメッセージが届いているかどうかナカスの銀行へと行き、確かめ、続いてしばらく迷った後に、現状の概況をにゃん太にも書き送った。そこからどの程度の範囲の人々にまで情報が伝わるかは先方の意志と成り行きに任せ、自分は島に戻って寝床に就いた。



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