16.第三と第四のレイドインスタンス攻略と、交渉と
四国西南端にあったレイドインスタンスダンジョン、<異人達の居所>はレベル70~80、フルレイド規制で、ボスの数は5体だった。
二番目のレイドインスタンスダンジョンは、レベル75~85、フルレイド規制で、ボスの数は7体。
三番目は、<ハギワラ古代墳墓>。ダブルレイド規制で、レベルは85~95規制。つまり90から徐々にレベルを上げつつある自分達冒険者にも手頃な挑戦ともなり、逆にレベル80近辺に到達しつつあるオーク王やアデルハイド侯爵の精鋭兵にはまだ早すぎるとも言える難易度にあった。
「まだ早すぎるんじゃないのか?」
という意見は少なからず寄せられたが、
「それでも、自分達より上のレベル帯相手に冒険者達がどう戦うのか、見ておいてもらわないといけないんだよ」
とエルファは答えた。
攻略チームの主核は、Windと元<勝利の羽根>とナカス有志の90レベル以上の冒険者の合計24人と、<紅姫>からの24人。本来はそこまでが上限の筈だったが、余興の従者扱いとしてだか、オーク王とその側近12人とアデルハイド候とその側近12人とでもう一つのレイドグループを組み、雑魚敵を相手にレベルと装備の向上を図ってもらっていた。
地表にはオーク王の精鋭4500とアデルハイド候の精鋭500、さらにナカス有志のレギオン二つが護衛と警備に残り、有事に備えていた。
雑魚敵やボスの取り巻き達へのケアが万全ならば、ボス敵攻略の難易度も格段に下がる事は多い。インスタンスダンジョンのマッピングと各ボスの攻略と所在位置などを割り出しながらオーク王とアデルハイド候の配下を鍛え装備の拡充なども図りながら、七体いるボス敵をゆっくりと攻略し、一月かけて残る一体にまで追い込んだ頃には、オーク王とアデルハイド候の精鋭達のレベルは平均で3は上がっていた。
その日の修練とラスボス本格攻略前の手合わせを終えたエルファ達は、地表に戻って装備の修復や地上部隊や留守番達との情報交換を行おうとしたが、そこで受けたのは、
「蜥蜴人王の軍勢一万がこちらを包囲しています!」
という報告だった。
ただし戦闘は始まっておらず、相手側はエルファ達の帰還を待つように、距離を置いて王一人が両陣営の中間に椅子を置いて腰掛け待っていると聞いたエルファは、やはり一人で蜥蜴人の王の元へと向かった。
ツェドルクという名を持つ蜥蜴人の王のレベルは、85に達していた。七色ではなく十色の鱗の輝きに身を包み、瞳には戦意ではなく深慮を宿した王は、エルファが向かいの椅子に腰を下ろすと語りかけてきた。
「お初にお目にかかる。歌う風のエルファよ」
「こちらこそ。蜥蜴人達の王、ツェドルクよ」
二人が互いを見定めるような、短くも長くもない時が過ぎてから、ツェドルクは問いかけた。
「そちらの意図は、蜥蜴人の殲滅ではないと見受けるが」
「仰る通りです、王よ。我々はあの大穴の底に待ち受ける者を討滅したいだけ。それがあなた方の望む所ではない為、現在の様な状況になっています」
「無辜の市民達に打ちかからないでいてくれた事は感謝したい。だが」
「あなた方にも譲れない物がある。それはもう仕方ありません。最小限の手間と戦いで済ませるつもりではいます。が」
「我々はそれを全力をもって阻止せねばならぬ。例え最終的に力及ばぬ事が分かり切っていたとしても」
「どうしようもありませんか?」
「ありませぬな、歌う風よ」
「一つ言明しておきましょう。私達は無用な犠牲を増やすつもりはありません」
「それはそれで有り難いが」
「それからもう一つ。私達は一度目的を達成すれば、そちらから仕掛けられない限り蜥蜴人達を全体として害しようとはしないでしょうし、あなた方の崇める存在も、おそらくですが、在るべき姿で再臨されるのではと考えています」
「もしそれが本当であれば、私とて信じたい」
「しかし残念ながら、自分にも確証は有りません」
「では、戦いは避けられぬのか?」
「私とあなたは一度戦うかどうか。そしてあなた方の信仰の対象を滅したとしても一度でしょう。あなた方はそれでも戦うだろうし自分にはそれを止められない。
けれどそれが、あなた達の元に信仰の対象を取り戻す唯一の手段だと考えています」
「信じて良いのか、歌う風のエルファよ?」
「私は万能ではないし、失敗もします。ただ、出来る最善を尽くそうとするでしょう」
「期待させて欲しいものだな。伝説を生きる古き英雄よ」
「今はこんな状況になっていますが、私にはあなた方に敵対するつもりはありません」
「冗談で言っているのか?」
「いいえ。他に後十くらいは同じ様な件を手がけないといけないかも知れませんから。とっとと済ませられそうな事は済ませておきたいだけです」
「くっ、ははははっははは!それでこそ英雄の物言いよ!私もその軍もそなた達を万全の態勢で迎え撃つだろう。心してかかってくるがいい」
「真っ向勝負にならなくとも恨まないでください」
「其は風よ。風を捕まえられなくとも無能の誹りは受けまい」
「では王よ、また後日」
「ああ。期待している」
「それは、この地での戦いの全てが済むまでを待って頂く必要があるでしょうけれど」
「半年もかからぬのであれば上々だ。我もまたそなたの勲の一部を彩れるのであれば心躍るというもの」
そうして蜥蜴人の王ツェドルクとその軍勢は、西のオオス城の方へと引き上げていった。
エルファが仲間達の元に戻ると、いろいろ聞かれた。
「今回は見逃してもらったのか?」
「次はきっと王達とも戦うからだろうね。ここまでのタンジョンみたいな楽な戦いにはならなそうだ」
「ここまでが、楽な戦いだっただと・・・」
「そう難しくはない戦いでしたよ、アデルハイド侯爵。あなたとオーヴァの精鋭達には今まで以上に精進してもらわないといけなくなりましたが」
「具体的には、どれ程だ?」
平静を装おうとしても、オーヴァの声は答えを聞く前から震えていた。
「最低で、95」
現在80レベルのオーヴァは深いため息をついたくらいで済んだが、75レベルのアデルハイドは立ちくらんでいた。
「あと、20だと?」
「はい」
「どれくらいの期間でだ?」
「少なくとも2、3ヶ月はもらえます。それまでに90には達しておいて下さい」
「相手も立ち止まらぬという訳だな」
「そしてここは相手の本拠地で、私達はその本丸に攻め入る立場にいます」
「ならば、達するしかないのか」
「覚悟を決めろ、ウォーロードよ」
「覚悟であればすでに決まっている。歌う風の伝承の一端に我が名を載せると決めた時からな」
「であれば、一日の修練時間を今までより増やしましょうか。大丈夫。一日のトータルでの休憩時間はちゃんと今までくらいには維持しますから」
オーク王とアデルハイド候の顔色が青ざめたのは言うまでもなく、勇ましい口約束を交わしてしまった主達を恨む部下達は漏れなく巻き込まれた。
これまでは昼間にしかダンジョンに潜っていなかったのを、昼間と夜間の二部制に倍増され、寝ている間にすらうなされる精鋭達が続出。中には逃亡しようとする者まで出たが冒険者達に見つかるとさらに激しい個別特訓コースに叩き込まれる事が知れ渡ると、以降脱走兵は発生しなくなった。
エルファはその間にも各地への偵察と手配などを怠らず、各自のレベルも上げながら、第三のレイドインスタンスダンジョンをクリアする頃には、第四のダンジョンの場所が判明。
それはオオス城の地下にあると知れたものの、城内外には蜥蜴人達の残存兵力の大半の5万が集い、城に近づく事すらままならない状況に見えた。
「またオーク兵動員する?」
「いいや。アデルハイド侯爵の軍と一緒に九州東岸を固めててもらう」
「でも冒険者だけだと、特にナカスのだけだと全然頭数足りないんじゃないの?」
「そこはもう手を打ってあるよ」
ナカスの冒険者の半数はすでにレベル90以上に、残り半数も70以上には達していたが、それらを総動員しても1500には足らず、レイドランクも多数混在し、隙の無い布陣を見せる蜥蜴人側の防御は崩せそうには見えなかった。
さらに、オオス城防衛には加わっていない軍勢一万がオカヤマ近辺に上陸。他にフォーランド西南端のファーミング拠点にも五千の兵力が進行中との報せがエルファに届いた。
「いくら平均レベルで10から15近く開いてても、1500対65000とか無理じゃないの?」
そんな声はエルファの周囲からも聞こえたが、
「全部倒す必要は無いのさ」
とエルファは落ち着いた様相を崩さなかった。
「ミナミやアキバに増援求めた方がいいんじゃ?」
という声も複数上がっていたが、
「必要無いよ。あちらはあちらで別件で忙しいしね」
とさらに数日を待つ内に続報と来客が到来した。
「オカヤマ近辺に展開した蜥蜴人達の軍勢一万は、韓国サーバーからの冒険者達の増援一万に包囲殲滅されました!」
「ええっ!?」
「うぉお、マジかい!」
そんな驚きと喜びの声が上がる中、
「フォーランド西南端にて守備部隊と交戦していた蜥蜴人達の部隊は、台湾サーバーからの増援五千に撃破され撤退しました!」
「これで、千五百と一万と五千対五万か。なら、いけるかも!?」
しかしエルファは慌てず、本陣約千名はオオスの東への街路を塞ぐように置き、オオス城北側を韓国プレイヤー達に、南側に台湾プレイヤー達に、西側の街路をオーク王とアデルハイド侯爵の精鋭とナカスのレベル75から90以下の冒険者達約五百名を展開。
韓国プレイヤー達の攻勢を主軸に組み、台湾プレイヤー達には東西に攻めかかろうとする蜥蜴人達の側面を突いてもらい、じりじりと戦力差を縮めていき、このままでは負けると判断したツェドルクは東のエルファの本陣から潰す事を画策。
開戦から三日後、城に最低限の守備隊を残して一気に東の敵を粉砕し、後に南へと打ちかかろうとしたが、東の敵はゆるゆると後退しながらツェドルクの軍列を引き延ばし、その後背から韓国と台湾プレイヤー達の連合軍に打ちかからせ、しかし犠牲を払いながらも敵本陣を回り込んで包囲したかに見えた部隊は、さらにその後背から現れた中国サーバーからの有志冒険者達三千に粉砕された。
ツェドルクは自らの攻勢の限界点を見極めると即座に反転退却を指示。冒険者達の戦列を切り開く内にもさらに軍勢は減らされ、オオス城に集っていた蜥蜴人兵士五万はこの日までに半減した。
まだ数の上では勝っている内に和睦を、という声も幕下で上がらないでは無かったが、
「この城が落ちれば第四の封印まで解かれる事になる。つまり我らの神をお守り出来なくなる」
と決断は下せなかった。
翌日からも攻め立てられて数の上でも逆転され、オオス城は完全に包囲され閉じこめられ、ツェドルクもその軍勢も進退窮まった。
部下達もうなだれ、言葉を無くしているところに現れたのは、城地下にある封印の洞窟入り口の見張りに置いていた兵士達だった。
「申し上げます、王よ!」
ツェドルクは、もはや次の言葉が予測出来た。
「歌う風のエルファとその手勢およそ百名以上、封印されていた洞窟より出て参りました。こちらに向かっております!」
ツェドルクは握り拳を力強く玉座の手すりに打ち付けて、悔しさを僅かでも減じられないかと肺腑を焼き付くさんばかりに吠えた。吠えて、吠えて、声も枯れ喉が痛みを訴えてきた頃に、先日出会ったばかりのエルフのバードはその仲間達その他と共にツェドルクの前に姿を現して言った。
「用事は済まさせてもらいました。思ってたよりも時間かかってしまった分、負担を増してしまったようですね」
ツェドルクはそのせいで余計に部下を失ったのだと、詫びを入れられた事に呆れ、苦い笑みをこぼし、かぶりを振って腰にしていた剣を抜き、床に放り投げて宣言した。
「降参だ、歌う風よ」
「賢明なご判断、ありがとうございます、王よ。そのわずかばかりのお礼となるかは分かりませんが、あなたと、そうですね、神殿長にはご同道頂きましょう」
「自らの目で見極めよと。そういう事だな」
「あなたの民は、あなた達指導者から真相を語られる事を望むでしょうから」
「然り。そして、いつ発つのだ?」
「まだ準備が整っておりません。我々も、そしてあなたと神殿長にも修練に参加して頂く必要があります。具体的には、私達はレベル100を。あなた達には最低でレベル90から95ほどを目指して頂きます」
「我が種族の宿願の成就を見極め、歌う風の伝承の一端に名を連ねるのであれば、相応の苦難を乗り越えよという訳だな。良かろう。神殿長達にも遣いを出しておこう」
「では、こちらは兵を引きます。それとあといくつかお願いというか交渉もありましてね」
「申してみるがいい。そちらは勝利を収めた側。こちらは降伏した側なのだから」
そうしてエルファはいくつかの事項、その中には蜥蜴人達にも決して損にならない事も含まれ、前向きに検討するという返答を得て、エルファ達はオオス城の正門の内側から外に出て、そこに集っていた仲間達と勝ち鬨を上げてから、ナカスへと粛々と撤兵していった。
ナカスは普段の人口二千に対して、海外からの来客およそ一万八千は過剰とも思われたが、韓国や台湾や中国からの生産系ギルドの出張サービスや支店開設なども受けて、街中が困難なクエスト達成の成功を祝い、次の冒険の舞台をどこにするかなど、様々な話題が飛び交った。
エルファはその話題の中心に、複数のサーバーのギルドマスター達に沙夜他と巻き込まれて解放されそうになかったが、余興を始めとしたWindと紅姫のメンバー達は、トリプルレイドクラスのインスタンスダンジョン攻略を僅か数日で終えるという難行を振り返っていた。
「ふつーなら、偵察だけでも数日てか何週間かかかって」
「クリアまで何ヶ月かかかっててもおかしくなかったのにね」
「九体いたレイドボスの内の、ラスボスまでのルート開放に最低限必要だった三体だけ倒して」
「手下のボスを倒さずにラスボスに挑むとそこに残りのボス全員が召還されるのを逆手に取って」
「あんな、ねぇ・・・」
「ゲーム時代だったら、GMが出てきて措置されちゃってたかも知れませんけどね。まだ荒いポリゴンの時代からやってた超古参プレイヤーならではの荒技ですかね。コンテンツに対して酷い振る舞いではあるから、後日ちゃんとクリアし直したいとはエルファさんも言ってたけれど」
連続クエスト、封印巡りの四カ所目は、<封殺の地下空洞>。トリプルレイド規制。敵のレベルは90から100。レイドランク3の敵までがいる難所。
全体は大きく九つの賽の目の様な台地に別れ、外周の八つの台地は橋の様な通路でつながれ、北東、南東、南西、北西の台地の四カ所からは中央の一番高い位置にある台地へ坂道でつながれていた。
入り口のセーフゾーン正面の台地にいたボスのレベルは92。レベルこそ低めだったが、ダブルレイドランクで、しかも両隣のボスの台地からレイドランクの雑魚敵が際限無く送り込まれてくる、最初に当たる敵としては中々の難易度だった。
しかし攻略組は、エルファ達Windと元<勝利の羽根>メンバーで1、ナカス有志で1、<紅姫>で1のトリプルレイドを構成し、かつオーク王の最精鋭の二十四人とアデルハイド侯爵の最精鋭の二十四人の総計百二十人という大所帯な事もあり、雑魚敵をオークと大地人部隊に任せつつ、ハーフレイド規模の冒険者達がそれぞれを支え、残りのダブルレイドが最初のボスを倒した。
地下大空洞をサモナーのミニオン達で偵察し構造を把握。
「これ、絶対に、救援が来るパターンだね」
とエルファは判断し、実際、最初の部屋の左隣のボスにしかけてしばらくすると、その北側にいたボスが増援に現れ、それでも最初のターゲットを削ってHPを半分にまで減らすと、大空洞中央の台地にいたレベル99のトリプルレイドランクのボス、大天狗がさらなる増援としてやってきた。上空から魔法攻撃を振りまいてくる厄介なタイプで、エルファは即時撤退を指示。フリップゲートでダンジョンのセーフゾーンまで退却した。
「北側の敵にまで24人で仕掛けても、さらにその先の台地のボスが来そうだな」
「あと一つ確認すれば、たぶん攻略の糸口は掴めると思うよ」
とエルファはあっさり言い切った。
そして西南の台地のボスに24人でしかけ、1パーティーが中央の台地へ駆け上り、大天狗に超長距離で攻撃を仕掛けると、大空洞内に残っているボスの大半、冒険者が既に仕掛けている一体と、真北にある台地にいるレベル100のトリプルレイドランクのボス以外の六体が大天狗の側に召還され、攻撃をしかけたプレイヤーは大天狗の足下に強制転移させられて瞬殺された。
その後ボス達は各自の持ち場へと歩いて戻っていき、死んだプレイヤーは、死霊使いビルドのサモナーの特殊魔法、死体召還で死体を引き上げて、セーフゾーンで蘇生を受けた。
「つまり、どういう状況なんだ?」
「中央の台地にいるボスに仕掛けると、生き残ってるボスのほぼ全てがそこに集まる。だからボスは一体ずつ潰さないといけないんだけど、西南西北東北東南のボスを倒そうとすれば、その隣のボスと、中央のボスも増援にやってくる」
「つまり、三体同時攻略?」
「でも中央と北のボスはトリプルレイドランク、他のもダブルレイドランクだから、76人だと」
「いや24人と24人の計48人の従者はいるけどさ、レベル的にきつくない?雑魚敵までが相手ならまだしも」
「あの真北のボスだけ動かなかったって事は、あいつを倒さないとその先の封印のある部屋には辿り着けない。レベル100だし、総力を結集して倒せるかどうかって相手だろうね」
「でも、あの中央の大天狗だって99だし、あいつがいると攻略が」
「ちょっとというかだいぶ外法だしゲーム時代には出来なかった手だけど、今回は事情が事情だし試させてもらおう。もしうまくいかなかったら別の手を考えるよ」
三回目のトライは、二回目と同様に、西南のボスに先ず仕掛けたが本格的にはHPは削らず、隣の西の台地からのボスも本体ではなく雑魚敵だけを延々と送ってきていたのをオーク王とアデルハイド達が対処。
特殊工作3チームがそれぞれの場所で待機。デッドコンテンツなスキル、偽死持ちのモンクに大天狗のアグロと他のボス達の召還を引き起こしてもらい、その間に特殊工作部隊は北西、北東、南東の坂道の袂へ到達。
アースエレメンタル達を動員しあるいは物理と魔法攻撃を総動員して坂道を崩落させ、南西の坂道だけを残した。
ここからはいくつかのパターンが考えられたのだが、中央の台地にいた敵ボス達は大天狗を先頭に残された坂道を下ってきた。
西南の台地の手前で待ちかまえていたエルファと奈良はボス達をチャームにかけると即座に奈落の底へと跳躍。
ほんの一瞬で効果は切れるとしても、ボス達が正気に戻った時にはすでに虚空の上、そのまま地底奥深くへと落ちて行った。
リゾネットは大天狗の背後にいた牛頭の巨人をチャームにかけて大天狗を後ろから抱きすくめさせてやはり坂の縁から虚空へと飛ばせた。
背中の翼を使えない大天狗もろともどうなったか結末は見えなかったが、胴体にロープを巻いていた奈良もエルファもゴーレッドその他のメンバーに引き上げてもらい、何人かを崖の縁の偵察に残し、西南の台地のボスを倒した。
警戒態勢を取りつつも回復が終わった頃に、憤怒の形相の大天狗が襲いかかってきたが、ボス達の強制召還さえ無ければ単なるボス敵として、ただしその大団扇の強風で十人以上が台地から落とされて死亡したりもしたが、オーク王やアデルハイド達は戦いに参加させなかった事もあり、三回目の開始から二時間が経過する頃には大天狗も討ち果たした。
他のボスが奈落の底から復帰してくる事は無く、生きてはいるが上ってこれそうにはないという偵察の報告も受け、真北の残されたレベル100のボスと対峙。
初日は様子見の仕掛けだけで、時限式の大技の特性の把握などに努め、翌日から本格的な攻略を開始した。
レベル100トリプルレイドランクのボスは、その名もアスラ。仏教守護神の阿修羅をそのまま蜥蜴人に置き換えた様なデザインで、六本の腕からはそれぞれに属性の違う攻撃や魔法が振りまかれ、三つ首は死角を持たず、攻撃を与えたり与えられたりすると自分のバフが削られるという非常に厄介な存在で、時限式180秒の大技もつまり60秒毎に属性の異なる物が降りかかるという難敵だった。
「こりゃあ、汚い手使ってでも他のボス達には退場願ってて正解だったねぇ」
と弥生は言ったが、崖下への監視は怠らず、攻略は二つのフルレイドが攻撃、一つのフルレイドが支援を行う形で進め、何度も仕切り直しはしながらも、腕の一本ずつ、首の一本ずつに攻撃を集中し、相手の攻撃パターンを殺いでいった。
攻略開始から三日目。崖下から徐々にボス敵達の放った雑魚敵が迫りつつあるという報告を受けて、エルファ達は最後の攻勢を開始。
恐慌状態など精神攻撃を主体としたバステを振りまいてくる首から攻め落とし、炎の魔法を操る腕、氷の魔法を操る腕を次に。攻撃と防御の魔法を唱える首を落とした所で、HPは50%を切ったが、相手の全周囲物理攻撃技で前衛と武器攻撃職の半数以上がダウン。
そこに崖下からの雑魚敵が届き始め、撤退の声も上がりはしたが、エルファは強攻を選択。奈良やリゾネット達と共にオークや大地人部隊を支え、ほぼ物理攻撃しか無くなったラスボスはエディフィエールが支え、一人、また一人と蘇生され戦線復帰して勢いを盛り返した。
残る腕を一本ずつ落としていき、相手のHP30%を割り込んだ時には先ほどよりも激しい攻撃技が有ったが、神祇官達の障壁やクラス固有スキルなどが複数重ね合わされ、物理攻撃職達も十分な距離を離れて先ほどのような被害は受けなかった。
「HP20%切った!あともうちょい!」
「エルファ、ボスが一体、もうすぐここに!」
余興の声を受けて、エルファが崖下を覗いて見ると、大ムカデの胴体の頭部に人の上半身がついたようなボスが雑魚敵を足台にして垂直の壁を登り終えつつあった。
「余興、ウォーター・エレメンタルを召還。あいつが登ってくる壁を水で濡らしてやれ。セラフィーナ、そこを凍らせて」
「こいつもう少しで倒せるんだから、もったいなくね?」
「ちゃんとした攻略はまた後日で。とりあえず封印巡りの完了と、巫女さんの生還と保護のが大事だ」
「だりーけどわーったよ」
そうして足場を濡らされ凍らされた大ムカデのボス敵は自重を支えきれなくなり、踏み台にしていた雑魚敵達もろとも再び奈落の底へと落ちていき見えなくなった。
そんなやりとりの間にもアスラのHPは10%から5%未満へ。蘇生チームで控えていたツクシとヒヅメは戦闘が行われている場所から100メートル以上離れた安全な場所から、アスラの断末魔を見届けた。
戦闘終了後、ルート品の確認と分配などが終わってから、その台地から北へ延びていた通廊を辿り、封印されていた扉にヒヅメが手をかざす事で扉は開かれ、さらにその先の小部屋の地中に埋まっていた大釘をヒヅメが恭しく抜いて四つ目の封印も解かれたようだった。
「えっと、これ、この後のこのレイドインスタンスってどうなるの?」
「ゲーム時代だったら、同じ条件揃えた冒険者が来れば同じ事出来たろうけど、今はこのヒヅメさん一人だからな。一度きりかも知れないな」
「もったいねー」
「この封印を解く部分以外はふつうにまた遊べるだろ。今度はもっと時間をかけて、正攻法でね」
「お前に正攻法なんて言葉は似合わねーよ」
「かもね」
そうして攻略チームは一人も欠ける事無くオオス城地下の扉から王の玉座へと進み出て蜥蜴人の降伏を勝ち取り、ナカスへと戻ったのだった。




