15.ナカス収穫祭と、Wind新加入者と
元々Altとして書き始めて、なるべく本筋は尊重し展開も沿いますが、ここからは本家様でもまた未解明な部分を多く含む為、二次派生物としてお楽しみ頂ければ幸いです。
韓国サーバーの救援からエルファ達遠征メンバーが帰還すると、留守を守ってくれていたプレイヤー達が慰労会を兼ねた収穫祭を企画、実行してくれていた。
実際に組織したのは<青十字>の藍姫とららりあだったが、まだ大規模戦闘には参加できない低レベル層の冒険者達が、自分達主導のイベントを何かやりたいという声を受けて実現した。
ナカスとその周辺ゾーンで活発になった農産物やその他今までになかった生産物を当て込んで、大地人達の流入も増え、ナカスというより博多名物の一つでもある屋台が軒を連ねるように、露天商が連日町中を賑わした。
フォーランドへは最低限の見張りだけ交代で置いて、レイドゾーンのファーミングやレベル上げ作業もお休みとなり、冒険者達は久々の再会をあちこちの露天や屋台を巡りそれぞれの好みの食べ歩きに興じたが、中でも人気だったのは韓国の生産系プレイヤー達が救援のお礼として持ち込んでくれた韓国風焼き肉の屋台で、数も限られていた為に長蛇の列が出来て、しかも一人当たり30分時間制限が設けられ、それでも売り切れが相次いだ為に素材となる肉持ち込み必須条件まで加えられていた為にナカス周辺ゾーンでは肉素材をドロップするモンスターが一時的に枯渇する騒動まで起きたりした。
そんな幸せな喧噪が溢れているナカスから湾を挟んだWindの島では、焼き肉を含めた韓国料理が知己のプレイヤーを通じて振る舞われてメンバー全員がこれ以上は食べられないというくらいにまで腹を膨らました後、エルファが後回しにしていた話題を切り出した。
「えーと、みんな。もう挨拶とかは済んでるけど、元<勝利の羽根>メンバーから加入してくれた、奈良さん、エディフィエール、リゾネット、それからセラフィーナだけど、エディフィエールとリゾネットだけ、他のプレイヤー達とは違うんだ」
Windの中では、グレンボールだけが知っていたが、まだ口外はしていなかった。
「エディフィエールとリゾネットは、俺と余興と同じ、二垢キャラなんだよ」
「・・・・・・げ」
「って事は?!」
「お二人のどちらかも、なんですか?」
今ここにいるメンバー以外では、サーヤだった沙夜も知ってはいる事だが、呼ぶと他の<紅姫>メンバーを呼ばないといけなくなるので、今回は呼んでいなかった。
他の誰よりも余興が驚いていたが、
「詳しい説明は当人からしてもらった方がいいだろう。エディフィエール、よろ」
「ういお~。まぁ、あれだよ。二垢のPCには<ノウアスフィアの開墾>インストール済みで、自分もその時を二台同時に迎えようとしてたんよ」とエディ。
「ん~、そこでまぁ、幸か不幸か、適用される日の午前零時になった瞬間、両方のキーボードに手を置いてた訳」とリゾ。
「でも、お二人とも、レイドでも別々に行動、してましたよね?」とツクシ。
「簡単な行動ならいっぺんに二人同時に動かせなくは無いんだけどさ」とエディ。
「え?!」と複数の驚きの声が上がり、
「そーなのよねん。知られると面倒だから身内にしか、それも限られたメンバーにしか教えてこなかったけど、ここにいるメンバーになら、伝えてもいいかもねん」とリゾ。
「結局、どーいう状態なんだよ?話が見えねーぞ!?」
いらついたゴーレッドが急かしたが、リゾネットは落ち着いたまま答えた。
「共棲している状態とでも言うのかな。名前は、リゾネットのままでいいだろう。私は、君たちが知る<航界種>の余興とはまた別の役割を持つ<監察者>、ランク3の知的生命体だ」
「わお・・・」
「つまり、半分くらいはエディフィエールさんで、残り半分が、その航界種のフールとかっていうの?」
「だいたいそんな感じ~」
「だいたいってそんな・・・」
「<監察者>の役割は、対象の生命体の知的ランクを見極める事にもある。<典災>はランク2と言っていい」
「ランクが違うとどうなるんだ?」
「扱いが変わる。私はこの体に蓄えられた知識などから、また元<勝利の羽根>メンバー達との交流を通じて、君たち人類がランク3の知的生命体であると判じている。他の<監察者>達とてそうだろうな」
「つまり、お前みたいのがまだいるって事か?」
「そうだ。典災よりは少数だが」
「エルファ、お前は、ずっと知っていたのだな?」
「当たり前だ。なんで言わなかったかお前にも分かるんじゃないのか、余興?」
「恐れていたのか?」
「有り体に言えばそうなるかな。二垢の奴が何人今回の事件に巻き込まれたかは知らない。その全部の片割れに航界種が宿ったとも思えないけど、もしも航界種が今回の合致とやらを引き起こしたとして、それ以上のどんな影響を冒険者に及ぼすかなんて分からなかったからな」
「イズモで典災を倒したって時の一言もエルファから聞いて気になっていたからにょ。慎重にもなるわさ」
「種として完全に信頼を置ける関係にあると言えるかどうか、我々はまだ怪しいところにいるだろう。だから、私も聞いたその一言に関して私の知る全てを人間側に伝えていいかどうか、今でも迷いがあるのは事実だ」
「我は、何なのだ?」
「余興。君は確かに消えていて然るべき存在だ。君は、<先導者>だよ。次に合致すべき世界を見つけ、そこへ種全体を導く」
「そして役割を果たしたら消える、ってか」
「なるほど。そしたら人類はともかく、航界種の移動ってか合致っていうのか?それは余興のせいとも言えるのか」
「そのせいに出来るかどうかは議論の余地があるだろうね」
「犬ぞり引っ張っていく犬みたいなもん?」
「そんなかわいいものかどうかは知らん」
「では、なぜ我は消えていないのだ?」
「存続するに足る資源を手に入れたから、というのが一番もっともらしい説明になるだろうな。その空の器と、その持ち主から得ているのだろう」
「て、おい、そしたら」
「心配しなくてもいい。氷の表面を舐めているくらいなものだと、エディフィエールにも説明してある」
「でも舐め続ければ氷も無くなってしまうのでは?」
「その前に人としての寿命の方が先に尽きそうだが」
「でも、冒険者って不死ってか不滅でしょ?だったら」
「そーよーん。そっからが本当の問題なんよ」
「この世界がいつまで存続するのか。それは、この世界が誰によって準備されて、どうして俺ら人間達が巻き込まれたのかって話だ。
航界種が俺達の記憶を資源として捕食する為だけだったら、こんな面倒くさい手順は踏んでないだろう。セルデシアに順じた世界を構築するなんて必要は無かった筈だ」
「でも実際問題、転移させられた人は全員、エルダー・テイルをその瞬間にプレイしていた人達ですよね?」
「そう。今の自分達が死んでも復活できるという事から、自分達の肉体は移動していないと考える方が合理的だろう。もし一人暮らしで一週間とか肉体が飲まず食わずだったら死んでる筈だけど、こちらで数ヶ月経っても不自然に消滅した例はまだ確認されてないから、等倍で時間が経過している可能性は薄い」
「じゃあ、自分達でも航界種でもない第三の存在がいるって事?」
「大地人を第二としてカウントするのであれば、第四の存在になるかも知れないけどね」
「でもそれが航界種じゃないって保証も無いんだろ?」
「それはそうだろうね。なにせ動機がある」
「だよな」
「そこは信じてもらうしか無いとして、だ。私達は君達に元の世界への戻り方を提供出来る。ランク2の典災達でさえね。でも、それは根本的な解決とはならない」
「航界種からすれば、十分な量の資源だけ得て、次の世界へと転移できれば良いのではなかったのか?」
「君の立場からそんな言葉を聞けたのは、フールとしても初めてかも知れないけど、そうだよ。ファインダーに導かれたとはいえ、この世界を用意したのは我々では無いのだから」
「・・・・・」
「で、リゾネットさんには、誰がこの世界を用意したのか、俺達人間を引きずり込んだのは誰かも見当がついているのか?」
「正直に言えば、分かってはいない。君達の世界の言葉や表現で言うなら、我々は明かりに虫が引き寄せられたような物だろう。月にも我々の仲間がいるが、そこに解決策が眠っているかどうかも保証しかねる」
「月。って行けるのか?」
「どっかの宇宙基地とかロケットとか残ってて使えればね」
「テストサーバーだっけ?月面てよりは地下世界の設定だったような」
「今回の事件とかを受けていろいろ変わってるのかもな。そっちは他の冒険者達が辿り着くかも知れないし、そもそも航界種を問いつめたところで答えを知らないか提供出来ないって言うならそこに行く意味はあまり無いと思う」
「じゃあ、エルファは目指さないのか?」
「種子島はナインテイル領内にあるから、そこの様子見はしといていいかもね。月に行かせたくない誰かがいるなら、別にヤマトサーバーに限った話で無い筈だけど、何らかの障害が用意されててもおかしくないからね」
「アキバやミナミのプレイヤーもいずれ目を付けるとしたら、抑えておくことで交渉材料に出来るかも」
「別にそれで取引しようとはあまり思わないけどね。どうせロケットなんて物が使えたとして、1パーティーも送り込めないだろ?スペースシャトルでさえ1パーティーくらいがせいぜいなんだから」
「どんな強いプレイヤーを送り込めたとして、複数のレイドボスを一人で相手は出来ないものな」
「そ。だから送られるならたぶんアキバとかミナミの代表とかになるんじゃないのかな。そこを邪魔してもナカスに益があるとも思えないし」
「情報交換とか交渉ってことならそうなるか」
「てゆーと、エルファとしてはやっぱり黒幕の探索を優先するのか?」
「だね。連続レイドゾーン、もう二つ目の攻略まで終わってるけど公開はしてないし。三つ目と四つ目のある場所も絞り込まれてきてるし」
「大穴の果てしない底に封じられた女神様か」
「<六傾姫>の誰か、なのは間違い無いと思う。それが誰か分かれば最初の戦いもある程度対策立てられるけど、ミラルレイクでも知ってるかなー。微妙だ」
「蜥蜴人自身は知ってるんじゃないの?」
「詳しくは教えられないって大神官から言われてるし、無理に聞き出せるとも思ってないよ」
「でもよ、信仰の対象の封印を解いて蘇らせる事が目的なら協力してくれるんじゃねぇの?」
「封印を解く目的が倒して滅する事じゃ無ければね」
「そりゃそうだな」
「航界種に接したプレイヤーがうちらだけの筈も無い。戻り方も含めて気がつき始めてるプレイヤーはそれなりに増えてると思う」
「だけど戻った時の記憶の状態までは担保されず、か」
「ありがちなのは、こっちにいた間の記憶は完全消失して、居た間の元の世界の記憶も無い、単に空白の期間が生じるか」
「あるいは肉体的に死んでいないのなら、一瞬が滞在期間分引き延ばされていたとか」
「どちらも有り得ますね」
「ゲーム時代のエルダー・テイルは十二倍速で時間が進んでたから、えーと、<大災害>から四ヶ月約百二十日経ってるとして、ちょうど十日間て事?」
「120x24で2880時間。以前は2時間で一日経過してました。つまりこちらで十二日経てば元の世界で一日。だから百二十日なら十日で合ってる筈ですね」
「十日飲まず食わずなら死んでそうだね」
「家族とかが気づいて病院運ばれてればともかく」
「職場の誰かが気付いて家まで様子確認しに来てくれるとか、望めない人もたくさんいるだろうし」
「そしたら、何はともあれ帰還を最優先にした方がいいんじゃないの?」
「その選択肢も否定できないけれど、この世界がこういう形で用意されてるからこそ、焦る必要は無いと思う。そして逆に言えば、だからこそ人間達を引きずり込んで記憶という資源を奪う為に航界種がこの世界を用意したのではない、と言えるのかも」
「どういう事だい?」
「むずかしすぎて、さっぱりわかんねーよ、大将。おバカな俺にも分かるよう説明してくれ」
「一つ、気になっている重要な点としては、自分達人間がこの世界に来た時にはすでに、セルデシアの世界全体に点在する古来種達の十三騎士団は襲われていた。
彼らが人間より圧倒的高度な情報処理速度を持っているのなら不可能じゃないのかも知れないけれど、これまで複数体と接触した感じだと、その可能性は薄い。
それに邪魔な存在だと分かってるなら、最初から排除した状態でこの世界を構築していれば済んだ事だとは思わないか?」
「なる・・ほど・・」
「それは確かに」
「でもセルデシアをそのままひとまずは形通り作る必要性があったけど、邪魔だったからさっさと消した可能性もあるのでは?」
「余興やリゾネットが宿る殻を必要とした様に、典災なんかもNPCや新キャラ、特に<ノウアスフィアの開墾>で追加されたボスキャラを利用してるかも知れない。
その意味では消されてるのもいるだろうし利用されてるのもいるだろうね」
「それって・・・」
「かなりやばいんじゃ?」
「今の道筋を進んでいけばいずれ遭遇するだろうさ。
確かに形はセルデシアを、ただし事象は元の世界の物理法則などと入り交じった物を採用。古来種の騎士団を先に消したのは、その戦闘能力が邪魔に成り得る存在だったから。というのは考えられる。
だけどヤチホコさんの証言から、古来種達が戦闘で滅ぼされたんじゃない事は明らかになってる。彼らがゲーム世界を彩る為に用意されたNPCに端を発してる存在だとして、なぜ移動してきたばかりの典災がその事を知ってる?それはあまりにも都合が良すぎる気がするんだ」
「誰かが教えたとか?」
「航界種でこの世界を最初に見出したのが余興だとしてみよう。移動にどれくらいの時間を要したのかは知らない。時間の概念さえ違うかも知れないしな。
余興。お前に、ここに来るまでの間の記憶はあるのか?」
「・・・真っ暗などこかで、生じたのだと思う。仄かな光は周りにあったが、とても侘びしかった。
そしてあちこちに目を転じてみて、今この体にあるような目で見た訳ではないだろうけど、とても眩しい存在を感じた。
その眩しい存在に向かって進んでいって、その次の瞬間にはエルファ、お前と共にいたと思う」
「それはこの世界に来てからの一日とか一時間とかより長かったか?」
「どれだけ暗いところにいたのかはよく分からないが、移動し始めてからは、そうだな。一日はかかっていない。せいぜい数時間といった感覚だったと思う」
「リゾネットさんは?」
「種の存続といって良いのかどうか微妙だが、ランク3のフール達のもう一つの役割は、次の世界へ移動する為のファインダーを生み出す事だ。
その意味では、そうだね。ファインダーが生み出されてから、ここに移動を完了するまで、そう長い時間が経った訳ではない。ファインダーは本能で次の資源を嗅ぎ当て移動を強制する存在だから」
「かなり危ないっていうか博打じゃないのかそれ?」
「我々が肉体を持たない存在でないと出来なかった事だろうな」
「だとしたら、やっぱり典災達の動きが早すぎた事になる。そこにランク3のフール達も絡んでいた可能性は?」
「無いとは言えないな」
「てかさ、2が低くて3が高いのなら、1もいるんじゃないの?」
「いると言えばいるが、彼らはほとんど知的生命体とは呼べない」
「それでも共感子とやらをその存続に必要とするんじゃないのか?」
「典災のがフールより多いのなら、ランク1のがたぶん典災達よりもずっと多いんでないの?」
「ふふ、そうだね。でも君達はその心配をする必要は無いよ。君達と話し、交渉し、あるいは戦う相手は、ランク2以上に限定されると考えてていい」
「それって典災だけじゃなくフールとも、あるいはその上の存在とも戦う可能性があるって事?」
「というか航界種に親玉みたいのっている訳?」
「私達は種族としてのまとまりは持つが、特定の個体が全体を支配するという事は無い。君達のように別々の集団でそれぞれ社会を築いたりはしない」
「でも、航界種の一番上はランク3のフールなのか?」
「それは、まだ言えないな」
「どうしてだ?」
「言ったろう?我々はまだお互いを完全に信頼出来る関係には無いと」
その場に緊張感がもたらされたが、エルファはぱんぱんと手を叩いて張りつめた空気をほどいた。
「信頼関係なんてその場ですぐに築かれるものでもないだろ。そこに向けて努力はしていくものだとしても」
「そう言ってもらえると助かる」
「無償で助け船を出したわけじゃないさ」
「ほう。私にその船賃は払えるだろうか?」
「余興は、他の同族達と連絡が、意志の疎通が取れないと言っていた。ランク3のフール同士でなら、どうなんだ?」
「君達冒険者の使う念話機能の様な物を指しているのだとしたら、すまない。そちらもまだ答えられない」
「その答えを仕方ないものとして受け入れるのなら、もう一つ質問だ。航界種は互いの存在の位置を把握できる。イエスかノーかで答えてくれ」
「・・・君は本当に特異で厄介な存在だな。エルファよ。その質問にも答えられない。こちらは主に種の存続の為にね」
話し合いはそこで打ち切られ、韓国サーバーに戻る知己には、航界種に関する情報収集も依頼された。
そして翌月、連続クエストの第三のレイドゾーンが発見され、Windと元<勝利の羽根>と<紅姫>とナカス有志のメンバーとオーク王とアデルハイド侯爵の精鋭達は現地に集結した。




