10.蜥蜴人達との接触
エルファは、イズモから帰った翌日から数日間を、ナカスやその周辺で過ごした。
<青十字>の立ち上げに関してはナカス東西の大地人に藍姫やるるりあ、ニライさんやカナイさんを引き合わせたり事前の挨拶をしておいたりもした。
作業参加者は、特にレベル10以下や20以下が多く、年齢的にも幼めの冒険者達が大半だった。最低は<ノウアスフィアの開墾>適用と同時にゲームを開始したというレベル1の人もいたりしたが、師範システムを利用してバードの補助歌をあれこれかければ、すぐに他の新米冒険者達のパーティーに加われたりもした。
Windの志賀島への住居施設の増設も、農業施設の拡張も行っていったが、どこからかやはり噂は流れて、味のある食事の秘密にありつこうとする入団希望者は全て保留にしていた。
韓国サーバーや中国サーバーへの情勢観察は<和冦>に依頼済みで、フォーランドへの偵察はオーク王や<薩摩隼人>に依頼してあったが、<薩摩隼人>特有の事情から問題は発生した。
<薩摩隼人>はそもそも、オーク支配下に置かれてしまった鹿児島の地を冒険者達の力で取り戻そう!、というゲームシステムに挑戦するような試みで立ち上げられたギルドだった。
モンスターはリポップする。従って根本的に排除は不可能だが、モンスターが発生しないゾーンを購入しギルドキャッスルを構え、そこから周辺のオーク部族に継続的に戦いを仕掛け殲滅していく。
ゲーム時代の近隣ゾーンのオークのレベルは、ゴブリン達よりは一ランク上の30~40で、レベル90の冒険者達の敵ではない。ともすれば徒労と飽きとで終わってしまう試みは、団員の武士と神祗官縛りというマゾ的な要素も加わって何とか継続していた。
しかし<大災害>と呼ばれるようになった冒険者達の異世界転移と、都市間トランスポートゲートの機能停止と、世界各地に点在し月齢でつなぐフェアリー・リングの実質的な利用ができなくなった事で、<薩摩隼人>は活動の窮地に追い込まれていた。
彼らのギルドキャッスルは、ファウン・アイランドのサクラジマ近辺にある小島に建てられているが、最寄りのフェアリー・ポータルはそのサクラジマにあり、団員達はナカスから遙か離れた地でもいくつかのフェアリー・ポータルを経由する事で行き来を成立させていたが、それが不可能になってしまっていた。
<大災害>が起こり、大半はナカスで覚醒したが、十名以上がギルドキャッスルで覚醒。一部は帰還呪文でナカスへ、ごく一部はフェアリー・リングを使ってしまい、世界のどこかへと飛ばされて連絡が取れなくなってしまった。残り三十数名はこれからどうするべきか悩んでいた所に降ってわいたのが、エルファからのフォーランド偵察のミッションだった。
ゲームの世界ではなくなり、オーク達も知性を持っていると知らされ、もっと大きな敵に備えるべきだという言葉は、ゴールが見えない目的を追い続けるよりはやりがいがありそうだったし、何よりも孤立してプレイヤータウンとの往来が断絶してしまった状態はいつまでも続けられなかった。
<和冦>や<三洋商会>が持つ船で救援物資を送ってもらい、ナカスにいるメンバーと合流。然る後にフォーランド強行偵察部隊を編成し、現地へ乗り込む。
そんな計画を三ギルド合同で立て、数十人が乗れる大型の帆船を<三洋商会>に用立ててもらいもした。
だが、<三洋商会>の帆船を借り受けたとしても、実世界と化したセルデシアで船を操作した者など<薩摩隼人>にはおらず、サブ職業:船乗りも皆無、帆船の高速化に必需とも言えるサモナーもいないとくれば、実施は出来たとしても、かなりの日数がかかる事が予想された。
そこで彼らが耳にしたのが、エルファ達が半日でイズモにまで到達したという話だった。ナカスからサクラジマ側にある<薩摩隼人>のギルドキャッスルまでは、ハーフガイアの陸路なら110キロほど。逆に九州西岸沿いに船で航行するなら二倍の距離。となれば合流だけを急ぐのならエルファに同道してもらえば良いのでは?という意見も出た。
だが、フォーランドへの偵察でどの道船は必要となり、最低でもフルレイドの人数を運び、長期滞在を想定するならそれなりの量の物資も一緒に運び込む必要があった。
「韓国サーバーや中国サーバーの様子見とかに人を割いても、一隻と一パーティー、それから船乗りの一人くらいならこっちから出してやってもいい。
ていうかうまい飯が食えるならってそっちの方に参加したい奴のが多かったりして抽選で決めたりもしたぐらいだけどな」
「敷島どんのご厚意感謝するでごわす」
「飯は、かなり簡略化された物に限定されると思うけどね。期間が長引けば長引くほど」
「そこら辺は仕方ないだろな、エルファさん。で、Windはどうするんだ?」
「他にいろいろ取りかかりたい事があるから、外注した感じでもあるんだけど、そこにたどり着くまでは支援しないといけないかもねぇ」
「そうしてもらえると助かるでごわ・・助かります」
「ただ、こっちにはこっちの事情があって、Windの島もずっと留守には出来ないし、上陸辺りからは別行動にさせてもらう感じでも良ければ」
「それで十分でごわす!」
「こっちでも<薩摩隼人>のアンバランスさを補うようにはするけど、人数的には足らないのはどうする?」
「そこは<紅姫>にでもヘルプを頼むよ」
そんな風に敷島とせごー丼とエルファの間で話がまとまり、<三洋商会>には物資の手配を依頼。<紅姫>にも数人の枠でヘルプを依頼したのだが、冷麗曰く、壮絶な競争が起きたとか何とか。
沙夜はもちろん候補から除外され、エルファからは名指しで、
「<追跡者>持ちの似亜蘭さんは入れて欲しいかな。もしご当人が承知してくれればだけど」
当人も快諾した為競争からは外れ、さらに枠は狭まった。Wind内では、
「余興とグレンボールは絶対かな。ゴーレッドはどうしようか・・・」
「やり合いに行くんなら、今のWindで唯一の盾役の俺は外せねーだろ」
と乗り気で、それは
「料理人はついて行った方がいいよね」
「わ、私というか施療神官だっていた方が!」
と弥生もツクシも変わらなかったのだが、
「でもね、ヒヅメさん一人を残してく訳にいかないでしょ?」
の一言でどちらかは残る事が確定した。
「仕方ないか。ゴーレッドとヒヅメちゃんを二人きりで残す事は出来ないしねぇ」
「あの、私は一人でも・・・」
「いや、プレイヤーはあの島入れないけど、モンスターもポップしないけど、だからと言って何も絶対に起きないとは言えないからね。<紅姫>とか<青十字>に預かっててもらうのもありかも知れないけど、たぶん落ち着かないだろうから」
それは弥生にもツクシにも察せた。
「それにあの島で自分とグレンボールと余興は、おそらく戦わないから。特に、蜥蜴人とはね。だからゴーレッドもお留守番かな」
「戦わないって、でも<薩摩隼人>には戦わせるんだろ?」
「自分は、まだ、戦えない理由があるんだよ」
「もしかして・・・」
「そ」
エルファは、魔法の鞄から、先日のとは微妙に模様が違う<偽りの仮面>を取り出して被ると、その姿は蜥蜴人そのものに切り替わった。
「連中の王様にも会ってくるのかい?」
「もし出来る事ならね。グレンボールや余興も同じ物を持ってて、好感度上げるクエストもやってたから、ある程度は潜入出来ると思う」
「でも、危なくないんですか?その、もし本当に黒幕みたいのがいたとしたら?」
「単純に殺されるだけなら何ともならないと思うけどね。そんな奴がいるって知れるだけでも儲け物だし」
「あんたなら何とかするだろうさ。似亜蘭もついてくしね。あいつもその仮面持ってたりするのかい?」
「持ってないみたいだけど、<追跡者>のスキルでどこまで潜入できるのかを試してもらうつもり」
「危険なミッションなんですね・・・」
「でもよ、そんな奥地まで自分達で切り込んで行くんなら、オーク王に偵察依頼する意味あったのか?」
「うん。とっても大きな意味がね」
グレンボールの質問にエルファは理由を添えずに答えた。
そしてイズモから帰還した三日後、<和冦>の小型船一隻に1パーティー、<三洋商会>の中型船一隻に、エルファ、余興、グレンボールのWindから三人、<薩摩隼人>からはナカスにいたメンバー全員の二十六人、<紅姫>からは、似亜蘭、冷麗、ツミレと高槻、ソーサラーのじゃんにゅ、クレリックのレランド、ドルイドの巡巡の七名が参加。
ナカスの港から西へ。サモナーのエア・エレメンタルの風を受けた帆船は順調に進み、初日はナガサキの町の港で投宿。
翌日も朝未明から出港し、陸地沿いを南下。残り2/3の航路を一気に渡り、最後は宵闇の中、<薩摩隼人>のギルドキャッスルの船着き場へと着岸した。
ギルドキャッスルとはいえ、規模はほぼ最小限の、砦に近かったが、出迎えた側の十一名と出迎えられた側二十六名、桟橋に整列している三十七名全てが和装に和鎧に刀を装備している姿は、何か心に訴えかけてくるものがあった。
<薩摩隼人>内部の再会の歓談が済むと、出迎えた側の代表がエルファの所にやってきて挨拶した。
「俺ぁ、サブギルマスのハンジロウいいます。今回のご足労、あいがとさげもした」
「どう致しまして。オークとの共闘には割り切れないところもあるかも知れないけれど、ご協力には感謝します」
「最近のオーク連中、倒しても金持ってなかったりするのは」
「自分のせいかも知れませんね。そのお話は、また後日に」
「よかっと。こっちが世話になってん。ささ、何もねぇとこだけっど、入ってお休みくだっせ」
そして供された夕食に、特にこの異世界に来てから初めてのまともな食事にありついた者達は涙を流すほど喜んだ。
食後には<三洋商会>が開発した緑茶も振る舞われ、穏やかな雰囲気の中、翌日からの日程などが説明され、ギルドキャッスルに残って留守番する者とフォーランドに向かう者とに別れ、翌朝も早くから活動開始する為に皆早めに就寝した。
翌朝、湾を南下して抜け、東へ舵を切り、陸地沿いに元の世界の宮崎県辺りまで北上した所でまた東へ。フォーランドの南西端が見えてくると、エルファとグレンボールと余興、それから似亜蘭と四人でパーティーを組み、<調剤士>でもある高槻から透明化の薬を受け取って飲むと、やはり透明化しているエア・エレメンタルの風を受けてエルファ達四人は海面へと駈け出して行った。
異世界に来た事で外部Webは参照出来なくなったが、だからと言って元の世界で得ていた知識まで失われる訳では無かった。
エルファの記憶している四国にある著名な遺跡の一つが、四国西南端の地にあり、今までは入り口らしき構造物はあったが、ゾーンが実装されていない事を復帰後のリハビリ中に確認してあった場所に、レイドゾーンが実装されている事を発見した。
エルファはその扉が開けて入れる事、フルレイド規模の24人規制、入り口付近から確認できる雑魚敵がレベル70以上だった事から、おそらく奥のボス達は70後半から80前後が想定される事を確認して、いったんそのレイドダンジョンを後にした。
「もっと捜索しねぇの?」
「するのは後からでも出来るよ。それに90までが最高レベルだったのが100に引き上げられた拡張パックで実装されたのにレベル70台からのレイドダンジョンていうのも気になる。連続クエストの導入部に当たる場所なのかも知れないね」
「私なら、もっと奥まで見てこれるかも知れないが?」
「いいえ、似亜蘭さん。それは後日の機会を待ちましょう。今日は、船で進んでる部隊の上陸地点の候補探索選定と、フォーランド南沿岸沿いの蜥蜴人の拠点の様子を探る方が重要ですから」
「分かった」
そして四人は外に戻り、透明化のポーションを飲み直して沿岸の海上を東へ。いくつもの蜥蜴人の集落を横目に見ながら通り過ぎ、やがて元の世界で高知に当たる場所に都市と言って良い大きさの蜥蜴人の町を見つけた。
「ありゃ、ほとんどプレイヤータウン並の広さじゃないか?」
「そうだね、グレン。人口というか蜥蜴さん達の数も、数千じゃ効かない。ここだけで少なくとも二、三万はいそうだ」
「うへぇ」
「この近辺に何も考えずに突っ込んでたら、フルレイドでもあっという間に全滅してたろう。<D.D.D.>のレギオンレイドとかなら制圧したかも知れないがまぁそれはさておき。
農業も商業も、だから当然鍛冶屋みたいな工業もあるみたいだね。廃墟の再利用というよりは、自分達に住みやすい住居を作り足してもいるみたいだ」
「モンスターじゃなくなってるみたいですね」
四人は、蜥蜴人達が漁をしている小舟も避けながらさらに東進。念話で本隊と通信しつつ、フォーランド東南端近くの入り江で投錨し、野営を張った。
エルファは、今日見た南岸の様子から、蜥蜴人の総数は最低でも7万から10万と推測される事。オーク達と同等以上の知性を有し、社会生活も構築している事などを同行者達に伝え、驚かれた。
「そしたら、下手に突ついたら危ないんじゃ?」
「その可能性が無い訳じゃありません。でも、セブンスフォールやスザクモンなどと同様のイベントが、もしも<ノウアスフィアの開墾>でこのフォーランドで仕込まれていたとしたら、やはり少しでも削っておかないと危険です」
「ミナミの冒険者達にも協力を要請した方がいいんじゃ?」
「アキバもそうですがミナミもまだ、冒険者達の間で足並みはそろっていないし、外に出て戦闘訓練積んでるのは大手とかやる気のある冒険者に限られてるみたいです。PKも多いし、もしそんな状態でまとまった数の冒険者がフォーランドになだれ込んで来たら、それこそ取り返しがつかない事態になるかもです」
「だからこそ、こっそり、慎重に、ですか」
「はい。今夜、自分とグレンと余興と似亜蘭さんで、コウチの街に忍び込んできます。仮面や隠遁が通用するかも確かめておきたいし」
「明日以降、船はどうする?」
「本隊は?街に仕掛けなくても、そこから大勢出てきたら・・・」
「船は、特に小型の<和冦>の船は、フォーランドの周囲をぐるりと一周してくるといいかも知れませんね。
<薩摩隼人>と<紅姫>のみんなは、コウチ周辺の様子を一日二日くらい様子を見てから本船でフォーランド東岸沿いに北上。トクシマ辺りで根拠地造って内陸部へ。そんな感じでどうでしょう?」
「殺しても、いいんだな?」
ハンジロウの念押しに、
「もちろんです。レベル帯もそうですが、戦闘の癖、クラスの構成、ゲーム時代と変わったところと変わらないところ。それから一番重要なのが、彼ら全体としてどう反応してくるかを見極める事です」
「やっぱり、やぶ蛇っていうか、スズメバチの巣をつつくようなものなんじゃ?」
「それはもう仕方ありませんよ。蜥蜴人が大挙して山陽、山陰方面に侵攻して現地の大地人を皆殺しにでもしたら、ヤマト全体に激震が走るでしょうし、オーク王が取り込まれでもしたら、ナカスのある九州もまた後を追うでしょう」
イズモ騎士団が消えた事は、明確には伝えていなかったものの暗黙の了解事項として共有されていた。それが冒険者達が想像し得る以上の災厄として大地人への凶報となる事も含めて。
翌日以降の指針も示した後、エルファ達四人は夜闇に紛れてコウチへと接近。<偽りの仮面>を身につけた三人と隠遁した似亜蘭は、門の番兵にも止められる事無く街の内部へと進入を果たした。
まだ午後七時くらいの時間だったが、明かりの灯された通りを出歩く人影は多く、露天商には魚や野菜などが豊富に並び、飲食店の外のテーブルで飲み食いする蜥蜴人達は、新鮮な魚を丸飲みしたり、酒を満たしている杯を打ち付けあっていたり、それこそまるで自分達人間そのものと変わらないようにさえ見えた。
似亜蘭以外の三人はひそひそと言葉を交わしながら、
「あれを食べてみたい」
という余興の希望は、
「店は、ダメだな。食べ方とかでばれるかも知れない。露天商で何か買っておくからそれで我慢しろ。それから、蜥蜴人達に決して話しかけるなよ。話すのは俺だけだ」
「どうしてだ?言葉は通じるだろうに?」
「自動翻訳機能は万能じゃないんだよ。エルファのサブ職業に任せておけ」
「<通訳>か・・・」
エルファは特に怪しまれる事もなく、いくつかの露天で魚やナカスでは見かけない食べ物や果物を購入し、世間話などもしていたが、その一部は確かにグレンや余興には何を言っているのか理解できない言葉だった。
狭くない街をぐるりと一周し、中心部にある堅牢そうな石造りの砦の門は閉ざされていたので内部の調査はあきらめ、長居せずに街の外へと立ち去り、十分に離れてから仮面を外して野営地へと戻った。
持ち帰った戦利品の内、みかんらしき果物が一番喜ばれたが、魔法の鞄をみせびらかす訳にも行かなかったので限られた量は瞬く間に消費されてしまった。
エルファは他にも、コウチの他にも同じくらいの大きさの街が二つ、三つほどあり、強固な城が北東のマルガメと西のオオスというところにもあるという情報を掴んできた。
翌朝早くからエルファ達四人は行動を開始、陸地を北上してフォーランド東岸を先行偵察。上陸地点として相応しそうな場所を見つけて本隊に伝えると、トクシマの位置にある川沿いの街に昨夜と同じ様に進入し、規模はコウチより劣るものの人口が一万以上いてそれなりの大きさの砦も構えている事なども確認してから離れ、そんな風に数日をかけて四国沿岸部を巡り情報を集め、西岸の海越しに九州の地を望むオオス城の先の海岸には小さからぬ砦と何本もの桟橋が組まれ、対岸にも拠点が組まれ始めているのが見て取れた。
「懸念が懸念じゃ無かったって事だな」
「幸か不幸かね」
「それで、この後はどうする?あの拠点を潰すのか?」
「それはね、今ここで自分達四人でやる事じゃない。もう少し後で、みんなでだよ」
「みんなとは?」
「オーク王と約束した日まであと一週間くらいか」
エルファ達は、その桟橋付近にいるのが全て兵士の蜥蜴人である事。レベルも70前後に達しているのを見て、
「つまり、ボスはもっと高いって事だな」
という結論に自然と達した。
「でもよ、肝心要のそのボスとかはどこにいるんだ?沿岸部は全部廻ってきたけど、それらしいのはいなかったじゃん?」
「もうアテはつけてあるよ」
「どうやって?」
「蜥蜴人達の崇める女神様の神殿がこの東の方にあって、そこに王もいると」
「それも、元の世界で遺跡がある場所なのか?」
「そ。遙か古代に女神の姿が描かれた遺物が見つかってる。何かが封じられてるとしたら、そこしか無いってくらいのね」
そこからは姿を偽りあるいは隠したまま、東へと舗装された道を徒歩で一日ほど辿ると、やがて大穴の縁に出た。険しい山に囲まれ外部からは伺い知れない、のぞき見ればどこまで深く続いているのか底知れない大穴の直径は3キロほどもあったろうか。
縁に沿って民家や商店なども軒を連ねていた。穴の縁の反対側に見えるアーチで結ばれた石柱とドーム状の屋根を持つ建物がいくつも寄り添う場所が王城であり神殿でもあるように見えた。
四人は遠目に城を眺められる林の中で小休止したが、内部に忍び込めそうなルートは無く、
「正面から行くしか無さそうだな」
とエルファは覚悟を決めた。
「では、私も行けるところまでは」
似亜蘭はそう申し出たが、
「いや、神殿ていうからには侵入者を検知する仕組みくらいは備えてるでしょ。下手に刺激はしたくないから、ここで外の様子を観察して待機してて。もし二日以上戻らないようなら、帰還呪文でナカスへ戻って」
「了解した・・・。だが、それを言うならその仮面だって」
「ああ、これは服を着るみたいなものだよ。あくまでも、Kill on Sight、見かけたら殺せってなるのを避ける為のね」
「なのか・・」
「そ。んじゃ行ってみますか」
そうしてエルファとグレンボールと余興は神殿の門へと近づくと、衛兵達もいたが咎め立てられる事もなく、扉は内側から開かれ、三人が足を踏み入れると、扉は再び内側から閉じられた。
門を入った先の床はくるぶしまでつかるような水に浸され、どういう構造になっているのかは不明だが、壁面のあちこちから水が滝のように流れ落ち、またいずこかへと消えて環流しているようだった。
三人の前には、水色と白を基調にした清掛らしき布を首の周りから身体の前に垂らし、五色の鱗を輝かせた蜥蜴人が出迎えた。
「神殿長補佐のウィムシュ。お見知り置きを。歌う風のエルファ殿」
「ご挨拶どうも、ウィムシュ殿。神殿長や王には会えるかな?」
「あいにくと王は不在にしておりますので、どうぞこちらへ。神殿長がお会いになります」
ウィムシュはゆるやかに下るスロープへと三人を導き、滑りますのでお気をつけをと声をかけてから、そのまま足を滑らせて下っていった。
「ウォータースライドみたいなもんか」
「優雅に立ったまま滑っていくのは俺たちには無理だろうから、補助歌を使わせてもらおう」
「大丈夫なのか?」
「向こうはもうこっちが誰なのかを知ってて歓待してくれてるんだ。じゃなければもう取り囲まれて戦闘になってるよ」
そうしてゆるやかに蛇行しながら降りていく道を百メートル以上は降りたところに広がる泉の先には、大穴の深淵が広がっており、ウィムシュの様な四色か三色に鱗を輝かせる蜥蜴人の中央に、七色に鱗をきらめかす老齢の蜥蜴人が立ち挨拶してきた。
「遠路はるばるのお越し、歓迎しますぞ、歌う風のエルファ殿。伝承ではすでにこの世界から離れて久しいと謡われておりましたが、あなたとその連れのお二人を見かけたという報告も入っておりましたのでな。こういう機会もあろうかと楽しみにしておりました」
「歓迎ありがとうございます、神殿長アルーヅァ殿」
エルファが最後にこの近くに来た時はまだ<ノウアスフィアの開墾>は適用されておらず、この大穴も神殿も存在はしていなかった。
だがここは昨日今日建てられた雰囲気からは遠く、それこそ悠久の時をひっそりと刻んできた佇まいがあった。
互いに出方を伺うような沈黙が双方に共有されてから、エルファは言った。
「蜥蜴人達は、栄えているようですね」
「・・・我らが奉じる女神の祝福でしょうな」
「そのお方は、この奈落の底に?」
「そう伝わっております」
「いつ目を覚ますのか、どう目を覚ますのかも?」
「それは、我々蜥蜴人にのみ言い伝えられております事。いくらあなたにでも、その秘密は共有できませぬ」
再び互いの意志を推し量るような間が空いてから、エルファは問うた。
「蜥蜴人が仕えるのは女神であって、他の何者でもない?」
「仰られる通りです。歌う風よ」
「そうですか。ご歓待ありがとうございました。またどこかでお会いしましょう」
「どうぞ、お手柔らかに」
「それは請け合えるか保証しかねます」
緊迫した空気がさざなみの様に走ったが、ウィムシュに再び先導された三人は無事に神殿の外にまで送り届けられ、扉は閉じられた。
三人は似亜蘭を待たせている林まで戻ると一息ついた。
「よくご無事で」
「王には会えなかったけど、収穫はあったかな」
「で、こっからどうするよ?」
「<和冦>と<薩摩隼人>の船には合流してもらって、なるべく早く九州東岸、オオイタの辺りまで戻ってもらう。こっちは四国西岸の辺りの対岸となる九州東岸を踏破しておく」
エルファは敷島やせごー丼、冷麗達にも相次いで念話を入れ、水筒で喉を湿らせてから立ち上がり、
「四国最西端からオオイタ方面に抜けてから休憩しよう」
と言ったが、その四国から細く西に伸びた尖った槍先のような地形の端には地上十階くらいの高さはありそうな物見台が建てられていた。
そこから一番近い九州の陸地へは5キロもなく、エルファにしてみればほんのひとまたぎの距離でしかなかったが、ほぼ要塞といって良い堅牢な防御施設がいくつもの船着き場を海側に備え、陸側にはさらに拡張され新たな防壁も築かれているところだった。
「やる気まんまんだな」
「数も多い。ここにいるだけで数千。どれもレベル65から70はある」
「冒険者の平均が90に近いとしてもやばい相手だな」
オオイタの方にまでいったん抜けてはみたが、そちらに支城とも言える砦が組まれ、500人以上の蜥蜴人兵士が詰めていた。
エルファ達は別府から由布院の方へとさらに西に進み、天然の温泉を見つけて足をつけながら、残り少なくなってきた糧食を口にして休憩した。
「あれが全部レイドランクなら、冒険者もやばいな」
グレンボールがぼやくと、余興が質問した。
「ランクによって同じレベルでもそんなに大きな差があるのか?」
「ある。全く別物になる。ランクにはノーマル、パーティー、レイド、レギオンの四つがある。例えばレベル50の冒険者が一人で戦って勝てるのはノーマルのレベル50のモンスターまでと考えていい。パーティーランクは同じレベル50の冒険者が6人なら対等に戦えるって代物だ」
「だいぶ違うのだな」
「レイドなら24人、レギオンなら96人」
「オークの王とその取り巻きはレベル60から65のレイドランクだった。四国西岸と九州東岸に展開してる蜥蜴人は70前後のノーマルランクだけど隊長級は少なくともパーティーランクだろ。
神殿内部にいた高官達は全員レイドランクのレベル70以上。神殿長は75だった。つまり戦闘寄りだろう王は75から80の間と想定する」
「じゃあ、オークがいくら束になってかかっても」
「敵わないだろうな。だからこそ、制圧されてしまう恐れがあるんだ。そうなってしまったらもうナカスとミナミで共同戦線を張れたとしても厳しいと思う」
「でも相手の頭さえ討ち取れば終わるんなら、レイドランクだろうと最高が80なら何とかなるんじゃねぇの?」
「イズモで相対した相手が絡んでこなければ、ですね。エルファ殿」
「ただのエルファでいいですよ。似亜蘭さん」
「ではエルファさんで。かの者らがどこへ消えたのか心配されてるのでは?」
「ご明察です。冒険者も基本不滅ですからね。だから彼らも時間をかけて準備してる。ただ立ち止まってはいない。そんな彼らがイズモ騎士団を滅ぼした後に手を伸ばすとしたら、蜥蜴人達こそが絶好の存在ですから」
「蜥蜴人だけで5万とか10万とか来たら、どんなレイドギルドだって支えきれねーだろ」
「まだ戦闘慣れしてる冒険者の方が少ないだろうしね」
「それで、エルファはどうするんだ?」
「九州東岸の地を縦断して、蜥蜴人達の浸食具合を掴んでおく。オーク王も動いてくれてると思うけど、もう小競り合いは起きてて、しかも負けてるだろうね。
いろいろまた急がないとか・・・」
エルファ達はその日中には東岸の視察を終え、翌日にはオーク王とクルメのウォーロードに言伝を残しつつナカスへ帰還。
<三洋商会>での準備の手伝いにWindの女性陣三人も加わるよう数日前にも念話で伝えてあったが、さらに急いでもらい、そこでニライとカナイに頼んでおいたいくつかの物を受け取ると、ヒヅメを二人に預け、ゴーレッドと弥生とツクシも連れてオーク王の居城へととんぼ返り。
フォーランド遠征組には別府辺りから上陸してその大半はクルメへ向かってもらった。
オーク王の居城周辺は以前来た時よりもはるかに大勢のオーク達が集まっており、その雰囲気も臨戦態勢という張りつめたものだったが、そんな中でもオークの姿を取っていなくても、エルファ達は一度も妨害を受ける事無く、むしろ道を開けろとオークの指揮官達が指示を飛ばすくらいで、阿蘇山麓の居城からも王の謁見の広間までノンストップで駈け入った。
「待っていたぞ、歌う風のエルファ」
「見るべき物は見たか?」
「見た。そして我らは敗れ、服従を勧告された。古来種のイズモ騎士団亡き今、大地人を駆逐し魔物の世を築くべし、と」
「冒険者はどう駆逐するかは説明されたか?」
「協力者がいる、とな。どんな輩かは知る必要が無いと言われた」
「結局、自分でもフォーランドを偵察してきた。全部じゃないにしろ、戦いになればオークは絶対に蜥蜴人に負ける。数で二倍近く、レベルで10から15くらいは差が開いている。それじゃ勝てない」
「だから、冒険者と組めと?」
「一時的な共闘で構わないよ。でもオーク達は今後消えない何かを手に入れる。それは絶対的な何かだ」
「隷僕になれと?」
「それは相手の協力者達ならそうする手段だろうけど、こちらのは違う。王よ。あなたはあなただけの存在となる」
「どういう意味だ?」
「記憶の継承、そのものだ」
「!?」
「王よ、今まで何度冒険者に倒されたか覚えているか?」
「数え切れない程だな」
「しかしそれは自分としての記憶では無いだろう?」
「・・・それが、何を意味する?」
「あなたの死はあなた自身の死として記憶されてこなかった。それはいわば物語として他人事として、あなたはまたあなたをやり直してきただけだった。そこに前進は無い。後退と行き止まりがあっただけだ。だから、その行き止まりを外す」
「実例はあるのか?うまくいくのか?」
「余興。アース・エレメンタルを召還」
余興はゴラムを召還し、地面に自らの銘を刻んでみせた。
それがどれほどの意味を持つのか、即座に理解できた者は少なかった。オークの間では、王と親衛隊長と高位司祭の一部だけだった。
「最初は余興が、本当に余興として、一度ずつ召還して倒されるかアンサモンして消えてしまう精霊達に記憶の蓄積が出来るかどうか、試してみたところから始まったんだが、予想以上だった。
このアース・エレメンタルは、アンサモンされてもそれまでの行動や戦闘の記憶を全て保っている」
「どうやって実現したのだ・・・?」
「銘を刻んだ。それだけだ」
「それだけで?」
エルファは鞄から焼いた肉の固まりを王と親衛隊長に差し出し、周囲のオーク達が止める前に二人は肉をかじってその味に驚愕した。
「技術を持つ者が自らの手で行う。まだ冒険者達の間にさえ広めてはいないが、気づいている者は少なからずいるだろう。この余興は<刻印術士>だ。心配なら、こないだ財布を空にした奴から試すか?」
「良かろう。ちなみに財布の中身は空のままだ。あの者が持っていた金貨も、お前から受け取った金貨はまだ手元に分けて置いてある」
「それはどうも。じゃ、試してみますか。ついでに殺して復活できるかも試していいかな。大地人が復活できることはすでに試してある」
「やってみるがいい」
そうして怯えるオークがエルファ達の前に引きずり出されると、余興がその名を尋ね、名は特に無かったので、
「では、お前はキブーだ」
と名付け、背中の、心臓の裏辺りに<真銘の鑿>で銘を刻んだ。
目に見える変化としては、ステータス画面でオークとしてしか表示されていなかったのが、キブー(オーク)という個人名が追記されたことくらいだった。
「これでいったい何が変わったのだ?」
とオーク王の取り巻き達はいきまいたが、エルファは慌てず、
「キブー。このアース・エレメンタルと戦ってみろ。殺されるだろうけど、その経験と記憶はお前の中に残る筈だ」
いくらエレメンタルがプレイヤーの1/3の能力しか無くても、レベル差が40もあれば、一方的な殴殺にしかならない筈が、ゴラムが手加減をしたせいか、最後の頃には地面を揺らす攻撃のタイミングにジャンプして効果をかわすくらいの知恵を見せたものの、それでもやはり敗れて倒れた。
オーク王とエルファは、元々キブーが持っていた金貨が消えていないことを確認し、蘇生呪文とヒールをグレンボールとツクシが詠唱。虹の泡として拡散し消えかけていたキブーは蘇り、それだけでもオーク達の間に強い驚きを与えるのに十分だったが、HPを全快させた後のアース・エレメンタルとの再戦では最初から地面を揺らす攻撃を読んでかわすなど、手加減が無くとも先ほどよりは二倍ほどの時間を戦い、手傷も二倍ほど与えた。
再戦前の蘇生後には財布が空のままなことを確認してあったが、二度目に倒れた時は蘇生呪文は唱えず、リポップを待つ間にも金貨は消えず、約3時間後に同じレベルでリポップした時には銘も残ったまま、金貨の袋の中身は再補充され、元から取り出しておいた物も消えてなかった。
「キブー、アース・エレメンタルとの戦いは覚えてる?」
「覚えてる。地面揺らす攻撃は、十二秒に一度。レベルがあと十か二十高ければ、もっと、戦える!」
「それだけで十分だ。ありがとう。
という訳だ、王よ。あなたや親衛隊長にも銘を刻もう。他には回復魔法を唱えられるクラスの誰かが一人。とりあえずその三人から多くて六人くらいまでかな。急いでレベルを上げてもらわないといけない」
「蜥蜴人の王と相対する為だな」
「そういうこと。今のままだと蹂躙されるだけだからね。でも近習のみなさんはレイドクラスだから、必ずしも成功すると限らない。失敗した時にどんなリスクが発生するかは分からない。それでも良ければ、だが」
「では、王の前に先ず私が」
と親衛隊長が進み出た。
余興は<三洋商会>から借り受けた幻想級の刻印術アイテム、<必叶の金床>を地面に置き、その上に心臓を当てるように寝てもらい、心臓の裏側の背にはやはり幻想級の武器やアイテムを解体した時にしか得られない<夢現の粉末>を振りかけ、
「汝の銘は、ゼイン」
と名付けながら銘を刻んだ。
60レベルのレイドランクの親衛隊長とは今すぐ戦闘を試す訳にもいかず、オークの祭司長という同じ60レベルのシャーマンにも、
「ダルーガ」
と銘を刻んだ。
そしていよいよ王の番となり、余興は問いかけた。
「望む名はあるか?」
「そうだな。オーヴァというのはどうか」
「問題無い」
そうして銘が刻まれた王は、不思議そうに自分の五体に触れたり眺めたりしていたが、
「では、早速参りましょうか」
「どこへだ?」
「修練の場です」
エルファは気にせず王の広間から歩きだし、王達もぞろぞろと後をついてきたが、
「っておい!レイドボスモンスターが、そのゾーンから出るなんてありなのかよ!?」
とゴーレッドは至極当然の疑問を投げかけてきた。
「こないだ来た時ね、オークの親衛隊長、今はもうゼインだけど、彼は門のところまで見送りに出てきてくれてたんだよね」
「でも、それだってゾーンの内側の境までだったんじゃ」
「いいや、彼の足は完全に境界線を越えて、門の外にまで出てたんだよ」
「!!?」
ゴーレッドだけでなく、弥生もツクシも衝撃を受けていた。それはゲーム時代のルールが完全に崩壊することを告げていた。
「うーん、パーティーメンバーとしてインバイトは出来ないのか。残念。弥生さん、移動補助の浮遊魔法をオーク王達三人にかけて」
「あ、あいよ」
そうして大柄な三人が地表から浮き上がると、エルファも移動補助歌を起動。ゴーレッドには一番太い縄を、エレメンタルには二本の縄を持たせ、それぞれをオーク王オーヴァ、ゼイン、ダルーガに握らせ、というより手首にきつく縛り付け、問答無用で高速移動し始めた。
そしてたどり着いたのはモンスターのレベルが65から70のゾーンで、グリフォンで先行してもらっていた<紅姫>のメンバー達も、異様な光景に息を飲んだものの、レイドランクのオーク王達に情けは無用とばかりにゾーン中のモンスターをカイトしてはオーク王達にぶつけ、支援職はあらゆる支援魔法や回復魔法などをオーク王達に投射。容赦の無いパワーレベリングの甲斐あってか、数時間後にはオーク王達のレベルは1上がった。
「ま、待て!待つのだ、エルファよ!これでは、さすがに!」
「鬼の目にも涙って?まだまだ先は長いですよ、オーヴァ。蜥蜴人の王のレベルはおそらく75以上。つまりまだ9も差がある。平の兵士達のレベルまで一気に引き上げるのは無理がある。だからあなたの近習達からなるべく差を詰めさせて、後は冒険者達が補助するしか望みは無いんです」
「ほらほらほらほらおかわりどんどんどんどんー!」
と悪乗りして参加してきたフェイフェイ達のプルと押しつけは加速していき、MPが尽きかけた頃にようやく休憩が挟まれるかと思いきや、余興が、
「エルファよ。なぜか、私になら、彼らがインバイト出来るようだぞ?」
と持ちかけてきて状況はさらに加速(オーヴァ達にとって悪化)した。
「そうか。余興はサモナーだから、銘を刻まれたらミニオン扱いにされるのかな」
バードからのMP継続回復、エンクからのMP強制補給なども受けて休む口実を奪われたオーク王達三人は、それでも十二時間ほどかけてレベルを3ずつ上げて完全に精魂尽き果てて倒れた。
王達三人を城に戻した後、交代の三人に銘を刻み、そんなピストン輸送を繰り返し、数日間の間に計二十四人のレイドランクのオーク達は地獄の特訓を受け、レベルの上がった者からさらに激しい戦闘に放り込まれるというサイクルに、最後はオーク王ですら政務を口実に訓練を逃げようとしたがエルファは許さずに連行し、目標の75には及ばぬものの74に。親衛隊長ゼインは70に、祭司長ドルーガは69にと、だいぶレベルを底上げした。
その訓練の合間にもエルファはオーク達から受け取った代金をWindの口座へと銀行との間を一日何往復も繰り返し、その全てが終わったのは<大災害>から約一ヶ月後。オーク達は対蜥蜴人の防御陣地を敷き始め、その軍勢の大半を東岸へと移動。それぞれに出来る限りモンスターと戦いレベルを上げ、来るべき戦いに備えた。
そしてエルファはギルド会館の一室で、供贄一族の菫星という若者と相対していた。




