偽りの傷

決断

彼女《かのじょ》は命《いのち》を絶《た》つのを決意《けつい》した日《ひ》の夕方《ゆうがた》

自宅《じたく》の部屋《へや》の隅《すみ》で

腕《うで》に本物《ほんもの》の傷《きず》を描《か》くのを試《こころ》みた

しかし冷《つめ》たい刃《やいば》が皮膚《ひふ》に当《あ》たった瞬間《しゅんかん》

恐怖《きょうふ》が体中《からだちゅう》に襲《おそ》った

何度《なんど》も切《き》ろうと試《ため》したものの

手《て》が震《ふる》え怯《おび》えてしまい

一《ひと》つも傷《きず》を描《か》くことも出来《でき》なかった

彼女《かのじょ》は考《かんが》えた

「もう自殺《じさつ》するのはやめよう」

だが

その直後《ちょくご》に

苛《いじ》められた時《とき》の記憶《きおく》が戻《もど》ってきた

忘《わす》れたいと

壁《かべ》に頭《あたま》を打《う》ち付《つ》けても

その記憶《きおく》は消《き》えなかった