職場の人がやって来た
彼女の名前は黒井 露美
大学出たての新人編集者、彼女はすぐに大城 白露の担当編集を任される。
「先生どうしたんですか? そんなに驚いて今日来るって言ってましたよね?」
露美は不思議そうな顔をして白露に尋ねる。
「えっ、いやなんでお前がここにいるんだ?」
白露はパニックであった、何故なら彼が見る光景は森で、なのに彼女はそこにいて
「なんでって、今日来るって約束じゃないですか、あっ、まさか原稿出来てないんですか?」
露美は薄い目で白露を見る、白露はそんな目より森から現れた露美に
「えっお前にはあの森が見えないのか、どうやってここまで来たんだよ」
「はぁ?」
凄まじく狼狽している白露を不思議そうに見る
「どうやっても何も、今日は車ですが」
そう言って白露の家の駐車場に止まる露美のいや会社の車を指差す
「へっ、あれ? なんで」
白露の頭の中はハテナでいっぱいだった。
『えっ、でも俺が見てるのは森だよな、変な鳴き声も相変わらず聞こえるし、あれ、あれ』
白露がパニクってると露美はグイグイと家に上り込む、この辺の事を気にしないほどには信頼関係は出来ていた
「お、おい勝手に入るな、ダメだ」
白露は不意に入る露美を止めようとする、彼はこの間にある結論を思った。
「家に入ったら異世界に行ってしまうぞ!」
そう家に入る事が異世界行きの条件と結論付けたのだ。しかし既に家に上がり込んだ露美は
「へっ、ぷっ、ははは、先生何言ってるんですか、ファンタジー小説書きすぎて頭ぶっ飛んだんですか」
露美は笑いながらリビングに向かって行ってしまう
「あー、なんてこった、露美ちゃんも異世界に」
白露はまだ若い露美が異世界に行ってしまった事に申し訳なく思う、そしてこれからどうしたもんかと思いながらリビングに向かう
「流石に大きな家ですね、このリビングだけで何畳あるんですか? はぁ羨ましい死んで欲しいですね」
露美は少し口が悪い女の子であった。
「はは、そうだね」
白露は愛想笑いしか出来ない
「あれ? 先生が何も言ってこない、珍しいですね」
口が悪い露美だが、そんな露美の発言にキチンと突っ込むのが白露だったので露美は違和感を感じる。
「露美ちゃん、聞いてくれるか」
「はぁ、なんですか、まさか告白ですか、いくら先生が金持ちでも顔が全然タイプでは無いのでゴメンなさい」
すぐに謝る露美、そんな露美にイラつきながらも
「いやそうじゃなくてね」
「あれ? いつもならここで私をケダモノのように襲うのに、どうしたんですか?」
「いや、君を襲った事なんてないし、これからもないよ」
「あれ? どうしたんですか本当に変ですよ先生」
露美はいつもと違う雰囲気に戸惑う
「実はね露美ちゃん、この家はね異世界に繋がっているんだよ」
「はぁ! なんですか異世界って、さっきも言ってましたけど、とうとう精神ぶっ壊れたんですか? 病院行きます?」
「いや大丈夫だよ、確かに行けるなら病院に行きたいんだけどね」
「はぁ、どうしたんですか先生、本当に変ですよ」
露美はいつもと違う白露を気味悪い表情で見る
「分かるさ、その反応は正しいよ露美ちゃん」
白露もその反応は想像の範囲内だった、だから
「来てくれ露美ちゃん」
百聞は一見にしかずという言葉もある、白露は露美を外に連れ出す。そこで
「どうだい露美ちゃん」
「ん? どうって普通ですけど」
白露はどこまで続くか分からない森を見ながら露美に尋ねたが、露美は普通としか答えない
「えっ、普通って、ここは森だよ」
「はぁ? 何言ってるんですか、唯の住宅街ですよここ」
「へっ?」
白露は玄関から見える光景が自分と違ってる事に疑問に思う
「えっ、お前にはここが日本に見えるのか!」
「えっ、当たり前ですけど、なんですか先生、本当に頭いかれたんですか?」
「あれ、えっ、えっと、来てくれ露美ちゃん」
「あっ、先生」
白露は門の外へと露美を連れ出す、彼は森の中へ入り、そこで振り返ると
「あれ? 露美ちゃんがいない」
彼女の姿は跡形もなく消えていた。
「えっ、なんで、なんで」
白露はパニクってどうしたらいいか分からない、だがその時
「先生! どこですか先生!」
不意に門の中に露美が現れる、それは門から手が生えると言った少し気持ち悪い光景だった。
「えっ、露美ちゃん、露美ちゃんどこに行ってたの」
門の外から門の内側に問いかけるが、露美は聞こえてないのか白露の言葉を無視する。
「あれ、露美ちゃん!」
かなり大きな声で呼びかけるが露美は反応しない
「どこですか先生、いきなり消えないでくださいよ」
露美は気味が悪かった、自分の腕を引っ張りながら門の外に出たはずなのに、目の前で白露が消えたのだ。
「どうやったんですか? 先生の見せたかったのはこの手品ですか?」
露美は現実的に手品か何かかと思った、その時
「ひっ!」
軽い悲鳴を上げる、何故なら門から腕が生えてくるからだ。
「露美ちゃん」
「せ、先生」
白露は真剣な顔で露美に尋ねる
「露美ちゃん、ちゃんと答えてくれ、君から見える門の外は日本で間違いないか、俺が住んでる〇〇市で間違いないか!」
あまりに真剣な顔で尋ねる白露に露美は
「えっ、そうですよ、当たり前じゃないですか」
そう答える露美に白露は
『まさか異世界に行くのは俺だけなのか、しかも日本から俺の家に入る事は可能なのか、なら』
そこまで考えて白露は露美に
「露美ちゃん聞いてくれるか、これは嘘でも何でもないんだけど」
「えっ、はい」
そして白露は露美に今までの経緯を話す、初めは信じなかった露美だったが
「大城様、この人間は何ですか?」
「ひぃゴブリン!」
ゴブ郎を見せると渋々ながら信じる。
「つまりあれですか、先生は本当に異世界に行ってしまったのですか」
「そうなるな、そしてどうやら俺だけが異世界に、それ以外は日本にみたいだな、どうりで電気もガスも水道も、しかもネットさえ繋がるはずだよ」
「はぁ、なんか便利な異世界転移ですね」
「そうなんだよな、異世界に来てから困るのは買い物に行けないくらいで後は問題ないんだよな」
「確かに先生の家なら引きこもっても問題ないですし、先生の仕事も家にこもって出来ますもんね」
「そうなんだよ、でお願いがあるんだが」
「分かってますよ」
「おお分かるか」
「やらせて欲しいんですよね、変態の先生ですし、でも断らせて頂きます、私、愛のないエッチはしない主義なんです」
「ちっげーよ、誰がそんな事お願いするか! 買い物だよ、正直食いもんが無くて困ってたんだよ」
「あっ、そっちですか、良いですけど」
「何だよ良いけど?」
「タダ働はちょっと」
「はぁ、いくらだよ」
「いやお金はいいんですよ」
「金じゃないなら何だよ」
「この家部屋いっぱいありますよね」
「何言ってるんだ」
「ここ会社から近いし、それに私が住んだ方が何かと便利ですよね」
「お前な、でもいいのか、俺は顔がタイプじゃないんだろ?」
「やだな先生、大家さんの顔なんて気にしませんよ」
笑顔で露美は語る、そんな露美に白露は
「分かったよ、住んでいいから買い物頼むよ」
「ああ、これで原稿の催促も楽になります、ヤッホー」
「あっ!」
白露は今気付く、編集者を自分の家に住まわすリスクを
「あの、露美さんやっぱり」
「じゃあ先生、私荷物持って来ますね、あと二階の角部屋借りますね」
そう言ってあっという間にリビングから出て行ってしまう。
「あ、ああ」
こうして白露の城は、ただの仕事場になってしまうのだった。