お隣さんに挨拶を
「う、嘘だろ、マジでゴブリンかよ、物語では雑魚キャラだけど」
門の方を見てゴブリンが門を錆びた剣で叩くのを確認して
「いやいや無理だろ、あんなん怖くて立ち向かえないやろ、いや異世界に来たならチートみたいな能力が俺にも」
ふと白露はそう思い
「ステータスオープン!」
と唱えるが
「ふぅ、何も起きない、なるほどチート無しのパターンね、ふふふ」
あまりの状況に笑いがこみ上げて来て
「ふざけるなよ、こんなの死んでしまうじゃないか、ああ神様いるならチートをくれよ」
そう言ってしばらく祈るが
「なんもおこんねーよ、なんだよ神様のケチ!」
そうぶつくさ言いながらもゴブリンは門を叩く、そこで白露は疑問に思う
「あれ? いくらなんでも家の門、丈夫すぎないか?」
白露が悩んでる間もゴブリンは門を破壊しようとしていたが門はビクともしなかった。
「もしかして、この家がチートなのか?」
白露はそっちのパターンかと納得して、門から出なければ安全かと近づくと
「に、人間!」
「ゴブリンが喋った!」
この世界のゴブリンと意思疎通が出来たりする。
「ここは人間の城か?」
ゴブリンは門を叩くのを辞めて白露に話しかける。
「そ、そうだ」
白露はビビりながらも門を挟めば安全と会話に応じる。
「人間よ、ここは我々のテリトリーだ、何故ここに住処を建てた?」
「何故って、別に建てたくて建てた訳では」
「訳ありか?」
「まあそうだな」
「むぅ、しかしここに住まれては、うっ」
会話の途中でゴブリンがフラッと倒れる。
「へっ? おい大丈夫か!」
そう白露が言うより早く
「とおちゃん!」
小さいゴブリンが五匹ほど草むらから現れる。
「な、なんだ、ゴブリンの子供!」
白露はいきなり現れる小さいゴブリンにビビる。
「とおちゃん、とおちゃん」
小さいゴブリンが大きいゴブリンにしがみつきながら泣きじゃくる。
「だ、大丈夫だ、腹が減っただけだ」
「とおちゃん」
ゴブリンは飢えているようだ。白露はポケットに入っていたよくある徳用チョコレートの一粒をゴブリンに渡す。彼は目の前で困ってる生き物を見殺しに出来ない程度にはお人好しだった。
「これ食べるか?」
「な、なんだこれは?」
「チョコレートだよ」
「チョコレート?」
ゴブリンは戸惑いながらもチョコレートを食べる、すると
「ふおーーーーーーーーーー」
「うわっ!」
いきなり叫びだしたゴブリンに驚き尻餅をついてしまう
「な、なんだ力が、力が溢れてくる」
ゴブリンが光り輝く
「へっ、なに、なに、なんだこれ!」
白露は目の前の光景に驚き声を上げる。そして光が収まると
「進化したのか」
ゴブリンは少し大きくなっていた、いわゆる
「俺がボブゴブリンになっただと」
「とおちゃんスゲー」
子供ゴブリン達が尊敬の目で親ゴブリンを見つめる。
「えっ、えっーと」
白露はどうしていいか分からず戸惑っていると
「人間、いやあなた様のお名前は!」
「えっ、あっ大城 白露です」
白露はゴブリンの勢いに素直に名を告げる。
「大城 白露様ですか、大城様、私どもを支配下に置いてください」
「へっ?」
ゴブリンのいきなりの言葉に驚く白露
「大城様のお力で私は進化出来ました、その力で我らを導いてください」
「えっと」
こうして白露はこの世界で初めての配下を持つことになる。
ゴブリンに名前は無く、呼び方に困るのでとりあえずゴブ郎と名付ける。信じられないくらいに感謝された。
ゴブ郎の話を聞くと、昨今のゴブリン事情の厳しさが背景にあるらしい
「我らの群れはゴブリン界でも弱い部類に入るのです」
ゴブ郎はこの家の近所に存在する群れのリーダーらしいのだが、強い群れならボブゴブリンなどがリーダーを務めており、その力で上手く狩りなどを行うのだが、普通のゴブリンであるゴブ郎が一番強いゴブ郎の群れは狩りなどを上手く行えず、ずっと飢えた状態でピンチなのだそうだ。
「ですが大城様のチョコレートなるものがあれば」
ゴブ郎曰く、食べただけであれほど力が溢れる物は無かったそうだ、先ほど子供ゴブリンにも与えて幼体から成体に進化したのも頷けるらしい
「ですから我らを是非大城様の配下に、我らを導いてください」
ゴブ郎の土下座を見ながら白露は
「い、いいけど」
了承する、彼は深く考える事を辞めた、結局のところこの提案を受けなければ自分の安全が確保出来ないのだ。
『お隣さんと仲良くしなきゃダメだし、それに配下にせずに敵対したら俺が死ぬしな』
そんな事を考えながら白露にゴブ郎の群れ総勢
「三十匹もいるの?」
「小さな群れでお恥ずかしいのですが」
最初群れの中で反対もあったそうだが、俺が振る舞った引っ越し蕎麦に餌付けされ
「大城様、万歳!」
と懐かれた、こうしてお隣さんに引っ越しの挨拶を済ませ、これからの生活を考える。
「ふぅ、ゴブリンと敵対しなかったのは良かったけど、俺の生活これからどうしよう? まずは食料だよな」
そうリビングで悩む白露、その時ピンポーンとチャイムが鳴る
「ん? 誰だろゴブ郎かな?」
白露は鳴るとは思わないチャイムが鳴り、ゴブ郎か誰かのゴブリンが鳴らしたのかと玄関に行く
ガチャとドアを開けると
「先生引っ越し終わりましたか? これ差し入れですよ」
「えっ?」
白露の目の前に、自分の担当する編集者の女性が立っていた
「なんですか、幽霊でも見る目をして」
「あれ?」
白露の家は不思議な家、異世界に行った不思議な家、でもあるのは日本であった。