第74話 目前
「随分とたるんだ街ですねぇ。門番もふざけた男だったし、やっぱりエパナが治めるジーシカは素晴らしいところですね」
「友人自慢もいいけど、ボク達の目標を忘れるなよ。本当に城島ヒカル達はここを通ったんだろうね?」
メヒーシカはミルルルと名乗ったドワーフと伴に、城島ヒカルを追う旅を続けていた。馬に乗って進むため、速度は徒歩で行くよりも遥かに早い。そろそろ追いついていてもいい頃合なのだが……と思う、ティエルヤドー滞在三日目だった。
「回り道をする余裕はないはずですからね。必ずここを通っています。すでに出国している場合が怖いのですが……焦って見落としては話になりません。どうせ交通手段はこっちの方が上です。もう少しティエルヤドーの中にいないことを確認してからでも遅くはないでしょう」
「しかし相手は城島ヒカルだよ?性格が極悪な上に頭もよく切れる。おまけに得体の知れない力を使うとあっては、そんな素直な手段を使うとは到底思えないんだけど」
「こっちはこっちで色々情報を集めて、それに基づいて話をしてるんです。言えないこともあるけど、少しは信じてください」
「ふうん、まあいいよ。ボクは奴の本拠地がオートランドってのもつい最近知ったんだ。あれだけ追っかけていて情けない。キミ達の方がその辺は詳しそうだから、素直に従うさ」
そう言ってミルルルは肩をすくめた。このドワーフ、出会った当初は傍若無人で頭のおかしい奴かと思っていたが、一緒に旅を進めるにつれ少しは話もしやすくなっている。城島ヒカルへの復讐心が彼女の本質を曇らせているが、根は相当な切れ者だとメヒーシカは感じていた。
そしてメヒーシカは、ヒカルの力を奪ったことをミルルルに告げてはいない。エパナがミルルルの人柄を見て、正々堂々としていない手段を嫌うかもしれないと助言してくれたので、そのままにしてある。いずれ城島ヒカルと対決する際にはそれがばれるかもしれないが――今はまだ、そのことを伝えようとは思っていない。
「お、ここにも宿がある。聞いてみようか」
ミルルルがまた一つ宿を見つけた。扉を開けて中に入って行くのに、メヒーシカも従う。
「ちょっと聞きたいんだけどさ、ここ数日で、変な“ゼラー”と、女二人を泊めなかった?」
ミルルルは金貨をテーブルの上に置きながら、宿の主に聞いた。メヒーシカもある程度の金を使える立場にあるが、それでもこの思い切りの良さには唖然としてしまう。高いステータスを持っているから収入もよいのだろうが、それにしても城島ヒカルに対する執念のようなものが感じられた。
宿の主は金貨を見て、話を引き延ばそうとするかを少し考えるような素振りをした。しかし、ミルルルのステータスの高さに気づいて顔を引きつらせる。金を吊り上げて命を落としては大損、とばかりに彼は素直に口を開いた。
「ああ――泊まったよ。二日前の朝に出て行った――」
ちっ、とミルルルが舌打ちする。
「やっと手掛かりを見つけたと思ったらこれか!二日前なら、ボク達が入国した日じゃないか!こんなことならば、城門の前で待ち構えていればよかった!」
地団太を踏むが、今さら仕方がない。万が一あの時点ですでに出国されていては、一生捕まえることはできなかったのだから。投げつけるように宿の主に金貨を渡し、ミルルルは大股で宿から出た。慌ててメヒーシカも後を追う。
「落ち着いてくださいミルルル。彼らの移動の手掛かりをつかめたのですから、よしとしましょう」
「分かってるけど!鼻先から逃げられたことが癪でしょうがないよボクは!」
頭に血が上っているミルルル。こうなっては何を仕出かすか分からない。メヒーシカは彼女を必死でなだめた。
「――ゴメン、取り乱した」
しばらくして、ようやくミルルルが冷静さを取り戻す。剣を抜いて暴れ出しかねない剣幕だっただけに、メヒーシカは心から安堵の溜息を吐いた。
「まだまだ、向こうはおそらく徒歩です。馬に乗っている我々の方が有利ですから、急いで出国しましょう!」
ミルルルのやる気を、純粋に城島ヒカル討伐へと向けるべく、メヒーシカは言う。それにミルルルは大きく頷き、足を城門の方へと向けた。
「彼らの次の目的地はおそらくジャイです。今度は街に入るまでに見つけて、かたをつけましょう」
メヒーシカも、今度こそという気分で気合を入れる。獲物を取り逃がした二人は、再び前を向いて走り出した。
 




